『力の差』
「ただ一つの違いだった。『思い』から『力』を手に入れるのか、『力』から『思い』を手に入れるかの違い……。」
雨はどんどん勢いを増していっている。
「だけどそれが、決定的な違いだった。その違いによって、俺は『力』も『思い』も手に入れて、お前は『力』も『思い』も失った。」
まるで雨の中には俺とこいつしかいないような気分だった。
正反対な俺とこいつだけの世界。
「それじゃあな。俺は行く。この世界を、俺らしい『正しさ』にあふれた世界にするために。」
その言葉をいって、俺達は離れ離れになった。
「料金は3000ロン位になるけどいいか?」
ケイトが尋ねる。
それをきくと、ストレイジが少し不安そうな顔をする。
「えっと、料金は三日後くらいになっても平気ですか?」
「ああ、平気だよ。まぁ都合よくまだ金もきつくないしな。なんなら一ヶ月後でもいいぜ。」
そういうと、ケイトが何か思い出したように、手の平をこちらに向ける。
買い物のお釣りを渡せ、って事だろう。
やばい、そうだった。
「悪い、金全部偽金だったみたいで、飲物かえなかった。」
「……は?」
めちゃくちゃ笑顔で聞き返して来る。
ブチ切れてやがる。
「いや!だけど持ってった金が、たまたま偽金だったんだから仕方ないだろ!」
そう言い返すと、すぐさまでかいため息をつく。
「ならその偽金はどこだよ。」
「荷物になると思ったから、偽金って教えてくれた店のおっさんのところにおいてきた。」
「やっぱテメェはアホだ。テメェを行かせたの俺もアホだけどな」
「意味わかんねー。何がいいたいんだよ」
そういうとケイトが、灰皿にあった火がまだついている煙草を手にとる。
そして俺の額に押し付けながら怒鳴った。
「お前は騙された、って言ってんだよ!このボケが!テメェがおいてきた金は全部本物だったんだよ!」
そう怒鳴り終えると、ケイトはストレイジの方を向く。
「わるい、三日後までには絶対金を用意しといてくれ。」
「は、はい。わかりました。」
その言葉をきくと、ケイトが上着を羽織り、煙草を口にくわえる。
「俺は、いまからその金を巻き上げやがった糞野郎んとこにいってくる。レム!テメェは念のためストレイジちゃんを守っとけ!」
そう怒鳴って外にでていった。
「守るっつっても、おそわれることなんてないだろ。」
そう呟く。
第一、詐欺りやがった奴なんてもう逃亡済みだろうしな。
そんなことを考えていたら、ストレイジが急に俺に質問を投げ掛けて来る。
「あなたのように『神』と言う言葉は、今では大体の人がくだらないといいます。けれど、『神』を信じている私からしたら、何がくだらないのかわからないんです。一体なにが、『くだらない』んですか?」
「何だよ嫌味かよ?」
「い、いえ!そんなつもりは……!」
まぁ別にどっちでもいい。第一そんなもの、答えは決まってる。
「他の奴らの意見なんてしらねーが、俺は『神』がいるかいないかより先に、例え『神』がいたとしても、『神』はくだらない奴だといってんだよ。」
「『神』がくだらない?何故ですか?『神』は世界を作った立派な―――」
「世界を作った事は立派なのか?」
俺が言う。俺からしたら答えは決まっている、立派なんかじゃない。
「生きる喜びを絶望によって感じなくなった奴にとって、世界を作った『神』なんて、一番の敵対する存在だ。立派なんかじゃない。」
そう断言すると、ストレイジが言い返す。
「確かにその人からしたら、『神』様は敵かもしれません。それに『神』を憎むのも仕方がないかもしれない。けれど『神』様にだって、限界があるんです。だからそんな助けきれないを助けるために、人々に『個々の力』を託して下さったんです。だから私達のような救われている人々は、『神』に感謝するべきなんです。」
ストレイジの考えはそうなのかもしれない、けどそんなの俺には関係ない。それに
「なら俺は『神』を憎む権利がある。」
俺が言い返す。
ストレイジが疑問の言葉を発する前に、俺が言葉を紡ぐ。
「昔いた俺の幼なじみはさ、とてもいい奴だったんだ。俺の1番信用できる奴だった。何より、あいつがいない人生なんて考えられなかった―――俺はあいつが好きだったんだ、と思う。」
今頃いっても何にもならない。それくらい知ってる。
ストレイジは、俺の突然の独り言に軽蔑もせず聞いてくれている。
「15くらいの時まで、あいつは俺の心の支えだった。だけどそれは暗転した――」
――あいつは売られたんだ、あいつの親父に……。
今でも怒りがほとばしる。あいつの親父に、何より俺に。
「いつもと様子が違うことくらいわかってた。遠慮しがちな笑いも、気が緩んだ時にみせた悲しそうな顔も、だけど俺はあいつに何も尋ねなかった。そんなこと聞いたら、軽蔑されたり、何か変わってしまったりする気がして、怖くて尋ねなかった。」
俺は逃げたんだ、力があっても逃げだしたんだ。
「なんて残酷な――。なるほど、それであなたは、神様を憎んでいるんですね。」
それに頷くと、気持ちを切り替えるためにもため息をつく。
「だけどそれは後の祭りだ。どうしようもない。それより、今は生きることに必死だしな。」
そういって、床に寝転がる。
その瞬間、床から誰かの足音が伝わってくる。 ケイトにしては早過ぎる。
方向は―――ストレイジの方向!
