勇者が子供だった
勇者様が子供だった。
世界中で有名なあの勇者様が。
とても信じられないかと思うが、魔王を倒して各国の王から賞賛されて、年上の美女を何人も侍らせているという、ハーレムなあの勇者様が。
各地で頻発するモンスターをいつも即座に討伐しているというあの勇者様が。
一年前に全ての魔法を習得したという、あの勇者様が。
誰も対等に戦えないという、理不尽な強さを持つ勇者様が。
そんなものなら、普通もっと年をとっていると思うだろう?
なのに、子供だった。
十歳未満のお子様だった。
一体、どういう事だ?
勇者様のお忍び姿を偶然目撃しちまったんだが、めっちゃ子供だったんだが。
まじで、俺は何を見たんだ?
思えばおかしいなと思う点はあった。
誰もが見惚れる美女を侍らせているらしいのに、誰とも恋仲になっていないようだし、浮ついた話がない。
侍らせる、というより近くにいる美女は勇者様より年上ばかりだから、熟女が好みなのかと噂されているが、年齢を考えれば納得だ。
それに、各国の王が褒美として何かをあげようとしても、勇者様がもらったのはお菓子だけだったという話がある。
欲が無くて、謙虚で、色恋には興味のない人なんだろうって話だったが、子供だったのなら納得だな。
功績が多い事は、長い修練を積んだ事だと思っていたけど、天才だったならその必要ないよな。
普通なら長い時間かかるから、一般常識に照らし合わせて、それで思いこんでいた。
これっていいんだろうか。
俺達子供に戦わせちゃってるよ。
いいんだろうか。
うわあ案件なんだが。
人としていいんだろうか案件なんだが。
俺、まだ独身だけど、これから先いいお嫁さん見つけて、子供生まれた時、まともに子供の顔見れるかな。
国民に犠牲を強いるような世界にしたくない。
そういった各国の王様の演説を聞いたのは1年前。
魔王が暴れ始めた時、各国で王様になった人たちが、不安がる国民に演説した事があった。
その時は立派な王様たちだと思ったよ。
こんな王様なら、俺達のてっぺんを任せられるって。
それで、無理な徴兵はなくなって楽になったけど。
だからって、子供に押し付けて良いものなのか?
命のやり取りを、大人にもなっていない子供に?
まだ満足に自分の判断もできやしないだろう子供に?
勇者様は、才能があって確かにすごいんだろう。
様々な功績を残していて、俺達が戦うより、よっぽど良い結果を残せるんだろう。
でも?
子供だぜ?
剣を持って戦うより、棒切れをもってごっこ遊びしてなきゃいけない時期の。
誰かを守るより、人に守られていなきゃいけない時期の。
本当にそれで良いのか?
数年後。
モンスターが出たぞ!
村人の声を聞いて、俺は剣を手に取って現場へ向かう。
俺が組織した、自警団の出番だ。
ただの一般人である俺にはこれくらいしかできない。
自分の村を守る事くらいしか。
俺一人じゃ、世界の在り方を変える事なんてできないけど。
それでも、少しでも勇者様の負担を減らせるならと思って、モンスターと戦う道を選んだ。
村の近くのモンスターなら、雑魚ばっかりだし、俺達のような一般人でも頑張ればなんとかなるしな。
正直おっかないし、危険は少なからずあるけど、子供の背中に隠れる大人にはなりたくなかったんだ。
ーーモンスターが出たぞ!
ああ、今日は数が多いな。
でも頑張らなくちゃな。
勇者様が少しでも健全な子供時代を過ごせるように。