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たった一人の魔物使い  作者: 壬黎ハルキ
第四章 スフォリア王都
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第七十九話 ビーズの狂乱



「えっ、母上が王宮へ!?」


 久々の再開もつかの間、セルジオから事の次第を聞くと、セドが驚きの表情で叫び、北に見える王宮を見上げる。

 夜が更けているにもかかわらず、黒煙が上がっているのが見えた。どう見ても良くないことが起こっているようにしか感じられない。

 その時セドは、脳裏に自分を見下す妹の姿が思い浮かんだ。


「もしや……ミネルバが?」


 その問いかけに、セルジオはコクリと頷く。


「そうだ。ワシらも行きたいところだが、こっちのほうで手いっぱいなのだ。済まんがお前さんらで様子を見に行ってくれ」

「よし、じゃあ急ごう。ありがとうキラータイガー。おかげで早く王都に着けたよ」


 セドが親タイガー亜種の頭を撫でながらお礼を言った。そしてそのまま王都から離れさせようとも考えていた。

 ただでさえ町中は、野生の魔物が入り込んで大混乱を極めている。そんなところにいつまでも置いておくほうが危険すぎるというモノだ。できれば背中に乗って王宮まで向かいたかったが、それも無理な話だろう。

 そう思いながら親タイガー亜種を街門から外へ出そうとした、その時であった。


「あ、いや、そのまま乗って行って構わんぞ」


 セルジオの言葉に、セドやマキトたちの動きがピタッと止まる。どういうことだと問いかける視線を送りながら。

 それは周囲の兵士たちも同じだったが、セルジオは全く気にすることなく続ける。


「事は一刻を争う。下手に馬車に乗っていくよりも、ずっと速そうだからな」


 そう言って道を譲ろうとするセルジオに、兵士の一人が詰め寄ってくる。


「少しは今の状況をお考えください! 魔物の騒ぎが収まりかけているところに……」

「全ての責任はワシとウェーズリーで取る。それでよかろう?」


 淡々と言い放つセルジオに、兵士たちはたじろぐ。しかし――


「勝手にワシを巻き込むでないわ! その提案自体は別に構わんがの」


 後ろから歩いてきたウェーズリーの呆れ果てた声が響き渡り、緊張が走りかけた空気が吹き飛んだ。


「全くお前はいつもいつもその場で勝手に決めおってからに……それでワシらがどれだけ大変な目にあったか、忘れたとは言わせんぞ」

「ホッホッホッ♪ それだけワシらも若かったということかのう」

「お調子者め……懐かしんどる場合じゃなかろうに……まぁ、お前らしいがな」


 悪態づきながらも認める、二人のいつものやり取り。それを幾度となく見てきたハズの兵士たちも、まさかここに来て繰り広げるとは思わなかったのか、戸惑う様子を見せていた。


「マスター、あの人って誰なのでしょうか?」

「さぁ?」


 何気にウェーズリーを始めて見るマキトとラティが、揃って首を傾げる。


「あの人はこの町のギルドマスターだよ」

「へぇー、そうなんだ」

「セルジオのおじーちゃんと仲良しさんなのですね」


 コートニーの説明に、マキトとラティが感心するかのようなため息をついた。それに気づいたウェーズリーもまた、改めて驚きつつ、マキトたちに近づいてくる。


「ほぅ、お前さんがウワサの魔物使いか。なるほど、良い目をしておるな」


 ウェーズリーは興味深そうに、マキトと魔物たちに視線を向ける。なんだか気まずくなってきたマキトたちはたじろいでしまうが、ウェーズリーはすぐに距離を置き、ふむと頷いた。


「一度ゆっくり話してみたかったが、今はそれどころではないな。足止めさせて済まんかった。さ、お前さんたちはこのまま進んでくれ!」


 ウェーズリーが道を譲りながら、周囲の兵士たちに道を開けるよう促す。セルジオがその姿を見て、ニヤニヤした笑みを浮かべた。


「お前さんもちゃっかり出番を会得しておるではないか♪」

「やかましいわ! いちいちムダなチャチャを入れてくるな、みっともない!」

「なにおう!?」


 まるで少年二人の小競り合いを見ているようで、マキトたちは思わず苦笑いを浮かべてしまう。セドも同じ気持ちだったらしいが、今はそれどころではないと、気持ちをすぐに切り替える。


