第2話 厄災強襲
前回の登場人物
ヴァレッタ・アフート
アユーユの母。赤髪のポニーテールがトレードマークの肝っ玉母さん。腕っ節がとにかく強く戦闘センスの塊で、己の拳で戦うAランクのモンストルハンター。一度動けば敵を貫くまで止まらない赤き弾丸と呼ばれ、通り名は『レッドヴァレット』。
ユーヒ・アフート
アユーユの父。穏和だが芯のある人。医療魔導や歴史、生物学、その他にも様々な知見がある科学者。研究者兼ハンターで星の成り立ちを研究している。研究の為に竜人界に住み、そこでヴァレッタと出会い結婚して婿養子になる。無垢人だが魔導研究の成果と医療技術の高さを認められ、居住資格が認められている。魔導の力の根本はどこにあるのか、魂の在り処はどこかを研究している。
竜人界では強さこそ全てで、竜人以外は認められないという性質から迫害の対象となる。医療魔導師としては超一流だが、攻撃魔導は使えず、抵抗せずにじっと耐えている。幼いアユーユに『力ある者は力なき者を守れ、力なき者は子を守れ、子は守る者の背中を見よ、そしていつか強くなれ』とよく言い聞かせていた。
クラスター・A・マリリス
アユーユの8つ歳上で純血竜人。アユーユと1度模擬戦をしてから気に入り、そこから仲良くなり歳は離れているが今では友達と呼べる仲になった。代々国に仕える戦士として有名な家系で、成績も優秀で周りからも注目を集めている。一見すると飄々(ひょうひょう)としているが、仲間思いで熱い一面もある。風と炎の魔導を得意とし、竜気と合わせて様々な攻撃ができる。
リコリス・A・マリリス
クラスターの双子の妹。兄同様高い魔導適性と魔導技術でアユーユとも同じクラス。兄ほど仲良くはないが、悪い仲ではない。アユーユをただの知り合いだと言っているがなんだかんだ気にしている。
基本的には容姿端麗で優秀だが、兄と違って日頃から毒を吐きまくっているため人付き合いは悪い。一部からはその毒がたまらないと熱狂的なファンがついている。性格には似合わず治癒魔導、支援魔導が得意で後方から仲間をサポートする。
カレン・デュラ
アユーユの5つ歳上で白鳥型獣人と竜人とのハーフの女の子。アユーユが魔導学校に入学したばかりの時、行く場所が分からず困っているのを優しく案内し、その後も同じ半竜人ということでよく気にかけ仲良くなった。課外授業中に同じクラスの大人の竜人3人に襲われ犯されそうになった所をアユーユに助けられるが、その際にアユーユの魔力暴走に巻き込まれ怪我をする。
皆に転生者である事を打ち明けた翌年、俺達は無事に魔導学校を卒業した。卒業のタイミングは季節ごとに毎年4回あり、俺達は揃って春のタイミングだった。
首席はクラスター、次席は俺、三席にカレンで、四席にリコリスと俺達で春卒業の上位を独占した。リコリスは自分が次席になれなくて悔しがっていた。
それぞれの就職先はクラスターとリコリスは竜人界の軍隊であるドラゴンナイツで、幹部候補生として特別待遇で迎えられるそうだ。
俺とカレンは卒業前にハンター資格を取得したので、2人ともモンストルハンターのFランクからスタート。カレンは試験会場で一緒だった1つ下の女性とパーティーを組んで活動する事にしたらしい。カレンが認めるなんて凄い実力の持ち主なんだろうな。
俺達は卒業式の後、いつも休み時間に集まっていた裏庭の木の下に集まり学生最後の日を祝った。
「ホントあっという間だったな〜。俺達は魔導の目覚めが遅かったから入学も遅かったけど、飛び級が多くて慣れるのに大変だったな〜。3年で終わるとは思ってなかった」
