黒猫とマカロン
<人物紹介>
モカ(27)。男性。
街の平和を守る黒人警察官。
一途で優しい。正義感が強い。奥手。
悠人(27)
モカと同じ交番の警察官。
おちゃらけていてデリカシーがない。
萊(10)
モカと仲良しの男の子。
時々、壊れたものをモカに直してもらいに来る。
実亜(24)。女性。
2週間前にこの街に引っ越してきた。
カフェでバイトをしている。
真面目で不器用な性格。
モカに助けられたことがきっかけで恋に落ちる。
<カフェラビット>
実亜がバイトをしているカフェ。
<交番>
街角にある小さな交番。
二年前に新しくできた。
モカが入ってから半年が経つ。
〜笑顔〜
実亜の右斜め前の窓に
紅葉がひらひらと風に舞ってカフェラビットの窓の外を飛んでいった。
実亜「いらっしゃいませ」
女性客A「あ、えーと二人です」
実亜「お好きな席へどうぞ」
女性客B「は、はい」
・・・。
実亜「お待たせしました、ミルクティーとコーヒー、
プリン二つです」
・・・。
客A「ねぇ、あの店員さん態度悪くない?」(ヒソヒソ)
客B「ね、むすーっとしてたよね」(ヒソヒソ)
男性店長(40)「実亜ちゃん、いつも言ってるけど接客は笑顔が大事だからね?」
実亜「はい、努力します」
男性バイト1(27)「店長、無理っすよ、実亜ちゃんは感情がないんすから」
店長「感情がなくても営業スマイルでいいんだがなぁ・・・」
(私だって感情がないわけじゃないのにな・・・)
これはビルが立ち並ぶ治安があまり良くない街での出来事だ。
〜恋するきっかけ〜
休みの日のお昼時。
実亜は街に買い物に出かけようとしている途中だった。
歩道橋の階段を降りようとした実亜は半分くらい降りたところで踏み外してしまった。
実亜「うわ!?危ない!!」
「!」
階段の下には男性がちょうど目の前を通り過ぎようとしている途中だった。
ガシッ!!
実亜「あれ?痛くない?・・・」
階段から落ちた実亜をモカがキャッチしてくれたのは・・・。
(うそ、この人が助けてくれたの!?あの高さから勢いよく落ちたのにちゃんと受け止めてくれた!?)
実亜「す、すみません!大丈夫です、か・・・」
モカ「はい、僕よりあなたは?」
(警察の制服着てる!てゆーか黒人さん!?)
モカ「大丈夫ですか?」
実亜「は、はい・・・」
モカはスッと実亜を腕から下ろした。
(何この安心感・・・)
実亜「あ、ありがとうございました」
モカ「見回りしてて良かった、気を付けて下さいね」
実亜「はい」
その時、小さな男の子が話しかけてきた。
萊「あ、いたいた!モカ君モカ君〜!」
モカ「はい、何ですか萊君?」
萊「ゲーム壊れちゃったの、直して〜!」
少年は手に船のおもちゃを持っている。
モカ「OK、直しておきます」
萊「ありがとうー!お金これしかないけど・・・」
モカ「お金は大丈夫」
萊「でも・・・じゃあ!またうちのマカロン食べに来てよ!パパに言っておくから!」
(え、マカロン?)
モカ「分かりました、ありがとう、パパさんの作ってくれるお菓子の中で一番好き」
萊「本当にモカ君はマカロン好きなんだねぇ、パパも喜んでたよ、自分が作ったお菓子をこんなに気に入ってくれる人がいるなんてって」
モカ「だってパパさんのマカロンは美味しいから」
萊「パパに伝えとくね!じゃあまた来るねモカ君!」
少年は元気良くぴょんっとジャンプすると手をブンブンと振った。
モカ「はい、気を付けて」
それに応えるようにモカも手を振る。
(ほのぼのしたもの見ちゃったな)
実亜「あの、マカロンって?」
モカ「ああ、あの男の子のお父さんがお菓子屋を経営してるんです、それで時々行くんですよ」
実亜「マカロンが修理代ってことなのね」
モカ「いいえ、お金はちゃんと払います」
実亜「そうなの・・・」
(さすが警察官だ・・・ちゃんとしてるなぁ)
と、その時、横断歩道を渡りずらそうにしているおばあさんがいた。
モカがすかさず駆けていく。
(てか、足早!!)