「ストレイジ避けろっ!」
ストレイジがスカートで座っていることなど、構っていられなかった。
すぐさま手が届く武器を、ストレイジの方へ投げる。
投げたナイフは、電気を放って、ストレイジの真横を通り過ぎた。
手応えはない。
「逃げたの……?」
ストレイジが頭をかかえながら尋ねる。
「わからない。とりあえず俺と一緒に外へ来てくれ。」
そう伝えて武器をもつと、注意をはらいつつ、ストレイジと外にでる。
「あれ、誰もいない?」
ストレイジが回りを見渡す。
確かにまわりには誰も見当たらない。
「だけどわからない、いるかもしれない。丁度こういう時に、こいつは役に立つんだよな。」
そう呟くと、玄関に立て掛けてあったボウガンを構える。
そして俺の力を使う。
屋根裏。
「隠れるのがうまい奴。」
そういって敵にボウガンを放つと、屋根裏から飛び上がり、俺達の正面へと降りる。
「どうやって、俺の『消える』力を見破った?俺の力なら電磁波だってみえないはずだ。」
電磁波……。とりあえず電気の力みたいなものか?
「俺の力は電気なんかじゃねーよ。」
そういうと、ボウガンを降ろし、さしてあった刀を構えて、能力を使いつつ、剣を振るう。
その瞬間に、男が剣を盾にするように右手を突き出す。右手に剣は見えない。
だが、風の刃は見えない剣と共に、男を吹っ飛ばした。男は砂詰めの袋へとぶつかった。
それをみて、すぐさま間合いをつめて、砂埃のなかを剣で突く。またも手応えはない。
「だけど、これでいい。俺命名のこいつの武器名は『風鋼刀』―――」
旧使用者の能力は風――!
「風爆!」
風鋼刀を中心に風の爆発が起きる。
それは砂埃を払う、なんてレベルじゃない。正に爆発という程の、半径10メートルの物が消え去るレベルの風が起きた。
爆発が収まったものの、敵は見えない。
「どこに――」
「きゃっ!」
ストレイジの悲鳴に振り返る。
男はいつの間にかストレイジの背後にいた。
「やめ……ゴホッ!」
「おとなしくしていろ。」
そういってストレイジを肩にかけ、消えながら逃走をする。
「くそっ!」
俺もすぐさまボウガンをもって、力を使い男の後を追う。
油断した!見失う前に追いつかないと!
走る、走る、走る。
「ちっ、随分としつこいな!ついさっきあったばかりなのに、よくもまぁ思い入れがあるんだなぁ!」
男がこちらに叫ぶ。
知るかよ。ただ俺は、ストレイジを、あいつの二の舞にしたくないだけなんだよ……!
「だけど残念、タイムリミットだ。」
男がそういうと、急に一人の少女のまえで立ち止まる。
「後は頼んだぜティアナ。」
「了解。後はあなたは、悠揚とその娘を運んでいればいいわよ。」
男が、ティアナと呼ばれた少女と手を打つ。
ちっ、仲間がいたのか……!
「そこをどけっっ!」
俺がボウガンを投げ捨て、ティアナにナイフ『雷包澄』を振るう。
けれども少女は動こうとしない。
「焦りは禁物。確かに『先んずれば人を制す』ともいうけどね。だけどそれなら―――」
私のほうが早いかも。
『雷包澄』がティアナがたどり着く時には、少女は既に俺の顎に蹴りをかましていた。
「な……んで……。」
俺は軽々しく吹っ飛び。何メートルか後ろに倒れ込む。
「残念、あなたには死んでもらうわね。」
そういって、ティアナが近づいて来る。
今手元には、ナイフを手放してしまったから、刀二本しかない。その内一本は回復用。つまり刀は一本しかないようなものだ。
だけどこいつだけで充分だ!
無理矢理腰を持ち上げ、刀をもつ。
いけっ!すい―――
「全く油断大敵ね」
ティアナは、俺が力を使う前に、隠し掴んでいた刀を蹴りとばした。
いつの間に……。
その瞬間に、俺の勝ち目はなくなった。殺されるだけだ。
そう思っていたら、ティアナが顎に曲げた人差し指をやり、何かを考え出す。
そして突然に意外な質問を繰り出してきた。
「あなたの力、何か教えてくれないかしら?力によっては、あなたは殺さないであげるわよ。」
言わない。こいつの言う通りに動きたくなんてない。
それに言わなければ、俺の力は当てようがな―――
「『武器に宿った力を解放する』、つまり『昔、その武器を使っていた人が持っていた力を、武器から引き出す事が出来る』そんなあたりじゃないかしら?」
図星をつかれる。
大体言い当てられたこんなの状況では、反論のしようがない。
その反応を見て、こちらにいいかける。
「なら見逃してあげる。その分精一杯生きなさい。」
そう言うと後ろをむき、とても小さな声で何か呟く。
「悪いわね。利用させてもらうわ。」
その声は聞こえなかった。
しかし、俺にはそんなことよりも大きな絶望感があった。
守れなかったことに対してではなかった。
勝てなかったことに対して、絶望していた。
そして何より、そんな自分が嫌いだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
わかりにくいかもしれないので、登場人物各各の力を書いていきます
レム・ロバート……『適当な武器をもつことで、その武器を前に使っていた人達の能力を使用できる能力』。短くいうと『武器力を引き出す能力』
ケイト・ユノアール……(後ほど)
ストレイジ……(後ほど)
男 ……『見えなくなる能力』。手に触れている武器なども見えなくできる。
ティアナ……(後ほど)