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たった一人の魔物使い  作者: 壬黎ハルキ
第四章 スフォリア王都
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第六十四話 セドと一緒に王宮へ



 親タイガー亜種と長タイガーに別れを告げ、マキトたちは王都への道を歩いていた。

 パンナの森は魔力の光でぼんやりと明るかったが、流石に夕暮れのおかげで昼間よりかは少し暗い。

 バウニーはスラキチやロップルと一緒に、周囲を走り回っている。すっかり仲良くなった姿を微笑ましく思いながら、マキトが口を開いた。


「闇の魔力って、やっぱり悪い魔法そのものなのかな?」

「いや、それは違うよ」

「え?」


 セドが間髪入れずに否定し、マキトが注目する。


「冒険者や過去の宮廷魔導師の中でも、闇の魔力で大活躍を収め、功績を称えられた者は多いと言われているんだ。まぁ要するに、どんな魔力も使い方次第。それこそ闇だけじゃなく、炎や風などでも、悪い方向に転がっていく可能性は十分にあり得るのさ。今回はたまたま、闇の魔力が目立っているだけに過ぎないんだよ」


 セドの言葉を聞いたマキトは、ライザックの姿を思い浮かべていた。

 もしかしたら彼も、最初は真っ当な魔導師だったんじゃないだろうか。それが何かしらの事情で酷く歪んでしまい、その結果、人を操るという魔力を生み出した。

 殆ど直感からの思いつきであったが、マキトは何故かそう思えてならなかった。

 別に同情するつもりはない。あくまで直感だが、恐らくライザックと友達関係を築くことはないだろうと、マキトは考えている。

 しかしその一方で、ライザックという人物そのものに対する興味もあった。ここまで誰かに興味を持ったのは、もしかしたら初めてかもしれない。マキトはそんな不思議な感じを覚えた。

 これから何が起こるのかという不安に加え、それなりのワクワクした気持ちも、確かに抱いているとマキトは強く実感しているのだった。


(流石にこれは、誰にも言わないでおいたほうが良さそうだな)


 もしセドたちに言えば、激しく凶弾されるような気がしてならない。こればかりは自分の胸にしまっておこうと、マキトは思った。


(まぁ、ライザックに協力するつもりも全然ないけど)


 これもマキトの確かな本音だった。興味があるとはいえ、彼のやって来たことは恐ろしいモノばかりだ。そんな男と行動するなんて、まっぴらご免であった。


「帰ったらコートニーたちにも話しておくか……」

「うん、それが良いだろう。あの二人も無関係にはできないだろうからな」


 同意するセドに、マキトは少しだけ驚いた反応を見せる。


「どうした?」

「いや、なんでもない」


 首を傾げてくるセドに対し、マキトは慌ててごまかす。そして心の中で思った。


(いっけね。今の口に出してたんだ……恥ずっ)


