第3話 私が魔族を信用できるようになったわけ
「お前をさらった理由だ。」
「あ…。」
聞けなかったこと。今、なんで…。
「200年前のこと、俺は恋をした。」
「へ?」
「急だろうが聞いてくれ。そいつは人間でな、いわゆる一目惚れってやつだ。」
「ほっほぉ。それで?」
「…女はどいつも恋バナに食い気味だよな…。常識というものをまだ知らなかった俺は彼女をさらったんだ。ただ、そいつは怯えなかった、お前のようにな。」
「いや、私、怯えてたし。」
「表面上の話だ。そいつは俺の言葉を聞き、しょうがないと俺の妻となった。だが、それもいつしか変わった。ある意味、調教されたんだろうな、俺は変わったんだ。ユーナ…俺の妻もしょうがないから本気になったと聞いた。」
……こいつ、馴れ初め話して何がしたいんだ…。
「娘を産んだ。魔族と人間のハーフのな。俺らは幸せに生きていたのだが……人間が奇襲してきたのだ。」
「!まさか…。」
「そう、マナと娘を失ったのだ。俺はもちろん怒りが止まらなかった。だが、復讐はやらなかった。マナと約束したからだ。」
「約束…。」
「”私だけじゃない…人間も愛してあげて”とな。改めて考えさせられた、今までしたことの悲惨さを。」
あぁ…だからこの人は優しくて…。
「って、それで私をさらった理由は!?」
「悲しい空気なのに冷静な突っ込みをするな、今から話すところだろ。」
「ひどい!」
「…知ってほしかった。」
知ってほしかった?
「人間の王にも、失う気持ちを。」
「それ人間愛せてる?」
「黙れ。」
たまに言葉強いよぉ…。
「それだけだったのに、お前はよく娘と似ている。代わりになれないのはわかっている、でも…。」
「魔王様がどう思おうが私は私。だから、ダメ、無理なんて考えはやめなさい。」
「…偉そうに言うな。まだ100年も生きてない赤子だろう。」
「別にどうでもいいですー。あんたが悲しまなければね!」
「お前…。」
「別に私のためじゃないし、メイドのみんなの気持ちが下がるだけだ、し…?」
ぐっとハグされた。たっぷり10秒たってから離した。
「さぁ、続きだ。不十分な魔法なんだから、完璧にしてもらうぞ!」
「へ?」
「返事は!」
「はっ、はいぃぃ!」
「きれいな剣になっているじゃないか。」
「当たり前でしょ。初めてなんだから、楽しいに決まってる。それに、仕事もないからね。」
「貸してみろ。」
「ど、どうぞ…?」
氷の剣を持ってはプロ職人のように見てから…。
バキンッ。
「なななななな、なにを!」
自分から、首にぶつけたのだ。当然、粉々に砕けたが。
「精度がよくない。俺の体にかすり傷でもつけれたら、完璧だろう。」
「いやいやいや…。」
「完璧にするまで仕事には戻れないぞ?」
暇嫌いとメイドのみんなを人質にされてる…。
「じゃぁ、図書館いってもいいですか…。」
「許可なんていらん。いつでも言っても構わない。だが、それで上達するのか?」
「さぁ。」
「まぁ、それなりの結果が出るはずだろう。頑張れよ。」
そして、4日目。
「お前、いったい何をした?その技術は誰も使えないはずだが。」
「魔王様、魔力って何ですか?」
「なんだ急に。それは、生物を構成するのに必要なものだが…。」
「では、魔素とは?」
「魔素?なんだそれは。」
「魔素は空気中にある魔力のようなもののことです。」
「マナのことか。」
「魔素は体内にあるものと比べて濃度が高いのです。」
「なぜそれを知っている?俺も知らないことをなぜ…。」
「うーん、勘?」
「お前…。」
嘘だよ。本当はね。
「マナを直接使うなんて、ごく少数だぞ?」
「体内の魔力がなくなったら何もできないでしょう?魔素はなくなっても動けばある。」
「馬鹿だが…卑怯ではないな。これでお前も1人前か。」
「えっ。」
「これから、お前は城外に出ることを許可する。お前は自由だ。」
「…逃げたりするとは考えないのですか?」
「それもお前の選択だ。俺は何も言わない。それに。」
?
