5: カナダミッションスタート
この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグ(下巻)です。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。
《あらすじ》
1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?
日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。
そしてその異文化の果てには・・・
その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…
モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。
荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。
そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…
本編も宜しくお願いいたします!
ホバージェットに乗り込みナビにルートを登録した。次はバンクーバーだ。少し天気が悪く海上は荒れてはいたがこのまま海岸沿いを南下すると到着する。沖に出るとさらに荒れが酷くなりフロントスクリーンに波が被るほどだ。今までは天気に恵まれずっと快適な旅をしてきたのだが、初めて船に乗っている感じがして油断すると酔いそうな気分だ。波があるために速度も出てこない。明日の天気予報を見てみると今日よりは天気が良さそうなので僕らは予定を変更してカナダに入りすぐのクイーンシャーロット諸島のメインランド・ハイダグワイ島に上陸することにした。この島は、僕らの世界では、あの『赤毛のアン』で有名な島だ。僕も学生の時に読み耽って一度行ってみたいなと思った島であった。ここの世界ではあの切り妻屋根のアンの生家はあるのだろうか? と密かに期待を膨らませていたのだが、どんどんと海が荒れてきたため、まずは見えてきたハイダグワイ島の浜辺に上陸地点を探した。この辺りは入江が多く地形も複雑でなかなか良い場所が見つからない。ゆっくりと進み入江を回ったところにやっと上陸地点を見つけられた。若干岩場ではあるがほぼ水平になる場所を見つけホバージェットを停めた。ジュリアが「まいったわね! 風も強いから外のオーニングも使えないしキャンプもできないわね。とりあえず今日はここでおとなしく泊まりましょう。」、「そうだね、海が荒れているとこんなに船みたいに揺れるとは思わなかったよ。」。「私もここにきたのは初めてだから、雨が降ってくる前にまずこのあたりの安全確認をしましょう。明日はバングーバーに寄らずに通過してエドモントンに向かうわ。」ということで、僕らは一応アーマーを着て武器も着用し外に偵察に出かけた。ここの環境はまさに原生林が茂る太古の深い森林がある場所だった。岩場から少し陸に目掛けて登っていくといきなり針葉樹の手付かずの深い森になっている。もちろん道もなく、まず人がいる気配は全くないのだが野生動物の気配を感じる環境だ。「まあ、とりあえず大丈夫そうね!」と先行していたジュリアが確認し戻ってきた。「ヒデ、せっかく時間ができたからここで剣の練習をしてみる?」、「ああ、いいよ!宜しくお願いします、先生!」という流れで、今日は時間もたっぷりあるためジュリア先生に剣術の稽古を付けてもらうことにした。僕は日本で頂いた『刀』を初めて取り出した。彼女の型を見せてもらい、まずはそれをその通り真似をすることから始めてみた。なるほどロングソードの振りなので外側からの切り込み、内側からの切り込みで剣の持って行き方が違うのだ。足のステップも同時に連動するし、体全体がしなりながら最大限の力が剣の先に掛かるように振り込むようだ。「すごいわ! すぐにできるし見込みあるわね!」と先生から驚きの嬉しい言葉を聞いた。「できるだけ頻繁にこう言った訓練ができれば、ヒデは結構いい剣士になれると思うわ。」、「わかった!有難う、マスター。やってみるからこれからも教えてね。」と笑顔で答えた。2時間ぐらい真剣に訓練し簡単な型ができるようになってきたのだが、さらに雨が激しく降ってきたためホバージェットの中に入ることにした。
「特訓有難う!マスター! しかし刀って重いから振り回すだけで結構疲れるね。ジュリアはなんでその体で全然大丈夫なの?」、「私はエンハンスドだから体の細胞が強化されているのよ。そして絶えず細胞が活性化して新しくなっているの。だから筋力も見た目よりはずっと強力になっているのよ。それとエイジングもしにくいの。」、「すごいんだね!羨ましい!」と答えた。するとジュリアが、「ヒデ、丁度いい機会だからこれからのことを説明しておきたいの。」確かに属代表からは漠然とした指示しか聞かされていなかったのだ。そして彼女は続けた。「私達、まずエドモントンに行って、そこの代表からハドソン湾に浮かぶチャーチルウォーターシティの代表を紹介してもらうの。」、「うん、そこまでは聞いているよ。」、「でもなぜそれが必要か?というと、チャーチルの代表も聖人君子への憧れもあり、その理由でなんとアトランティスの王と接点があるのよ。これって物凄く珍しい話なの。」、「ねえ、ジュリア、そのアトランティスというのは、僕らの世界では太古の昔に沈んでしまったと言われてる謎の大陸のことだよね?」