 マキトは少しだけ体をプルプルと震わせながら、しばらく顔を背けていた。

 他の面々がそんな彼の様子に全く気づくことがなかったのは、色々な意味で幸運だったと言えるのかもしれない。



 ◇ ◇ ◇



 日が完全に沈もうとしていた頃、マキトたちは王都西の街門に到着した。

 門番がセドを、正確に言えばセドが抱きかかえているバウニーに注目している。控え室の窓から覗き見ているもうひとりの門番も、同じくであった。


「あ、あの……セド様? その魔物は一体……」

「キラータイガー亜種の子供だ。僕の新しい小さな相棒だよ」

「ニャッ」


 ひと鳴きした瞬間、門番の表情が強張る。やはり子供とはいえ、キラータイガーという存在は、どうしても身構えてしまうというところだろう。

 セドもある程度の予想はしていたため、わずかな苦笑を浮かべていた。


「大丈夫だ。別に突然暴れ出したりなどしないさ。それにもし何かあれば、それは僕の責任となるから安心してくれ」

「はぁ……まぁ、大人しいみたいですし、気をつけていただければ……」

「ありがとう」


 それからマキトたちも問題なしと判断され、大きな門がゆっくりと開けられる。通り抜けようとしたところで、門番がセドに頭を下げてきた。


「申し訳ございません。セド様を足止めさせてしまって……」

「別に気にすることはないさ。お前たちは自分の務めを果たしたまでのことだ」


 セドがそう言った瞬間、門番はありがたき幸せと、叫ぶように言った。

 控え室にいた門番も慌てて飛び出してきて、一緒になって頭を下げてくるその姿に対し、いくらなんでも大げさだろうと、セドのツッコミが入った。

 マキトとラティたち三匹は、そんな彼らの様子に見入っていた。

 セドがスフォリア王国の中でも評判高いという話が、改めて裏付けられたような気がした。

 こうして王都に帰り着いたマキトたちは、まず最初にギルドへ顔を出した。

 連れ帰ったバウニーを受付嬢に見せ、クエストは無事に達成。マキトとセドは、ランクDに昇格するのだった。


「正直驚きました。ここまでクエストをすっ飛ばしてランクD昇格したのは、恐らくお二人ぐらいですよ」


 更新された二つのギルドカードを返却しながら、受付嬢は苦笑気味に言った。

 キラータイガーを一匹倒すことは、本来それ相応のレベルを上げる必要があり、簡単に達成できないクエストの一つであるハズだったらしい。

 しかしその一方で、受付嬢は納得もしていた。何故なら魔物使いであるマキトが一緒だったからである。きっと従えてくるだろうと、受付嬢の間で密かに予想していたらしい。

 セドが従えてきたというのは、流石に予想できなかったらしいが。

 何はともあれ、無事にランク昇格を果たしたマキトたちは、ギルドを後にした。外に出ると、空は真っ暗になっていた。


「さーて、いっちょ晩ご飯でも食べに行くか」

「お腹空いたのです。マスター、今日はどこで食べましょうか?」


 ラティの言葉に、スラキチとロップルも脱力するような声を出した。

 ちなみにアリシアとコートニーには、あらかじめ夕食を済ませてくると伝えているため、気にする必要はなかった。

 どこかこじんまりとしたレストランでも探そうかと考えていた、その時だった。


「もし良かったらなんだが、これから王宮に来てみないか? コイツと引き合わせてくれた礼も兼ねて、夕食に招待したいんだが」


 セドの提案に、マキトは一瞬だけワクワクする。しかしすぐに難色を示した。


「堅苦しいのはちょっとなぁ……」

「心配は無用だ。王宮騎士たちが時折、中庭で小さな宴を開いているんだ。今日も行うと聞いているから、一緒に混ぜてもらおうと思ってね」


 地球でいうところのバーベキューみたいなモノかとマキトは思った。

 セド曰く、材料の追加はなんてことないらしいため、数人増えたところで問題はないとのことだった。

 それを着たマキトとラティたち三匹は、顔を見合わせる。


「どうする? 行ってみるか?」

「行ってみたいのです」

「ピキーッ」

「キュッ」


 満場一致で賛成という意見が出たことにより、マキトの返事も決まった。


「じゃあ、お邪魔させてもらうよ」

「そうこなくてはな。早速行くとしよう」


 マキトたちはセドの案内で、スフォリア王宮に赴くこととなった。

 折角なのでアリシアたちも探して誘おうかと考えた瞬間、昨夜見せていた二人の様子が頭に思い浮かぶ。とりあえず今回は自分たちのみにしておこうと、マキトは決めるのだった。



 ◇ ◇ ◇



 セドに誘われる形で、マキトたちは王宮にやって来た。

 女王は仕事に追われている状況とのことで、挨拶は後回しにしてほしいと大臣から言われ、そのまま宴会場と化している中庭へと向かったのであった。

 既に兵士たちの何人かが、樽型のジョッキを片手に酔っぱらっている。殆ど町中と変わらない光景だと思っていたその時、マキトは見覚えのある二人を見つけた。


「アリシアとコートニーも来てたんだな」

「あーうん、まぁ、なんてゆーか、成り行きでね」


 マキトに声をかけられたアリシアは、どこかは歯切れが悪い。

 どうしたんだろうかと首を傾げていると、周囲から驚きや戸惑いのザワつきが聞こえてきた。セドがキラータイガー亜種の子供を連れていることに、兵士やメイドたちが注目しているのだった。

 そんな中、アリシアがマキトに話しかける。


「実は私たち、セドのことが気になって、王宮に調べに来てたんだ。そこで偶然、彼のお兄さんであるオースティン様に会ったんだけど……」


 オースティンから、セドのことを色々と教わったことを話した。内容的に伏せた部分もあったが、聞いていたマキトは納得しており、ふむふむと頷いていた。


「やっぱり王子様って大変なんだな」


 それがマキトの率直な感想であった。

 専門的な言葉や考え方は、正直なところ理解しきれない。仮に理屈は分かったとしても、自分とは生きている土台そのものが違うという認識をしてしまう。しかしその一方では、セドが国を出たがっている気持ちが、ほんの少しだけ分かるような気がした。