「クラスターとリコリスは特に優秀だったしね。私は10歳で入学したけど、病気で休学したから飛び級もあったけど6年で卒業だよ〜」
「皆凄いよ。俺なんて2年次からの入学なのに7年もかかっちゃったよ」
「アユーユはそもそも4歳で入れるのがおかしい。よく入学試験突破したよな」
「まぁ4歳でも転生者で頭の中はおっさんだからな。理解力は年齢通りじゃない」
「それでも最低限自分の意思で魔導を発動させてコントロールしないと突破出来ないんだから凄いよな〜」
「それに最後の2年間はモンストルハンターカリキュラムも同時にこなしていたんでしょ?頭おかしいよね。普通別々に受講するものよ」
「それを言ったらカレンもだろ?」
「カレンとは歳が5歳も違うのよ?いくら頭の中がおっさんでも体力は子どものはずなんだからイカれてるわよ」
「それはドラゴニュートだからじゃないの?」
「アタシ達は皆ドラゴニュートでしょ。それなのに11歳のアユーユがモンストルハンター試験を最速合格したもんだから、同じ試験受けた奴らがイカサマだとか吠えてて話題になってたわよ」
「そうなの?だって山登って素材集めるだけの試験だったから簡単だったよ?カレンも早かったよね?」
「私はパーティー組んでたし相方も優秀だったからね。モンスター倒して手に入る素材を納品したからアユーユより少し遅れて納品だったの。アユーユは日頃からお父さんと一緒に薬剤の調合に必要な素材とかを集めてたから、素材の在り処を知ってて早かったのよね」
「うん、全種類知ってる素材だった。時間帯的に親のモンスターがいなくなるタイミングで行けそうだったから、巣穴にある卵を採集したよ。帰りに運悪く親モンスター出くわしたけど、熟知してる場所だったからサクッと逃げて来た。そしたら1番乗りだっただけだよ。だからたまたまなんだよなー」
「それを11歳がやってのける事が凄いんだっての」
「2人こそドラゴンナイツの幹部候補生で入隊なんて凄いじゃないか!エリート街道真っしぐらじゃん!」
「それは家柄の力も大きいからな。一族のほとんどがドラゴンナイツに入隊してて、上層部にも多いから」
「だとしても力がないと幹部候補生にはなれないでしょ。実際に隊を率いるわけだしさ」
「まぁそれはそうだけど…」
「とにかく、みんなで無事卒業出来て良かったわ。でもこうやって気軽に集まれるのも最後になるのね…」
「俺達は軍で休みは不定期だし、カレン達はハンターで忙しくなるもんな」
「私は家を出て旅しながら世界中を周るのが夢だったからね。準備が整い次第、相方と2人で島を出るつもり」
「そういえばその相方って誰なの?アタシ達も知ってる人?」
「ルビアス・コンティって子で、私の1つ下になるわ。魔導科学や魔導歴史学の権威であるベニート・コンティ先生の娘で、魔導がとにかく凄いの。魔導の知識と実力は私達より上よ」
「あ!その人知ってる!父さんの研究所にその人よく来てるよ。娘がいたんだな。もしかしたら研究所で会ってるかもね」
「ユーヒさんもイノセンシアから出向で来てたんだものね。昔からのご友人なのかしら?」
「それはわかんないな〜」
「アタシ達も会ったことあるよ。特別に参加させてもらってる軍の魔導訓練に講師として来てて、その人の事を見下してた訓練担当教官を模擬戦で秒で倒してたからよく覚えてる。娘の方も同時に3種類の魔導を無詠唱で出してて、あれが私よりも歳下だったって度肝を抜かれたわ」
「カレンはそんな凄い子とよくパーティー組めたね」
