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たった一人の魔物使い  作者: 壬黎ハルキ
第二章 サントノ王都
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第二十八話 南の森に集う



「そういえば、二人もクエストでこの森に?」


 休憩を終えて出発しようとした矢先、マキトからアリシアとジルに突如、そんな質問が投げかけられた。

 一瞬ビクッとなりながらも、アリシアが苦笑気味に答える。


「うん、まぁ……そんなところかな」


 そう言いながらも、アリシアの中に心苦しい気持ちが生まれる。しかしながら、経緯が経緯なだけに、正直に言い辛いのも確かであった。むしろ内容的には、極力伏せておいたほうが得策とも言えるだろう。

 マキトたちはそんな二人の微妙な様子に気づき、どうしたんだろうかと首を傾げる。ジルは内心で慌てつつ、なんとか話題を見つけなければと思い、そこで思いついた内容を投げかけた。


「と、ところでさ。マキちゃんたちって、スフォリア王国にも行くんでしょ?」

「あぁ、そのつもりだよ。ロップルの故郷にも顔を出したいしな。といってもまずは、その故郷の場所を探さないといけないんだけど」


 ジルの質問にマキトが平然と答える。強引に話を逸らすかの如く、かなり必死な言い方に怪しまれるかと思ったが、特に気にしていないマキトたちの様子に、ジルは心の中で安心するのだった。


「キューゥ……」


 面目ないと言わんばかりに項垂れるロップル。ラティがよしよしと頭を撫でて慰める姿に癒されたのか、マキトだけでなく、アリシアやジルにも自然と笑みが零れ落ちる。

 マキトも優しくロップルを撫でながら話を続けた。


「外に出たことなかったせいか、ロップルも分からないらしいからな。まぁ、急ぐ旅でもないし、のんびり探せば良いかなーって思ってるんだけど」


 明るく振る舞ってみるマキトだったが、スフォリア王国が途轍もなく広いということぐらいは分かっていた。何かしらのヒントがなければ、ムダに時間を費やしてしまうだけだろう。

 しかしながら、事はそう簡単には運ばないとも思っていた。サントノ王都へ到着する少し前に、コートニーが言っていたのだ。ロップルの故郷を見つけるのは、一筋縄ではいかないであろうと。

 フェアリー・シップという魔物は、世間的に珍しい部類とされている。つまり、それだけ居場所が知られていないということだ。冒険者ギルドに問い合わせたとしても、目ぼしいヒントを得ることすら至難の業だろう。

 そんな考えがマキトたちの頭を過ぎっていた時、顎に手を当てたジルの口から、誰に向かって言ったわけでもないほどの呟き声が出た。


「うーん……だったら、長老様に相談してみると良いかもね」

「長老様って?」


 呟き声が聞こえたマキトは、殆ど反射的にジルに問いかける。


「エルフの里に住んでいるおじいちゃんだよ。普通の人が知らないようなことも、普通に知ってたりするんだよね。だからフェアリー・シップのことも、何か知っているかもしれないね」


 それを聞いたマキトは驚いた。まさかこんなところで、手がかりを得られるとは思わなかったからだ。

 運の良さを噛み締めつつ、マキトは更に尋ねる。


「エルフの里っていうのは?」

「スフォリア王国の森の奥にある、小さな集落だよ。魔力が特別に満ちている場所らしくて、魔導師や魔法剣士が修行する場所としても有名なんだ。スフォリア王都から西に行くのが一番近いから、まずは王都へ行ってみるといいよ」

