第49話 エレキス部隊との再会
それから数日後、私達は街に到着した。
出発時には30000という史上最大級の大兵力が、今となっては23000人強となってしまった。7000弱の損害がとても嘆かわしい。
特に第三攻撃部隊は11000から7000と損害が著しい。これは部隊が機能しなくなる手前の状態で、あと数時間粘って戦っていたら取り返しのつかない事になっていただろう。
これも、コーネル様やアドラーさん、そしてエレキス部隊の支援があっての事。いくらお礼を言っても言い切れない。
「……はやく会いたいな」
この言葉をこぼすのは何回目だろう。
しかし、それも無理のない事だと私は思っている。この街に来るまで、貴族軍人との口論バトルが延々と繰り返されていたからだ。
特に飲酒を原則禁止にしたのが大きかった。私が来る前は毎晩酒宴を行っていたらしい。 ユーバァ将軍のお気に入りだった兵站担当は即刻解任。今は私が直接行っていた。
『貴族である俺様が身を挺して戦ったのにその処遇は何だ! 許せん! 首都に戻ったら糾弾してやる!』
口論バトルは上の通りお決まりのパターン。実際は後方にいて危険から遠ざかろうとしてたのを知っている。まったく呆れてモノが言えない。
そもそも、貴族軍人だからといって優遇する気は一切ない。ここは軍隊。規律に従ってもらうのは当然の事だ。
「まぁ、それ以上に他の人達からお礼を貰えたからいいけどね」
その時に話を聞いたけど、私の副官時代より遥かに貴族軍人が幅を利かせていて、怒りや恨みが相当溜まっていたらしい。
平民だからと上官を侮辱した貴族もいたらしいし、俺達平民は貴族の奴隷か!と罵る人もいた。
第三攻撃部隊は完全に旧世代の軍隊に成り果てている。今は私が出来るだけ横暴を食い止めているけど、ユーバァ将軍がここに戻ってきた時、また元に戻るのだろうか。
それはダメだ。このままではいけない。と私は強く思った。
しかし、私には第三攻撃部隊以外にも色々考える事がある。今回の敗戦による国力の全般的な低下。隣国は当然の事、世界との関係にも影響が出るだろう。
――そして、私自身のこれから。
この後、首都に戻って総括会議が行われる。今回の作戦に参加した各将軍と軍上層部による会議だ。その結果次第で私の運命が決まる。
今回の越権行為自体には後悔していないと言い切れる。それでも私への追及や、どういう処分が下されるかを考えたら憂鬱にもなる。
「……ふぅっ」
これからの事を考えてため息をつく。
――その時、懐かしい声が聞こえてきた。
「まったく、あれだけの大活躍をしたのに。何、辛気臭い顔していやがる!」
「!?」
その声に驚いて振り向くと、長身の男2人と少年が立っていた。
「皆さん、なんでこんな所に……! 部隊の方は大丈夫なんですか!?」
「あら。ワタシ達が来たら困る事でもあるんですか? セラ姉さんっ!」
少年の無邪気で嬉しそうな笑顔が私の心を晴れやかにする。
首に下げている青いクリスタルも楽しそうに笑う。少年と私以外の人には見えない光がそれを伝えてくる。
「こっちの方は全然問題ない。逆にあいつらが言ってきたんだ。『ここは任せて副官さんの所に行ってやってください!』『俺達の気持ちを伝えてきてください!』てなっ!」
彼の晴れ晴れとした笑顔や言い方が、その時の光景を過不足無く伝えてくれている。無事に帰れて良かった。本当に良かった。
「やっと会えたね、セラ。僕はこの時をずっと待っていたんだよ」
そして、一番聞きたかった声が心に染みわたる。緊張の糸が切れたように涙が溢れてくる。まったく、この人はいつも私を驚かせる。それがとても嬉しい。
「はいっ……! コーネル様、私も精一杯頑張りましたっ……!」
「うん。すごかった。本当に凄かったよ、セラ!」
「ありがとうございます! アドラーさんも、ラオ君もありがとう! 私達、帰ってこれたんだよ!」
「おうっ!」
「はいっ!」
――皆の笑顔を見た時、私は戦いが終わった事を実感した。ここに来るまで色々な事があったけど、私達は無事に戻ってくる事が出来たんだ。
* * *
それから私達は少しの間、久しぶりの会話を楽しんでいた。
時折、今回の戦いについて真剣な話もしたけれど、穏やかな雰囲気でいつまでも一緒にいたかった。
しかし、残念ながらそういう訳にもいかない。私達はやる事が山積みなのだから。
「おっと。もうこんな時間か、時間が過ぎるのは早いな」
「もっとワタシとミトちゃんの大活躍の話をしたかったのにぃ!」
「まぁ、仕方ないね。続きはセラがエレキス基地に戻ってきた時、パーティーしながらやろうよ」
「そうですね。皆さん本当にありがとうございました!」
私とコーネル様は、部隊の準備が整ったあと首都に向かう事になるけど、アドラーさんとラオ君は直接エレキス基地に戻る事になる。
「ああ。これ以上先輩を待たせると、何言われるかわからんしな……そうなんだよな」
アドラーさんはアテラス本部長の事を思い出して困ったような顔を見せた。
「大丈夫! 先輩の機嫌を取る為に僕がとっておきのお土産を準備するから!」
「お前は何も買ってくるな! 先輩ブチ切れるわ!」
「即答!? そこまで言わなくったって……」
コーネル様はショックを受けた顔を見せながら、トボトボと部隊に戻る準備を始める。
「……たくっ!」
そう言いながら、アドラーさんとラオ君は私の方を向いた。
「セラ。お前の指揮の下、久しぶりに暴れる事が出来た。ありがとう。将軍に相応しいとても良い指揮だった」
「部隊の皆さんも褒めてましたよ! ちゃんと第三攻撃部隊の指揮を取れてるって!」
「……ありがとうございます!」
エレキス分隊での指揮、そしてエレキス部隊と第三攻撃部隊の連携行動、それらは今の私が出来る精一杯だった。それを高く評価してくれたのがとても嬉しい。
コーネル様は私達の光景を楽しそうに見ている。まるで自分の事を褒められたかのような満面の笑みで。
「さてと、そろそろ行こうか」
「はい」
「僕とは首都でまた会えるから、その時ゆっくり話しようね
「はいっ!」
「あー。オレ達の事は気にしないで首都でゆっくりしてていいぞ。二人は頑張って最善を尽くしたんだ。むしろそれぐらいしてくれないと困る」
「そうですよ! ゆっくり休んだらワタシ達の”家”に戻ってきてください!」
「アドラーさん、ラオ君……。ありがとうございます!」
私達はがっちり手を握り、笑顔のまましばしのお別れとなる。こうして、私は久しぶりの幸せな時間を過ごす事が出来た。
「……さて、将軍代理もあとわずか。最後まで頑張りますか!」
私は気合いを入れ直して首都へ移動する準備を再開する。
しかし、私はこの後に起こる事を知る由はなかった。
――それは、首都の軍令本部でリリカの口から聞かされる事になる




