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たった一人の魔物使い  作者: 壬黎ハルキ
第一章 旅立ち
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第十七話 禁忌の魔法



 シュトル王宮、国王の執務室にて、国王と大臣が密談を交わしていた。

 まだ太陽が西に傾き始めた時間にもかかわらず、人払いをした上にカーテンまでしっかりと閉じられており、その雰囲気はまるで夜の部屋であった。


「先ほど連絡が届きました。リック様とファナ様が、スフォリア王国での公務を無事に終え、近々帰還するとのことです。なんでもスフォリア女王から、お褒めの言葉をたくさんいただいたとか」

「そうか。二人からの詳細な報告が楽しみだな」


 半年前から留守にしている息子と娘の姿を、国王は脳裏に蘇らせる。成果をあげたこともさることながら、純粋に親として、大切な子供たちに会えるのが楽しみで仕方がなかった。

 自分たちも先日、大きなミッションを成功させた。父として国王として、胸を張って誇りにすることができるのが、実に嬉しくて仕方がない。

 しかし、スフォリア王国からシュトル王国までの距離は凄まじく長い。なにせ大陸を一つ横断するのだから、当然といえば当然である。つまりどう頑張ったところで、すぐに会うことはできないのだ。

 それを少しばかり――いや、かなり残念に思っていたが、国王は咳ばらいを一つして思考を切り替える。


「ではそろそろ、コイツのことについて話していくとしようか」


 国王と大臣の視線が、テーブルの上に置かれている一つの巻物に注がれる。闇商人が所持していた巻物であり、報告に来たエステルから、直々に預かったモノであった。

 神妙な顔つきで巻物をジッと見つめながら、国王は話し始める。


「大臣よ。昔の戦争時代のことは知っておるな? その際、我が国が行った魔法の儀式についても……」

「もちろんでございますぞ! 残念ながらその時代にわたくしは生まれておりませんでしたが、とても栄光に輝いていたと存じております」

「うむ。ワシも残念ながらその時代のことは、亡くなった父上から話を聞いただけに過ぎん。だがその時、ワシは子供ながらに感動したことを覚えておるよ。自分も輝かしい国の姿を築き上げてみせると、父上に真正面から誓うほどにな」

「まことに素晴らしいお考えでございますな」


 あからさまに持ち上げるような物言いではあったが、国王は大臣の言葉に、実に満足そうに頷いていた。

 しかしそれもつかの間、国王はすぐさま表情を曇らせる。


「だがその誓いは、未だ果たされる兆しすら、全くもって見えておらん。大臣よ。お前から見て、今の我がシュトル王国をどう思う?」

「恐れながら……衰退しているように見えてなりませぬ」

「やはりお前もそう思うか」


 国王は深いため息をつきながら、忌々しそうに俯く。


「つい先日も世界会議に出席してきたが、相変わらず我が国に対する目線は厳しいモノであった。魔人の王は相変わらずだったが、エルフや獣人の王でさえも、ワシのことを冷めた目つきで見てきおった」

「なんと烏滸がましい! かつては我が国こそが一番の戦力を誇っていた。それを他国の王らは忘れてしまったというのか!?」

「……これもまた、時の流れが残酷だということなのかもしれんな」


 国王は俯きながら、自虐的な笑みをこぼす。そして何かを決意したかのように表情を引き締め、顔をあげて大臣に向き直る。


「この巻物の中身には、とある魔法の極意が記されておる。そして今現在、それを読み解くことができる人物は、ワシを置いて他にはいないのだ」

「まさか……その巻物の内容とは!」


 国王の言葉に、大臣は唖然とした表情で目を見開く。

 気づいたようだなと言わんばかりに、国王はニヤリと笑みを浮かべ、そして巻物を手に取りながら言った。



「今では『禁忌』と称されておる究極の魔法……異世界召喚魔法に相違ない!」



 ◇ ◇ ◇



 スフォリア王国。そこはエルフ族が治めている大国であり、シュトル王国からとても遠い北西に大陸が存在している。

 王宮では豪勢なパーティーが開かれており、王族や貴族たちが皆、楽しそうな笑顔を見せている。その主役は、二人の人間族の王子と王女であった。

 シュトル王国の次期国王候補でもある王子リック、そしてシュトル王女でリックの妹でもあるファナ。彼らはこの数ヶ月間、公務でスフォリア王国へ赴いていた。

 そしてその公務を無事に終え、明朝この国を立つことが決まり、お別れパーティーが開かれたのだ。

 皆、リックやファナとの別れを惜しんでいた。

 公務が終わった以上、母国へ帰らなければならないのは分かっている。しかし、もう少しくらい滞在してもいいではないか。そう願う声がチラホラと聞こえてきていた。

 リックとファナも、その気持ちはとても嬉しかった。他国では親の評判が決して良くないが故に、自分たちも簡単には受け入れてもらえないだろうと思っていた。

 しかしその予想は完全に覆され、ここまで人々が笑顔を向けてくれるとは、完全なる予想外であった。

 居心地の良さを感じたことは確かであるが、やはり自分たちはシュトル王国の王族。いつまでも他国に留まるわけにはいかないのですと言って、滞在延長の申し出をやんわりと断り続けるのだった。