「たまたま話す機会があって、話してたら意気投合してそのままパーティー組んで、試験も難なく突破できたから、2人で世界中を飛び回って冒険しないって誘われたの。私も夢がそれだから誘いを受けたんだ」
「そうだったんだ。それじゃあこれからはカレン達の活躍がたくさん聞けそうだね」
「そうなれるよう頑張らなきゃね!」
そんな話をしていたらあっという間に暗くなり、卒業パーティーの時間が近づいていた。学校主催で毎シーズン卒業生にパーティーを開いていて、結構豪華な食事が出る事で有名だ。
「皆は卒業パーティーいくの?」
「俺は首席だし、軍へ入隊するのに学校最後の行事を欠席するわけにはいかないからな」
「アタシも同じくね」
「私は家族でお祝いしてくれる予定で、お店も予約してるからこのまま帰るわ」
「それじゃあ全員揃うのはここまでか。それなら皆に渡したいものがあるんだ」
俺は持っていた鞄の中から綺麗な箱を人数分取り出し、1人ずつ手渡した。
「開けてみて」
それぞれ箱を開くと、ミスリルのアクセサリープレートが入っている。
「卒業記念と、親友の証として作ってみたんだ。不器用で上手くはないんだけど…」
「綺麗なミスリルプレートだね。文字が掘ってある…『c.l.C.a We are best friends forever.』…アユーユが掘ったの?」
「うん、皆の名前の頭文字を魔導で刻んだんだ。それぞれ自分の名前が大文字になってるよ」
「俺達は永遠に親友だ…」
「読み上げられると恥ずかしいな」
「私も同じ気持ちだよ。どんなに離れていても私達はこれからもずっと親友よ」
「案外ロマンチストなのね、アユーユは」
「やっぱいらないかな…?」
「いらないとは言ってないでしょ!流行んないとは思うけど…アタシだってアンタとは腐れ縁だと思ってるわよ!」
「こいつ照れてやんの!ありがとう、アユーユ。大切にするよ」
「良かった…ありがとう!」
こうして俺達は魔導学校を卒業し、それぞれ別の道を歩み始めた。
ーーーーー 1年後 夏 ーーーーー
魔導学校を卒業してから1年後の夏、俺はモンストルハンターとして活動してハンターランクもDランクへ上がっていた。
カレンは亜人界を中心に『ディアラ』というパーティーネームで活動していて、もう既にCランクへ上がり新進気鋭のハンターとして活躍をしていた。直接連絡する事は少ないけど、その活躍は竜人界まで届く程であった。
クラスターとリコリスは、不審なモンスター群の殲滅や、無許可の魔導生物研究所を壊滅させるなど、ドラゴンナイツで早々に活躍をしてもう部隊長を任されていた。
皆それぞれの道で着実に前に進んでいる。
そんなある日、俺は父さんの研究所から依頼を受けて、新型の探索魔導機の受取りと配達のクエストに出ていた。クエスト内容は港のある外交の街、ヌッツンクで亜人界からの配達員に物品を受け取り、研究所まで届けること。急ぎの物だけど重要な物品だから、信頼できる人間にお願いしたいらしい。でヌッツンクは亜人界と精霊界に近く、外交が唯一許されている街だ。
竜人界は…厄災冥竜ルヴェーザは最終的に全世界を統合し、竜人族がそれを治める事を目標としている。
ルヴェーザが現れたのは約1000年ほど前で、出現と共に大規模な地殻変動が起き、大陸から竜人族の住むエリアが分離して今の竜人界の形になった。
