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血の中の宇宙  作者: 普通


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12/17

破裂

深夜。

灯油ランプの光が机の上の標本にかすかに反射する。


ドランは椅子に座り、息を整える。

三日前に捕らえた蚊。

腹部には、時間経過により増えた球体。


小瓶は揺れない。

外の風も、音もない。

世界は静止しているかのようだ。


「……来るかもしれない」


ドランは心の中でつぶやく。

慎重に、焦らず、眼を顕微鏡に近づける。


倍率を上げる。

球体の輪郭が、昼間よりはっきりと見える。

内部に微細な構造。

まるで血中で見た輪状体が、ここで別の形態へ移行しているかのようだ。


ラヴランも隣で、静かに呼吸を整える。

言葉は交わさない。

二人の視線だけが標本に集中している。


数分が過ぎた。

球体は膨張し、壁面がわずかに張り出す。


ドランは息を止める。

焦点を少しずらすと、球体内部の微細構造が、確かに動いた。

細胞のように見える小さな粒子が、互いに分かれ、位置を変える。


「……動いた」


ラヴランは口をつぐんだまま、手を震わせないように机を押さえる。


そして瞬間が訪れる。


球体の表面がぱっと光を反射し、細かく裂ける。


内部の構造は外へ放たれる。

微小な体が、透明な液体の中で規則的に浮遊する。


顕微鏡の視野全体に、無数の微小な動きが広がる。

血中で見た輪状体の分裂像と、驚くほど一致する。


ドランは手を止め、言葉を失う。

ラヴランも静かに息をつく。


「これが……そうなのか」


二人の間に、沈黙と理解が同時に流れる。

言葉は不要だった。

科学者の直感が、確信へ変わった瞬間。


ドランは素早く記録を始める。

動いた数、位置、分裂の様子。

一度きりの現象かもしれない。

だからこそ、慎重に、正確に。


ラヴランは隣で、顕微鏡を微調整しながら記録を確認する。

「再現性……次があるかどうかは運次第だ」

彼は低くつぶやく。


だが二人は知っていた。

目の前の現象が、偶然ではないことを。

血中で見た寄生体が、ついに昆虫体内で次の段階へ移行したのだ。


夜は深く、湿地の闇が標本室まで忍び込む。

羽音は遠く、今は無意味だ。


だが、顕微鏡の中では、微小な生命が確かに、規則正しく動き、分裂を始めている。


「命令には従った。

だが、これだけは止められなかった」


ラヴランは小さくつぶやく。

ドランはうなずき、記録帳にペンを走らせる。


球体破裂。

微小体の放出確認。

昆虫体内で血中寄生体が次段階へ移行する証拠。

再現可能性あり。


この夜、二人の研究は、ついに歴史的瞬間を迎えた。

静かな感動。

しかし歓喜よりも、科学者としての緊張が勝る。


破裂の瞬間は、彼らに確信を与えた。

だが証明は、まだ広く認められるまでは続く。


外の世界はまだ無関心で、命令は存在する。

それでも、血の中と翅の内側で、

新しい理解が確かに芽吹いたのだ。

ありがとうございました

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