「済まない。それでは通らせてもらう。恩に着るぞ」


 セドがそう笑いかけ、マキトたちは親タイガー亜種に乗り直し、王宮を目指して勢いよく走り出した。

 中央広場を経由して北への道に差し掛かった瞬間、隠れていた魔物が姿を見せる。


「行くぞっ!」


 マキトの掛け声に、親タイガー亜種の走るスピードが上がる。魔物の腕が大きく振りかぶり、襲い掛かろうとしたその時だった。

 ロップルの防御強化を身に纏ったマキトの拳が、魔物の拳を砕いてしまう。

 絶叫が上がる中、親タイガー亜種は颯爽と魔物の脇をすり抜ける。背に乗るマキトがチラリと後ろを振り向いた。


「スラキチッ!」


 叫んだ瞬間、スラキチの炎が魔物の顔面に放たれ、命中する。さらなる絶叫とともに魔物はその場に倒れこみ、凄まじい熱さと痛さで地面をのたうち回る。

 わずか数秒の間に起こった出来事に、兵士たちは唖然とした表情を浮かべるが、すぐに我に返り、魔物を仕留めにかかるのだった。

 親タイガー亜種は王宮を目指して一直線に走り続ける。それを見守るウェーズリーとセルジオの二人は、心から感心するかのようなため息をついていた。


「あの少年、意外とやりおるな。まだまだひ弱な部分が見えるのは否めんが……」

「ホッホッホッ。なーに、ちょいと鍛えればすぐに強くなるだろう。あの子はそれだけの素質を持っておる。将来が楽しみだわい♪」


 実に楽しそうにセルジオが笑う。まるで孫を見守る祖父のようだと、ウェーズリーが思った瞬間、ふと考えてみる。

 もしかしたら彼は、実際マキトのことをそういう目で見ているのかもしれないと。

 子供に優しく可愛がる傾向の高いセルジオだが、一人の少年にここまで入れ込むことはなかったハズだった。少なくともウェーズリーの記憶上、過去十年間においては一度たりともない。

 冒険者として魔物討伐に向かい、散っていった自らの子に姿を重ねているのか。それとも十年前の事件を思い出したが故なのか。

 どちらにせよ、普通とは違う感情を抱いているように見えてならなかった。


「セルジオ、お前……」


 ――――ドガアアアァァーーーンッ!!

 激しい爆音が王宮から聞こえた。爆炎と煙が目立ち、兵士たちをザワつかせる。何かを訪ねようとしていたウェーズリーも、質問する内容が完全に頭の中から吹き飛んでしまっていた。


「静まれぇいっ! ここで取り乱しては、全てが崩れ落ちるぞ!」


 ウェーズリーが叫んだことで、兵士たちのザワつきが少しだけ収まったが、それでも一度発生した動揺は抑えられなかった。

 そしてタイミングを見計らったかのように、魔物の残党が路地裏から姿を見せる。


「残党が出てきたぞーっ!」


 兵士の一人が叫ぶと、冒険者の一人が我に返り、襲い掛かる魔物を迎え撃つ。それが皆を次々と正気に戻らせていき、やがて熱量の高い雄たけびを発生させる。

 ギリギリのところでどうにか事なきを得たかと安心しつつ、ウェーズリーは傍にいる兵士に声をかける。


「ワシらも王宮へ向かう。すぐに馬車を一台用意しろ!」

「はっ!」


 兵士が慌ててギルドに駆け込んでいくのを見送った後、ウェーズリーとセルジオは、改めて北にある王宮を見上げる。


「フィリーネ、そして少年たちよ。どうか無事でいてくれ……」


 ウェーズリーの呟きが、再び放たれた爆音によって、かき消されるのだった。



 ◇ ◇ ◇



「ひゃーっはっはっはっ♪ 崩れろ……もっと派手に崩しまくれ♪」


 ガラガラと音を立て、王宮のあちこちが崩れゆく中、ビーズの叫び声が響き渡る。

 禍々しい魔力を身に纏ったミネルバの魔法とエルヴィンのレイピアが、頑丈なハズの壁や柱をアッサリと破壊する。私の施した魔力はまさに完璧だと、ビーズは愉快そうに高笑いしていた。