ルヴェーザはドラゴンこそが至高の生物であり世界は竜人族が治めるべきだと説き、当時の竜人族は差別される事も多かったので、その圧倒的な強さと言葉を当時の竜人族は信奉し、ルヴェーザは竜人界の頂点となった。そして当時の竜人族の中でも能力の高い者に自身の細胞を埋め込み、その者達を中心に国を治め、能力至上主義のもとに竜人族を鍛えてきた。そして、一定の能力に達しない竜人族を皆殺しにした結果、全ての竜人族にはルヴェーザの細胞が体内に存在する様になった。その細胞はルヴェーザに逆らう事が出来ない代わりに、竜気珠という器官が体内に作られ魔力とは違う特殊な力を得て、他種族からの侵略や攻撃に対して圧倒的な力で迎撃したそうだ。
正直、転生者の俺にはなんのこっちゃって感じだけど、幼くても強ければ評価されるのはルヴェーザの意向だったからと思うと、魔導学校での待遇が良かったのは納得できた。
ハーフだから蔑んだり妬んだりとかでイジメられる事も多かったけど、俺には魔導の才能があったし、母さんが上級国民…ルヴェーザによる国民評価の上位5パーセントに入る強者だったからそこまで不自由なく過ごせてきた。父さんは無垢人だけど魔導研究の為と、高位の治療魔導が使える医師として俺達が暮らす街、シュールングに住むことを許されている。
俺も18歳で成人したら評価試験を受けることになるけど、見聞きしたことや魔導学校での様子を見ると、今受けても首都フォルティシムスに在住できる位は行けそう。その先の上級国民への昇格は流石に難しそうたけど。
そんなこんなで知力も含めた『力』こそ全てで排他的な竜人界の中でも、ヌッツンクだけは様々な国の人が行き交う。竜人界は基本的にあまり外交は行わないけど、様々な技術を高め合い、より質の高い竜人族をつくる為にこの街のみ外交を許可している。他の国はその事を分かってはいるが、厄災魔獣に直接攻め込まれると大きな被害が出るので、現状は防衛の観点から情報収集も含めて外交を行なっているみたいだ。
俺はハンターになる前から父と一緒に度々この街に訪れて、物品のやり取りや買い付けなんかを教えてもらってた。それもあって今回は研究所からハンター協会に依頼申請を出す際に指名されたというわけだ。
そして、俺は約束の物品を受け取る為に港の近くにある物流倉庫にやってきた。物流倉庫にはカフェが隣接していて、取引きの打ち合わせなどで使う人も多い。
今回はサイズも小さい物品だから、そのカフェで待ち合わせをして受け取る予定だ。
カフェは賑わっていたけど席予約してあるから大丈夫だった。まだ取引き相手は来ていないようなので、アイスアククを注文して待った。アククは前の世界のココアみたいなもので、木の実をすり潰して粉末にしたものに砂糖などで甘くしたもの。俺はそれにトッピングでブラックスライムの体液を入れてのむのが好き。ブラックスライムは苦味のある茶褐色系の薬草を主食にするスライムで、味も苦味があり、コーヒーみたいな味。薬草を主食にしていることもあり滋養強壮に良いらしい。アククがもの凄く甘いんだけど、ブラックスライムの苦味がアクセントになってとても美味しい。ここに来るといつもこれを頼んでいる。転生してドラゴニュートの体になったせいか、身体年齢的なもののせいか、味覚は前の世界から少し変わった気がする。
「お待たせしちゃったね、アユーユくん」
「よ!おひさ!今回は俺も一緒だぜ!」
そう声をかけてきたのは、背が高くがっちりとした体型で眉毛が八の字、目は細くて顎がしゃくれ気味のオーガの男性が今回の配達員であるディカーゴおじさんだ。そしてもう1人が身長は俺と同じ位で顎はおじさんより鋭角な少年…ディカおじさんの息子で幼馴染みのディアーゴだ。
