第0話 念願の軍人になりました!
「おはよう、お母さん!」
いつもより1時間早く起きた私、セラ・デ・ファンネリアは気持ちを抑えきれず部屋に出る。
「おはようセラ。まるで遠足当日の子供みたいね。フフッ」
そう言って笑うものの、怪訝に思う事はない。お母さんは今までの私の頑張りを知っているから。
しかし、お母さんには今の私はどういう風に映っているだろうか。
25歳でショートカットの女性がこれから軍服を着る。更にその軍服は士官用だ。何も知らない人が私を見たら、なんて似合わない仮装だと思うに違いない。
しかし、これは正式な礼服。戦術学校を卒業すると同時に将軍から選ばれた証。仮に似合わないとしても、それはきっと風格の問題だ。
うん。これから実績を積んで風格を漂わせていけばいい。10年後にはこの立派な礼装に相応しい女性になるんだ。頑張ろう。
「だって、これは初めての入隊式だもん。人生で一度切りのイベントなんだから」
「……」
そう嬉しそうに言う私を見て、お母さんは何度目かの複雑な表情を見せる。そして、私はいつものようにこう返すのだ。
「大丈夫よ、お母さん。私は自分の意志で軍人になったのよ」
確かに守り人という血統を誇りには思っているし、それによって国から優遇を受けている。今住んでいるこの家だって国から与えられた物だ。
しかし、その見返りとして軍隊に入る義務もなければ、その優遇に応えようと嫌々入隊した訳でも無い。
これは純粋な子供の頃からの私の望みだった。守り人という名に相応しい軍人になるんだ。
「……そうね。ごめんなさい。セラが決めた事だもんね。私はお父さんと一緒に応援しなくちゃ」
そう言って机に置かれているお父さんから送られてきた軍事郵便を見る。内容は軍人になれた私への祝いの言葉と、『セラの望むようにやりなさい』という応援だった。
いくら守り人の血統だとしても、長女が軍人になる事に関して色々思う事はあった筈。それでも応援してくれた事には感謝しかない。
「ううん。今までありがとう、お母さん」
「うん。立派な人になってくれて母さん嬉しいわ」
不意に立派な人と言われて、少し恥ずかしくなった私は話題を変える。
「ところでリリカは? 家にいないみたいだけど」
「リリカは昨晩から貴族が集まる晩餐会に出席して帰ってないわ」
「そう……。ここから出る前に話したかったな……」
私の妹、リリカ・ル・ファンネリアは私とは違いとても社交的で、常に外で誰かと会っている。何をしているかはわからないけど、少しは守り人の自覚を持って欲しい気もする。
「ま、いいかな。私が軍人になった事を喜ぶ訳でもないと思うし……」
少し寂しくもあるが、リリカは完全に自分の生き方を確立させている。
私がいてもいなくとも変わらない。社交界で成功するに違いない。
「セラ。これからも頑張ってね」
私の表情を見て何かを察したのだろう。お母さんが明るい声で元気づける。
「ありがとうお母さん。ファンネリア家の長女に相応しい軍人になります!」
そう。私はこの日の為に戦術学校に通って良い成績をおさめ、大貴族のユーバァ将軍に見染められた。
これから私は立派な軍人になるんだ!と改めて気合いを入れた。
ーーしかし、その時の私はこれから起こる事を知る由もなかった。
全ては入隊して半年後、目の前に現れた悪夢のような光景から始まる。