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9/11

9: 不可解な経験

この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグ(下巻)です。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。


 《あらすじ》

1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?


日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。

そしてその異文化の果てには・・・


その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…


モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。


荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。

そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…


本編も宜しくお願いいたします!

海上を少し警戒しながら進んでいったが、今のところストームのような場所は確認できない。するといきなり左側の遠くの島陰から船が出てきた。「あれは海賊よ!」とジュリアが言った。黒塗りで無骨な高速船であった。「やばい!どうする?」と僕は焦った。そして海賊船は僕らのホバージェットに接近してきていたのだった。「あれ絶対に海賊船だから、先手必勝よ! ヒデ、後ろのレーザー砲で撃って! 私はボムアローの準備をするから。」と言いジュリアはカーゴルームに行ってしまった。僕は言われた通りにすぐに後部のレーザー砲をオンにしナビ画面を見ながら海賊船に照準を合わせていつでも打てるようにした。ジュリアは後部ハッチを開けて外に出てた。「私が合図したら打ってね!」と言い、僕は船にロックオンしていた。100メートルぐらいの距離に近ずいたあたりで、ジュリアが「ヒデ、いいわよ!撃って!」と叫んだ。僕はトリガーを引いて1発目を撃ち命中した。しかし、レーザーディフューザーを装備しているようで効果がなかった。僕らはフルスロットルで前進しながらもう1発撃ったがやはり効果がない。僕らも後方にディフェンスのためにレーザーディフューザーを張った。先方も甲板のレーザー砲が動きこちらに向けてきた。「ヒデ、来るわよ!」、レーザー砲が発射されてくらった。しかしディフューザーのおかげで地震のように振動しただけで済んだがもう1発撃ってきたのだ。この2発立て続けにくらったのがディフーザーの減衰力を弱めてさらに振動が大きくなった。どこかに被害が出たかもしれないと思える大きな衝撃であった。


その時いきなり前方の視界の天気が悪化し僕らは嵐の中に入って行った。そして暗く深い霧が視界を遮ぎる海の先に島が見え隠れしていた。「ジュリア、来て! 前に島が見えるよ!」、ジュリアが中に戻り一緒に確認した。「そうね。この島がそうね。じゃ 近いからこのまま振り切って逃げましょう!」、僕らは荒れた海の中をフルスロットルで前進していった。島に近ずづいた時に、何かテレパシーのような感じでメッセージが頭に湧いた。『そのまま上陸せずにまっすぐ進め』というイメージだった。「ジュリア、今テレパシーを感じた?」、「感じたわよ! まっすぐ進めって言ってたわね。このまま上陸しないでいきましょう!」、右側に上陸が可能であったのだが、さらに先が見えない霧の中を前進して行った。海賊船も僕らに追いついて来ている。きっと横につけて乗船してくるのであろう。追い付かれそうになったその時に海賊船は荒れた海上でいきなり止まったのだった。そして船は海の下に引っ張られているように見えた。よく見ると蛸のような吸盤がついた大きな太い足が海賊船を海の下から取り込もうとしているところであった。海賊たちは驚いたように甲板に出てきて必死に取り除こうとしていた。ブラスターガンで撃っていたが全く効果がないようである。抵抗をしている間にさらに巨大な足がいくつも現れ海賊船を取り囲んで船尾から半分ぐらいが沈みかけている。岸辺まではあまり距離がないため、海賊たちはパニックになり海に飛び込み陸を目指して一目散に泳いでいる。船はどんどん沈んでいき、最後の海賊が海に飛び込んだのだが、巨大な足に絡まれて海に沈んでいった。残った海賊達はギリギリ上陸できたようだ。命拾いしたという感じで陸地に「はあはあ」と言いながら座り込んでいる。海賊は残り9人だ。彼らが上陸した岸は背後に山がある岩場の丘のような地形になっており、その丘の上をよく見ると、獣のようなシルエットが10頭姿を現した。『なんだろう?』人間よりはかなり大きな獣だった。細かくは目視できなかったのだが、ライオンかオオカミのような頭部で、体がクマのような筋肉質のシルエットであるが体毛はなく鱗のようなものが全身を覆っている。そして2本足で立っている個体もいるが4本足でいる個体もいる。あれがジュリアが言っていた獣人の守護神なのだろうか? そして、その獣人達は海賊達を目指して雄叫びをあげながら4つ足でもの凄い速さで丘を駆け降りてきた。海賊達はブラスターガンやサーベルで応戦していたのだが、その甲斐はなく悲鳴をあげてあっけなく獣人達の餌食になってしまったのだった。その光景は凄惨そのもので海賊達の血肉があたり一面に散らばっていた。あっという間の出来事で僕らも驚いて呆気に取られていた。あれが『アトランティスの守護神』というものなのだ。恐るべし。そしてすでに彼らの海賊船は跡形もなく沈んでいた。これが、悪天候で遭難する船舶があると言われる所以であろう。そして僕らは導かれるままに霧の中を進んでいたのだが、しばらくすると霧が薄くなり陸地が見えてきて、微かに港のようなものも見え、また、『上陸して降りろ』とメッセージが伝わって来た。僕らは送られてくるそのイメージに従った。ガリオンをアウェイクモードにして、荷物を持ち艇を降りて誘導されるがままに歩き出した。この辺り一体はまだ薄い霧に包まれている。


