私の悲しみ
「む~…」
私は今駅から離れた公園に居る。時刻は5時。もう日は落ちていて、子供たちの去った公園はとても静かだった。
「こんな寒空の下で待たせるなんて…」
空は曇っていて、気温は芯から冷えるように寒い。吐く息は白くて、私一人を照らす街頭は孤独の二文字を強調しているようだった。
私は温かい缶コーヒーを手の平でコロコロ転がしながらベンチに座って黄谷を待っていた。
黄谷はここで待っててと言って私が飲めないコーヒーを渡してきたのだ。
「…絶対文句いってやるぅ…」
いつになったら二人でゆっくり出来るの?
もうクリスマスだよ?私寂しいよ…ウサギって寂しいと死んじゃうっていうじゃん…
「黄谷のバカ…」
「バカって何だよ」
いつの間にかパーカーのファスナーを開けている黄谷がいて
右手には少し大きな紙袋を持っていた。
「もう!遅いよ!それに私コーヒー飲めないんだけど!?」
「マジで!?それは知らなかったな~…ごめんごめん。あっ、はいこれ」
黄谷は紙袋を差し出してきた。
「早めの…メリークリスマスだぜ」
と視線を私から反らした。
私は受け取り、中身を見た。中には枕ぐらいの大きさのウサギのぬいぐるみが入っていた。
「ぬいぐるみだ!可愛い!」
でもまだ袋は重くて、
中にはまだ白い立方体の箱も入っていた。
「何これ」
私はぬいぐるみを抱き締めながら箱を取り出すと
黄谷は少し顔を赤くして再び目を反らした。
私は箱を開けると半透明の白濁の紙が被さっていて、私はそれを広げた。その中には
「これ…」
「前にさ…店のショーケース前でずっと見てたの…見かけたんだよ…」
白いハイヒールだった。
私は昔からこんな服装に憧れていた。だから髪も伸ばしたし服も買った。メイクの技術も上げたし声だって可愛くなるように研究した。ただ少ない時間とお金で出来る事は限られている。だからこの靴は高くて買えなかったのだ
「でも…この靴高かったよ?」
黄谷は立ったまま私の頭を撫でて。
「気にすんな!」
と笑った。
そして黄谷はかしずいて
「貴女の足にぴったりかどうか…確かめましょう」
と靴を取り。私に履かせた。確かにサイズが合っている。
「『シンデレラ』の気分だよ…」
何だか嬉しくて泣きそうになってきた…
「お前も男だけどな」
黄谷は私に笑顔を見せた。
『性同一性障害』…
私…いや、僕は本当は男の娘だ。
だから…これは女装だ。ただの女装。
でも…それでも良いんだ…黄谷は落としてみせるから。
黄谷しか嫌だから黄谷が好きだから!
「まっ…どっか行こうぜ。どこに行きたい?」
と聞いてきた。私はうーん…と唸りながらスマホを取り出て調べていったが、結局は
「…普通に歩かない?
街中を…さ…今日走ってばっかだったじゃん?
だから…ゆっくり…歩いてみたいんだ…」
黄谷は少し驚いたような顔をした後、笑顔で頷いた。
私達が歩き出した時、私は黄谷のパーカーの袖を少し摘まんだ。
「ん?」
と黄谷私の方に向いた。
私は上目使いで黄谷を見詰めて
「はぐれないように…
さ…駄目…?」
と、言った。
黄谷は顔を赤くして目を反らし
「別に良いぜ?」
と了承してくれた。
街はクリスマスムード
まだちょっと早いけど
私もクリスマスムード
光るLEDライトに迎えられ
私達は沢山話した。
とっても話した。
私はとっても楽しい
貴方はとっても楽しい?
貴方がくれたこの靴は
私の足と心を温める
貴方がくれたこの愛は
減るどころか増えていく
「ケホッケホッ…」
私は急に咳き込んだ
「大丈夫か?風邪引いたか?」
と黄谷は心配してくれた。
でも大丈夫なのだ、
全然平気だ
少しむせたのだろう
「全然大丈夫だよ、
でその後どうなったの?」
「えっ?あぁ、でその後な…?」
そして…
「もう七時半か…
もうそろそろ帰ろうぜ?巧先生が心配するからさ」
信心巧
私の義理の父。
私がまだ僕と言っていた頃の事。
私は中学時代から虐めを受けていた。
更に当時の母は当時の父以外を愛せず、僕に手をあげていた。
さらに当時の父はショタコンで当時の僕は身長149cm(今は160cmだ)、
何を血迷ったのか夜な夜な僕で遊んでいた。
そんな中…僕は高校時代に付属の大学の天文学の巧先生と出会い、
その友人であり同期でもあり黄谷の義理の父で法学部の夕輝先生の協力もあり。
親と縁を絶ち、
巧先生と養子縁組を組み
イケメンの巧先生目当ての女子を味方につけ
その女子目当ての男子を味方につけた。
その結果、今では『恋文配達人』や『恋の宅配便』とまで言われるようになった。
「うん…」
僕は暗く言った。
足取りが重い…
帰りたくない…
楽しい時間が…
終わってしまう
そんなの…
「そんなの嫌だよ」
私はそう言って立ち止まった。どれくらい歩いたのかはわからないが…
とにかく私は帰りたくなかった。
「輝弥…私…帰りたくない…」
袖を引っ張った。
その手が震える
「でも」
「聞いて…私の話を…大切な…事なの…」
私の胸には布に染み込むように『恐れ』が染み込んでいた。
でも、今言わないと。
いい加減…言わないと…
「私…『性同一性障害』なの…女の子なの…だから…この姿が…本当の姿なの…」
黄谷はうつ向いて聞いていた。
「知ってるかもしれない…ここまでアピールしたものね…」
深呼吸を一つして言った。
「好きだよ」