「王族に嫌気がさすって、そんなに珍しいことなのかな?」

「いや、そうでもないみたいだよ? 前にどこかで聞いたんだけど、ただ単に家を継ぐのを嫌がって飛び出してしまう貴族とかも、今じゃ珍しくないらしいからね」


 マキトの疑問にコートニーが答える。多分セドも、それと似たような感じなのかもしれないねと、やんわりと付け加えられた。

 思い返してみれば、今日一緒に行動していた時のセドは、実に生き生きとしていた気がした。まるで心の底からの解放感に満ち溢れていたかのような、この時間が永遠に続けばいいのにと、そう思っているかのような。


(無理にセドを王族で縛り付けておくのは、なんか微妙っぽく思えてきたかも)


 マキトが心の中で呟いた時、周囲から大きな歓声が沸き上がった。

 何事かと見渡すと、ある一部分で、マキトからすれば馴染みにもほどがある光景が広がっていた。



「すっげ……火を飲み込むスライムなんて初めて見たぜ……」

「スライムにも色々な種類があるとは聞いていたが、これは予想外だったな」

「でも、あの表情カワイイですよねぇ♪ もっと見ていたいです♪」

「フェアリー・シップって、お肉よりもお野菜のほうが好みなのかしら?」

「美味しそうに葉っぱモシャモシャ食べてますもんね」

「あの妖精ちゃん。私が下処理失敗したお肉、美味しそうに食べてたんだけど」

「俺たちとは好みが違うってことか……まぁ魔物だからな」

「魔物の生態観察……意外と面白いかもしれません」



 兵士やメイドたちは、ラティたち三匹の様子に興味津々であった。

 彼らからすれば、魔物は基本的に倒すべき存在……いわば恐怖の対象だ。こんなふうにじっくりと観察する機会なんて、そうそう訪れなかったことだろう。

 マキトがそう考えていると、コートニーが話しかけてくる。


「魔物を従えている人はたくさんいるけど、仕事上の相棒って認識が殆どだからね。今回のような光景は、滅多に見られないらしいよ」

「まさに貴重な機会ってことか」

「そういうことだね」


 コートニーが笑みを浮かべながら言ったその時、ある人物がやってきた。


「楽しんでいるようだな」


 その声にマキトやラティたち三匹、そしてセドとバウニー以外の全員が、ビクッと驚きながら振り返る。

 まさかこんなところに現れるとは予想だにしていなかった。そんな気持ちが一つとなりつつ、慌てて一人の兵士が駆け寄り、敬礼する。


「オースティン様! お疲れ様でございますっ!」

「構わん。私のことは気にしないでくれ。少し顔を出しただけだ」


 やんわりと手を上げて制止させたオースティンは、マキトの姿を見つけるなり、一直線に歩いてきた。


「キミがマキト君だね? 私はスフォリア王国第一王子のオースティンだ」

「あ、はい。どうも初めまして、俺はマキトって言います」


 普通ならば『お初にお目にかかります』と言うべきであり、メイドや兵士たち、そしてアリシアやコートニーは酷く戦慄した表情を浮かべていたのだが、マキトやラティたちは全く気づいていなかった。

 セドは苦笑を浮かべながら、マキトたちに近づいていく。


「申し訳ありません兄上。挨拶が遅れてしまいました。僕の新しい相棒です」

「ニャッ」


 セドがバウニーの姿を見せると、オースティンが笑顔を見せる。


「あぁ、ギルドマスターから聞かせてもらったよ。見事な成果を見せてくれたな」

「マキトが紹介してくれたおかげですよ。彼がいなければ、到底成し遂げることはできませんでした」

「そうか。弟が世話になったな」

「いえ、そんなことは……」


 素直に感謝されたマキトは、むず痒い気持ちを覚えていた。

 そんな少年の姿を微笑ましそうに見下ろしていると、周囲に異様な空気が流れていることを察し、オースティンは改めて叫ぶ。


「皆も気にしないでくれ。ここは公式の場ではないのだからな」


 その言葉にどよめきが走りつつも、徐々にそれぞれ笑顔が戻っていった。

 楽しい雰囲気が戻りゆく中、マキトは王族である兄弟二人を見比べてみる。兄は弟を誇りに思い、弟は兄の大きさに尊敬している。そんな感じにマキトは見えた。

 セドは良い兄弟に恵まれたんだなと、マキトは自然と笑みを零す。しかしそんな温かい気持ちを見事にブチ破ってしまう人物が、中庭に現れるのだった。


「たかがキラータイガーの子供一匹ぐらいで、皆さん騒ぎ過ぎですわ」


 ドレスに身を包んだエルフ族の少女が現れた瞬間、その場の空気にピシッという亀裂が入ったような気がした。



次回は木曜日の0時~1時(水曜日深夜)あたりに更新する予定です。

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