港と言っても軍港のようであるが、人の気配は全くなく、先に進んで行くと人が乗れるトレー状のゴールドに輝く金属のような物体があり内部が青く光っていた。そこに乗れと言っているようで僕らは2人同時に乗った。すると音もなくそのトレーはスーッと動き出したのだった。動力の仕組みは不明であるが、リニアモーターカーのように無音で進み山間を抜けるトンネルの暗い空間を高速で進んでいるようであった。暫くするとトンネルを抜けていきなり青空が広がった。そして目に眩しいグリーンが生い茂る南国の島が姿を現してきた。遠くにはギリシャ風の街並みが見えてきて、沢山の人間がいる街を確認できた。人々は麻のような服に身を包んでいるが、風貌が我々と微妙に違っているように見える。身長は高く人間を上に少し引き延ばしたようなバランスで頭も胴も手足も長めである。そして肌の色は青褐色であった。我々が乗っているトレーは街の中心にある神殿のような場所を目指して中に入って行った。変わった意匠の鎧をつけた衛兵が数名入口をガードしていたが、そこをスルーし王の謁見の間のような大きな部屋に入り止まった。僕らはそのトレーを降りて無言で部屋の奥に歩いて行った。またさらに衛兵が10名立っている。どうやら衛兵達の鎧の型からすると、全員女性である。その奥に王が玉座に座っているようだが、何かの超音波のような音がしてその衛兵は5名・5名に両脇に分かれて控えた。すると前方に玉座が見えて王を視認することができるようになった。


ゴールデンカラーの鎧のような衣装に身を包んでいる巨大な何者かを確認した。

目が大きく光り肌の色がグレーではあるが色々な色が混ざってグレーに見えるという皮膚であったが、まるで爬虫類の鱗のようにも見えた。人間のようなシルエットではあるが細長い体型であり身長は3メートルはあるであろうか? 王なのか?女王なのかは?は判別がつかなかった。エーテルのような気体で包まれているようではっきりとは確認できないのだ。音はなく、その王からはまたもやイメージが送られてきた。これがテレパシーというものなのか?と思った。隣でジュリアがイメージで交信しているのを感じた。長いストーリーを映像イメージでその王に送っているようだ。なるほどミッションを伝えているのだ。王から僕にも『異世界から来たのか?』というイメージが送られて来たため念で『そうだ』と答えると、僕らに伝わってきたのが『今日1日だけだが、ここに滞在してみてくれ』という内容であった。僕らはそれに対してイメージで『ありがとうございます!』と感謝の意を送った。


すると衛兵の中の1名が僕らに近づいてきて、ついて来るように無言で指示を出した。僕らは振り返ることもできずにその王の間を出て、自然に衛兵の後に付いて歩き出し宮殿内の部屋に通された。しばらく寛いでいてくれと伝えてまた戻って行ってしまった。

