1-2 現代人
はいはいブーメランブーメラン。
でもしょうがないじゃない書くのに慣れてなかったんだから。
かといってネームを載せるわけにもいかないじゃない?
画面を操作していると
横から巨人が
「なんだそれ?」
と聞いてきた。
あたしは言ってる意味が理解出来ず
「何って何よ?」
と巨人に聞き返し、巨人へ目を向ける。
すると巨人は、その大きな手から
指を立て、あたしの持ってるものを示した。
は? 何言ってんだこいつ? 大丈夫か?? と思いながらも
「……何って、スマホに決まってるでしょ」
と言い、目を戻す。あれ? 圏外だ。
「スマホ? なんだドラクエの呪文か?」
「は? なに意味の分かんない事言ってんのよ、からかってんの?」
「いや……」
「ここ電波悪いの? 全然電波入らないわよーー」
あたしはスマホをあちらこちらに向ける。
「ごめん、スマホ貸してくれる」
「持ってねぇよ、そんなの」
「は? 持てないわけないでしょ? ふざけないでよ貸してよ」
「だから持ってねぇって」
「……あ、分かったーーどうせ見せられないような物が入ってるんでしょーー?」
「なんだよ、見せられない物って?」
「何って……この場で言っていいの?」
「だからなんだよ」
巨人は、きわめて真面目な顔でそう言った。
「いや、言わないから、そういうセクハラでしょ? まったく」
「セクハラなんだそりゃ? またドラ○エの呪文か?」
「はいはいドラ○エドラ○エ」
これだからゲーム脳は……。
どうやら巨人族はスマホを持たないらしい。
まぁ、そのデカい指じゃ操作しずらいわなと。
「分かった、ガラケーなんでしょ? 今どきガラケーだから恥ずかしいんだ。だいじょうぶ、笑わないから出してみぃ?」
あたしはどこぞの面倒くさいオヤジ風にそう絡んだ。
「ガラケー? それも知らないな。ドロケーなら知ってるが」
「いい加減にしてよね」
あたしも我慢の限界だった。
「だからほんとに知らねえんだよ。新しい遊びか何かか? ナウなヤングの間でそれが流行ってんのか?」
「ナウなヤング……何よ、それ……ケータイよケータイ」
「携帯?」
「そうよケータイよ」
「何を携帯するんだ?」
あたしはもう笑うしか無かった。
「電話に決まってるでしょ! ケータイ! 電話!」
「なんだよ。そんなに怒らなくてもいいだろ」
「携帯電話な。あぁーーあれか? なら最初から携帯電話って言えよな。携帯だけで伝わるわけねぇだろ。肝心の電話が抜けてんじゃねぇか。それで伝わるわけねぇだろ。お前バカなのか? 日本語は正しく使えよなぁーー」
「…………(こ、このやろうーーーー)」
あたしはスマホを持つ手に力が入り過ぎて、それは何にもお知らせしていないのに激しく震えていた。
巨人の下の小さな顔があたしのイライラする姿に何かを満たしたのか。
ケタケタと笑う。
ガー! イライラするわね! 何なのよ一体!
「あれだろ携帯電話、この前TVで見たぜ。黒くてデカくてゴツい携帯する電話」
「はぁ? いつの時代の話してんのよ」
「いつって、最新技術だろ?」
もういい、真面目に取り合う方がバカらしい。
「携帯電話とか、あんな高くて携帯するのに不便な物持ってる方がおかしいだろ」
シカトシカト。
そうだよ、何もこいつに借りなくてもいいんだ。
あたしは思い出したようにパパを見つめ
「ねぇちょっとパパ、携帯貸してくれる?」
「…………」
あれ? あたしなんか変な事言ったかしら?
「父さんもあんな物持ってないよ」
「は? ウソ言わないでよ」
「ウソじゃないよね、父さん?」
「あぁ、あんな物持ってないよ」
「ウソ! 持ってないと困るじゃない!」
「別に困らないよ」
「連絡とかどうするのよ」
「そんな急ぐ用事とかねぇだろ」
「何言ってんのよ直ぐに返事しないとーー」
「なんだよ。そんなに必死になって、誰か死ぬのか?」
「いざとなったポケベルもあるし、公衆電話もあるだろ」
「ポケベル……? ポケベルってあのポケベル?」
昔のアニメや漫画では見た事あるが、あれか?
