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血の中の宇宙  作者: 普通


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16/17

歴史の隙間

春の光が湿地を薄く照らす朝。

ドランは机の前で、論文原稿を何度も読み返していた。

ラヴランは隣で、顕微鏡の視野を見つめながら手を止めない。


原稿は完璧だった。

球体破裂、微小体の分裂、時間経過後の観察——

全てが詳細に記録され、図表も整っていた。


しかし、軍医局の圧力は依然として強い。

外部学会に送付した原稿は、駐屯地経由で回収され、門前で止められたのだ。


連絡が届く。


「貴官の研究は重要かもしれないが、兵員の安全と規律を優先する。

 外部への発表は認められない」


ドランは紙を握りしめ、顔を歪める。

「全て準備したのに……」


ラヴランは冷静に言った。

「科学的証拠は確かに揃った。

 だが、歴史は制度に阻まれることもある。

 今、世界はまだ受け入れないだけだ」


夜。実験室は静かだ。

小瓶の中の球体は、次の世代の微小体を形成し続けている。

破裂の瞬間は、すでに彼らの目で確認された。

しかし、それは二人だけの秘密になった。


ラヴランは日記帳を開き、筆を走らせる。


真実は見えた。

だが、世界に届けることはできなかった。

制度は科学を抑える力を持つ。

それでも、観察の記録は消せない。

未来の科学者が、この記録を見つける日が来るだろう。


ドランは黙って頷く。

成果は確かだ。

しかし公表できない苦しさと、兵士への配慮が胸を締めつける。


月光が実験室の窓から差し込む。

ランプの光と混ざり、標本棚の影がゆらぐ。

小さな翅の内側で、生命は今日も規則正しく動いている。

彼らの目には見えないが、世界のどこかで、この発見が後世に伝わる可能性は確かにある。


ラヴランは小瓶を手に取り、そっと机に戻す。

「科学は、時間を味方にする」


ドランは微かに笑う。

「私たちの発見は、誰かに必ず届く」


二人は静かに観察を続ける。

制度は阻むかもしれない。

だが、自然の法則そのものは止められない。


最後のページにラヴランはこう書き残した。


ここに記した観察は、正式な承認は得られなかった。

しかし、血の中の宇宙は確かに存在する。

未来の科学者たちよ、この記録を見つけ、さらに理解を深めよ。


窓の外、湿地の闇に羽音が消えていく。

顕微鏡の中では、微小体が再び分裂を始める。

科学は、沈黙の中で確実に進んでいた。

ありがとうございました。

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