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たった一人の魔物使い  作者: 壬黎ハルキ
第二章 サントノ王都
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第二十話 冒険者ギルド



 その次の日、ラッセルたちはサントノ王都の冒険者ギルドにいた。

 隅っこにあるカウンタースペースで、アルコールのない飲み物を人数分注文し、雑談に花を咲かせている。

 昨晩の王宮は大賑わいであった。スフォリア王国の宮廷魔導師、メルニーの盛大なる歓迎パーティーが開かれたのだ。

 ちなみにそのパーティーにはラッセルたちも出席しており、深夜遅くまでみっちりと参加していた。その余波が、今になってのしかかっている状況である。


「はぁ……すっごい華やかだったけど、正直すっごい疲れたよ……」


 ジルが項垂れながら、深いため息をつく。それを隣に座るアリシアが頭を優しく撫でて慰めていた。


「でも仕方ないよ。メルニーさんの護衛を勤めた立派な冒険者パーティだって、堂々と紹介されちゃったんだから」

「確かにな。向こうの王様からも気に入られちまって、しばらく滞在するハメになっちまった。まぁ今日一日は自由行動なんだ。それだけでも良かったと思わねぇとな。明日は王宮へ行くんだろ?」


 オリヴァーの質問に、ラッセルが頷いた。


「是非とも王宮を見ていってくれと、王様直々に言われたからな。まぁ昨日のようなことにはならないだろうから、そこは安心しても良いだろう」


 淡々と語るラッセルだったが、仲間たちからしてみれば、彼もいつもとは少しばかり覇気がないと感じた。やはり長旅の直後に大宴会に参加するというのは、流石の彼でも堪えたのだろう。

 いつもならジルやオリヴァーあたりが会話を繋いでいくのだが、今日に限っては妙に静かであった。

 まだ昼前だというのに、今日一日が終わったかのような空気を醸し出している。


「はぁ……女王様からの護衛の依頼って、終わった後も大変だったね……」


 ジルがテーブルに突っ伏しつつ、唸るように言った。

 ちなみに女王様というのは、現在スフォリア王国を治めている人のことである。

 そして今回、メルニーをサントノ王国へ送り届けるよう、ラッセルたちに頼み込んだ張本人でもあった。

 ラッセルたちにとっては、誰かを護衛するということ自体は初めてではない。商人や職人など、小さな依頼として引き受けることはそれなりにあった。

 しかし今回のように、宮廷魔導師という大物を護衛するというのは、流石に初めての経験であった。それだけラッセルたちの能力が評価されていることに相違ないが、それでも受ける際の緊張度は段違いであった。

 依頼が着た瞬間は、全員が全員して喜んだ。しかしいざ女王と謁見して、正式に話を受けた瞬間、強烈なプレッシャーが襲い掛かってきた。

 本当に自分たちがこの依頼を引き受けて良いのか。もしかして、別の冒険者パーティと勘違いしているのではないか。

 メルニーを馬車に乗せ、堂々と出発の宣言をしつつも、心の中でビクビクしていたことは、ラッセルにとって一生忘れられない思い出となるだろう。

 もっともそれは、他三人も同じであったが。


「馬車を飛ばして一ヶ月ぐらいか。思えばメルニーさんとも、随分と打ち解けたもんだよな」

「ホントだよね。最初に緊張していたのがウソみたいだよ」


 ラッセルの言葉にジルが頷く。他人行儀から、和気あいあいと接するようになった。その時間はとても楽しく、もっと続いてほしいと思うほどであった。

 サントノ王国に到着して、メルニーと別れる際には、少しだけ寂しさを覚えたことも確かではあった。

 しかし今生の別れではない。そうラッセルたちは信じていた。


「いつかまた、この国へ遊びに来よう。色々と見て回るのもその時だ」

「そういえば俺たちには、まだやることが残ってるもんな。スフォリア王国に戻って、送り届けてきたっつう報告をする仕事がよ」

「じゃあ、明日か明後日にはもう帰るって感じかぁ……まぁ仕方ないよね」


 ラッセルに続くオリヴァーの言葉に、ジルも納得のため息をつく。アリシアも同意を込めた笑みを浮かべたその時――ギルドの扉が開いた。


「マスターっ、早く早くーっ!」

「分かった分かった」


 甲高い少女の声と、まだ幼さが残る少年の声が聞こえてきた。声のしたほうを振り向いてみると、ラッセルたちは目を見開いた。

 手のひらサイズの少女と、二匹の魔物を連れた人間族らしき一人の少年。その後ろには、少年と同い年らしき獣人族が一人。可愛い顔立ちをしていて、女の子だろうかとラッセルたちは思った。


