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第6話 やっぱりお母さんには敵わない

「……もうっ。今日はとんでもない一日だったわ」


 ようやく戦術学園から出る事が出来た。あの後、先生たちに挨拶したけど、あの公開プロポーズで模擬戦に勝った時より場が盛り上がってしまった。色んな人に話しかけられたし、思わずため息が漏れてしまう。


 しかし、とても有意義な一日でもあった。それは間違いない。

 久しぶりの模擬戦で更に強い人と全力を出し切って戦えた事がとても嬉しい。


「形式的には勝った事になってるけど、どう考えても私の負けね」


 あの模擬戦は勝敗は二の次だという事もわかっている。あれはお互いの本質を理解する為のゲームだった。


「今度戦う時にはあの人の本気を見せてもらうんだから!…… はっ」


 あの人の別れ際の言葉を思い出して顔が熱くなる。また会う事になるんだった。

 でも、あの言い逃げに近いセリフは本当なのか、という疑念も拭えない。彼特有のジョーク、ユーモアだと言われても納得出来てしまうし。


「……」


 そう言いながらも、あの少し照れも入った真剣な表情が忘れられない。


「……あー。もういいっ。早く家に帰ってお風呂入ろう! サッパリすればこの気持ちも落ち着くわ!」


 私は早足で家に向かう。それは混乱からなのか。それとも嬉しさからなのかはわからなかった。


……

………


「……えっ!?」


――家の扉を開けた時、今日という日がまだ終わってない事を悟った


「な、なによこの玄関にある立派な花束は……!」


「あ。ようやく帰ってきた。おかえりなさーい」


 キッチンの方からいつもと同じ調子の穏やかな声が聞こえてくる


「お、お母さん! 何よこの花束は……!」


「うん。さっきレイバック家の方がいらっしゃったわよ」


「ええええぇぇーっ!!?」


 やられた。あの人はどこまで私を驚かせれば気が済むんだろう。


「コーネルさんは何か言ってなかった!?」


「ええ。あなたを副官にしたいと言っていたわ」


「――ッ!!」


 あの言葉は本気だったと知って、また顔が熱くなってきた。


「あと、純粋にファンネリア家に挨拶がしたかったって」


「……えっ。どうして?」


 そう聞く私を見て、お母さんは逆に驚いた顔を見せた。


「セラ。あなたレイバック家との繋がりとか知らないの?」


 そう言われて色々考えたけれどわからない。たしかにその名前は聞いた覚えがあるけど、それはかなり前の話だ。


「……」


「そっか。あの人セラに何も話してないのね。今度直接聞いてみたら?」


「……やっぱり会わないとダメ?」


「会いたくないの?」


「そんな事はないけど、いきなりの事だから……」


 それを聞いたお母さんは、私を見ながら少し強い口調で話を続ける。


「あのね。私はセラがどんな返事をしても構わない。でも、どんな身分の人だとしても、男性が女性の実家に来て正式に挨拶するという事は、とても勇気がいる事なのよ」


「……」


「だから、その勇気と誠意を無下にするのはやめなさい」


 そう言われたら私は何も返す言葉が見つからない。


「……うん。わかった」


「あと、これはいつも言っているけど……」


 お母さんは、ファンネリア家の事について話し始めた。

 

 確かに私たちファンネリア家は、昔あった隣国からの大侵攻の際、臨時司令官としてこの首都を最後まで死守する事が出来た。

 それを当時の王様から救国の英雄だと称えられて、「守り人」という特別な身分を与えられ、それは今までずっと受け継がれている。


 しかし、だからと言ってファンネリア家が軍人になる義務はないし、国から命じられる事もない。私たちは実際は只の名誉国民なんだと。


「だから私は普通の主婦をやってるし、リリカだってこの前まで普通に過ごしてたでしょ?」


 お母さんはそう言って私に”気負い過ぎるな”と諭してくれる。その気持ちがとても嬉しい。それでも、私は今やっている事が純粋に誇らしいのだ。


「……ねぇ、お母さん」


「なぁに?」


「お母さんはどう思う? 今回の話……」


「そうねぇ。これは守り人や母としてではなく、一人の女としての言葉だけど」


「うん」


「あの人。コーネルさんはあなたの事を真剣に考えているし、とても大切に思っているわ。羨ましいくらいにね」


 私の顔を見つめながら優しそうな笑顔を見せる。

 そうよね。お母さんだから今の私の気持ちなんてすぐわかっちゃうよね。


「……うん。わかった。明日コーネルさんにあって話してくるね。あと、これからちょっと忙しくなるかもしれないけど」


「わかった。お父さんにも軍事郵便を送っておくわね。きっと大喜びしてくれるわ」


 お母さんはそういって、軽い足取りで台所に戻っていった。


――本当になんて1日だろう。


 そう思いつつも、胸の奥ではワクワクが膨らんでいる。もう少し心の準備が欲しかったけれど、人生ってこんなものかもしれない。


 目をつぶり小さな声で呟く。


「コーネルさん。明日はよろしくね」

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