ディカおじさんは世界的に有名なアゴイステン工房という武具や魔導機を製作する職人集団の一員で、主に各地への配達や修理品の受け取りを仕切っていて、配達では野盗等に襲われる事もあるけど自身で返り討ちにする程の武術も心得ている。ディアーゴは研究所によく届け物をするディカおじさんについてきて、空き時間にカードゲームやスポーツで俺とよく遊んでいた。
母さんの武具はほとんどがアゴイステン製の物で、今回は修理の終わった武器の受け取りもついでに済ませる予定だ。
「全然待ってないですよ。今注文したアイスアククが来たところです。おじさん達も何か飲みます?」
「俺もアイスアククにする〜」
「じゃあ私はコーヒーで」
俺は最近出たばかりの最新携帯端末、スマートリングを使って注文した。今までの端末は魔導石のサイズが大きく、リストバンドよりやや大きい位のサイズだったけど、最新のは性能はそのままに魔導石がかなり小型化されてて、ブレスレット位の大きさになっている。おかげで長時間つけても疲れず、デザインもオシャレになっている。
「それ最新型の端末だろ?いーな〜羨ましい!俺も欲しい〜!!親父買ってよ〜!」
「アユーユくんはもうハンターとして働いてるから買えるんだよ。ディアは頑張ってお小遣い貯めて買いなさい」
「俺も早く働きてーなー」
そんなやり取りをしていると、突然ガラスの割れるような大きな音がした。
「なんだいこの自動ドアは!あたいがいるのに閉まってきやがって!うっかりぶち壊しちゃったじゃないか!」
「うぉ〜い、ここの責任者は誰だぁ〜い?ウチの相方が困ってるじゃないの〜」
な、なんだこの異様な魔力は…。なんでこんな大きくて異質な魔力の接近に気付かなかったんだ!?
それにこの奇妙な見た目…。服装はセーラー服に似ている。女性っぽい見た目なのに声が野太く、身長は低い方が150位で金髪のおさげ、大きい方は175前後で深い青色のロングヘアーに赤いリボン。2人ともほぼ2等身で目が大きくギョロっとしていて手足が短い。明らかに既存の人類とは異なる体型だ。
「お、お客様大変申し訳ございません!お怪我はございませんか?」
「おうおうおう!怪我してなかったらええんか?どないなっとんのじゃこの店は?」
「いえ、そういうわけでは…」
店は不穏な空気になっている。ディカおじさんが見かねて2人の方へ行こうとしていた。
「待っておじさん!あの2人組…絶対ヤバい奴だよ。凄く異質な魔力してる」
「おじさんこうみえてもハンターランクはBだから大丈夫だよ。こういったトラブルは気性の荒いハンターにはよくある事だから」
違うんだおじさん。あの2人からは明らかに普通じゃない魔力を感じるんだ。おじさんは気づいてないのか?
おじさんは2人の方へ向かって行ってしまった。
「君達、あまり店員さんを困らせないであげなよ」
「あ゛ぁ〜ん?なんやワレ?あたいの邪魔しようってのかい?」
「自動ドアの扉が閉まるタイミングだっただけだろう?それをこんなに事を荒立てる必要はないんじゃないかい?」
「うちの相方が悪いって言うのかぁ〜い?」
「悪いとは言わないが、こんなに騒ぐ程ではないんじゃないかな?」
「ばかちんが!」
そう言いながら青髪の方が平手打ちを放った。それは尋常じゃない速度と威力でディカおじさんの顔を直撃した。おじさんはお店の壁ごと外へ吹き飛ばされた。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
それを見た女性客の悲鳴を皮切りに周囲の人々は慌てて逃げ出した。
「なんやぎゃーぎゃー五月蝿いのう」
そう言うと金髪のおさげは両手にマシンガンを構えた。何も持っていなかったはずなのにいつの間に!