「まぁ、スフォリアの国境を渡った時点で、どうしても王都が一番近い街になっちゃうんだけどね」


 アリシアに続いてジルがそう答えた。

 なんでもサントノ側から国境を渡って数日歩けば、自然とスフォリア王都に到着してしまうらしい。特に険しい道ではないため、魔物さえ気を付けていれば問題はないとのこと。

 少なくとも距離だけならば、シュトル国境からサントノ王都までの道のりよりも簡単だろうというのが、ジルの感想であった。


「じゃあ、大森林に行ってからは、まっすぐスフォリア王都だな。どのみちそこでコートニーと合流するんだ」

「えっ、もうあのカワイイ子っていないの? 別行動とかだったんじゃ……」


 驚くジルに対し、マキトは首を横に振った。


「オヤジさんと一緒に、先にスフォリア王国へ行ったんだよ。いわゆる家庭の事情ってヤツでね」

「そうだったんだ……」


 マキトの言葉に驚いたジルだったが、すぐに納得する様子を見せた。


「じゃあ、そろそろ行こうか。俺たちはもうしばらくこの森にいるけど、アリシアたちはどうするんだ?」

「折角だから同行させてもらうよ。あたしたちもそのつもりだったからね。まぁ、今日中にほとぼりが冷めてくれればと思うけど……」

「ちょ、ジルっ!?」


 危うくボロを出しかけたジルを止めるアリシアだったが、しっかりとマキトの耳に入ってしまっていた。


「ほとぼりって、何のことだ?」

「ふっ、あくまでこっちの話でございまさぁ。お気になさらんでくだせぇな」

「急に喋り方もおかしくなったのです」

「それでは気を取り直して、いざ出発しんこおぉっ!」

「…………なんなんだ、一体?」


 明らかに様子がおかしいジルに対して、マキトもラティもジト目になる。無言ではあったが、スラキチもロップルも表情は同じであった。

 マキトも魔物たちもそれ以上追及することはしなかったが、ジルが何かを必死に誤魔化そうとしていることは明白であり、それに対する疑惑は拭えなかった。それが結果として、再びアリシアたちに対する警戒心が生まれてしまった。

 しばらく肩身の狭い思いをすることになったアリシアとジルは、完全に失敗したなぁと、心の中で後悔するのだった。


(こんなことになるんだったら、素直に喋っちゃえば良かったかな? 悪いことは一切してないんだし、無理に隠すことなんてなかったかも……)


 アリシアはどこかでタイミングを見つけ、自分たちの経緯をマキトたちに話してみようかと考えていた。

 既に最悪の事態が刻一刻と迫っていることに、全くもって気づかないまま。



 ◇ ◇ ◇



「くそっ! シルヴィア様はまだ見つからないのか?」


 サントノ王宮では、依然としてシルヴィアの捜索が続いていた。

 指揮を執っているダグラスの表情に焦りが見えている。必死になって探している他の兵士たちも同様であった。

 ラッセルとオリヴァーは、互いに顔を見合わせて頷きあう。このままでは色々な意味でマズイと判断したのだ。二人はダグラスの元へ向かい、一つの提案を出す。


「捜索範囲を広げたほうがよろしいかと。個人的な意見ですが、もう王宮の中にはいないような気がするんです」

「俺も同意見です。それに冒険者の俺たちなら、街の中をうろついていても目立ちませんからね。無理なく人を探すことも、恐らくできるんじゃないかと」


 ラッセルとオリヴァーの意見に、ダグラスは顎に手を当てながら考える。


「……確かに一理あるな。お願いしてもよろしいか?」

「勿論ですとも」


 ラッセルが強く頷いたその時、一人の兵士が大慌てで駆け込んできた。


「ダグラス様! シルヴィア様の目撃情報が、とある冒険者から入りました!」

「そうか。でかしたぞ! それで、一体シルヴィア様はどこへ?」

「既に王都を飛び出しており、南の森に向かって走っているとのことです!」


 兵士の叫びにより、周囲の動きを含む空気そのものがピタッと止んだ。

 シルヴィアが見つかったと思って喜んでいた者も多く、笑顔が張り付いた状態となっていて、不気味な光景を作り出していた。

 数秒後、ダグラスは目をクワッと見開き、兵士に向かって詰め寄りながら、凄まじい大声で叫び出す。


「バカなっ! 門番は一体何をやっていたのだ? シルヴィア様がお通りになることすら見抜けなかったというのか!?」

「じ、自分もそう思いまして……も、門番に確認を取りました。そうしたら……」


 血相を変えるダグラスに怯えながら、兵士はなんとか言葉を絞り出して伝える。

 シルヴィアは堂々と街門から王都の外に出ようとしたが、当然の如く門番は首を横に振り、通そうとしなかったらしい。どんな脅し文句も屈しないという言葉も、ハッキリと付け足されていたとか。