「へぇー、冒険者ギルドってこんな感じなんだ」


 人間族らしき少年が、興味深そうにギルド内をキョロキョロと見渡す。頭に巻いているバンダナが彼のトレードマークのようだが、やはり頭と肩に乗っている二匹の魔物のほうに目が向けられてしまう。

 一匹は肩に乗っているスライム。色が真っ赤なのが気になるが、そんなに驚くほどではない。問題は頭にしがみつくように乗っている魔物だ。


「ラッセル……あの真っ白なモフモフしていて可愛い感じの魔物って……」

「間違いなくフェアリー・シップだな。まさか、こんなところで見られるとは……一体どこで見つけたんだろうか?」


 ラッセルの疑問はもっともだった。何せフェアリー・シップは、スフォリア王国にしかいないハズなのだから。

 滅多に人前に出ないことから、闇商人や盗賊たちにとって、都合の良い金のエサ同然として見なされている。スフォリア以外の国で発見されたフェアリー・シップは、悪者に捕獲された可能性を第一に考えるのだ。

 ラッセルもそれを考えていたが、どうも思っていた様子とは違っていた。

 それを裏付けるかのように、オリヴァーが顎に手を当てながら言う。


「少なくとも、無理やり連れているってワケでもなさそうだぞ。フェアリー・シップも笑顔で懐いてやがる。よっぽどあの少年のことを慕っているんだろうな」

「うん……とっても仲良さそうだよね。羨ましいくらいに……」


 ジルは手をワキワキと動かしながら呟いた。自分も抱っこしてモフモフの感触を味わいたいと思っているのだ。

 その様子を、ラッセルとオリヴァーが呆れて見ている横で、アリシアが驚きの表情を浮かべていることに、誰も気づくことはなかった。



 ◇ ◇ ◇



 ギルド内を進みながら、マキトは物珍しそうに周囲を見渡す。

 上手く言葉では説明できないほどの独特な空気が、マキトの中に宿る興味を更に駆り立てていた。

 無論、三匹の魔物たちもしっかりと一緒に来ている。

 ラティはマキトの顔の真横に、スラキチはマキトの左肩に、そしてロップルは、マキトの頭の上に寝そべるように乗っている。特に興奮することもなく、実に大人しいモノであった。


「なんだか凄く独特な空気なのです」

「ピキャー」

「キュゥ」


 その瞬間、ギルド内のザワつきが更に少しばかり増した。

 やけに注目されてるなぁとマキトは感じ取っていたが、恐らく魔物を連れているからだろうと予測し、特に気にしないことに決める。

 しかし後ろにいるコートニーは、その視線に気後れしており、気まずそうな表情を浮かべながら、マキトの上着の裾を引っぱる。


「あ、あはは……ねぇ、とりあえずさ、マキトの冒険者登録を済ませようよ」

「そうだな」


 コートニーの様子など気に留めることもなく、マキトはカウンターへ向かった。

 唖然としている受付嬢に対し、マキトは何食わぬ顔で話しかける。


「あの、冒険者登録したいんだけど……」

「は、はい! あの、もしかして、それって魔物では?」


 受付嬢がラティたちを交互に見ながら恐る恐る語りかける。

 明らかに戸惑っている様子などお構いなしに、マキトはあっけらかんとした表情でアッサリと答える。


「あぁ、俺がテイムしたんだ」


 一瞬ギルド内の空気が、ザワッと動いた。

 受付嬢は茫然とした表情で固まり、周囲からはヒソヒソ話が聞こえてきた。


「気のせいか? 今なんか、テイムって言葉が聞こえたような……」

「俺もそう聞こえた。もしかして、アレが例の魔物使いってことか?」

「マジかよ……デタラメなウワサかと思ってたぜ」

「ウワサもバカにはできねぇってか……コイツはしてやられたな」


 完全に注目の的となっているが、マキトは特に気にならなかった。

 そんなことよりも、早く冒険者登録を済ませて、初めてのクエストにチャレンジしてみたかったからだ。

 どんなクエストがあるんだろうと、胸を躍らせていた、その時であった。



「おっ! なんだよ、コートニーがいるじゃねぇか!」



 突如、後ろから大きな声が放たれ、マキトたちは振り返ってみる。

 そこには三人組の少年がいた。扉を開けている点から、今しがたギルドに入ってきたところらしい。相手を見下しているかのような笑みを浮かべており、なんとも言えない不快感を醸し出している。