 そんな中、とある一人の貴族の男が、つい先日聞いたウワサ話を二人に話した。それを聞いた二人は目を見開いて、その帰属の男に詰め寄っていた。

 詳しい話が展開され、話題は完全にウワサ話の内容に移っていった。


「盗賊団が王都へ攻め込む事件が、シュトル王国で起きていたとは……王国側が勝利を収めたというのは、本当のことなのだな?」

「え、えぇ、そこは間違いないと存じ上げておりますです、ハイ……」


 リックに詰め寄られた貴族の男は、冷や汗を流しながらもコクコクと頭を縦に振る。その後、貴族の男は解放され、そそくさとパーティー会場を後にしたが、誰も気に留める様子はなかった。

 落ち着かない様子を見せるリックの元に、煌びやかなドレスを身に纏ったファナが歩いてきた。


「落ち着いてくださいなお兄様。王国側が勝利を収めたのですから、ここは素直に喜ぶべきではありませんか。それとも……お疑いになられておられるとか?」

「疑ってなどいないさ。ただ、父上のことが少しな……」


 心配そうな表情を浮かべるリックに、ファナが苦笑を浮かべる。


「気にし過ぎではありませんか? その大勝利とやらも、今後のお父様の自慢話に一つ加えられる程度ですよ。大きなことが起こる前触れには思えませんわ」

「そうだと、良いんだけどな」


 ファナの言うとおりなら、それに越したことはない。王子としても、次期国王候補としても、母国の勝利については大いに喜ぶべきなのだろう。

 しかしリックは、どうにも何か胸騒ぎを覚えてならないのだった。

 嬉しく思いたいのに嬉しく思えない。何か良くないことが、特に自分の父親が何かをしでかすのではという不安が、どうしても頭の中を過ぎってしまうのだ。

 そんな気持ちを胸に抱えながら、リックはグラスの飲み物を煽り、それをテーブルに置いて歩き出す。


「お兄様、どちらへ?」

「少し夜風に当たってくる」


 ファナが訪ねると、リックは前を向いたまま答え、そのままバルコニーへと歩いていく。

 後ろから「ファナお姉さまー」と明るく呼びかける声が聞こえてきた。今年十二歳となるスフォリア王女の声だった。


(彼女には兄はいても、姉はいなかった。年の近い姉同然の存在として、ファナに随分と懐いておられていたな)


 スフォリア王女はおしとやかで礼儀正しく、常に国のことを大切に思っている。それがこの数ヶ月で、リックが彼女に対して感じ取った印象であった。

 しかし、やはり時折見えてしまった部分もあるのだ。彼女が黒い何かを潜めているということを。それを表に出さないよう、上手く振る舞っているその姿には、リックも心の中で感心してしまうほどであった。

 ちなみにそのことについては、リックは特に何かを思っていることはない。

 王族ともなれば、裏に黒いモノの一つや二つは抱えるモノだ。むしろ真っ白な者のほうが珍しいだろうとリックは思う。

 国を立てるためには、綺麗なばかりではいられない。多少の醜さや汚さを背負う覚悟がなければ、あっという間に国は潰されてしまうだろう。

 もっとも自分がそう考えるようになったのも、全ては自分の父親がキッカケであると、リックは思っていた。もし父親の影響がなければ、スフォリア王女の黒さを見破るなど、ほぼ間違いなく出来なかっただろうと言えるくらいに。


(彼女が秘めている黒いモノが気にならないワケではないが……余所者の私が気にしたところで、仕方のないことだな。そんなことよりも、ウチの父上だ)


 リックの脳裏に、自身の父親ことシュトル国王の顔が浮かんでくる。その内に膨大な野心を秘めていることは、リックもファナも知っていた。

 勿論、国を治めている存在故に、多少なりの野心を持っているのは仕方がない。しかし度が過ぎたモノであれば、国を滅ぼしかねないばかりか、世界そのものに影響を及ぼす可能性もあり得ると、リックは考えている。