 魔力の壁に閉じ込められているフィリーネは、ギリッと歯ぎしりをしながらビーズを睨みつけており、ビーズもそれに気づいてはいるが、どこ吹く風であった。

 フィリーネはどうにかして、この状況を打破したかった。こうしている間にも、二人の手によって王宮がどんどん破壊されていく。


(ミネルバもエルヴィンも、ビーズの仕掛けた魔力に支配されている。今の二人に私の声なんて届かない。魔力の壁も破れないし、一体どうすれば……)


 フィリーネは倒れているオースティンに視線を向ける。早く安全な場所に移動させ、治療を施してあげたいと思っていた。

 しかし、現時点でそれができないのは明白であった。

 ブレンダはまだ体の痺れが抜けきれておらず、辛うじて這いずることしかできない。フィリーネに同行して来た兵士たちも、ミネルバの魔法の餌食となり、吹き飛ばされて重傷を負ってしまった。

 魔力の壁を叩きながら、フィリーネがやるせない気持ちに包まれていると、ビーズが再び高らかな笑い声をあげる。


「素晴らしい、実に素晴らしい催し物ではありませんか。こんなにも楽しい時間が今夜限りとなるだなんて……実に惜し過ぎますよねぇ♪」


 ビーズが大声で楽しそうに笑う。その姿はまさしく狂人と言っても差し支えない。

 フィリーネは思わず背筋をゾクッと震わせた。純粋に恐ろしいと思ったのだ。人はこんなにも狂い果ててしまうモノなのかと。

 どう考えても声が届くとは思えない。しかし自分はやらなければならない。この状況を作り出したのは、他ならぬ自分なのだと、フィリーネは思っていた。


「もう止めなさい! アナタには情というモノがないのですか!? たとえこんなことをしても、何も残らないのですよ!!」


 魔力の壁に手をつき、腹の底から声を上げるフィリーネ。人々が見ほれるほどの美貌が崩れることなどお構いなしに、ビーズに向かって必死な表情を浮かべている。

 しかしビーズの表情は、途轍もなく冷めていた。それを見たフィリーネは、壁についている手が震えていることに気づく。彼の無表情が恐ろしい。あれほど狂わんばかりに笑っていたのに、打って変わって表情が消え去っている。

 彼女の頬を冷や汗が伝う。彼から視線を逸らすことができない。もし少しでも逸らしてしまえば、一瞬であの世に送り出されてしまうと、フィリーネは何故だかそう思えてならなかった。

 ビーズがゆっくりと口を開こうとすると、フィリーネがビクッとする。それに少しの反応をすることもなく、ビーズはため息交じりに言った。


「さっきからギャーギャーとうるさいですねぇ。少し黙らせてあげましょうか……」


 ビーズがパチンッと指を鳴らすと、魔力の壁が解除される。その瞬間、エルヴィンの剣が襲い掛かろうとしていた。

 フィリーネが咄嗟に防御魔法で剣をしのぎ、すかさず魔力の衝撃波を発動する。強力な攻撃を直で喰らい、エルヴィンは壁まで吹き飛ばされた。

 そこにミネルバが緑色の魔力玉を繰り出してくる。フィリーネは同じ魔力玉をぶつけて相殺し、さっきと同じ魔力の衝撃波を発動し、ミネルバをも壁まで吹き飛ばした。


「アナタたちじゃ私には勝てないわ! いい加減に目を覚ましなさい! アナタたちは未来のスフォリア王国を背負う存在なのよ!!」


 フィリーネは必死に叫んだ。説得に加えて、己が抱いた恐怖心を吹き飛ばす意味合いも兼ねていた。

 その時、天井から何かが落ちてくる気配を強く感じた。咄嗟に大きく横に飛び出した瞬間、シャンデリアが元いた場所に落ちてくる。あと数秒遅ければ、巻き込まれて命も危なかったことだろう。

