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Dragon Sword Saga8『古代の魔法』  作者: かがみ透
第 Ⅳ 話 勇気をもって
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勇気をもって

 ダグトの部屋の前につくと、ミュミュが、鍵穴から、中の様子を覗く。


「おねえちゃんの言う通り、あったよ! 剣も首飾りも、別々のところに置いてあるよ! 」


 はしゃぐようなミュミュの声に、頷き、ラン・ファはミュミュをてのひらに移らせ、鍵穴の高さまで持ち上げると、調理場から持ってきた細い棒をミュミュに渡す。


 ミュミュは棒を抱え込んで、鍵穴に差し込み、ガチャガチャと動かした。


 その間に、ラン・ファは、もう一方のてのひらを、ドアや壁に向けてみる。


 やはり、ダグトの結界が張られている気配がある。


 そのうち、カチャッと小さく音がする。

 ラン・ファが棒を受け取ると、結界の関係ないミュミュが、ノブを掴み、回した。


 ギー……


 扉が軋みながら、開いていく。


「……案の定、中も結界だらけね」


 部屋に入る前に、手を翳してみたラン・ファが、面白くなさそうに笑う。


「ミュミュ、行ってくるよ」


 ミュミュがぴょんと床に飛び降りると、とっとっとっと走っていく。


 妖精に結界は関係ないというのは本当らしく、ダグトが勘付いて、戻って来る気配はない。


 ラン・ファは祈るような気持ちで、ミュミュを見守っていた。


 宝石箱は、椅子の上に、無造作に置いてある。

 以前と違うのは、箱に鍵がかけられていることだった。


(本当に、あの首飾りが入っているのかしら? あの宝石箱は、壊れていたはず。

直したのかも知れないけど、ダグトのことだから、ダミーってことも……)


 ラン・ファは、ミュミュを呼び止めた。他に、それらしいものがないかどうか尋ねる。


 ミュミュもいやな予感がしたらしく、その箱には触れずに、他を当たってみた。


 散々探した後、ふと、水晶球の下敷きになっているビロードの布が、台の脚まで覆っているのを見付け、ぺらっとめくってみる。


 すると、壊れた宝石箱から、はみ出ている青い石の首飾りが見えた。


「おねえちゃん、あったよ! 」


 ミュミュが、小声で、はっきりと告げる。


「良かったわ。それじゃ、ミュミュちゃん、お願い」

「うん」


 ミュミュが、そうっと箱に手を伸ばす。はみ出している首飾りを取り出そうと、ふたを開けようとする。


「あれっ? 開かないよ」


 ミュミュが焦って、首飾りを無理矢理引っ張るが、一向に、抜ける様子はない。


「ミュミュちゃん、もしかしたら、それもダミーかも知れないわ。剣の方はどう? 」


 諦めたミュミュは、壁に立て掛けている赤い宝石付きの剣に、走り寄った。


 細工の美しいロング・ソードによじ登っていき、てっぺんまで行くと、重心をかけて、剣を床に倒す。


 鞘についた紐を引っ張るが、ミュミュには、重過ぎるせいで、なかなか進まない。


「う~ん、う~ん……! 」


 ミュミュは精一杯、剣を引き摺る。ほんの少しだけ、剣は出口に向かった。


「ミュミュちゃん、頑張って! 」


 ラン・ファに勇気づけられたミュミュが、紐を小さな肩にかつぎ、必死に引き摺っていった。




 別次元の密林で起きている魔道士たちの戦いは、未だ続いていた。

 被害が及びそうな範囲にいた動物たちを、吟遊詩人が密かに連れ出し、安全な場所へ避難させるのは終わっていた。


 ダグトは、ちらりと、地上に目を向けると、すぐにヴァルドリューズを見直す。


(ふん。やはり、あの女男も一緒か。というと、白いゴーレムを呼び出しても、またあの若造に食い止められてしまう。白のゴーレムがだめなら、他のものを……! )


 ヴァルドリューズの放つ、銀色の電光を、間一髪で躱したダグトは、細い目を、更に細めた。


(あのやかましい妖精とラン・ファを、見せしめに連れてくるか。古代のものを呼び出し、ヴァルドリューズの足を止め、女男がそれを解除する一瞬の間でも、充分間に合う。まずは、女男を殺し、ゴーレムを召喚してヴァルドリューズの力を封じ、その目の前で、あの妖精のヤツをいたぶってやろう。死んでしまっても構わん。次に、ラン・ファだ。ヤツの目の前で、俺のものにしてやる。その後で、ヤツをゆっくりいたぶって、あの世へ送ってやろう! )


