尺取虫と獣
今より遠い昔、とある村のことです。水と森の綺麗な、それはそれは美しい村でございました。
そんな村には、尺取虫と獣はみんな仲良く一緒に暮らしていました。村には二人の村長がおり、一人は尺取虫、もう一人は獣の村長でした。
ある年、この村にカーキャという獣の子が産まれました。 カーキャはとても優しい子で獣からも尺取虫からも皆から愛されていました。
カーキャが19になった年です。カーキャは二人の村長が暮らしているお家に向かいました。そのお家は村の中でもとても小さく、いつも澄んだ水を家についた水車がバタバタと掻き回していました。
「ごめんください」
「おお、カーキャかい、どうしたんだい?」
獣の村長が優しく言いました。
「僕はこの村に不満があります」
「というと?」
そう言うと獣の村長は顔をしかめました。尺取虫村長も小さな目でギョロリとカーキャを睨みました。
「まず、道路です。この村の道路は尺取虫の大きさで出来ています。そのため獣たちみんな、綱渡りをするように歩いています。これでは足が痛くて痛くて仕方ありません」
カーキャがここまで言うと、尺取虫村長はキッと口を荒らげました。
「なら獣の大きさの道路にしろと言うのか!それでは、小さくか弱い尺取虫達は道端の屑と間違えられて踏み潰されてしまうだろうに!弱き者のことも少しは考えんか!」
獣の村長は尺取虫村長の顔をチラッと見てから、カーキャの方を向いて、そうだよカーキャ、と言いました。
カーキャは少ししょんぼりして続けました。
「なら次は街のお店についてです。どのお店もとても小さく、常に屈んでないと頭をぶつけてしまいます。そのため、お店から出るまで腰が痛くてたまりません」
カーキャがここまで言うと、またもや尺取虫村長は声を荒らげて言いました。
「ならお店をでかくすれば良いのか!それでは小さくか弱い尺取虫達は疲れ果ててしまうだろうに!少しは弱き者のことを考えないか!」
獣の村長は尺取虫村長の声にビクッと震えてから、そうだよカーキャ、と言いました。
カーキャはとてもしょんぼりして、二人にこう尋ねました。
「そんなに尺取虫は弱いのですか?僕の友達の尺取虫はみんな立派に働いています。大工をしてる子もいるし、引越し屋さんをしてる子もいます。みんなは弱くなんか無いと思います」
「それはお前が強いから見えぬのだ!強き者に弱き者のことが分かるはずがなかろうに!」
また、獣の村長はビクッとして
「カーキャ、今日はお帰り」
と言いました。
カーキャはとぼとぼ、綱渡りの歩き方で帰りました。
それからカーキャはずっと寂しそうにしていました。友達の尺取虫達も慰めに来ましたが、どうしてか村長の姿が浮かんで、怖くてたまりませんでした。
友達を怖がってしまう自分自身に痺れを切らして、優しいカーキャは自分の首を切りました。お葬式には村中の人達がやって来て、優しい子だった、どうしてこんなことに、と口々に言いました。
尺取虫村長もそんなことを言いました。
弱い人を見ると私は羨ましく思ってしまうのです。
私は悪いやつなのでしょうか。