モカが重そうな買い物袋を持ち、おばあさんを背負って横断歩道をあっという間に渡る。
(背高いし体も大きいし足早いし・・・凄過ぎる。
鍛えてるんだろうな、さすがだなぁ・・・。)
おばあさん「あら、ありがとうモカ君、いつもありがとうねぇ」
モカ「どういたしまして」
(さっきの男の子もモカ君って呼んでたし街の人たちからはモカ君って呼ばれてるんだ・・・)
実亜はアパートに帰るとベッドに座った。
(私を助けてくれた男の人は警察官。
黒い肌に坊主頭、眉毛はキリッと凛々しくて髭は綺麗に整えられてた。
名前はモカ君か・・・。
瞳は綺麗な黒、背が高くてマッチョで・・・たくましい腕でお姫様抱っこを・・・。)
実亜「きゃ〜!!」
実亜は枕に突っ伏すと足をバタバタする。
〜大事な人〜
歩いてた男性の方へ立て掛けてあった棒状の木材が倒れてきた。
「うわ!!」
咄嗟にモカが庇う。
カランカランと音と共に木材が地面に落ちた。
モカ「大丈夫ですか?」
「は、はい、ありがとうございます・・・って外人!?警察官なの!?」
モカ「はい」
「そ、そうなんだ・・・あ、ありがとうございます」
そう言うとその男性はささっとどこかへ行ってしまった。
しかし、庇ったモカの腕から血が出ていた。
長袖が破れてしまっている。
たまたま通りがかった実亜が心配して駆け寄る。
実亜「大丈夫!?」
モカ「はい、大丈夫です」
実亜「やだ、怪我してるじゃない」
モカ「あー、かすり傷ね、僕は周りの人より体が強いから大丈夫です」
実亜「何言ってるの、ダメよ」
モカ「え?」
実亜「どんなに体が強くても足が早くても不死身じゃないでしょう?」
実亜はモカの腕にに絆創膏を貼った。
モカ「ありがとう、あなたは優しい」
実亜「キューン・・・そ、そんなことないわよ、私はただあなたの命も大事だと思っただけ」
(そうよ、あなたは私にとって大事な人なんだからモカ君自身も大事にしてもらわなくちゃ困るわ。)
モカ「初めて言われました・・・僕はこの街の警察官だけど、嫌がる人もいるんです」
実亜「どうして?」
モカ「皆んなと肌の色違うし体も大きい、だから怖がったり嫌がったりする人もいる」
実亜「そう・・・でも、その分あなたを信頼してる人や好きな人も沢山いるはずよ」
(私、今までそういう人を何人も見てきたもの。)
モカ「はい、分かってます」
実亜「なら良かった、全員に好かれるのは難しいけれど好きでいてくれる人たちを大事にできたら充分じゃないかしら?」
モカ「あなた・・・えーと」
実亜「私は実亜よ」
モカ「僕はモカです、実亜さんでも全員に好かれるの難しい?」
実亜「そうよ、私なんて嫌われてばかりだもの」
モカ「でも、僕は好きです」
実亜「え!?あ、ありがとう・・・かあぁ」
モカ「いつもムスッとしてるけど照れた顔もするですね」
実亜「ムスッとしてて悪かったわね・・・」
(そうよ、そのおかげで誰も私に近寄ろうとなんてしないんだから。)
モカ「ムスッとしてる、でも怒ってないでしょう?」
実亜「え、どうしてそれが分かるの?」
モカ「だってあなたはいつも緊張してます」
実亜「最初から知っていたの?」
モカ「いいえ、カフェで見かけた時に」
実亜「え、カフェに来たことあった?」
(さすがにモカ君が来たら忘れないだろうけどな・・・。)
モカ「通りがかった時に窓から見えました、とても緊張してました」
1週間前。
モカが同じ警察官仲間の人と見回りをしていた時の話。
悠人「お!あのカフェの店員可愛いじゃん!見てみろよモカ」
モカ「え?」
悠人「ほら、あのカフェラビットって書いてある店だよ!」
カフェの中では実亜が料理を運んでテーブルに置いている最中だった。
モカ「そうだね」
悠人「でーも、あんな無愛想でキツそうじゃ男はできないだろうなぁ」
モカ「キツそう?」
悠人「だってあんなにむすーっとしててさ、接客向いてないって感じじゃん」
モカ「彼女、緊張してる」
悠人「え、緊張?」
モカ「うん、だって左手エプロンの裾掴んでる、
キツい性格の人はそんなことしないよ」
悠人「あー、言われてみれば・・・そう思うと可愛いく見えてきたかも?」
モカが呆れたようにじと〜ッと悠人を見る。
悠人「な、何だよー?」
モカ「何でもないよ」
そして現在。
(嘘・・・今まで誰にも気付いてもらえなかったのに。
言わなくても気付いてくれてたの?)
実亜「あ、ありがとう」
モカ「どうして実亜さんお礼言うですか?」
実亜「なんとなくよ」
実亜が気恥ずかしさで空を見上げた。
モカ「なんとなく、ですか」
モカも空を見上げる。
黒猫「にゃあ」
その時、黒猫が目の前を横切った。
それを少し遠くから見ていた少女たちが騒ぐ。
少女1「うわー、最悪〜!黒猫が横切ると不幸になるんだって!」
少女2「私も聞いたことある〜!やだやだー!」
少女たちが去った後、黒猫はモカの方へ寄って来た。
実亜「あら?モカ君の方へ来たわね」
黒猫がモカの足元に来てすり寄って来ている。
(きゃー!可愛い〜!!)
モカ「黒いだけなのにね」
モカはしゃがんでそう呟く。
少し切なそうな顔をしながら黒猫を優しく撫でている。
黒猫は嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らしている。
実亜も同じようにしゃがむ。
実亜「黒猫は目の前を横切ったら幸福になるとも言われてるんです」
モカ「人によって違うですか?」
実亜「少なくとも私はそう思うわ」
モカ「そうですか・・・実亜さんがそう言ってくれるなら良かったです」
実亜「黒猫、可愛いわね」
モカ「はい!凄く可愛いです!」
モカが満面の笑みで実亜の方に振り返る。
実亜「本当、可愛い」
モカ「はい、本当に」
実亜「・・・あなたのことよ」
モカ「はい・・・え!?」
黒猫「にゃあ?」
黒猫がモカから離れるとまた歩き出す。
今日もモカはこの街の平和を守っている。