彼の悲しみ
あらすじやメッセージなどをよく読んでください。
私の名前は信心 鶯。17歳、
今駅前である人を待っている。
白ファーコート、中は灰色長袖のシャツ、黒いミニスカニーソに腰辺りまで伸びた地毛の金髪に青色の瞳、
これが私の姿だ。
「遅いなぁ…」
町はすっかりクリスマスムードで、まだ昼なのにちらほらカップルの姿が見える。
右を見ても左を見ても前も後ろも360度カップルを見かける。
なのに今私は一人。
現時刻は12:30。待ち合わせは12:00。毎回だ、毎回これだ。
あいつはいっつも必ず遅れてくる。遅れないように気を付けてって言ってるのに…
私は時間をきっちりしたい、じゃないと…
「一緒に居る時間…短くなるじゃん…」
「おーい!遅れたー!」
やっと来た!やっと!
その声の主は私に大きく手を振りながらこっちに走ってきた。
彼の名前は黄谷 輝弥。17歳。私の待ち人、
金髪を少し後ろで結っており、黒いパーカーに黒いサルエルパンツを履いている青年で、私よりも頭一つ分大きい。
「遅いー!自分から誘って遅れるなんて!もー!待たせるなんて信じらんない!」
黄谷は頭を掻きながら
わりぃわりぃと笑いながら言った。
「今日もそんな感じの格好なんだな、まぁ良いけど。まぁ行こうぜ!早く早く!」
と私の手を取り、引っ張って駅へ向かった。
「もう!また勝手に!私ヒールはいてるんだけどー!」
でも…黄谷のこんな自分勝手な感じも…嫌いじゃ…ないかな…
駅は相当混雑していて、たぶんはぐれたら即終了って感じだった。
「すごい人だね…」
私がそういうと、黄谷は何も言わず私の手を握ってゆっくり歩いてくれた。
「すみません通してください」
と人をかき分けて進む黄谷に引かれながら私は進んでいた。
どうしよう、すごいドキドキする…手つないでるし…黄谷のこういう頼れるところとか不意打ちな所とかにキュンッてくるんだよなぁ…
人込みをかき分けて私たちはようやく電車に乗った。
「大丈夫か?座れなさそうだけど…」
「うん、私は大丈夫」
と周りを見回しながら黄谷は聞いてきて私は頷き返事をした。
電車は少し狭苦しく、満員電車程では無いが混雑していた。
私は扉のそばに立ち、黄谷は私の右後ろに居た。
ん?何かお尻に…えっ?嘘…痴漢!?
そう、私は自分のお尻に何か蠢くような違和感を感じた。
バレないように左後ろを向くと、いやらしい笑顔を浮かべた薄らハゲで中肉中背のスーツ姿の男が私のお尻を触っていた。
私は怖くて縮こまってしまった。その男の笑みは、私の父親を思わせたから…
「撮りまーす!はい、こっち向いてーはいチーズ」
パシャッ!とカメラの電子音が鳴り、私と後ろの男が撮られた。
その写真を撮ったのは黄谷だった。
正直、ゾッとした。黄谷は普段は優しい。けれど…ある条件下ならば心身共にリミッターが外れて犯罪をなんの気兼ねも無く行う悪人になってしまう。
「おいおっさん。たった今アンタを拷問するか…この写真とアンタを警察に突き出すのどっちがいいと思う?」
男を睨む黄谷は静かに言った。すると男は脂汗をかきながら
「み、見逃してくれ…」
と言った。しかし黄谷はため息をついて男の足を思いっきり踏みつけた。男の悲痛な吐息が漏れる。
「おい聞かれたことだけ答えろよ。言っとくけど前者なら声抑えろよ?お前」
男は静かに前者を選んだ。
すると、私の後ろでベキッと嫌な音が鳴った。黄谷が男の指の関節を脱臼させたのだ。
第一、第二と外されていき、男は苦悶の表情を浮かべる。
黄谷は一本の指を全て抜き終わると、男に言った。
「鶯の前だからこれぐらいにしといてやる。運がよかったな?」
そして私の手を握って電車を降りた。
『解離性同一性障害』
黄谷が自分の16歳の誕生日を迎えた時にそれは現れた。
学校から帰ってきた黄谷を驚かせようとパーティーの準備をしていた黄谷の家族は、
運悪く強盗押し入られ、皆殺しにされた。
そして家で強盗と鉢合わせた彼は、相手が武器を持っているにも関わらず、死ぬ手前まで強盗を痛めつけてお互いに警察に逮捕された。
別人格は自らの意思はほとんどなく。ただ『自分の大切なものを傷付ける者を壊す』
と言う復讐と防衛理念しかない防衛プログラムだけど、それが恐ろしい。
今だ負け知らず。敵が複数であっても必ず相手に苦痛を与えてきた。
この人格が出てきている記憶は黄谷には無く、気が付くといつも惨劇。と言った感じだそうだ。
黄谷がようやく気が付いたのは駅を出た所だった 。
「あれ?ここは…まさか俺…いやあいつが…」
「そう、そのまさかおかげでちょっと怖かったよ~」
と顔を膨らまし、そっぽ向いてやった。
「ごめん!俺達なにやらかした!?」
黄谷は手を合わせて私に謝ってきた。だから私は笑って
「私を守ってくれた。ありがとう、黄谷」
「そ、そうか。守れたんだな、俺。まぁとりあえず!ここから楽しもうぜ!」
黄谷はまた私の手をつかみ、引っ張って走った。
「行こうぜ!ほらっ!」
黄谷は毎回何気なくやってるんだろうけど、それでも私はドキッとするし嬉しい。黄谷の手から伝わるぬくもりは私の全てを温めてくれる…
「好きだよ、輝弥」
私は小さくつぶやいた。
To be continue