「そんなことを聞くお前はやらないんだろ?」
「ばか。」
※
「―――と、いうことで、出かけるぞお前ら―!」『うおぉぉぉ!』
「あっはは…。」
6人くらいが張り切ってるのはいいものの、目立つのはやめてほしいものだ。
滑り止めのミリアもいないものだからブレーキが外れている。
だから。
「シークこれ!」「いやいや、こっちのほうが!」「喧嘩すんなって!」
どちらの服が似合うかで喧嘩したり。
「はい、あーん。」「あっ、ずるい!」「別にいいですけど…。」『シークは黙って!』「……。」
売ってあったクレープを食べさせてきたり。
「おりゃぁぁぁぁ!」「うりゃぁぁぁぁ!」「はぁ…。」
模擬戦で何かを賭けていて、本気でやってたり。
「すまねぇな、さすがに俺も冷静になったわ。」
「いえ。楽しそうならそれでいいと思いますよ。」
「まぁな。息抜きくらいにはなっただろ。」
「ですね。」
遠くから化け物を眺めた二人はため息を出しながらも、くすりと笑った。
みんなとはこれから大人の遊びとか言ってどこかに行ってしまった。
誘われたがもちろん断った。
「おい!」
後ろから叫ばれた。
びっくりした。周りはいない。多分私だろう。
「誰…でしょうか?」
「知らないのか。第3防衛隊特別隊員のリツだ。」
「えと…魔王様に仕えています。シークです。」
「シークっていうのか。それより、なんでこっちに行ってるんだ?城とは逆だろう。」
「えっ!?」
「土地勘がないのか、方向音痴なのか…。連れてってやるぞ。」
「お、お願いします…。」
しおれるように言った。
「あの…。」
「なんだ?」
「なんでここにいるか、お聞きしても?」
「あぁ。魔界に一番近い、クンタ村って知ってるか?」
「一応、魔族の手に落ちたとは聞きます。」
「俺らは元々。協力関係にあったんだよ。人間の政治はクソだからな。」
「昔からなの?」
「俺が生まれる前からずっとだ。どんなに望んでも返事がなかった。俺らを犠牲にしているようにな。」
初めて知った。お父様はそんなこと…しないはず。でも事実だ。
「わかった。もし、戻れたら、お父様に文句言っておくよ。」
「お前のお父さんに行っても意味ないだろ。王様でもない限り。」
「その王様が私のお父様よ。知らなかったの?」
「マジかよ…。というか、なんでここにいるんだ?」
「誘拐されたのよ。魔王様にね。」
「あの人は理由もなく、誘拐しないだろ。…何があった?」
「うーん、秘密。」
「まぁいい。見た感じ、悪くは思ってなさそうだな。いいだろ、ここは。」
「えぇ。王族として、恥ずかしくなるほどに。」
「ここを平和に保つためにも俺らは頑張らないとな。久々に人間と話せてよかった。」
「ふふっ、確かに。」
「っ。…つ、着いたぞ。さっさと帰れ。」
「ありがとう。また会いましょう。」
「お、おう…じゃ、じゃぁな!」
リツはすぐに走り去っていった。まるで急いでいるように。私のせいで時間取っちゃったのかな。
一方、リツはというと。
「……可愛すぎんだろ……。」
しっかり悶絶していた。
それから、たまにリツと会うようになった。
「おーい、シーク。手紙が来たぞー。」
「私に手紙?いったい誰から…。」
そこにはリツと書いてあった。
〈シーク様。いかがお過ごしでしょうか。またいつか、会って話したいのですが、空いている時間を教えてほしいです。返事は第3部隊に送ってください。〉
不器用な魔族語で書いてあったのだ。
「リツって誰?」
「服買いに行ったときに会った人間よ。」
「男?」
「うん。」
「ふーん。」
「何にやついてんのよ。」
「べっつにー?ほら、返事書いてあげなよ。」
「だから、何そのにやつき!」
「リィィィィィィィィツゥゥゥゥゥゥゥゥ!どこ行きやがった!」
「隊長、あそこにいますよ。」
「どうしたんですか?」
「おぉ…?お前どうした?いつもらしくない。」
「最近ずっとこれっすよ。」
「そ、そうか…?…じゃなくて!お前、今日のやること覚えてるのか!?」
「終わってますよ?」
「不備だ。全く…。来い。」
手を引かれるままに連れていかれた。
「……。」
「どうした…。いつも反抗する癖に。何かあったのか?」
「や、あの…。」
「好きな人でもできたのか?」
「えっ…………。」
「ガキが。いいじゃねーか。そりゃ考えもするな。」
「隊長…。」
「そいつがいいのか?」
「ぇ?」
「そいつじゃないとダメなのか?」
「そ、れは…。」
「早すぎたか。おら!」
隊長がバシンッと背中をたたいた。
「ぃぎっ!?」
「まぁ…。本当に守りたいものがあるのなら全力で守れ。それが俺らにできる最善のことだ。」
「はい!」
何かが抜け落ちたかのようにまたリツは元気を取り戻した
「ガキが。青春か…。」
〈リツ様。手紙をありがとうございます。日にちはいつでも構いません(ほかのメイドが何とかするとうるさいので)。そちらの予定で行かせてください。〉
「―――—!」
声にならない声を出して歓喜していた。
リツはすぐにペンをとった。
それが私たちの関係の始まりだった。
時には食事に行き、時には公園に行ったり…….
時には第3部隊に行ったり。
それからというもの、メイドたちや部隊の人たちに煽られてばかり。
でも、みんな悪くは言わない。
優しさを改めて感じるようになった。
過去と今、打ち明けられたから、私は真に魔族を信用できたと思う。
※
「さぁ、魔界祭がはっじまるよー!っということで、第2963回魔界最強決定戦を開始しまーす!」
パンパンと花火があがる。
それで、私なんだけど。
「……なんで参加しないといけないのぉ…。」
闘技場の真ん中で立っていた。