 しかし、シルヴィアにとってはおり込み済みだったらしく、涼しい笑顔で一枚の書状を提示したのだという。

 その書状は国王直筆による、公式に発行された『外出許可証』であった。

 王族を含む王宮に勤める者が王都を出る際、この書状がなければ街門を通ることはできない。王家の紋章が印として押されていなければ、公式として是たちに認められないため、偽装はまず不可能だとされている。

 シルヴィアが提示した書状を門番は何度も確認したが、紛れもなく本物だったため、街門を通してしまった。

 それを聞いたダグラスは、あまりのワケの分からなさに頭が混乱していた。


「どういうことだ……とにかく、国王に確認を取らねばなるまい!」


 ダグラスはラッセルとオリヴァーを連れて王の間へ向かった。そして険しい表情で問い詰めるダグラスに対し、国王は訝しげな表情を浮かべる。


「私がシルヴィアに外出許可証を? 何をバカなことを言っているのだ? いくら娘に対してでも、そんな大事なモノを易々と……待てよ?」


 国王が一転して表情を強張らせ、それが周囲に妙な不安を駆り立てる。そんな中、隣に座る王妃が、実に輝かしい笑顔を浮かべ出した。


「なにやら身に覚えがあるようですね、ア・ナ・タ?」

「ま、待ってくれ! 確かに出してやったことはあるが、確かアレは十年ほど前のことだ! ここ最近はアイツに外出を許可した覚えなど全くないぞっ!」

「それについてなんですが……」


 身の危険を感じた国王がどうにか弁解を測ろうとすると、先ほどダグラスに報告を入れた兵士が、補足するような形で門番からの言葉を伝えるのだった。

 国王は顔に手を当てながら天を仰ぎ、王妃と大臣は実に呆れたと言わんばかりの盛大なため息を吐き出した。呆然と口を開けているダグラスは、それは確かなのかという無言の訴えを兵士に投げかけていたが、兵士は黙って頷くばかりであった。

 メルニーは大臣の隣で、ひたすら苦笑いを浮かべていた。かける言葉が全く思い浮かばなかったのだ。

 一方、ラッセルとオリヴァーは、なるほどなと言わんばかりに顔を見合わせ、今の話をまとめていくことに。


「要するに、その渡した許可証には期限を付けていなかったと。使おうにも公務や習い事で忙しかったため、今の今まで全く使うヒマがなかったというワケですか」

「しかもその無期限とやらは、国王の直筆によって証明されている。だから門番も従うしかなかった。それを無下にするということは、必然的に国王の意思に逆らうことにもなる。こりゃあ、門番を責めるわけにゃあいかないってもんでしょう」

「……国王、今回ばかりはお二方の言うとおりですぞ」

「あぁ、分かっている。お前もご苦労であったな。戻って待機していてくれ」


 兵士が国王の間から出ていくのを見送ると、国王は再び項垂れる。

 その様子にラッセルがわずかな苦笑を浮かべている横で、オリヴァーが斜め上を見上げるようにして、考える素振りを見せていた。


「しかしどうして王女様は、南の森とやらに向かったんでしょうかね? そこには特別な何かでもあったりするとか?」

「そうだな……強いて言うなら、祠が一つあるくらいだが……」


 ダグラスの言葉に、メルニーがピクッと小さな反応を見せたが、誰も気づくことはなかった。

 ここでラッセルが顔を上げ、意を決した表情でダグラスのほうを見る。


「俺たちでその森に行ってみます。様子を探るにも、早いほうが良いでしょう」

「分かった。決して深入りはしないでくれ。今のシルヴィア様は……」


 ダグラスは何かを言いかけて、チラリと王妃を見る。すると王妃はフッと小さく微笑み、実に落ち着いた声を響かせる。


「構いませんよダグラス。今のシルヴィアはとても危険な状態です。無事に王宮へ連れ戻すためにも、多少の手荒は仕方がないでしょう。むしろ、若干動けなくしてあげたほうが、あの子にお灸を据える結果となって良いかもしれませんね」