「ディアーゴ!伏せろ!」
それと同時に俺達の周りに土魔導で壁を作った。
「何も終わっちゃいない!あたいの戦争はまだ続いてる!」
そう言うと金髪おさげは両手のマシンガンを乱射し始めた。弾丸の嵐に辺りの客は蜂の巣の様に撃ち抜かれ、逃げ遅れた人は次々と殺されていく。
「くそっ!いったいなんなんだあいつは!」
「親父は!親父は大丈夫なのか!?」
「わからん!俺の魔導壁でなんとか持ってるけど、隙を見つけて逃げないと!」
あいつら言動も行動もめちゃくちゃだ。早くここから逃げ出さないと。
「おいおいオプちんやり過ぎだ。ここは戦場ではない。カフェだ」
「はっ!プクク、あたいはいったいなにを!?」
マシンガンの音が止まった…。今のうちに逃げよう。
「ディアーゴ!今のうちに逃げるぞ!」
「親父を助けに行かないと!」
「わかってる、まずは外へ出て状況確認だ」
俺達は土煙に紛れて外へ逃げた。
外は地獄絵図だった。大勢の人が逃げ惑い、怪我人や死人も大勢いる。
「親父はどこだ!?」
確か入口近くから外に吹き飛ばされていたから近くにいるはず。
見渡すと入口の先にある海際に見覚えのある服が見えた。
「あれじゃないか?」
その場所へ行くと俺達は絶句した。
首から先が無くなっているけど、その服装は間違いなくディカおじさんの服だった。
「あ…あぁ…親父…お…親父……」
「くそぉぉ!俺がちゃんと制止出来ていたら……」
「親父ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
ディアーゴの悲痛な叫びは不幸にも奴らに届いてしまった。
「あらっ!?どうしたの?悲しそうな声を出して?」
「私達に何か出来る事はあるかしら?」
あろうことか1番声をかけられたくない相手からの言葉にディアーゴは感情を爆発させる。
「てめぇぶっ殺してやる!!」
俺は咄嗟にディアーゴを抱きかかえて背後の海のへ飛び込んだ。
その直後にさっきいた場所から大きな衝撃波が飛んできた。海中にまで届くその衝撃波で俺達は吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた俺達は運良く港の近くに停泊していた大型客船の傍に落ちた。
「なんだ今の爆発は?」
俺はディアーゴを抱きかかえながら海面に顔を出し、
「港で虐殺事件が起きてます!皆さん近寄らず距離を取ってください!それとドラゴンナイツに連絡を!」
船員の人が引き上げてくれたが、ディアーゴは衝撃で気絶している。
俺は急いでハンター協会に連絡を入れた。どうやら既に連絡は入っていて、Aクラスハンターが応援に向かっているらしい。
「くそっ!もっと早くに気づけていれば!このまま引き下がれるか!ディカおじさんの仇を取ってやる!」
俺はこの時分かっていなかった。自分の実力と相手との差が大き過ぎて正しく測れていなかったことに。
俺は風の飛行魔導でさっきのカフェへ向かった。
カフェへ着くとそこにもう奴らはいなかったが、市街の方で悲鳴が聞こえている。きっと奴らだ。俺は悲鳴のする方へ向かった。
そこには既にAランク、Bランクで名の知れたハンターや警察が取り囲んでいた。
「おうおうおう!寄って集ってか弱いあたい達を痛ぶろうっていうのかい?」
「ふざけるな!いったい何人の犠牲者が出たと思ってる!」
警察官が声を荒らげて話している。
「え、何人だっけプクク?」
「さぁ〜?」
2人ともすっとぼけた表情をしている。そして声がさっきの野太い声ではなくギャルの様に陽気で高い声になっていた。
「お前達は何者だ?」
2人は口が裂けるようにニヤッと笑った。
「知りたい?」
すると皮膚が溶けた金属のようにドロドロになり様々な形に変わりながら話し始めた。
「あたいの名前はオプペティ」
「ウチの名前はプクク」
「「お前達が厄災魔獣と呼ぶ者だ」」
その場にいた全員に戦慄が走る。