 その三人は、一人の大柄な獣人族の男を引き連れていた。背負っている大きな斧の存在が、強者であることを漂わせている。

 コートニーがその男を見て驚きの表情を浮かべるが、三人はそれが自分たちに向けられたモノだと勘違いし、嘲笑している口元を更に釣り上げる。


「ハハッ! 相変わらず女みてぇな顔してやがるぜ!」

「シュトル王国へ逃げて、そのままくたばったって話はウソだったのか。ったく、つまんねぇよなぁ、本当によぉ!」

「魔法をぶっ放すしか能がねぇなんざ、獣人族として恥ずかしいぜ。お前みたいなロクデナシは、シュトル王国みてぇな弱っちぃ国がお似合いってもんなんだよ!」

「なんとか言ってみたらどうなんだ、コートニーよ! 少しは言い返すってことを覚えてみやがれってんだよ、ハッハッハッ!」


 三人が次々とあざ笑いながら暴言を放ってくる様子に、マキトは恐ろしく覚めた表情でコートニーに問う。


「誰、アイツら?」

「昔からの知り合い……かな」

「ふーん」


 良い関係ではなかったのだろうと、マキトは思っていた。三人の表情とコートニーの浮かない表情を見れば、もはや一目瞭然だった。

 三匹の魔物たちも、不愉快そうな表情で睨みつける。三人は一瞬だけ驚きながらも、すぐに見下した笑みを浮かべる。そんな弱そうな魔物に何ができるんだと、そう言っているかのようであった。

 そんな中、周囲の冒険者たちは驚きの表情を浮かべていた。


「ウソでしょ? あの獣人族の子って、男の子だったの?」

「いやいや、むしろあれはフツーに女だろ。何かの間違いじゃ?」

「……神様ってのは、時には残酷な仕打ちをしてくるもんだよなぁ……」

「こうなったら、もう可愛い男の子が相手でも良いよな?」

「やめろ! 早まるんじゃないっ!」


 ごく一部で警戒が必要そうな言葉も混じっていたが、こんな感じで広がる周囲のざわめき声も、マキトたちの耳には全く届かず反応すら見せない。

 険悪なムードが漂う中、三人のうちの一人が何かを言おうとしたその時、後ろに佇んでいた大柄な獣人族の男が前に躍り出る。

 それを見た三人は勝ち誇った笑みを浮かべながら、調子よさげな口調で言う。


「おっ、マージリィさんからも、アイツらに何か言ってやってくださいよ!」

「俺たちに楯突くことがどれほど身の程知らずなのかを、あのひ弱な魔法小僧に教えてやりましょうぜ!」

「これ以上口答えするならどうなるか、流石に想像できないワケじゃあないだろぉ?」


 マージリィと呼ばれた大柄な獣人族の男は、コートニーの前まで行き、そのまま無言のまま見降ろす。

 睨みつけているワケではないのに、思わず目をそむけたくなるほどの迫力。周りで見ている者たちは、冷や汗が止まらない状態と化していた。

 マキトや魔物たちも完全に迫力に押されており、見上げたまま硬直している。当然、言葉を発する余裕など全くない。

 そんな中、コートニーが絞り出すように言葉を放った。


「お……お父さん……」


 その瞬間、時が止まったような気がした。

 周囲の冒険者たちも、ギルド嬢も、マキトや魔物たちも、揃って口をあんぐりと開けて驚きながら、コートニーとマージリィの二人を交互に見比べている。三人の少年たちは完全に硬直してしまっており、言葉一つすら発せられなくなっていた。

 やがてマージリィがフッと小さく笑みを浮かべ、コートニーに向かって言う。


「久しぶりだな、コートニー。元気そうでなによりだ」


 先ほどの迫力は全くなくなっていた。目の前にいるのは獣人族の戦士ではなく、一人の息子を愛する父親の姿そのものであった。

 突然ガラリと空気が変わってしまったことに、周囲は戸惑いを隠せない。そんな中、後ろの三人が冷や汗を流しながらコクリと頷きあい、こっそりと回れ右をしてギルドから出ようとした。

