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夜会後半戦

四日目

 気まずい。

 昨日いきなり逃げ出したから会いづらい。

 でも今までみたいに話し掛けてくれるかな?

楽しいからまた話したいな。でも話の内容があれだけど。

今日も来てくれた。でもなんか顔が怖い何かしたかな? 何もしてないと思うんだけど・・・。

「何故だ? そんなに美しく、頭脳明晰で、民思いなのに……」




***


「何故だ? そんなに美しく、頭脳明晰で、民思いなのに……」


「奴隷とはいえ、人に無感情になれるんだ?」

俺は奴隷を蹴り飛ばしたのを見た時からの疑問をメリルにぶつけた。

蹴り飛ばしているときに喜び、悲しみそれらが何も感じられなかった。

「奴隷? 奴隷がどうかしたの?」メリルは何もなかったかのように聞いてくる。

「奴隷をたいした理由もなく蹴り飛ばしたろう。そのことだ!」

「それがどうしたの?」

なっ⁉それが当然だとでもいうのか。

「奴隷はそうするのが当然なのでしょう。奴隷は卑しく、犯罪を犯したのでしょう。そうするのが正しいんでしょう」

こいつはおかしい、いや歪んでる。

「だってイリスが言ってたもの。イリスは間違ったこと言わないわ」

 この少女が悪いわけではなさそうだ

 悪い教育の成果か?

どうすれば…………あと三日で何とかなるか?

無理だ。小さいころからの凝り固まった思考は簡単には変えられない。

じゃあ諦めるか――――嫌だ。

できるか――――やるしかない。

俺は王太子だ。何とかなる。



***

その日の夜

 「今日ね、ルーク様がなんか変だったの」

 「いつから名前で呼ぶようになったんですか」

 「昨日から……ってそれはどうでもよくて」

 「毎日毎日王太子様の事ばかりですね。しかも初めの時と違っていい話ばっかりですし」

 「だから~そんなことはよくてルーク様が……」

 「やっぱり王太子様の話ですね」

 結局メリルはずっとからかわれて相談をすることができなかった。


***

五日目

 結局、ルーク様は昨日どうしたんだろう。奴隷がどうとか言ってたけど何だろう?

 私なんか悪いことしたかな?

 それにしてもルーク様が来ない。

いつもは呼ばなくても来てくれるのに来ない。

 いつもいる人が来ないというのは寂しい。

 なんで?

 嫌だった夜会が楽しみになってた?

 どうして?

 ルーク様がいないと寂しいの?

 わからない。

 私の何がいけないのかな?

 

 時間がどんどん過ぎていく。

 ルーク様は見当たらない。

 久しぶりにルーク様以外の男性に声をかけられる。ルーク様がいないから、私が一人だから声かけられる。

一生懸命断ったりしているうちに五日目が終わった。

 

そっか。楽しかったのはルーク様のおかげなのか。


***

その日の夜

 「ルーク様が今日見当たらなかったの」

 「お嬢様はよほど王太子様がお好きなんですね」

 「そんなわけじゃ……」

 「ふふっ、そうなんですね。王太子様はきっと忙しいのですね」

 こうして夜が更けていった。

 

***

六日目

 また昨日みたいになるのかな?

 嫌だな~。帰りたいな~。

「メリル、昨日は行けず済まなかったな」

 後ろからいきなり声をかけられる。

「ルーク様。私は気になどしていませんわ」

 なぜかルーク様がショックを受けているけど、どうしたんだろう?

 取り直したかのようにルーク様が話し出す。

 「メリルはこの者を知っているか?」

  ルーク様がそういうときれいな服に身を包んだ一人の男が前に出てきた。

 しかしその男はきれいな服と対照的にやつれていた。そしてその男は私を見ると口を開く。

 「メリル様? メリル様なのですね。私です。クルムでございます。覚えていらっしゃいますか? 伯爵領に昔住んでいたのですが」

 「もちろん覚えているわ。ケイスの息子のクルムよね。何か大きな手柄でも立てたのかしら? そうでもなければ平民が王城に入れないわよね」

 「ではメリル。この男は卑しく罪を犯した犯罪者だと思うか?」

 「そうは思いませんルーク様。いったいなぜこんな質問を?」

 「それはこの男が奴隷だからだ」

 「 ⁉ 何を言って! クルムが犯罪など犯すはずがありません」私は驚き、声を大きくしてしまう。

 「知っているかメリルよ。奴隷というのは犯罪を犯した者だけがなるのではないのだぞ。例えば金のないものや攫われたものなどだ」

 私はルーク様に言われたことがうまく呑み込めない。奴隷には罪なき民もいたのか……。

 「メリル。金のないことは罪か? 攫われることは罪か?」

 私は力なく首を横に振る。私は罪のない民を迫害していたのか迫害していたのか? 罪のない民をいじめていたのか?

 私は何をしているのだろう。

 「奴隷も人だ。奴隷になった事情はあるが、すべて同じ人間なのだ。わかるか、メリル。賢いお前ならわかるはずだ。俺が何に怒っていたのか」

私は自分の発言を思い出し、なんてことを言っていたのかと過去の自分を戒める。



***

とある王太子様の話

俺は夜会五日目をそっと抜け出し、メリルのゆがみを直すための方法を探る。

 そうして探していると今は奴隷をやっているクルムという男を見つけた。

この男は親の借金の方に身売りされたという境遇の持ち主で、犯罪で奴隷になったわけではないので、メリルを説得するにはちょうどいい。

この男を奴隷じゃないように見せ、後から奴隷とばらせば、メリル自身の認識が間違っていると自ずと気付くだろう。もし気付けなかったのならば、それまでだったということだ。



流石メリルは俺の選んだ女性だ。凝り固まっているはずの自分にとっての常識を変えるのはたいそう難しいだろう。それを悩みながらではあるが、簡単に成し遂げた。


やはり俺の目に狂いはなく素晴らしい人間だ。


***

その日の夜

「奴隷って犯罪者じゃないの?」

「奴隷は犯罪者ですよ。何を言っているんですか? それより今日は王太子様の話をしないんですね。もしお嬢様が王城に嫁ぐことになったら私も連れて行ってくださいね」

「だから私とルーク様はそんなんじゃないってば」

「誰も王太子様なんて言ってませんよ。この国には第二、第三王子や城に住んでいるたくさんの人がいるんですから」

うまくはぐらかされてしまった・・・。


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