 改めてフィリーネがビーズを見上げると、ビーズの右手には魔力が宿っていた。

 それも並大抵の大きさではない。腕利きの魔導師を――ミネルバをも凌駕しかねないほどの魔力であった。


「私の存在を忘れてもらっちゃあ困りますねぇ……」


 ビーズが冷たい視線でフィリーネを見下ろしてくる。

 辛うじて意識を保っていたブレンダは、その光景に驚きを隠せない。予想外にも程があったからだ。

 ビーズは単なる発明マニアではなかったのか。もはや驚異的な才能を持つ魔導師そのものではないか。全ては力を隠すためのウソだったというのか。

 ブレンダの頭の中を、そんな思考が急速にグルグルと渦巻いていた。

 しかしフィリーネの表情に、さほど驚いている様子はなかった。まるで最初から予想しているかのように。


「やっと……アナタの本当の姿を、私に見せてくれたわね」

「驚かないんですか? てっきり女王様は、私が発明だけの男だと思っていたのかと」

「見くびってもらっては困るわ」


 おちゃらけるように笑うビーズを、フィリーネは一刀両断するかのように言い切る。


「そもそも魔力を扱えない人が、あれほど精密に、魔力を宿した装置を発明できるとは思えない。危険性の高いモノなら尚更ね。つまりアナタが、それだけ魔力の操作に長けているということよ」


 それは暗に、ビーズの実力を認めていると言ってるようなモノであった。

 ビーズの表情がみるみる歪んでいく。憎しみという名の火山が、盛大に噴火するかのように。何故このタイミングでそれを言うんだ、と言わんばかりに。


「……ならばどうして……どうして私をここから追い出したのですか? 私には確かな実力があった! 宮廷魔導師に相応しかったに違いないだろう!?」


 ビーズは目を血走らせ、醜く歪んだ表情で絶叫する。人の顔はここまで崩れるのかと思わされつつ、フィリーネは残念そうに俯いた。


「アナタ自身に危険性がなければ、私もあんな決断は……」

「黙れぇっ!」


 フィリーネの言葉を、ビーズの叫びが遮断する。


「綺麗事など聞きたくない! 何もかも全て、この私が粉々にブチ壊してやる!」


 ビーズが叫ぶと同時に、右手に宿す魔力が膨れ上がる。もはやコントロールのカケラもない。言葉どおり、自分も含めた全てを吹き飛ばさんとしているようだ。

 フィリーネも魔力を両手に宿しながら、ビーズに向かって表情を引き締める。


「我を失ったアナタに、私を倒すことはできないわ。これで全て終わらせる。アナタを殺すこともしない。犯した罪は生きて償ってもらうから!」


 アナタはまだやり直せるという思いを込め、フィリーネは優しく笑いかける。ビーズは目を見開きながら、一筋の涙を流した。

 それを見たフィリーネもまた、より安心したかのような笑みとなる。ようやく自分の言葉が伝わった。あとはこの手に宿した魔力で終わらせるだけ。そうフィリーネが確信した、まさにその時であった。



