第50話 総括会議の攻防
「リリカ本当!? ユーバァ将軍が退役するって!」
「ええ、姉さん。明日にでも正式に発表されるわ」
表向きには更に重要なポジションに着くと英断の話にしているらしい。
しかし実際にはルーズバグータ家の命令で無理矢理決まったとの事。
まぁ、実際に命に関わる負傷をされたら家的にも大問題だからわからない話ではないけど。
「それで、今回の敗戦については全て姉さんの責任だとルーズバグータ家が各所に触れ回ってて……」
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「なるほどね。今回の私の行動を最大限に利用して、全ての罪をなすりつけるつもりだと」
この流れだと軍にも相当圧力かけそうだ。大貴族の力で全て揉み消すつもりだろうけど、どう説明するのかしら……
「とりあえず私と繋がりがある貴族の人には違うと説明しているけど、軍方面は……」
「ううん。それだけで十分よ。ありがとう。でもそんな事をしたらリリカの立ち位置が……!」
仮にもユーバァ将軍の副官が否定に回ったら、大きな事件になるのは必至。それどころかリリカの安全も脅かされてしまう……!
「大丈夫よ姉さん。ユーバァ様の退役で私の副官の任も解かれるし、角が立たないやり方で広めていくわ」
「わかった。リリカがそう言うのなら信じる」
「うん。信じて。私の姉が失落したら、私まで悪いイメージついちゃうしね。そしたらやりたい事が出来なくなってしまうわ」
「やりたい事? リリカはこれからどうするの?」
「決まってるじゃない。私なりに守り人になるのよっ」
そう言いながら、リリカは少し恥ずかしそうに、そして胸を張って言い切った。
「リリカ……!」
「だから、姉さんも守り人として頑張って。軍人を辞めないでね」
そう言いながらリリカは右手を差し出した。
「うん。わかった!」
ーーこうして、私は妹と固い握手、そして未来への約束を交わした。
※ ※ ※
そして総括会議が始まった。
ファイス国最大の侵攻作戦だった事もあり、参加している上層部の数も多い。
その中に私がいる事が信じられない。少し前までは学生だったのに……
そして、いつもの会議と違う所がある。
それは王族関係者が数人いる所だ。彼らは王族軍人では無い。純粋な王族関係者だと服装が物語っている。
これは一体……。と思ってた時、口火を切ったのは第二攻撃部隊のディモス将軍だ。
「今回の敗戦はここにいるべきでは無い女の責任だ! セラ・デ・ファンネリアは今回の要である第三攻撃部隊を乗っ取り、無様な作戦行動で壊滅的な損害を受けた! 報告書を見たら一目瞭然ではないか!」
ディモス将軍が提出した報告者は、ルーズバグータ家が出した抗議書に合わせて書かれていた。
その内容は荒唐無稽そのものだった。
「セラ・デ・ファンネリアはジェノン要塞に向けて進軍した時、元副官の知恵で第三攻撃部隊に潜伏していた。そして司令部を占拠した後、第二攻撃部隊に向けて転進した!」
そして、無謀な突撃で全ての作戦が瓦解した。らしい。
よくもまぁ、ここまで力技の大嘘をでっち上げるもんだと呆れてしまう。
その大嘘を大貴族は力で遠そうとしている。もしかしたら過去にも同様のケースがあったのかもしれない。
それくらいの自信をディモス将軍は見せている。
ーーしかし、今回は貴族の思惑通りにはならない。
貴族らしい雄弁な演説を最後まで聞いた後、王族関係者は口を開いた。
「そのディモス将軍の訴えは断じて認められない」
「……何故だ! 何を証拠に!」
予想外の反応に動揺しながらも、ディモス将軍は強気の発言を繰り返す。
それを遮ったのは、今まで沈黙を守っていたブーレイ将軍だった。
「……まったく。作戦会議の時にワシは言った事を覚えておらんのかね?」
「なんだと?」
「『ワシらは実際の戦闘での武勲だけでかまわん』とな」
「……」
「……」
ディモス将軍は困惑した表情を見せる。私も同様にブーレイ将軍の次の発言を待っている。
私は事前に何も聞かされていない。話の流れが見えない。
「今回の出撃に先立ち、ワシは王族軍人と相談して各部隊に人員を配置してたんじゃよ。実際の働きを観測する者をな」
「貴様、よりにもよって我らに対して諜報員を……!」
「ユーバァ将軍との約束通り、作戦内容に関しては我々は何も言わない。しかし、実際の戦闘に関しては話は別じゃ!」
ブーレイ将軍は怒気を込めて言い放ち、独自の報告書を叩きつける。当然王族側も同様の報告書を持っている。
「コ、コーネル様……!」
私はそれを聞きコーネル様の方を向いた。コーネル様はいたずらっ子みたいな表情を見せながら答える。
「まったく、食えない爺さんだ。僕にも一言も伝えてなかったよ」
「……」
反応を見る限り、本当にコーネル様はこの事を聞かされてはいない。でも、驚いてもいない。
「でも、予想はしていたんですね?」
「さあねっ」
そう言いながらも目はとても楽しげだ。ブーレイ将軍のディモス将軍への厳しい追求をよそにコーネル様は話を続ける。
「でも、ブーレイ将軍はこういう事には厳格だし贔屓はしない。だからこそ王族軍人からの信頼も厚いんだよ」
「……そうですね!」
歩く軍事百科事典の名前は伊達ではない。戦闘以外でもしたたかだという事か。
私はこの老練な爺さんを改めて敬愛する。そんな人と友人になれた事を誇りに思う。
※ ※ ※
「……以上の理由で、ディモス将軍の報告書、およびルーズバグータ家から提出された抗議書を採用しない」
会議がその結論に達した時、ディモス将軍は力なく椅子に座る。
あからさまな嘘の報告書を提出した事に対するペナルティもあるだろう。少なくとも出世の道は完全に途絶えた。
「ここは軍隊だ。いつまでも貴族がデカい顔出来ると思わん事じゃな」
ブーレイ将軍はディモス将軍に対してそう言い捨てた。
これで今回の総括会議は無難に終わる事が出来る。
私は除隊させられる事無く、これからも軍人として生きていける。
――そう安堵した矢先。王族側から衝撃の提案を受ける事になる。