 オホホホホと笑う王妃に対し、ダグラスやラッセルたちだけでなく、大臣や国王までもが冷や汗を流して表情を引きつらせる。

 とりあえず方針は決まったということで、ダグラスはやや慌て気味にラッセルたちのほうを向いた。


「ラッセル殿、オリヴァー殿、南の森へ急いでくれ。我々も後から向かう!」

「わ、分かりました!」


 国王に一礼し、ラッセルとオリヴァーはすぐに国王の間を後にする。

 重々しく扉が閉まると、国王はダグラスに向かって口を開いた。


「ダグラス。すぐに兵士たちを集め、捕獲隊を結成するのだ。状況次第では、多少の攻撃も厭わない。なんとしてでも連れ戻してまいれ!」

「はっ!」


 早速行動を開始するべく、ダグラスが王の間を出て行こうとしたその時だった。


「国王様、私も南の森に向かわせてはくれませんか? 嫌な予感がするのです」


 今までずっと黙っていたメルニーが、険しい表情で申し出てきた。

 ただならぬ様子に周囲が息を飲みこむ中、メルニーは更に言葉を続ける。


「先ほどから、途轍もない胸騒ぎを感じるのです。そして、魔力の動きも。恐らく森にある祠によるモノと思われます。事は一刻を争います。何かあってからでは遅すぎるのです! どうかお願いいたします!」


 メルニーが国王に向かって深く頭を下げる。彼女が本気であることは火を見るよりも明らかであった。

 国王は目を閉じて小さく頷いた後、改めてダグラスのほうを向いた。


「ダグラスよ。メルニー殿をよろしく頼む。我が国の宮廷魔導師として、他国より迎え入れた大事なお方だ。そのことを肝に銘じておくのだぞ」

「はっ!」


 ダグラスとメルニーは国王に一礼し、王の間を出て行った。

 これから訪れるであろう、実に大きくて厄介過ぎる出来事を思い浮かべながら、国王は再び天を仰ぐ。


(頼むぞ。どうかこれ以上、事が大きくならないでほしいモノだが……)


 心の中で切に願ってみる国王であったが、それも淡い期待でしかないのだろうと思えてならないのだった。



 ◇ ◇ ◇



「この森……こんなに奥まで続いていたのか」

「予想以上の広さですねぇ」


 探索を再開してから数時間、マキトたちは森の奥地まで踏み込んでいた。

 流石にそれなりの数の魔物が飛びかかってはきたが、ラティたちが敏感に気配を察知したおかげで、いずれも不意打ちだけは避けられていた。

 また、魔物との戦いにおいても、ラティたちは大活躍していた。三匹の攻撃、防御、補助の役割分担が実に分かりやすいため、アリシアたちも動きやすいと感じていた。

 今のマキトたちは、確かに駆け出し故の未熟さは拭えない。しかしながら、精進すれば確実にハイレベルの冒険者に成長する。モタモタしていたら、あっという間に追い抜かれてしまうだろうと、アリシアもジルも思っていた。