この部屋は来客の間のようでフロアーもテーブルも椅子も大理石で作られている。テーブルにはオートミールカラーの陶器の器があり、トロピカルフルーツの盛り合わせとミネラルウォーターが置いてあった。僕らは勧められた通りに無言でフルーツを食べ水を飲んだのだが、自然の味わいでとても美味しかった。というより感覚が鋭くなりより味わえたと言った方が正しいのであろうか? しばらくすると道すがら見た人々と同じような出で立ちの若い女性が1人入ってきて挨拶をした。僕らがイメージするエジプト人のような風貌である。また彼女もテレパシーで私に付いて来てというイメージを送って来たため引率されて宮殿を出た。宮殿を取り囲む建造物はギリシャ風の様式であり国の庁舎的なものであろうか? 遠くにピラミッドのような巨大な建造物もあり白く輝いている。そして3つの運河にかかる橋を渡ったような気がするが、その先の一般的な住居地エリアに入って行った。この辺りは柱や床などの住居の骨格だけが大理石で作られているだけで、木材とヨシ・アシのような自然素材で屋根部分や壁・間仕切りを作ったり、吊り下げ式のフロアーをハンモックのようにしてベッドルームにしたりと、自然素材をそのまま使い家中全てがセンスよくナチュラルにコーディネートされていた。家の真ん中にテーブルが置かれそれも木材でできていた。一見プリミティブにも見えるが、それよりもエコでナチュラルという表現が合っていると思った。インテリアにこだわる僕が見ても、僕らの世界では考えられないような斬新なスタイルではあるが、『これもありだな!』と思えるセンスの良さで生活空間が造られていた。自然の光と風をうまく利用した理想的な住居で部屋の設定やインテリアは各自自分の好みで設定できる仕様になっているようだ。材料は限られているものの内装としてはかなり居心地が良さそうにも思えた。またキッチンのような場所のシンクには常時冷水が流れておりその水流がトイレを経由して通っている。ここの気温は昼で25度ぐらいなのでとても過ごしやすい。僕らはアーマーを着ているが、ここの人々は麻の服をギリシャ人のように懸衣として纏っているだけなので、季節は1つで年間一定しているのだろうと想像できた。僕らはこの部屋に泊まることになるので荷物を置きアーマーも脱ぎ夏服に着替えた。彼女は初めて見る空間に驚いている僕たちを連れてこのエリアの集落を親切に案内してくれた。広大な農地が広がり家畜などもいるが、そこで労働している人は見受けられなかった。あたりを見回すと、この島は山に囲まれているはずであるが、見渡す限り農地が遠く彼方まで広がっているだけで山の輪郭は見えなかった。不思議な空間だ。民家も農地ごとに広がっており、この時間は自宅でくつろいでいるのだろうか? 出かけているのであろうか? またマーケットのようなエリアもあり食材や必要雑貨、服などの必需品などが並べられている。話し声も聞こえてこないなんとも不思議な街である。色々見て回ってからまた同じ家に戻ってきた。彼女はその家の隣に住んでいるようだ。僕らがリビングで寛いでいると、彼女の家からお茶とお菓子を持って来てくれたのだのだった。お茶はハーブティーのようなもので、お菓子は甘い木の実をすり潰して練り上げたようなものであった。頂いてみるとどちらもオーガニックテイストで体に良さそうである。そして彼女の方からまたテレパシーで僕らにイメージを送ってきた。あの王様のことである。『彼は古代からの代々の王家の末裔でこの国を治めている。王は長生きで何百年生きるらしい。私達はあの王の祖先によって造られたものでとても感謝している。王は気候も含めて風・雨・土・金属・水・気温や太陽の光などのすべての自然現象をコントロールしている。そして悪しきものがこの国に来ないように見守っているのだ。この国の人々は悪人はいないし、みんなで助けあい生きている。貴方たちは善人だということを王から聞いているので、私も是非友達になりたいと思っている。』とのことであった。僕らも、僕らの国のことをそれぞれ彼女にイメージで送ってみた。どうやら伝わったようであるが、やはり特にジュリアの未来社会に彼女は興味を持って驚いたようだ。アンドロイドというものはあまりイメージがつかないようである。僕らはこういったテレパシーでのやり取りに慣れて来てはいたが、やはり長時間になると結構疲れてきていた。彼女とイメージ交換するときに、驚くことに僕とジュリアの間でもテレパシーが通じたのだ。そんなやり取りを長時間続けていたが日が落ちてきた。彼女は『この時間はとても重要なのだ』と言って外に出た。僕らも出てみると、なんと住民全員が外に出て陽が落ちる方向を向いているのだ。そして彼女からのメッセージで落ちる前の太陽を3分ぐらいじっと見て感謝してほしいということである。その太陽エネルギーによって私たちのエレルギーが満たされ、また超能力の開発にも役立つのだということであった。そして僕らも彼らと一緒に太陽を眺めた。確かに不思議なことにエネルギーが充電されたような気分になった。しかし少し妙に思ったのだが、僕らの世界の太陽とは何かどこかしら違って見えたのだ。そして間もなく陽が落ちて夜になっていった。