 その時、マージリィが表情を引き締め、妙に響き渡る声色で言葉を発する。


「さてと……ここまで案内してくれたキミたちに、礼を言いたいところなのだが、その前に一つだけ聞かせてほしい」


 マージリィがドス黒い迫力を噴出させながら、ゆっくりと後ろを振り返る。

 ガタガタと涙目で震える三人を見下ろし、ギラッと目を光らせながら、恐ろしく低い声でゆっくりと問いかける。


「私の可愛い息子が……何と言っていたかね?」


 最後の『ね』と同時に、クワッと見開かれた鋭い目。

 三人は揃って飛び跳ねるように口を開いて驚き、その場で腰を抜かす。あまりの恐怖に、顔が涙と鼻水でみるみるグシャグシャになっていき、もはや目も当てられない状態と化していた。

 やがて三人のうちの一人が、勢いよく立ち上がり、ギルドを飛び出した。


「う、うわああああぁぁぁーーーーっ!」

「ごめんなさあぁーいっ!」

「わわわ……わ、わわわわわ……わああぁーっ!」


 その一人に続いて、他二人も四足歩行の動物みたく、必死に手足を地面にバタつかせながら、ギルドから姿を消した。

 嵐が過ぎ去ったかのように静まり返る中、マージリィは呆れ果てた表情で、三人が逃げていった方向を見据える。


「少し追い詰めただけであのザマとは……情けないモノだな。さてと……」


 マージリィは振り返り、カウンターに佇む受付嬢に視線を移す。


「彼にも、息子が世話になった礼を言いたいが、今は登録の最中だったようだな。邪魔をしてすまなかった。このまま続けてやってくれ」

「へ? は、はい、分かりましたっ!」


 マージリィに言われた受付嬢が、慌てて記入用紙をマキトの前に差し出す。どうやら名前や年齢などの、簡単なプロフィールを書けば良いようだと判断する。

 あくまで書ける範囲で構わないとのことであり、マキトは自分の名前と年齢、そして魔物使いの資質があり、既に魔物をテイムしていることを記入した。

 受付嬢が受け取った用紙を確認すると、今度は大きめな水晶が用意された。


「はい。それでは、こちらの水晶に手をかざしてください」


 マキトが水晶に右手をかざすと、透明だったそれが紫色に淡く光り出した。

 数秒ほど経過して、受付嬢が「もう結構ですよ」と言う。水晶から手を離すと、紫色の光は瞬く間に消え、元の透明な水晶に戻った。


「判定いたしました。マキトさんは『魔物使い』の資質が出ております」

「え、もう? なんか水晶が光っただけに見えたけど?」

「はい。正確に申し上げれば、水晶に浮かび上がった色によって、その方の資質が判明するのです。マキトさんの場合は一色でしたので、判定も楽でしたね」


 その話を聞いて、少し疑問に思うところがあったマキトは質問する。


「一色だけって……二色三色の場合もあるってこと?」

「えぇ。複数の資質を持っているケースも、決して珍しくありませんから」

「そうなんだ。でも一色なら一色で、分かりやすいから良いかも」

「あはは……それはまた、なんともマキトらしいね」


 サラッとしたマキトの物言いに対し、コートニーは苦笑を浮かべる。やがて、再び水晶がボンヤリと光り出し、その中から一枚のカードが出てきた。

 受付嬢がそのカードを手に取り、マキトに差し出した。


「こちらがマキトさんのギルドカードとなります。どうぞ、お受け取り下さい」


 ギルドカードを受け取った瞬間、カードが紫色の腕輪に変化し、マキトの右腕に装着された。コートニーの腕輪とデザインは全く一緒であり、単なる色違いであることが分かる。

 試しに起動させてみると、ランクという枠に『G』の文字が刻まれている。

 ギルドでクエストをこなしていくことで、G、F、E、とランクが更新されていき、最終的にはAやSに上がっていく仕組みであった。

 高ランクと称されるランクB以上の更新においては、クエストに加えて試験をクリアする必要があるのだが、ここについてはかなり先の話ということもあり、今回は説明を省かれた。