「…………なぁーんてね♪」



 突如ビーズが、醜いにも程があるくらいの歪んだ笑みを浮かべる。

 一体何がどうなったのか、フィリーネは理解不能だった。まるで自分の周りだけ、時が止まったかのような感じにさえ思えた。

 なんとなく横から気配を感じて振り向いてみると、ミネルバが無表情で緑色の魔力を生成しており、それをフィリーネに勢いよく投げつけてきた。

 凄まじい爆発音とともに吹き飛ばされ、フィリーネは支柱に叩きつけられる。完全に隙を突かれてしまい、防御魔法を施す余裕すらなかった。


「ぐ……こ、こんなの……があっ!?」


 フィリーネがなんとか立ち上がろうとしたところに、ビーズの魔法が襲い掛かる。体が飛び跳ね、地面を転がり、ようやく止まった時にはもう動けなかった。

 辛うじて見えている視界の先には、ビーズが呆れ果てた笑みを浮かべながら近づいてくるのが見えた。


「またしても引っかかってくれるとは……案外、女王様って単純なんですね♪」


 ケラケラと愉快そうに笑うビーズの姿に、フィリーネはもう何もできなかった。体はまだなんとか無事だが、自分の中にある何かが折れた気がした。

 力を振り絞りたくても振り絞れない。このまま自分も含めて全てが終われば、それで丸く収まるのではないかとすら思ってしまう。

 女王失格。ロクでもない母親。才能ある者を壊した愚か者。次から次へとマイナスの感情が溢れてくる。フィリーネは不思議と笑っていた。自覚しているかどうかも怪しいくらいに。


「さぁ、これで本当のおしまいにしましょう。ひと思いにやってしまいなさい!」


 ビーズが手を上げると、いつの間にか立ち上がっていたエルヴィンが、オースティンの長剣を持ち、フィリーネに向かってユラユラと歩いてくる。

 息子の自慢の剣でトドメを刺そうとしているのだ。

 フィリーネもそれに感づいたが、もう体を動かすことができない。


「や、やめ、ろ……」


 ブレンダが必死に起き上がろうとしたところに、ビーズが面倒くさそうな表情で魔法を発動する。


「がはあぁっ!?」


 激しい電流が容赦なくブレンダを襲い、再び強い痺れに支配されてしまう。凄まじい執念で気絶こそ免れたが、もう体を動かすことはできなかった。

 ようやく邪魔が入らなくなったとビーズは笑顔になり、エルヴィンがオースティンの長剣をフィリーネに向けて、大きく振りかぶる。

 絶望と喜び、そして無といった三つの表情が交錯する中、フィリーネはその数秒が、とてもゆっくりと流れているように感じた。


「ぐほっ!?」


 次の瞬間、何かがエルヴィンの腹にめり込んでいることに気づいた。

 寸でのところで誰かが飛び込んできて、エルヴィンに強力な蹴りを打ち込んだという事実が、フィリーネは最初全く理解できなかった。

 気づいた時には助かっていた。エルヴィンは後方の壁に叩きつけられ、意識を失っていた。口を開けて唖然とするビーズの視線の先には、スタッと華麗に着地する美女の姿がそこにあった。



「ふぅ……間一髪だったのです」



 凛とした透き通る声が、王宮内に響き渡る。その強気な笑みからは、どこか神々しさを感じると、フィリーネは思っていた。

 彼女は本当に人なのだろうか。自分たちとは全く違う、別の存在ではないのか。そんな考えが渦巻きつつ、フィリーネは彼女から目が離せないでいた。


「な、何が……」


 ビーズは今の状況が理解できないでいた。乱入者からの魔力は感じるが、自分の知る魔力とは全然異なるモノだと断定されてしまう。

 あり得ない。ビーズが彼女に対して抱いた第一印象がそれだった。

 どう考えても普通の魔力ではない。まるで彼女が『魔物』特有の魔力を持っているようではないかと、酷く頭の中が混乱状態に陥っていく。

 そしてそれに追い打ちをかけるかのように、更なる乱入者が訪れる。


「ガアアアアァァァーーーウッ!!」


 キラータイガー亜種と、その背に乗った少年少女たちが王宮内に突入する。

 その中の一人が、スフォリア王国の第二王子であることを悟り、ビーズは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 セドがフィリーネの姿を見つけた瞬間、キラータイガー亜種の背から飛び降り、その場に駆け寄った。


「母上、ご無事ですかっ!?」


 必死に呼びかける息子の姿に、フィリーネは弱弱しい笑みを浮かべながら頷くのだった。



次回は木曜日の0時~1時(水曜日深夜)あたりに更新する予定です。

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