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たった一人の魔物使い  作者: 壬黎ハルキ
第四章 スフォリア王都
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第六十九話 はびこる呪い

今回も少し更新が遅れてしまいました。

すみませんです。



「待たせたなブレンダ。それでは行くとしようかの」


 王宮の入り口付近の大広間で、セルジオとブレンダが合流する。現在の状況を把握するべく、二手に分かれて行動していたのだ。

 外に出たところで、まずはセルジオが問いかける。


「それで、お前さんのほうはどうだったかね?」

「ミネルバ様の行方は未だ不明。逃げ出したエルヴィンという貴族も同じく。町の人々は誰も見ていないとか。そして話に出てくるビーズという男もまた……」

「ちゃんと探しておるのかどうかが、少しばかり気になってくるところだがな」

「探してはいるみたいですよ? 本当に誰も姿を見ていないようなんです」


 それを聞いたセルジオは、顎に手を乗せて考え出す。


「ふむ。それはそれで妙……でもないか。隠れて移動している可能性もあるからな」

「一緒に行動していれば、尚更とも言えますね。それで、長老様のほうは?」


 何気なくブレンダが尋ねると、セルジオは深いため息をついた。


「マクレッド家の当主が来て、土下座をしておったよ」

「は? それは一体……」

「そこは別にどうでも良い。問題はその後だ。こともあろうにあの男、マキトを犯人として扱いおったわい」

「それって……あ、あり得ませんよ! 彼が犯人だなんて……」


 声を荒げるブレンダを、セルジオが手のひらを突き出して制する。


「無論それはワシも同意見だ。しかしながら、そうじゃないという確証がない故、言い返すことができんかった。その場にいたオースティン王子は、実に悔しそうな顔をしておったよ」


 セルジオの言葉に、ブレンダもまた悔しそうに拳を震わせる。


「……私は、彼が犯人じゃないと信じています」

「うむ。ワシもだ。それに、あのマクレッド家の当主も、マキトが本当に犯人かどうかなんぞは、恐らくどうでも良いと思っておるだろう。自分に責任が降りかからないように、マキトや自分の息子さえもエサにした。それだけのことだろうな」


 セルジオはどこか呆れ気味に、良くある話の一つだと言わんばかりに語る。

 ブレンダも特に驚いたりはしなかった。護衛役の仕事をしていると、貴族と関わることも増えてきて、その手の話はよく耳にするからだ。

 いや、むしろそれしか聞かないと言っても差し支えない。特に王族と密接な関係がある貴族であればあるほど、その傾向が高い。

 勿論全ての貴族がそうというワケではないのだが、本当にごく一部だけなのだ。

 少なくともマクレッド家は、そのごく一部ではないことを、ブレンダは改めて確信しつつ、忌々しい表情を浮かべる。


「結局は自分の安全を最優先ですか。身勝手極まりないですね」

「貴族なんてモノは、どこもあんまり変わらんよ。エルフ族だろうと何だろうとな。そうなってしまうのも仕方がない、と言えなくもないからの」

「……一応、分かってはいるつもりですが……」


 豊か過ぎる暮らしに慣れてしまうと、もう他の暮らしはできない。意地でも今の状態を保とうとする。そんな話をブレンダも聞いたことがあった。

 マクレッド家のように、王家との繋がりを持った貴族は、まさにその典型的すぎる例の一つだろう。繋がりがあるうちはまだ良いが、もしそれが断ち切られたら、果たしてどうなってしまうのか。