厄災魔獣…その名の通り人類に厄災をもたらす魔獣…。今までに確認されているのは9体。その内現在も存在が確認されているのは、魔人界の湿地帯にいる厄災爬虫アルバプチュ、どこかに封印されてるという厄災決闘エルード、出現後に行方がわからなくなった厄災侵食アボンジェ、竜人界の王になった厄災冥竜ルヴェーザ、そして最も現代に近い年代で出現した厄災魔獣No.9。それがこの2人組の正体だったわけか。出現したのは500年近く前で、魔力としては感知されているが、報告される姿が毎回違う為に正確な情報が残っていない。度々旅人や行商人を襲ったって記録があるくらいだ。
「人間と遊ぶのも楽しいけど、そろそろ先輩方にカチコミ行きたいなって思ってな」
「まずはてっぺん取ってるルヴェーザパイセンにカチコミ入れに来たってわけさ」
こいつらの目的はルヴェーザと戦うことなのか。ルヴェーザを誘き出す為に適当に大きな騒ぎを起こしたってところか。
「関係ない人を巻き込んむ必要はないだろ!」
ハンターの1人がそう怒鳴った。
「関係ないわけないのだよ」
「お前達の負の感情…負の魔力が星を汚し、その汚れた魔力から我々は生まれるのだから」
「知るかよそんなの!」
Aランクハンターがそう言い放ち炎魔導で攻撃を仕掛ける。
「だよね〜!だからあたいらが星の為にあんた達を殲滅するんだお!」
「ルヴェーザパイセンは自分が頂点に立つことで人類を浄化しようとしてるみたいだけどね」
2人は姿を女学生風に戻し、炎をものともせずに話を続けた。
「他のパイセンもそれぞれ自分のやり方で人類を浄化しようとしてるんだよね〜」
「ま、ウチらは物理的に全人類を殲滅しちゃえばいんじゃね?って事で遊びながら日々人類を虐殺して回ってるんだよね〜」
こんな形で厄災魔獣の成り立ちと目的を知ることになるとは思わなかったけど、こいつらの目的は人類の殲滅だから戦闘を回避することは不可能って事だ。これはまずいな…。
ディカおじさんを殺された怒りから追って来ちゃったけど、厄災魔獣なんて伝説の勇者や大魔導師クラスがようやく倒せるモンスターだ。今の俺が到底かなう相手ではない。それどころかここにいる全員、生きて帰れるかすら怪しい。完全に実力を見誤った。
「でも、ルヴェーザパイセンとは馬が合わないからカチコミ入れに来たってわけよ」
話している間も、Aクラスハンターは色々な魔導で攻撃を続けていたけど、直撃してもなんのダメージもない。
「ってか人が話してる時には静かにしろやボケが!」
オプペティがブチ切れてAクラスハンターを叩いた。Aクラスハンターは叩かれると横にあった建物を貫き数百メートル程ふき飛ばされた。
「これだから人類はダメなんだよ!」
「ステーィ、まぁまぁオプちん落ち着いて」
「ごめんごめん、鬱陶しくてつい。テヘペロ♪」
なんなんだこいつらは。デタラメに強く、ペースも握られて逃げる隙がない。そしていつの間にか2人の手には釘バットが握られている。
「という訳で、ルヴェーザパイセンが出てくるまで一緒に遊んでね♪」
万事休すか…。
「ペラペラ長話をしてくれたお陰で間に合ったわ。ありがとうよ、厄災魔獣さん」
そう言って現れたのは、救援申請を出していたドラゴンナイツの面々だった。
そこにはそれぞれ部隊の隊長になったクラスターとリコリスの姿があった。
今回の登場人物
ディカーゴ・アゴイステン
ディアーゴの父。背が高くがっちりとした体型で眉毛が八の字、目は細くて顎がしゃくれ気味。鍛冶師の才能がなく、完成した武具や魔導機を届ける配送部門の責任者をしている。武道の心得もあり荷物を襲う野盗も自身で撃退するほどの強さを持つ。アユーユの母へ武具を届けたり、父のユーヒに魔導機を届けたりしている。アユーユの事も知っていて家族ぐるみの付き合い。
ディアーゴ・アゴイステン
アユーユの幼馴染みで顎が鋭角気味な親友。跡継ぎになるために父と共に竜人界に商品を届けるなどしている。最近はアユーユと一緒にカードゲームにはまっている。