「あのポケベルって? ポケベルってあれ以外にあるのか?」
こいつマジで言ってんのか?
それにしてもなんだ、この一々癇に障る
このムカつく言い方は、
やっぱりおちょくってるに違いない。
パパやこいつも持ってないのに
幼女が持ってるわけはないし
「もういいわ! 自宅の電話貸して」
「あぁいいぜ」
コイツが手で電話を示す。
かなり古い機種のようだった。
しかし、今どき壊れてもいないのに自宅の電話を買い換える人はまれかもしれないと。
さっきから背筋を寒くする違和感を払拭するように受話器を外す。
そして何故か震えだした腕で、
てこずりながらスマホの画面を操作し、母親の携帯の番号を。
スマホの曜日の表記は日曜日だった。
しかし自宅にかけて、もし出なかったらと思うと
携帯にかける一択だった。
――使われておりません……。
何か得体のしれない恐怖を感じた。
そ、そんなはずはないともう一度
――使われておりません……。
それから何度も掛けたが繋がらない。
現代人は自宅の番号すら覚えていないようで、スマホでまた表示し今度はそっちへ。
しかし何度掛けても、何度掛けても使われていない。
まるで、そんな物は初めから存在しないかのように――
もう、諦めるほかなく。
不安な気持ちのまま、目をパパの方へ戻す。
あれ? パパがいない……
「パパは?」
「部屋じゃないか?」
コイツはソファーに横になり漫画を読んでいるようだった。
幼女はキッチンで何かやっているようだ。
こっちはそれどころじゃないってのに、
なんでコイツは漫画なんか読んでんのよ!
とは言ってもあたしもオタクの端くれ。
習性的にやっぱり気になるものは気になるもので……
電車に乗れば当然、漫画雑誌持ってる人がいれば
何を読んでるのか見てしまうし。
コイツの後ろに回り込み覗き込む。
え?
「ちょ、ちょっと……なに読んでのよ……」
「何ってドラゴン○だよ。まさか知らないのか、今大人気なマンガだぞ」
「は? ドラゴン○なんてとうの昔に終わったでしょ?」
「はぁ? 終わったら載ってねぇよバカ」
奪い取る――無理矢理。
「バカ! まだ読んでる途中だぞ!!」
あたしはそれを無視して、
ペラペラとページを前へ戻す――ほんとに昔のジャンプのようだ。
そして、表紙を見る。
「と、冨○が仕事してる!?」
見ればそこにはセンターカラー幽○白書、大好評連載中ドラゴン○と書いてあった。
「何言ってんだてめぇ、先生を付けろ先生を。つか仕事してるってどういう意味だよ? 当たり前だろ」
当たり前? それはどの世界の常識よ!
「ふ、ふざけないでよ! どうせヤ○オクか何かで買ったんでしょ?」
「やふおく? また訳の分からん事を、これは今日買ってきたんだぞ!
ひいきにしてる本屋のオヤジがなぁーー毎週買ってくるからってフライングで日曜に売ってくれてるんだぞ!
いいだろーー」
たしかに状態は買ったばかりのように美品で焼けもない。
「もういいだろ返せよ」
あたしはさっきから、
アニメや漫画じゃあるまいし――
まさかまさかと打ち消してきた、自分の書いた筋書きを。
演技力皆無の棒読み大根役者のように読み始める。
「今何年だと思ってるの……
2015年よ……
いい加減悪ふざけはやめてよ……」
「にせん…………?
ほんとお前何言ってんだ?
今は199×年だぞ!
ほら、そこのカレンダー見てみろよ」
コイツが指で示した先に目を向ける。
そこには花の絵柄が大きくプリントされたカレンダー。
字よりその写真がメインかと思うほどで、
たしかにそこには199×年と書いてあった……
いくら気に入った絵柄だからと言って、20年以上も貼ってるやつはいるわけがない。
いたらその家の人間はおそらく、とうの昔に死んでいるはずだ。
それに今年のが無かったからといって、わざわざそんなに古いカレンダーを貼るとも思えない。
そして、やはりそれも最近捲られたように真新しく焼けなどは一切無かった。
その時全てが繋がった――繋がらない携帯電話――伝わらない現代用語――掛からない電話番号――富○。
…………………な、なんだ単純な事じゃないか、わたしが現代人じゃなかったのだ!!
どうやらあたしはタイムスリップしたらしい――――――――――――「てっ、どういう事だよ!?」