 少なくともブレンダの記憶では、それらの貴族は全て没落していた。あくまで全て、護衛の仕事中などで聞いた話なのだが。

 そう考えれば、セルジオから聞いたマクレッド家の当主の動きや考え方も、あながち分からなくもない。そうブレンダは思っていた。


「ところで、私たちはこれからどうしましょうか?」

「ギルドマスターと話でもしてみるかの。何かしら情報があるかもしれん」

「では、参りましょうか」


 ブレンダとセルジオは、ギルドへ向かうべく町に向けて歩き出した。

 王宮では騒ぎになっているにも関わらず、大通りはいつもの明るい賑やかさを、存分に醸し出しているのだった。



 ◇ ◇ ◇



 一方マキトたちは、目的地である湖に到着していた。

 しばしの休憩をそれぞれが楽しんでおり、アリシアとコートニーは水着に着替えて、ラティたち三匹と湖で楽しそうにはしゃいでいる。

 それを遠巻きに見ながら、マキトはふと気になったことをセドに尋ねてみる。


「そういえばさ、セドってお父さんはいないの?」

「ん? あぁ、不治の病で亡くなったよ。もう五年前になるかな」

「あ、そうだったんだ……」


 申し訳なさそうな表情をするマキトに対し、セドは明るい声を出す。


「別に気にすることはないさ。女王しかいないから、疑問に思ったんだろ?」


 その問いかけに、マキトはコクリと頷く。次の瞬間、セドの表情に影が差した。


「……でもそうだな。考えてみれば、ミネルバがああなったのも、それがキッカケなのかもしれないな」

「え、それってどういうこと?」


 マキトの疑問の声に、セドはどこか懐かしむような笑みを浮かべた。


「父上は、ミネルバを大層可愛がっていたんだ。そしてアイツの素質にも、大きな期待を寄せていた。僕に対しては真逆にも程がある感じだったがな」

「真逆?」

「魔力を持たずに生まれてきたことを、それはもう心の底から失望していたよ。お前は我が国の恥さらしだと、もう何回言われてきたことか……」

「ヒドイもんだな」


 なんとなく予想していたことだが、実際言葉にして聞くとエゲツないと思わされる。しかしセドにとっては、もはや当たり前のレベルらしく、王家なんてそんなもんだよと笑い飛ばしながら言っていた。


「そしてミネルバは、そんな父上をずっと間近で見て育ってきたんだ。僕をロクデナシと見るのが常識だと思うのも、それほど不思議なことでもない」

「つーかそれって、死んだオヤジさんがそもそもの元凶っぽく聞こえるんだけど?」


 顔をしかめるマキトに、セドは思わず吹き出してしまう。


「かもな。父上の亡霊によって、僕たち王家は呪われてるのかもしれないな」

「……フツーにあり得そうで怖いよ」

「ははっ、ゴメンゴメン」


 明るい声で謝ってくるセドだったが、マキトには今の言葉が冗談とは思えなかった。それぐらいセドの声色が、とても真剣だったのだ。

 なんとなく微妙な空気になりかけたその時、湖のほうから声がかかる。


「マキトーっ! そろそろ薬草探し始めようよーっ!」

「おーぅ」


 アリシアのかけ声に、マキトは返事をしながらセドとともに立ち上がった。その際に内心で助かったと、それも二人同時に思っていたことは、それはあくまでここだけの話だったりする。

 ちなみにその後マキトたちは、全員で薬草を探すのに夢中となっていたため、王都の上空に怪しげな黒雲が広がっていることに、誰一人として気づいた者はいなかった。



 ◇ ◇ ◇



 スフォリア王都の冒険者ギルドでは、今日もいつものように賑わっていた。

 しかしその一方で、妙なウワサも流れていた。

 ミネルバ王女が行方不明になった。裏にはマクレッド家の息子が関わっている。ロクでもないことが始まるのでは。

 そんな感じで、冒険者たちの間に不安が過ぎっている。

 セルジオとブレンダは何食わぬ顔で冒険者たちの横を通りつつ、どこでそんな情報を掴んできたんだと、呆れを込めた苦笑を浮かべていた。

 何せミネルバが姿を消したことは、極力外に漏らさないように注意を払っているハズなのだ。にもかかわらずこのギルド内では、こうしてしっかりとウワサ話として、大いに盛り上がってしまっている。