 ダグトの杖を、ヴァルドリューズが手の甲で受け止める。


 その後、シャッと音を立てて、ヴァルドリューズの指が、ダグトの頬を掠めた。


 慌てて距離を取ったダグトが、頬に手をやる。ぬるりと、赤い液体が、指を伝った。


 ダグトの表情が、怒りへと変わっていく。


「貴様、この俺の顔に、よくも傷をつけやがったな! もう、こんな生温(なまぬる)い戦いはやめだ! 目にもの見せてくれる。覚悟しろ! 」


 表情の変わることのないヴァルドリューズに向けて、ダグトが呪文を唱えようとした時、一瞬、ヴァルドリューズの姿が消え、即座に、ダグトの目の前に現れた。


「なっ……! 」


 ダグトが、よける間もなかった。


 青い透き通った刃を寝かせたような光が、ヴァルドリューズの掌から数本飛び出し、一瞬で、ダグトの身体を突き抜けていったのだった。


「ぐわっ! 」


 ダグトが落下していくが、地面に叩き付けられることなく、ギリギリのところで、ふわりと風をおこし、起き上がる。


「て、てめえ……、そんな技まで、隠していやがったのか……! 」


 ダグトが、青い光の貫いた腹のあたりを、手で押さえ、荒い息をしながら、その瞳に憎悪を募らせ、ヴァルドリューズを見上げた。


 腹を抑えている掌からは、ダメージを回復する光線が出ている。


 ヴァルドリューズの表情は、どこも変わりがなく、それが更に一層、ダグトの怒りに火をそそいだ。


 ダグトの姿が消える。


 再び現れたのは、吟遊詩人の目の前だった。


「お前から、先に殺してやる。死ね! 」


 はっと目を見開いた吟遊詩人に、ダグトは、掌をかざすと同時に、唱えておいた呪文を放った。


 吟遊詩人の身体に、光が集結すると、パアーッと飛び散った。


 その跡には、なにも残ってはない。

 すべて、一瞬の間に起きたことだった。


 ダグトは、吟遊詩人の気配が、まったく消えたのを確認してから、空に浮かんでいるヴァルドリューズ目がけ、呪文を唱えた。


 白いゴーレムが、ぼやぼやと現れる。


 ヴァルドリューズが、宙から、地上に降り立った。


「バカめ。自ら、やられに来るとはな! 」


 ダグトが残忍に笑う。


 白いゴーレムは、完全に姿を現すと、ヴァルドリューズに向かっていった。


 だが、彼に触れる直前で、ゴーレムの動きが止まる。

 前回のように、彼を丸め込むことはしない。


「どうした、白いゴーレムよ。なぜ、そのまま、ヴァルドリューズを押し潰さん? 」


 ダグトは、困惑してゴーレムを見る。

 何度命令しようと、ゴーレムは、ヴァルドリューズに触れようとはしなかった。


「なるほど。さすがに、効果はあったようだな」


 ヴァルドリューズが片方の腕を上げる。その手首には、茶色い紐のようなものが巻き付いていた。


「なぜだ? なぜ、ゴーレムは、俺の言うことを聞かない!? 」


 困惑したまま、ダグトが、ヴァルドリューズを見る。


「これは、あの吟遊詩人の髪の毛で作られたブレスレットだ。これをしていれば、白いゴーレムは、私には手を出せぬということであった」


 ダグトの額に汗が浮かぶ。こめかみには、血管が浮き出ていた。


「あの野郎は、いったい何者なんだ!? 古代魔法に対抗する(すべ)は、未だに見つからないにもかかわらず、なぜ、あいつには、ゴーレムは、手を出すことが出来んのだ!? 」


 ダグトが、悔しそうに、足を踏み鳴らした。


 ヴァルドリューズは、黙ってそれを見ている。


(こうなったら、切り札どもを、連れてくるしかあるまい……! )


 そう考えたダグトは、ヴァルドリューズを一瞥すると、またしても、一瞬で姿を消した。


 ヴァルドリューズも空間に入ったため、そこから姿を消した。


「ふふん、貴様が、この俺に追いつけるものか! この間も、撒いてやったのを、忘れたか。言っておくが、これは、古代魔法の力ではないぞ。俺の術が、パワーアップしたのだ! 」