 同時に二人は、魔物使いの可能性についても心から驚かされていた。役立たずだと世間から称されているのが信じられない。

 過去に誰かが悪いウワサを流し、それが浸透しただけなのではと、そう思いたくなるほどに。


「あ、なんか明るい場所に出た」


 薄暗くて狭さをも感じる森の中とは打って変わって、木々が取り除かれて地面も平らに整っており、まるで小さな公園を連想させるほどの明るい広場。

 マキトが興味深そうに見渡していると、奥のほうでポツンと佇んでいるモノに目が留まった。


「なんだろう? 建物にしては小さい感じだけど……」

「きっと祠なのです。森の神様でも祀っているのでしょうか?」


 祠は妙に目立っていた。よくよく見ると、綺麗に整備されているわけでもない。静かな森の雰囲気と相まって、不気味さが漂っていた。


「もしかして、アレが『森の祠』じゃないかな? ほら、ギルドで聞いたやつ」


 思い出すことに成功したジルは、どことなく嬉しそうな表情であった。


「森の祠ねぇ……何か特別な場所だったりするのか?」

「なんでも数百年前、あの祠に悪しき魔力の塊を封印したらしいよ。信ぴょう性があるかどうかは微妙らしいけどね」

「魔力にも悪いモノとかってあるんだ?」


 どことなく興味深そうにマキトが問いかけると、アリシアが苦笑気味に答える。


「そう多いわけじゃないけどね。悪い魔力を浄化するための魔法もあるんだよ」

「ふーん、そうなんだ」

「それよりもさ……なんだかちょっと静か過ぎない?」


 ジルの問いかけに、一同は疑惑ないし緊迫した表情に切り替わる。マキトとラティが周囲を見渡しながら呟いた。


「そういえばさっきから魔物が出てきてないな」

「気配も全然感じないのです。なんだか不気味なのです」

「祠の影響かな? 封印されている魔力とやらで、魔物を寄せ付けてないとか」

「確かにその可能性はあるかもしれないね」


 ジルの仮説が有力かとアリシアは思ったが、それでもラティはまだ何か気になる様子であった。


「でも、それとは別に、禍々しい何かを感じるような気がするのですが……魔物さんとはまた違う気がするんですよね」


 ラティの言葉に、スラキチとロップルもどこか怯えている様子を見せていた。マキトはただならぬ事態が迫っているのではと予感しつつ、目の前にある祠を見つめている。


「とりあえず、もう少し祠の傍にでも寄ってみるか?」

「ハイなのです。そうさせてください」


 マキトたちが祠へと歩き出そうとしたその瞬間、強めの風が吹き、思わず砂埃を避けようと顔を背ける。

 すると、なんとなく感じていた禍々しさが、急激に気配となって増加し、ラティたち三匹は表情を強張らせた。

 マキトは祠のほうを見てみると、なんと一人の獣人族の女性が祠の上に立っていた。その女性は不気味な笑みを浮かべながら、マキトたちを見下ろしてくる。



「ウフフフフ……やっと、やぁ~っと、見つけましたわよ?」



 実にねっとりとしていて、薄気味悪いとしか思えないほどの甲高い女性の声に、思わずマキトは顔をしかめてしまう。

 質の良い甲冑を身に纏い、細長いサーベルを腰に携えている。どことなく気品を感じるが、血走った目と吊り上がった笑みで見降ろしてくる彼女の姿は、お世辞にも正気を保っているとは思えなかった。


「あぁ、お姉さま! 我が愛しきアリシアお姉さま! シルヴィアは心よりお会いしとうございましたわ!」


 シルヴィアと自ら名乗る女性は、熱に浮かされたような声で高らかに叫ぶ。

 まさかアリシアの名前が出てくるとは思わず、マキトは少しだけ表情を引きつらせながら、一体どういうことだという気持ちを込めて隣を見てみる。

 するとアリシアが、青ざめた表情を浮かべていることが分かった。どうやら何かしらの関係があるのは間違いない。

 そう判断したマキトは、アリシアにコッソリと聞いてみることにした。


「何アレ? お知り合い?」

「え、それは……いや、その、あの……」


 しかしアリシアも完全にパニックになってしまっており、上手く口が回らない。よく見るとジルも同じ様子であった。

 一体どういうことなんだろうと、マキトは思わず首を傾げてしまう。ラティが二人の目の前に飛んでいき、両手をブンブンと振ってみるが、アリシアもジルも全く反応らしい反応を示さなかった。

 マキトも声をかけてみようとした矢先に、シルヴィアの高らかな声が響き渡る。


「さぁお姉さま! この私とともに、二人で幸せの園へと旅立ちましょう!」


 シルヴィアが狂ったような笑みを浮かべながら、腰に携えるサーベルを抜いた。



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