プロローグ~旅立ち~
...ぽつん。ふと目を開ける。
なにかが額に当たったようだった。多分雨粒だろう。
俺はその雨粒とやらを腕で拭き、
まだ重い自分の体をゆっくり起こし窓の外を見てみる。
窓からは微かだが王都が見えた。
寝ぼけてはいるのだが幻ではないようだ。
「朝飯は?」
ギシギシと唸るドアを開け、そう言った。
母さんは奥の居間で編み物をしている。
俺の問いに母さんは何も反応しない。
どうやら今日の朝飯はないようだ...。
溜息をついて自分の部屋に戻る。
「ああぁぁぁ~」
うなだれながら、ベッドへ大の字にうつ伏せになってみる。
俺には父さんの記憶がない。
母さんに言わせれば父さんは王都へ出稼ぎに
行ったきり帰ってこないらしいのだ。
家を出てから17年。俺が丁度生まれた頃だったために
父さんの記憶が全くないのは当然だと思う。
王都へ出稼ぎ...
「それだぁ!」
鳥頭な俺にもわかる考えが頭を過った。
「...俺が働けばいいじゃん!」
誰かに急かされるように、再びドアを開けた。
「バタン! 母さん!俺さぁ旅に出る!」
...父さんのこともあるので、「出稼ぎ」とは言うよりかは
「旅に出る!」と言った方が良いとは思ったのだが、
どっちにしても家を出ることには変わりないことに気付いたのは
言い放った後の事である。
母さんはまだ何食わぬ顔で編み物をしている。
「...どうやって王都まで行くの?」
俺の顔も見ずにそう答えた。
意外な返答に驚く俺だったが、
「う~ん...馬車とか?」
「...お金は?」
「あっ...。」
俺って貧乏だ...。
「んじゃ歩いてくから」
「...道わかるの?」
俺って方向音痴だ...。
父さんの事もあるし、生半可な気持ちじゃ行かせてくれるわけない...。
中途半端な気持ちじゃないってことをどう母さんにアピールすれば良いのだろうか?
...
しばらく考えてから
「母さん...俺...。」
言葉に行き詰ってしまった...。
空気が静まりかえる中、先に口を動かしたのは母さんだった。
「旅に出るならこれ...」
そう言いながらタンスの中から古びた大きめのオーバーオールを取り出し、
ポケットの中から古ぼけた紙を机に置いた。
「ミシディア王国への地図...」
母さんはそう言うと俺に地図を広げて見せてくれた。
そこには明らかに王都へと繋がる道がわかりやすく描いてあったのだが...。
「なにこれ?」
「母さんが描いたの?」
「んなわけないでしょうが!」
っと、ジト目な母さん。
「んじゃ、やっぱり父さんが...」
...俺の父さん馬鹿なんだなぁ。
...鳥頭が遺伝なのか、そうでないのかわからないが、
俺が書いたらこんな感じになりそうだな...。
そんなどうでもいい事を考えながら
俺は服のポケットに古ぼけた地図を乱暴にしまい込んだ。
「いくら金を積んでも父さんは戻って来ない...」
俺は窓の方を向いて、そう言った。
「きゅるぅ~~~~~...。」
腹の虫が鳴った...。
母さんは今にも吹き出してしまいそうな顔をしていたのだが、
俺と目が合うと表情をお惚けた顔に戻した。
「レイン、少しだけどこれを持っていきなさい。」
母さんはそう言うと徐にタンスの中から封筒と、
ネックレスのような物を俺に渡してきた。
ネックレスをよく見ると、セシル・ブレイティガの「B.S」の文字が刻まれていた。
俺は母さんが付けていた物なんだろうなと認知した。
家の扉の前に立ち、深呼吸をしたかと思うと一気に扉を開けた。
空はまだ青い。鳥が囀ずる声が聞こえるのどかな風景だ。
やはりここからでも王都は微かに見えていた。
...
...
...
歩き始めてから約1時間。
先ほど母親から貰った封筒を思い出し開けてみた、
が...
200ハーツ...
(ホットドックが二個買えるくらいのお金の額)と紙切れが入っていた。
紙切れには...
「夕ご飯までには帰ってきなさい。」とだけ書かれていた。
...
...
...
...
...
「そうそうおやつは200ハーツまで...っておい!」