 彼女はまた自分の家で簡単な料理を作って持って来てくれた。ピザのようなものとフルーツとサラダであった。量はないが、これもオーガニックでトマトとバジルにオリーブオイルの味付けでシンプルであるが、オーガニック特有の深い味わいでとてもおいしかった。3人で一緒に食べて、またテレパシーで語り合ったのだ。昔はかなり固定化された階級社会であったが、今の王になってからはそれが撤廃されて、人々は良き人物になるために日々鍛錬しているとか。そして王が認めた人物は地底王国に行けるのだというのだ。やはり地底の国は実在するのか? そして地底の王国は素晴らしい理想郷で精神的に上位のものだけが入国できるのだという。僕らが思うに私物というものがまるで存在しない精神社会なのだと感じた。そして王族以外は皆平等で、利己的な考えがまるで存在しない、富の蓄積という概念も全く存在しない社会なのに驚いた。確かにこういった純粋な人々を、強力な誰かが外部の世界から守らないと、こんな理想社会は成り立たないのだろうと僕もジュリアも思ったのだ。これはいわゆる地球の浄化運動ということなのだろうか? ある意味、この世界の『ノアの方舟』なのだろうか? いやここがノアの方舟なのか?

王は浄化された魂をもつ人類や生き物を選別して地底の王国に送り込み守る・・・なるほど奥が深い話だ。僕らの世界でも都市伝説として地底の世界が存在するが、そもそも『火の無いところに煙が立たない』というように、何かしらの実態が双方の世界に共通しているのかもしれないと考えさせられるような話を彼女から聞いて、僕らのイメージは広がりに広がってしまった。


 そして彼女は明日の朝また迎えに来ると言い残して帰って行った。

 僕とジュリアはあまりの文化の違い、いや世界の違いに少しの間無言になりぼーっと色々と考えていた。今日一日実際の会話をしていなかったので、逆に会話をするという行為自体を忘れていたのだった。実際声が出なくなったような気もしたのだが、僕が思い切って声を出してみた。「ジュリア、大丈夫?」声が出た。「大丈夫よ。すごい話よね・・・ここっていわゆる桃源郷ということなのかしら・・・」、「なるほど、そういった考え方もあるよね。」そして、ジュリアが、「ここで過ごしていると私達の超能力がアップするような気がするわ。テレパシーもそうだけど、サイコキネシスとかもできるようになる気もするの。多分ヒデの場合は千里眼能力もアップするんじゃないかしら?」と言った。この部屋の中二階にあたるフロアがベッドルームになっている。夜になり風が適度に出て来ているので、二二度ぐらいに下がっただろうか? 僕らは縄梯子を上りその中二階に上がった。ヨシでできたハンモックのようなフロア構造で、そこでそのまま寝転がっても気持ち良さそうである。ある意味日本の古民家のような構造なのかもしれない。隣家との硬い壁のようなものはなく、民衆は共同住宅に住んでいるようなものである。籾殻のようなものでできたピローもあり僕らはそこに横になった。一階フロアには太陽光や風力による蓄電による小さな照明があり、その光は空間を回って、このベッドルームには適度なナイトライト的な光となって届いていた。『これ!経験があるな!』と思った。『そうそう、テントキャンプだ!』と頭の中でイメージを置き換えてみて納得した。意外にテントでのキャンプは気持ちがいいのを思い出した。テントの薄いファブリックを通して自然の変化を全身で感じることができる空間に、自分の体温が溜まり温もりのある空気となる。また基本は移動を目的にしているから生きるための必需品以外は持たないため『物が無い空間』となりそのシンプルな潔さが気持ち良いのだ。そして、そのような空間の中で、仰向けになり今日のできごとを振り返ってみた。僕らにとって良いところなのか?そうでもないのか? このシンプルなことまでもまるで判断がつかないほど理解が及ばない出来事だらけだった。しかもテレパシーでのコミュニケーションというものは慣れないせいか物凄く疲れた。「今日は疲れたわね!」とジュリアの声も疲れ切っていたので、僕らはゆっくりと寝ることにした。一晩中風がわたり心地よくぐっすりと眠れた。