 背後にぴったりと付いているヴァルドリューズを尻目に、ダグトはスピードを上げた。


 途端に、ヴァルドリューズとの距離が出来ていく。


「はははは! 貴様は、俺には追いつけん! 一生な! 」


 ダグトは、物凄い速さで、空間を渡って行き、あっという間に、ヴァルドリューズの視界から消えてしまった。




「よいしょ……、よいしょ……! 」


 妖精は、必死に、剣を引きずっていた。


「ミュミュちゃん、あと少しよ、頑張って! 」


 ラン・ファに励まされながら、僅かに進む。


(羽があったら……! )


 ミュミュは剣の鞘の紐を引っ張りながら、何度もそう思った。


(羽があったら、こんなの簡単に持ち上げられるのに……! 空間の中だって、自由に行き来できる。おねえちゃんのことだって、連れていってあげられる。そうしたら、みんなのところに戻れるのに……! )


 それを思うと、悔しくて、涙がにじむ。

 非力な自分にも腹を立て、ミュミュの頬を、悔し涙が伝っていった。


 ラン・ファの方も、ミュミュの応援に気を取られてばかりはいられなかった。


 先ほどから、不吉な気配が、じわじわと迫っているのだ。


 ラン・ファは、宝石を削って混ぜ合わせた七色の粉を、調理室から持ってきた様々な形の包丁に、さっとふりかけ、あたりの様子を伺っていた。


 ぐるるるるるるるるる……! 


 獣の唸り声のようなものが、近付いてくる。


 屋敷の異変を感じ取ったと思われるモンスターたちが、外から侵入してきた様子に、ラン・ファは勘付いた。


 モンスターたちは、その姿を、今、あらわにした。


 全身獣毛に覆われた、上半身が人間で、頭と下半身が獣という獣人、コウモリのような羽を生やした小人のインプ、魔ガラスなどが、暗い回廊に現れた。


 モンスターたちは、一斉に、ラン・ファ目がけて、突進していった。


 ラン・ファは、東洋的な武道の構えを取ると、片手には長い調理用ナイフを、もう片方の手には、銀でできた突起の多い肉たたきを握り、手前のモンスターから対抗していった。


 魔法の粉を振りかけたナイフで、魔ガラスを切り裂き、銀の肉たたきをナックル代わりに、獣人を吹っ飛ばす。


 後から後からやってくるモンスターたちを、一度に数体蹴り上げて遠ざけ、その間に、他のモンスターをばさばさと薙いでいく。


 だが、やはり、ただの調理器具は、本物の剣のようにはいかず、いくらもたたないうちに、折れてしまった。


 他の器具に取り替えても、同じことだった。


 なので、ラン・ファは、丈夫な肉たたきだけを手にし、何も持たない手を、モンスターたちにかざし、短く呪文を唱えた。


 大きな炎の球が、飛び交っているインプや、魔ガラスたちを、勢いよく飲み込む。

 モンスターたちは、叫び声を上げながら、次々と消滅していった。


「なるべくなら魔力は使わないでいたかったものだから、これまで使わないで来たけど、首飾りがなくても、これくらいの魔法は使えるのよ。悪く思わないでね」


 ラン・ファは、モンスターたちにウィンクすると、次々と、手を休めることなく呪文を発動させ、近くに来たものには、肉たたきで殴り飛ばしていった。


 謎めいた東洋では、魔道士の軍隊もあるという。戦士たちは、そんな魔道士たちにも対抗できるよう、訓練もしていた。ただし、それは、個人の持つ魔法能力次第であったが。


「おねえちゃん、どうかしたの? 」


 部屋の外が騒がしいのを、不審に思ったミュミュが、涙声で問いかけた。


「ちょっとモンスターが出て来ちゃったものだから。だけど、大丈夫! ミュミュちゃんは、早く剣を……! 」


「う、うん」


 モンスターと聞いて、一気に不安になったミュミュではあったが、なおさら早く、ラン・ファに剣を渡さなくてはと、必死に肩に担ぎ、足を速めた。


 一歩ずつ、一歩ずつ、ラン・ファのいる廊下へと近付いていく。

 ミュミュの一歩なので、あまり進んでいるようには見えないのだが。


 ようやく、出口に近付いた時、部屋の奥で、風圧が起こった。


 ミュミュが驚いて、振り返ると、部屋の隅には、ダグトが立っていた! 


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