、「そうよ!ここの世界では、アトランティスはその大災害に見舞われなかったようなのよ。だからヒデの世界とは違っているの。ただ、あるにはあるんだけど、こちらの世界からは閉ざされていて、ごく限られた人しかアトランティスには行けないのよ。まさに神々の国のような理想郷となっているという噂なの。無理に入ろうとすると、神々の使徒と言われる守護神に排除されるらしいのよ。それって全然イメージがつかないから怖いわよね? いったいどんな感じなのかしら・・・」、「えっ すごいところなんだね? 僕らの世界では全くあり得ない話だから想像もつかないよね?」と驚いて答えた。そしてジュリアはさらに続けた。「アトランティス人は、王も含めてみんな聖人のような人々なの。そこでは『上位人間』と言うらしいんだけど、物質欲がなくて、自然と共に生活している争いがない国。でもこの世界みたいに科学が発達しているわけではないんだけど、自然エネルギーを使って発電や天候のコントロールをしたりとある意味この世界とは違った方法で高度に進歩した社会なのよ。私達の未来社会でも不可能なことを可能にしているらしいの。」、「それで、君はそこに行きたいわけね?」、「実はそうなの。属からの依頼は可能であればアトランティスに行って友好を深めて欲しいと言うことだけなんだけど、実は私の未来世界からの依頼もあって、アトランティスに行って、未来の争いを避けるための施策を探して欲しいというクエストなのよ。わかりやすく言うと、私の未来世界は左脳が高度に発達した科学に支配された国家、アトランティスは逆に高度に右脳が発達した自然現象でコントロールされた国家。いわゆる超能力を駆使しているらしいのよ。イメージできる?」と聞かれた。「その超能力っていうのは、サイコキネシスとかテレパシーとかいうやつ?」流石にそこまでくると理解が難しくなってきた。「そう、そうなのよ。そしてその能力は宇宙エネルギーに繋がっているらしいの。これもよくわからないわよね?」、「……」「でも、アトランティスに行くには危険が伴うんじゃないの?」、「だからチャーチルの代表に素性を話して紹介してもらうわけ。ここの世界の『未来』が終わりそうになっているわけだから、さすがにアトランティスも無視はできないと思うのよね。」、「君の未来では、アトランティスはなくなっているの?」、「それがそもそも外から接触できない社会だからわからないのよね。」なるほど、もしアトランティスが存続しており、Androidによって人類が淘汰されてしまった場合は、Android VS アトランティスの超人類 という図式になるのであろうか? 確かに人類が持っている究極の右脳と左脳の戦いということになるだろうということは理解ができた。
「なんとなくわかったよ!僕らがこれからやること。」と僕がまとめた。すると「どうなるかはわからないけどね。だけど・・・冒険にはリスクがつきものでしょ?」とジュリアは軽く笑顔で答えて、「じゃあ今日はここまでにして夕食にしましょう!」と日本から積んできた食料トレーを加熱し始めた。僕はチコリコーヒーを入れた。僕らはいつも通りシートをリクライニングしてサイドテーブルを立てフロントスクリーン越しにぶつかる雨とその奥に広がる荒れた波打ち際を眺めながら食事を取った。物凄い稲妻が光りまるで自然のシアターのようだ。そうこの辺りは雨が多いエリアだから原生林のような人間を寄せ付けない自然が残っているんだなと勝手に納得した。そうそう、ジュリアはそもそもこういった大自然が大好きだから、もしかしたらアトランティス人と気質が合うのかもしれないとふと思った。そしたら不思議だな。未来社会で強化人間として生まれたジュリアとアトランティスの上位人間はどう反応するのであろうか? 「ねえ、ジュリア。アトランティスには、属さんからのミッション抜きでも行ってみたかったの?」と彼女の真意を探る素朴な質問を投げかけてみた。「そうね。ミッションでもあるけど、それを除いても、超自然エネルギーを駆使している人々に会ってみたいわね。物凄く興味あるの。私達にとって何か凄く刺激になるような予感がするの。」、「その私達の中には僕も含まれるわけ?」、「もちろんよ!」、「そうか、言われてみるとそんな気もする。そもそも少し先の未来を見られるという僕の能力は第6感の世界だから、僕がいた世界ではすでに忘れられてしまったそういったサイキックな能力をさらに増幅できる可能性があるのかもしれないね。実はジュリアもそれが狙いなんじゃないの?」、「あら バレた? そう私もそのサイキックな力というものを信じるの。だからできるならば是非身に付けたいと思っているのよ。こういうチャンスは滅多にないからね。」というように、僕らはそれをこの冒険の最終的なミッションとすることにしたのだった。「しかし、ここの世界って本当に色々と不思議なことが多くて驚いちゃうよね!?ジュリアもそう思わない? こんな世界に慣れちゃうと、変化が少ない僕の元世界なんか逆に退屈しちゃうでしょ?」、「そうね、まあでも、それがいい時もあるけどね。もし私達が今回ミッションコンプリートできたなら、ヒデの世界に戻って、自然の中で暮らすっていう選択肢もできるかもね。」、「そうだね。それはありかもね。でもその時はこのホバージェットも欲しいよねー! これ!本当に電気ガスがいらない家みたいで最高だよね!」、「そうね! でもこれは持っていけないのよ・・・残念だけど。