 秘密ごとはどれだけ規制しても、どこかしらで漏れ出るのは防げない。分かっていたことではあるが、やはりため息の一つはつきたくなるモノだ。

 そう思いながらセルジオは、受付嬢に一言告げるなり奥へと入り、更に奥へ向かって迷うことなく進んでいく。

 相変わらず狭い廊下だと心の中で悪態づきながら、セルジオはとある部屋に入った。ノックの一つすらせず、在室かどうかをまるで気にしていないかのように。


「ほっほぅ、来てやったぞ、クソジジィめ♪」


 笑顔で右手を軽く上げながら軽いノリで話しかけるセルジオに、ブレンダはこめかみを押さえていた。

 いつもの光景とはいえ、やはり親しき間柄にも礼儀を大切にするべきだとブレンダも思ってはいるのだが、それを言ったところで軽く流されて終わることは目に見えているため、決まって見過ごす羽目になっている。

 部屋の主、ウェーズリーもそのことはよく分かっており、もはや何かを言う気力すら失せているほどであった。


「久しいなセルジオ。もはやワシよりも老いたんじゃないのか?」

「それはコッチのセリフじゃわい。ウェーズリーこそ、ちょいとてっぺんが薄くなってきたのと違うかね?」


 どこまでもイタズラっぽく語り掛けるセルジオに対し、ウェーズリーも昔からの友人が訪ねてきてくれたことに、なんだかんだで嬉しくは思っていた。

 しかし今回ばかりは、状況的にも実に迷惑極まりないとも思っていた。

 ウェーズリーはどうしてこんな時に来るんだ、という無言の視線を飛ばしてみるが、セルジオはちっとも察する様子はない。

 これ見よがしに深いため息をつきながら、ウェーズリーは言う。


「……悪いが今日ばかりは、お前とのんびり話している時間はないぞ」

「心配するな。ワシも真面目に聞きたいことがあるからの」


 じゃあ早く話せよ、とウェーズリーは思ったが、それを言い出せば話が逸れそうだと思ったため、黙ったままセルジオの次の言葉を待つ。

 セルジオもようやく真剣な表情を浮かべ、ウェーズリーを見据えながら言った。


「ビーズという魔導師の男に会いたい。お前さんなら、居場所を知っておるだろう?」


 ウェーズリーは、やはりそれを聞くのかと言わんばかりにため息をつく。


「王宮の傍の林にある小屋。ヤツはそこに住んでおった。他にも住処を用意してはいたらしいが、それ以上のことは全く知らん」

「……そうか。お前さんでも知っておるのはそのくらいだったか」


 言葉の割にセルジオは、大してガッカリしている様子はない。それでもウェーズリーは、これだけは言っておきたいと思っていた。


「期待を裏切ったところで悪いが、お前はギルドマスターを買い被り過ぎだ。ワシはあくまで、冒険者ギルドにおけるまとめ役でしかないからな。別に町全体を取り締まっておるワケでもない」

「ハハッ、一応分かっておるつもりさ」

「……流石にそこだけは断言して欲しかったぞ」


 ウェーズリーは頭を抱えながら呆れ果てる。それも形だけのモノでしかなく、内心ではいつものことだと諦めていた。

 一方、セルジオは再び表情を引き締め、窓の外の景色に視線を向ける。


「話は変わるが、今日は一段と空が曇っておるな。真っ黒な雲が不気味でならんわい」


 ウェーズリーも同意見であった。

 夕方という時間帯ながら、覆いつくす黒雲のおかげで夕焼けが一切拝めず、暗さだけが非常に目立っていた。

 これで土砂降りの雨でも降っていれば、まだ自然なほうだったかもしれないが、今朝から雨は一滴も降っていない。強めの風も相まって、不気味さが余計に醸し出していると言えた。

 複雑そうな表情で、ウェーズリーは目の前のテーブルに視線を戻す。


「うむ。何か悪いことが起こる前触れかもしれん。王宮の騒ぎも今だ収まっておらんようだし……実はさっきからワシも、酷く胸騒ぎがしてならんのだ。セルジオは何か感じることはないのか?」


 ウェーズリーの問いかけに対し、セルジオはしばし無言のまま目を閉じる。程なくして目を開き、セルジオは重々しく口を開いた。


「明日……いや、下手をすれば今夜あたりから、何かが動き出すかもしれんぞ?」


 あくまで個人的な勘だと言うセルジオであったが、何故だかウェーズリーは、それが当たりそうな気がしてならないのだった。



次回は火曜日の0時~1時(月曜日深夜)あたりに更新する予定です。

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