 そしてリックは、自分の父親の野心が日に日に膨れ上がり、既に手遅れな状態にまで陥っていると思っていた。

 言うならばそれは、いつ噴火してもおかしくない火山と同じであると。

 今回の大規模戦闘における勝利が、その噴火する引き金になるのではないかと。


(やはりどうしても胸騒ぎがしてならない。本当に何もなければいいんだが……)


 そう願うリックだったが、この予感はとても悪い方向で当たる気がしてならないと、心のどこかで強く思うのだった。



 ◇ ◇ ◇



 国王から巻物の内容が明かされ、大臣は途轍もなく慌てふためいていた。


「い、異世界召喚ですと? それは本当なのですかな?」

「この状況でウソを言ってどうする? それとも、ワシの言うことが信用できないとでも言うつもりか?」

「いえいえ、そんな滅相もございません!」


 ギロリと睨まれ、再度慌てながら取り繕うとする大臣だが、国王からしてみればどうでも良かったらしい。

 まぁそんなことより、と前置きした上で、国王は話を続ける。


「あのエステルでさえも、巻物の中身を読み解くことができなかった。ヤツの言い分によれば、使われている文字が特殊であるとな。そこでワシが試しに見てみたら、なんと簡単に読めてしまったのだ。まぁ、それもそのハズだ。何せその文字は、王家の血を引く者のみに伝えられている文字だったのだからな」


 驚きで目を見開いている大臣を尻目に、国王は再び口を開いた。


「つまり代々、異世界召喚魔法の極意は、王家の者にしか伝えられていなかった。これが何を意味しているのか、お前も流石に分かったであろう?」

「下手に外部に漏れることがないように、その文字でのみ伝えられていた、ということですかな?」


 大臣の答えに、国王は深く頷いた。


「うむ。その通りだ。数十年前、世界戦争終了後、異世界召喚魔法は『禁忌』と称され封印された。そもそも我が国が異世界召喚などするから、戦争がムダに激化した。そう勝手に結論付けられてな」

「おこがましいことですな。そもそも先に突っかかってきたのは他国のほうだと、私は聞いておりますぞ!」


 憤慨する大臣を、国王は右手を軽く上げて制する。


「大臣。気持ちは分からんでもないが、少し落ち着いたらどうだ?」

「これは申し訳ございません。国王のお話のジャマをしてしまいました」

「構わん。以後、気をつけるように」

「はっ!」


 相変わらずの見事な腰巾着ぶりを発揮する大臣だが、それにツッコミを入れる者はこの場にはいない。

 もっとも誰かがツッコミを入れたところで、激しく一喝されるだけだろう。ネルソンとエステルの場合は、間違いなく後者だ。

 ちなみに国王はというと、特に表情を変えることもなく、淡々と話を続けようとしていた。いつものことだと思っているのか、それとも何か他の思いを抱いているのかは、全く分からないのだが。

 国王は咳ばらいを一つし、改めて巻物に視線を向けながら口を開く。


「話を戻そう。現時点で分かっていることは、あくまで巻物の表題のみだ。極意の中身について解読するには、それ相応の時間が必要となるだろう」

「お、お待ちください! まるで国王は、異世界召喚魔法を取り扱うおつもりのように聞こえますが?」

「無論だ。そうでなければ解読する意味がないだろう?」


 何をバカなことを言っておるのだと、大臣はそう言われた気がした。

 確かに我が国のために尽くす気持ちは強いが、流石に禁忌に手を出すほど、自分は人として堕ちたつもりはない。

 常に国王の言葉には二つ返事で同意してきた大臣も、流石に今回ばかりは大きな迷いが生じていた。それを察した国王は、フムと小さく頷きながら口を開いた。


「どうやらこの話を進めるには、いささか早すぎたようだな。この件に関しては、ワシのほうでしばらく預かっておくとしよう。話はこれで終わりだ」


 国王は巻物を持って立ち上がるが、大臣は未だ狼狽えたまま座り込んでいる。

 いきなり話を打ち切られ、どう反応して良いのか分からないのだ。

 それでも何も言わないわけにはいかないと判断した大臣は、なんとか腹の底から言葉を絞り出し、国王に向かって放とうとする。


「こ、国王……その……」

「今は何も気にする必要はない。時間を取らせたな。お前も早く持ち場に戻れ」

「しょ、承知いたしました!」


 実に反射的な返事であった。口に出した本人ですら、言い終わってから気づいたほどである。

 大臣は足をもつれさせながらも、慌てて国王の執務室を後にした。

 一人となった国王は、ゆっくりと部屋のカーテンを開ける。綺麗な青空に眩しさを覚え、思わず目を細めてしまっていた。


「異世界召喚魔法……時代を動かす歯車となるのか?」


 巻物と青空を交互に見ながら、国王はポツリと呟くのだった。



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