 そして朝が来た。不思議と疲れを全く感じられなかった。食べた量も少なかったのに、お腹も減っていないので水を飲んで身支度が終わる頃に例の隣の女性が現れた。『おはよう! さあ宮殿に向かいましょう!』というので、僕らはまた彼女について宮殿に向かった。また昨日と同じようなフォーメーションで王と衛兵がいた。そしてまた僕らは王の前に連れて行かれた。王からのメッセージを受け取った。『昨日はどうだったか?彼女から君たちは良さそうな人物だとは聞いている。今回はこれでお別れだが、もしまたここに来たくなったら、テレパシーメッセージを送ってくれ』という内容であった。それに『ここの滞在で君らはギフトを受け取ってくれたと思う。』と意味がよくわからないことも付け足していた。僕らは取り敢えず『ありがとうございます! また連絡します。』とメッセージを送り、感謝を現して王宮を後にした。行きと同じように衛兵が一人付き、また移動するフロアーに乗って港のホバージェットまで戻ってきた。頭の中で整理がついていないのだが、名残惜しい気もしながら搭乗しエンジンをかけた。しかしエンジンが掛からなかった。ジュリアも焦って色々と点検しトラブルシューティングをしていた。「これは、蓄電池が問題ね。あの時海賊からレーザー砲を受けたから電気系統がダメージを受けたのかも。」ガリオンを繋いでセルスタートするような要領で一度エンジンをスタートさせ止めないようにすることにした。ということはあまり長距離移動ができないことにもなるのだ。「今回はあのマーメイド・アイランドには戻れないわね。残念だけれども・・・この先のスペイン・ロンダに戻れば修理ができるから、ここから近いこともあるし、一旦スペイン地下街に向かいましょう!」と、予定外のスペインに戻ることになったのだ。お陰様でこれでめでたくも北半球一周となる。

 出発前にナビ画面にあるレーダーを確認したところ、驚くことに西アフリカのモロッコ沿岸付近から爆撃機らしき大きめの機影が10機程ここちらに向かってくるのを確認できた。すぐさま衛兵にこれを見せたのだが、例によってテレパシーで返答が来た。『帝国軍の爆撃機が来てるのはわかっている。問題ない。王が殲滅させることになっている。君たちは少しここで待って、それが終わってから出発するといい。』という余裕のメッセージを残してその衛兵も宮殿に帰って行ってしまった。


 ユーラシア帝国とは、西ヨーロッパを除くユーラシア・アジア大陸に跨がる大帝国である。その帝国にイスラム・アフリカの首領を元首とした幾つかの国々も組みしている構図となっている。対する自由連合は、西ヨーロッパ、カナダ・アメリカ、そしてオセアニアのオーストラリア・ニュージーランドなどで取り巻く構図である。ユーラシア帝国は、このアトランティスの存在を知り、超高度に栄えた科学技術や豊富な鉱物を取り込もうと考えているとは、先日、ハドソンベイ・ウォーターシティのシェウチェンコ氏からは聞いてはいた。そもそもその件で、アトランティスとは帝国に関する情報のやり取りで交流ができたようだ。核爆弾を使用し世界を破滅に持って行ったのは帝国側である。今回も帝国はアトランティスに向けて核爆弾を使うのだろうか? アトランティスは、これまで、敵対的でもなく協力的でもなく他国の繁栄には無関心にまるで天界から下界を眺めるように中立な立場に立っていたのであるが、帝国側からの宣戦布告を受けることになれば、状況は一変すると思われる。


