出会いと別れ
人が次々と私の家へ入ってくる。
まぁ、人といってもこの人たちは私の親戚なのだ、多分。
多分というのは、ぞろぞろと入ってくる人たちを見ていてもまったく見たこともない人もいるし、なんとなく会ったような会ってないような記憶が曖昧な人もいたからだ。
私はどこにいたらいいかわからずに、その人たちが出入りする玄関の横に立って入ってくる人たちにぺこぺこと頭を下げた。
これなら、このどうしようもない暇も潰せるしなんだか自分の仕事はこれですよ、っていう感じで暇人には見えないだろうとおもった。
私が、ひたすら頭を下げているとたまに何人かのおばさんやおじさんと目があった。
その人たちはみんな、一回私を同情か、励ましの目で見て、優しく頭を撫でてくれた。
やっぱり誰かよくわからないけど、頭を撫でられるのは悪い気はしなかった。
しばらくするともうあまり人が来なくなった。
もういいか、と思って玄関から立ち去ろうとするとそれを引き止めるかのようにいきなりドアが開いた。
そこには、今までの流れで予想もしてなかった、若いスラッとした大学生くらいの男が立っていた。
おじさんとおばさんばかりの流れ作業を見ていた私には、少しハッとさせられた。
「あ、もしかして…。」
その男は、私を見ながら急に呟いた。
その言動に私はふいに動揺し、何かやらかしてしまったのかといろんな記憶を遡った。
すると、まごつく私にその男の人は近づいてきて、私の頭をそっと撫でた。
その行為は今までのおじさんやおばさん達と違った感じだった。
その人の顔を見上げると、私より身長がずっと高くて、同情や哀れみの目なんかじゃなくてとっても穏やかな目をしていた。
その目に私は妙に安心してしまっていた。
その人はぽんぽんっと二回優しく叩くと、私の頭からてをどけると家の中へ入っていった。
私は玄関の鍵をしめてその人の後を追った。
ーーーー
一年ほど前、わたしが高校1年の秋。
ママとパパが離婚した。
パパは、大きな一軒家を私たちに残してでていった。
お庭もあってリビングも広くて内装もわたし好みの素朴な感じで、我ながらいい家に住んでると思っていた。
3人でも十分広かったその家は、ママと二人になると寂しいくらいより広く感じられた。
その家でママが一番気に入っていた空間があった。
それはママの要望で作った広い和室だ。
特にそこに敷いてある畳がママのお気に入りだった。
和室に入ると一気に畳のいい香りが鼻を抜けて、私たちの心をなんとなく穏やかにさせていた。
今、その部屋からづらづらとお経が聞こえてくる。
さっきまでたくさんいた親戚の人たちはみんな和室に集まっているようだった。
わたしもその部屋に入ろうと閉まっている襖に手をかけると、近くに立っていた知らないおじさんがそれを引き止めた。
「まだ思い出せないのか?」
おじさんはわたしの目を見て、絞り出すように言った。
わたしにはなんのことかさっぱりわからなかった。
黙っている私におじさんは一瞬哀しそうな表情を見せると
「このあと食べる食事の準備でもしてもらえるかい?」
と私に言ってリビングへ追いやった。
なんのことかよくわからなかった。
まだ和室からお経が聞こえてくる。
この広い家をただ一つのお経が満たしていた。
あの部屋でみんな何をやっているんだろうか。
どうして誰も教えてくれないんだろうか。
「おい。お前も食うか?」
そんな声がするほうを見ると、さっきの男が一人でリビングの大きな机にいた。
「あっ!」
私が咄嗟に声を出した。
男の手には、まぐろのお寿司。
男の目の前には、大きな器に入った色とりどりなお寿司が置いてあった。
「それ、後でみんなでたべるやつでしょ?!」
この状況をあまり理解してない私にもそらくらいわかる。
「だって暇なんだもん、お前も暇そうだな。」
そう言うと、男は瓶のオレンジジュースを開けて自分のコップに注いだ。
たしかに暇と言われれば暇以外に言いようがない。
なんだか悪いことをしている彼がすこし周りと違って見えて、わたしも真似してみることにした。
私も彼の前に座ると、目の前に一面にカラフルなお寿司が広がっていた。
「いくらたーべよっと。」
「お前なぁ、もっとたかそうなやつ食べろよ。」
私の意思を男は、少し呆れたように遮った。
「ほら、まぐろとか。」
「それはだめ、ママに残すの。」
お返しに男の提案も食い気味に否定してやった。
なんか仕返ししてくるかと思ったけど、彼は何も言わずにオレンジジュースを飲み始めた。
なんだ、つまんないの。
わたしは彼のアドバイスを受けて、いくらよりはたかそうなイカを口に運んだ。