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年の差0の親子リプレイ  作者: 7×3=佐藤、水ーー(パシリ) と読まれる事もある
プロローグ : : 浮気相手の家に突撃隣りの晩ご飯!?
1/8

0-1 500万分の1の確率

 ーーーーあたしはどうしてこんな所にいるのだろう?


 なんでこんな所に来たのかーーそもそもどうやって来たのかーーまったく覚えていないーー

 真っ白な雪の降りしきる中、気づいたらここに立っていた……


 寒い。凄い、寒い……。死ぬほど寒い――思わず両手でふるえる体を抱きしめる。

 マフラーに手袋、どうやらさいわい、防寒装備はしているらしい。


「佐藤……」


 一軒家の表札を見つめ、そう呟いた。


 あたしの名前も佐藤だった。だが、わたしの家ではない。では誰の家だろうか?

 パパの家だろうかーー何故かそう思った。


 パパはあたしが小さい頃にママとあたしを残して、家を出ていってしまった。

 ママは、『パパはね……他の女の人の所に行ってしまったの。まったくあの人はしょうがない人ね』と怒るでも呆れるでもなく、涙を堪えたような顔で笑いながら、そう言っていた。


 その様子が、妙に寂しげに見えたのを覚えている。

 きっとママは、それでもパパの事が好きだったのだろう。なにしろ、別れても名前を変えないぐらいだった。


 あたしは今でもパパの事が好きだーーあたしにとってそれは、嫌う理由にならなかったのだからしょうがない。


 逢いたいなぁ……


 しかし佐藤は非常にありふれた名前だろう。

 なんせ、佐藤さんだけ集めて鬼ごっこをするという事があったぐらいだ。

 ここがパパの家である確率なんて、500万分の1ってところだっただろうか?

 でも、あたしには何故か確信めいたものがあった。


 もう逃がさないーーあたしがパパを捕まえる。そして帰るんだ。3人で暮らしたあの場所に……


 そして、意を決してチャイムを押した。

 しばらくして、はいと男の人の声が聞こえてきた。


「あっあの、こちらに遊二さんはご在宅でしょうか?」

 緊張からか、声が震えた。


「はい。ユウジは息子ですが、ちょっと今出掛けちゃってて」

 あたしのおじいちゃん? に、しては声が若いなぁ。

 おじいちゃんにあった記憶はない。

 おじちゃんが生きているのか? どこに住んでいるかも知らない。

 でも、声はパパに似ている……と思う。


 ごまかしてる? いや、動揺してないし。

 ごまかすにしても、もっと上手い方法はいくらでも。

 大体、息子なんて言わずに居ないと言えばいい話だ。


 そもそも、悲しいがな。

 今のあたしの姿を見ても気づかないんだろうな……。

 だから声だけで分かるなんて事は、あるはずもないだろう。

 やっぱ別人だろうか?


「そうですか……」

「……コンビニ行くって言ってたから、すぐ戻ってくると思うけど。ところで、息子にどんな用事で?」


 いや、あのパパの事だ。

 浮気相手は若い女に違いないーーなんでそう思うかって?

 それは、パパがあきれるくらいのオタクでロリコンだったからに他ならない。

 若い女でなければ、あんなに美人なママを捨てるなんてありえないし。


 つまり、この人はその女の父親かもしれない。だとすると若いのもうなずける。


「あ、えっと……昔この辺に住んでて」

 ……あぁーーどうしよう。

 考え過ぎて、勢いで適当な事を言ってしまった。

 浮気相手の父親だとしたら、パパが昔から住んでるわけないじゃない。

 どうしよう、どうしよう。

 あまりのテンパりに顔も熱くなってきたーー耳まで達するのも時間の問題かもしれない。


「ん? 同級生の子かな?」

 同級生? どういう事だろうか…………あぁ、娘の同級生だと思われてるのかな?


「え〜とーーはい、そうなんですよーー久々にこっちに来たんで懐かしくて、昔よく遊んでもらってたので久々に会いたいなぁ〜と、はい」

「…………」

 やばいーいきなり饒舌に喋りすぎたーーこれはあやしい……。

 もう、あたしの頭は熱に浮かされているも同然だった。


「じゃあ、もしよかったら上がって待ってるかい?」

「はっ、はい、ぜひ」

「ちょっと待っててね。今開けるから」

「はっ、はい」


 あぶない、せふせふ。

 扉の前まで足を進める。

 途中の階段でつまづきかけたが、なんとか、たどりついた。

 はやる気持ちが心臓を高鳴らせーー体全体を熱くしていく。

 息も荒くなってきた。

 うつむき、すーはーすーはーと深呼吸をし気を落ち着かせる。

 握った手は、汗で湿っていた。


 パパに会えるんだ。もうすぐ、パパに……。

ーー次回予告ーー


 数年振りに再開を果たした。父と娘。

 そこには、埋まるはずのない溝ーー

 別の家庭ーー若い奥さん。出されたお茶ーー震える右手。

 沈黙した時間ーーぬるい口当たり。

 視線は窓の外へーー。

 もはや、この降り積もった雪のように、

 冷え切った関係は、溶ける事はないのかもしれない……。

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