転送できるスポットが小さいから。」という会話で終わったのだが、確かに僕の元世界では循環エネルギーという概念がないし、そういったことはそもそも利権者が許さないのであろうと思った。欲に関する尺度で考えると、利権を押さえてビジネスをするというスタンスはこの世界よりも遥かに強いと感じる。独占欲とも言えると思う。それも人握りの人間が押えているのだ。金・ウラン・ダイヤモンド・石油・天然ガス・鉄などの鉱物資源は、僕らの世界では貴重であるが利権が伴うものとして経済活動に組み込まれている。しかし、そう言った貴重なものとは、ここでは鉱物資源だけが該当するのだと思える。エネルギーは自然エネルギーを使用しているし、そもそもクラス意識というものも薄く、クラスに比例した豊かさを装飾物でスタイル表現するという差別化の概念も存在しないのだ。もしかしたら、そう言う私利私欲の欲望が比較的に弱いと言う事が、この世界ではアトランティスが沈まなった原因なのかもしれないとも思った。
すでに外は暗く激しい雨が叩きつけられ荒い波の音だけが聞こえている。食後には、雷鳴をBGMに艇内の照明を落としテーブルのスポットライトのみをあてて日本から持ってきたトランプでジュリアと暇つぶしにカードゲームをしていた。これがなぜか懐かしく停電した時の子供の遊びを思い出して意外と純粋に楽しめたのだった。そして子供の頃に『キレイなお姉さんがいたらよかったのにな。』と思っていたことをふと思い出した。意外とジュリアが勝負強いのにも驚かされたのだか、暫くして「明日は一応風雨が収まる予報だから、日の出と共に出発するから、今夜はもう寝ましょうか?」と、お姉さんはお開きにして僕らはシートをフルフラットにして就寝モードになった。
横になっているジュリアを眺めながら思った。そもそも僕は、あまり団体行動は好きではなく、よってコミュニケーション能力も高くはない。何事に置いても積極的ではないし、取り分け世間に通用する特技というものも見当たらない。だが逆にその欠点を補うものとして夢に対する強い情熱というものもあると感じている。僕の場合は、それに該当するものが『美の追求』だ。 それも白人女性を対象とする美の飽くなき探究心だと思う。人間、総合点で人生を勝負するか? それとも専門性で勝負するのか?二つに一つだと思う。そう言った意味では、僕の場合は専門性の『美の追求』になる。そんなもので果たして人生を勝負できるのか? しかしながら、これまで1人では何もできなかった僕が自分で計画を立て単独でヨーロッパ放浪の旅に繰り出したのである。それはソフィアと会ったことがトリガーとなり僕なりの『美の追求』が全ての原動力になったのだ。その結果、こうしてジュリアと一緒に居られるわけだ。これがある意味明らかな事実でもあり、これからの人生においても僕は『美の追求』を実践し探求していくしかないと実感した。
音も静まり朝になっていた。確かに予報通り風雨は収まっており曇り空ではあるが荒れていた海も穏やかになっていた。僕らはいつものチコリコーヒーと一緒にトーストを頬張りながら眠気を覚ました。『いよいよバンクーバーに向けて出発だ!』バンクーバー島を左に見ながら、対岸がアメリカのシアトルにあたる海峡を反時計回りに回遊し島が多く点在する海域に着いた。この先にバンクーバーがあるようだ。さらに先に進んでいくとニューヨーク・マンハッタン島のような小さな島があり、そこに君臨していた高層ビル群が水没し廃墟と化しているシュールな風景が見えてきた。まるで一種のシュールレアリズムのような異様な風景であった。そしてその先の湾岸エリアが再開発されて街の中心が内陸に移っているらしきことも確認できた。当初はここで1泊過ごす予定であったのだが、嵐の影響で進行が遅れたため、残念ながらバンクーバーには上陸しただけでその先の山道を進むことになった。途中の検問を超えて内地に抜けて行くと、すでに廃線となっている鉄道の線路を見つけた。ジュリアがその線路の行き先を調べてみると、なんとトロント行きなのである。この線路に従って行けば途中のエドモントン経由でウィニペグまでいけるのだ。まさに僕らの行き先そのものなのであった。そしてジュリアによると、このホバージェットは非常用の車輪が出るとかで、しかもその車輪を鉄道のゲージに合わせることも可能であるとか・・・いや助かった! そもそもこのホバージェットでどうやって山道を下るのかと疑問に思っていたところだったのだ。そうホバージェットの弱点は山道なのだ。早速機体を線路の上に浮かせて車輪を下ろし車輪幅をゲージに合わせてみた。このタイヤは通常は浮袋的な役割をしているらしいのだが、そもそもタイヤなので走行が可能でブレーキもかかる。あくまでもエマージェンシー用のため常用はできないようだが、このぐらいの用途には耐えられるのでないかというのがジュリアの見解だった。
早速ホバートレイン?に乗車し出発進行だ! 線路を走るホバージェットはなぜか不思議な感覚になる。前進用のジェットファンとブレーキだけを操作すれば良さそうだ。ジュリアもこのホバートレインは初体験とのことだがその操縦をも器用にこなしていた。途中線路が無くなっている箇所もあったが、この路線に従って進んで行くと快適にエドモントンに到着できた。やはりロッキー山脈を越えるわけだからそれなりの山道なわけで、本当に偶然この線路を発見できて助かったと思った。これがなかったらと想像するだけで背筋が凍る思いだ。