 右手の東南の方角の空を見ると、すでにもの凄いグレーのグラデーションの恐ろしい空模様となっており、竜のように爆裂する雷が激しく濃いグレーの雲の塊の間を駆け巡っていた。時折凄まじい爆雷音がいくつも遠くからこだまして来る。するとメッセージイメージとして脳内に画像が送られてきた。帝国軍の爆撃機は、雷が落下し操縦不能となって海に墜落したり、上空からもの凄い強力な突風に叩きつけられて海にバラバラになって呑み込まれていったりと全て壊滅してしまったようだ。ジュリアにも、このイメージのことを話したところ、『私も見えた!』と言っていたので、宮廷から送られてきたものなのだろうと推測した。


 時の経過がよくわからないままメッセージを受信していたが、そのうちイメージが変わり穏やかな晴れた空と海に変わった。多分戦闘が一方的に終わったのであろう。このアトランティスの迎撃は言い方を変えるとやはり『魔術』といえるのかもしれないと思った。『アトランティス怖るべし』人間界のものとは思えない自然の力を操る王が君臨する神秘に満ちた島。僕らは宮廷付近しか見ていないわけであり、もしかしたら、ここは島ではないのかもしれないとも思った。それは無限の空間が広がる別次元への入り口なのかもしれない。今の僕の頭では到底理解不能なような気がした。これから気になるのは・・・果たしてアトランティスは報復に動くのか?

可能性があるとしたら、『神の見えざる手』のように、自然界の摂理の中で起こるのかもしれない。それが、かつて僕らの世界で起きた『ノアの方舟』のような気がして強烈なイメージが頭に浮かんだ。


 僕らはホバージェットで海に戻り、来た道をそのまま戻っていったのだが、また来た時と同じように嵐模様となった。気にせずに嵐に突入し進んで行くと一気にまた南国の晴れた海が現れてきた。よかった。元の世界に戻れたのだ。ジュリアは今回の件を簡単に日本にいるソフィアとジュリアの友達の日本で待っているイメルダ達にメッセージを送った。そして充電池の不具合で予定を変更してスペイン・ロンダに向かうことも伝えた。アトランティスでの昨日の出来事はまるで夢の世界でのことのように感じながらスペインに向けて再出発したのだった。


 僕らはエンジンを止めないように、つまり休憩をしないように、短時間でスペインに着く進路を取った。ジュリアが、「私、なんとなく超能力がついたような気がするわ。まずヒデとはテレパシーでコミュニケーションができるし、戦う時の相手の取る動きの先が予測できるようになった気がするの。それと自分をヒーリングする能力もついたわ。そういう意味ではあそこに行ってみて本当に良かったわ。」、「僕もまだテレパシーで話せる気がする。それとなんかわからないんだけど自信がついたよ。この自信が何に役に立つのか今の所わからないけどね。」、「お互い、いつかどこかで証明できるかもね。」そして、ジュリアが続けた。「このテレパシーって、いいかもね。テレパシーって言葉のように詳しく伝えられないでしょ。イメージだから。でもそれがダイレクトに意思を包み隠さず伝えているってことがピュアでいいと思うの。逆に言葉は意思の伝達を複雑にしていたり、本心を隠す道具になっているんだなってことが今更わかったわ。だから逆を言うとあの国の住人は善人だけなのよね。テレパシーだと本心を隠すことが出来ないんだから。言葉って実は人間関係や社会を複雑にしているのかもね。」、「なるほど! 確かにそういうことになるね!」と僕はジュリアが言ったことに全面賛成で同意した。そして内向的な性格のジュリアらしい意見でもあった。


彼ら2人の不思議な体験の始まりです! 是非彼らが訪れたアトランティスをイメージしてみてください!

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