「ちなみに最高ランクであるランクSは、特別な資格に値しており、頑張れば必ずなれるというモノでもありません。現在でも五人いるかいないかぐらいですね」

「へぇ……じゃあ、実際はランクAまでしかなれないってこと……ですか?」

「そうですね。まだ先の話になるでしょうが、ランクAを習得できれば、実力の高い冒険者と見なされます。実質の最高ランクとも言えますね」

「……なるほど。分かりました」


 今更ながら敬語を使ったほうが良いかと思い、マキトはつっかえながらも語尾に付け加えたが、ギルド嬢は特に気にする様子はなかった。

 心の中でホッとしつつ、マキトは腕輪の起動を停止させる。すると、ギルド嬢が改めて姿勢を正し、深くお辞儀をしてきた。


「以上で簡単な説明は終わります。マキトさんのご健闘をお祈りしております」


 登録を終えたマキトは、後ろで待つコートニーやマージリィの元へ戻っていく。するとコートニーは嬉しそうな笑顔を浮かべ、マキトに駆け寄ってきた。


「これでマキトも、ようやく冒険者の仲間入りだね」

「あぁ。お互いに頑張っていこうぜ」


 その後、マキトたちはギルドの片隅にある休憩スペースに移動し、マージリィを交えて話をした。

 改めてお互いに自己紹介をし合い、父親としてコートニーが世話になったことのお礼や、これまでの旅路を簡単に話していった。

 コートニーが言うには、父親とは数年ぶりの再会だったらしく、この場に現れたこと自体が予想外であったらしい。なんでもコートニーに大事な話があるため、スフォリア王国から馳せ参じたということだった。


「すまないが、少しばかり息子と二人で話をさせてほしい。これは私たち家族についての話ゆえ、あまり他の者には聞かれたくないのだよ」

「分かりました。じゃあ俺たちは……」


 どうしようかとマキトが考えていたその時、ラティが袖を引っ張ってきた。


「マスターマスター、だったら早速クエストを受けに行くのですよ。スラキチたちも、さっきからやる気マンマンなのですよ!」

「ピキーッ!」

「キュッ!」


 ラティの声に続いて、スラキチとロップルもやろーよ、と言わんばかりに声を上げてくる。

 三匹の魔物たちのやる気を見たマキトの返事は、すぐに決まったのであった。


「よし、じゃあ、そうしようか」


 マキトの答えに、魔物たちは嬉しそうな声を上げる。

 そして、コートニーとマージリィに断りを入れ、マキトと魔物たちは席を立ち、ロビーの中央に設置されている掲示板へ、クエストを選びに向かうのだった。

 そんな彼らの姿を、四人組の冒険者グループが興味深そうに見ていたのだが、マキトたちが気づくことはなかった。



 ◇ ◇ ◇



「ねぇねぇ、どうやら動き出したようだよ? 追いかけてみようか?」


 ジルがワクワクした笑顔で、テーブルに身を乗り出す。それをラッセルが両手で制しながら言った。


「別にそこまでしなくていいだろう。ただ単に興味深いと思っただけだからな」

「確かに。あんな珍しい魔物たちをどこで見つけたのかは分からんが、少なくとも違法ではなさそうだ。下手な勘繰りも必要ないと思うぜ」


 ラッセルの隣に座るオリヴァーが、心から納得しているかのように頷いた。

 確かにそうかもしれないねと、ジルも椅子に座り直しつつ、改めて右手の人差し指を立てながら提案をする。


「じゃあ、今日は街の散策にでも……ねぇ、アリシア? どうかしたの?」

「あ、いや、なんでもないよ」


 ジルの隣に座るアリシアが、取り繕うように手を横に振る。するとラッセルが心配そうな表情で訪ねてきた。


「気分が悪いのか? 無理なんてせずに、宿屋で休んでても良いんだぞ?」

「大丈夫。ちょっと考えごとをしていただけだから」


 アリシアはなんとか誤魔化しつつ、ついさっき見かけた少年の姿を思い出す。

 三匹の魔物を連れて歩く横顔を見た瞬間、目を疑った。その少年が魔物使いだと判明されると、無性に心がかき乱されていく感触に陥るのだった。

 同時に、ずっとボンヤリとしていた記憶の中身が、鮮明に蘇ってきた。

 魔物たちと意気揚々とギルドを飛び出していく彼の後ろ姿と、記憶の中の小さな男の子の姿が重なっていく。


(あの男の子……ううん、まさかそんなハズは……)


 きっとただの偶然だ。自分の思い違いに決まっている。

 そう頭の中でアリシアが否定すればするほど、揺さぶられる心が収まらない。むしろ鼓動が大きくなっていくほどだった。

 一体どうしてこんなことになってしまったのか。アリシアはしばらく頭の整理が追いつかず、浮かない表情のまま、ラッセルたちの後ろを歩くのだった。



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