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侵略-5:植物(?)の脅威 (前編)

 青系統で統一された私の部屋。主である私の前に、黄色い服装の男が現れる。私の呼び出しに、素直に応じたという所か。この部屋には、他に誰もいない。

「公爵閣下、お呼びでございますか?」

 にこりと不敵な笑みを浮かべながら、我が軍の優秀な科学者殿は、恭しい態度で私に一礼する。

 用件など分かっているはずであろうに。よくもまぁ白々しいまでの挨拶が出来るものだと感心する。

「サンディエ。以前あなたが言っていたアサルトの欠点…修繕は出来たのですか?」

「はい。後は実際に作るのみ…と言ったところでございます。」

「そうですか。」

 黄色い男…「子爵(ヴィスカウント)」サンディエの言葉に鷹揚に肯き、私は「この間拾った物」を彼に差し出す。

「これは…?」

「この間の調達時に拾いました。これを使って、アサルトを作って下さい。」

 私が差し出した「それ」を見つめつつ、サンディエは不思議そうに首を傾げる。

 実際、植物と呼ぶには程遠いが…動物でも無い「それ」…確か、この世界では「キノコ」と称される物だったように思う。

「閣下、貴女は『公爵(デューク)』です。私如き身分の低い者には、『お願い』ではなく『命令』で構いませんよ。」

「年長者には敬意を払う…貴族として、当然の嗜みです。」

 私の、「作って下さい」と言う発言に対して、苦笑混じりに進言するサンディエに、私は冷たい視線と慇懃無礼その物の言葉を返す。

 そう、目の前の男が例え…

「例え、由緒正しい『王家の守護騎士(セイバーナイト)』を勤める家の長男として生まれていながら、その責任全てを妹に押し付け、自身は科学者として自由奔放に生きてきた挙句、『子爵(ヴィスカウント)』と言う地位を頂いてしまっている駄目な兄が相手と言えど、それ位の嗜みはあるつもりです。」

「……公爵閣下、ひょっとして怒ってらっしゃいます…?」

「いいえ、怒ってなどいませんよ。………兄上?」

 そう。これはあまり知られていない事だが……「子爵(ヴィスカウント)」サンディエは、私の実の兄に当たる男なのである。

 先程も言った様に、私の家系は代々「王」を守る「騎士」の家系だ。その長男ともあろう者が、ある日突然、「剣術より、科学を極めたいので、家を継ぎません」などと言った挙句、跡継ぎに私を指名して王宮直属の科学施設に入所。

 親も、「やりたい事なら」と言ってあっさり家出を許可し、結局私がプラチナス初の女騎士として騎士団に入団、今の「公爵(デューク)」と言う地位を頂いたのだが…

「まあ…お前に全てを押し付ける形で飛び出してしまったのは、悪かったと思っているけれど…」

「父上も母上も許可されたのです。それは別に構いません。兄上が優秀な科学者である事も認めておりますし、『貴族』の中で兄妹である事を知られないようにする理由も、何となく分かっております。」

 私とサンディエが兄妹だとばれたら。きっとウィンダートが黙ってはいない。きっと、私が兄を使ってプラチナスを牛耳ろうとしているとか、そんな事を言い出すに違いない。

 それに、サンディエはグラヴィと非常に仲が悪い。グラヴィがそこを突いて来ないとも限らない。

 別に、家族で爵位を受ける事に、問題など無いのだが。

「なら、何を怒っているのかな?お兄ちゃんに話してごらん?改善できる事は、改善するから。」

 深刻な事を考えていると言うのに、何処まで能天気なのだ、この兄は。

 ピキ、と額に青筋を立てそうになりながら、私は引きつったような笑みを作り…

「兄上が、私よりも、剣術に優れていると言うのに、その実力を出し切らない事に、腹を立てているのです。」

 一言一言区切りながら、私は日頃から思っている事を吐き出してやる。

 そう。腐ってもサンディエは「守護騎士(セイバーナイト)」の血を引く者。一度剣を取れば、その実力は恐らく私を遥かに凌ぐ。ある意味、歴代の一族の中でも最強の騎士と呼んでも過言では無いだろう。それなのに…この男は、「自分は科学者だから」と言う言い訳を並べ立て、その挙句、王の前で実力を示す「御前試合」では実力の半分も出さずに私に花を持たせている。

 …冗談では無い。手を抜かれる事が、騎士にとって屈辱であること位は、この男も知っているはずなのに。

「あー…何を仰っているのやら。公爵閣下の方がお強いですって、本当に。」

「目を反らしながら仰っても、説得力がありません、兄上。」

「ブリザラ、私は実戦で…戦場でお前と戦って、勝てる自身は無いよ。」

 真剣な表情で言われ、私は軽く眉を顰める。滅多な事では戦場に出て来ないこの男に言われても、実感は湧かないのだが…

「…まあ、良いでしょう。とにかくサンディエ。『それ』を用いたアサルトの完成…待っています。」

「御意、公爵閣下。」

 「兄と妹」と言う関係から、「公爵と子爵」と言う関係に戻り…私達は、それぞれの仕事に戻った。



「今回は、公爵閣下のアサルトとなります。」

「って事は、植物系?何か頼りないよねー、本当に大丈夫なの?」

 あの会話から2時間ほど経って。サンディエから「アサルトが完成した」と言う知らせを受けて来てみれば…既に私以外の貴族達が、集まっていた。

 相変わらずウィンダートは私を軽んじているようだが、前回の一件が効いているのか、いつもよりは言葉に力が無いような印象を受ける。

 そう簡単に、彼が変わるとも思ってはいなかったが…やれやれ。私は随分と彼に嫌われているらしい。

「今回、閣下から賜ったのは、『ベニテングタケ』と呼ばれるものでございます。」

 そう言って映し出されたのは、先程サンディエに渡した赤い笠を持つキノコ。割と大きめで、見た目も派手だ。

「…閣下、これ、食べられます?」

「それを私に聞かれても困ります、フレイル。」

「先程そこの机にあったので食したが、なかなかに美味であったぞ、フレイル伯爵。」

 淡々と答えたのは…グラヴィ。

 …って、え?食べたの?あんな怪しさ全開の派手キノコを?

 冷静で、物事の状況を見極めてから行動を起こす、あのグラヴィが?

「……お召し上がりになったのですか?グラヴィ候?」

 私と同じ事を思ったのか、サンディエの顔がひくりと引きつる。

 まるで、何て事してるんだこの馬鹿が、と言わんばかりの表情だ。

「まずかったか?サンディエ子爵?」

「まずいも何も……『ベニテングタケ』は、この世界では有名な毒キノコ、ですよ?」

 …一瞬、沈黙が落ちる。それはもう、気まずい感じの沈黙が。

 だが、当のグラヴィの表情は特に変わる様子も無く、しれっとした物である。

「あ…あのさ、サンディエ様。その毒性って…どんなの?」

「ああ、下痢や嘔吐、幻覚を見る。死に至る事は少ないらしいが…」

「死なぬのならば問題あるまい。それに、先も述べたが非常に美味であった。食料として扱えないのが残念な程にな。」

 猛毒を持つ、と言う訳では無いのは確かに救いだが…随分とグラヴィのお気に召したらしい事は分かった。

 分かったが、やはり毒キノコだ。そもそもキノコ類をほいほいと口にするのは如何な物かと思うのだが…

 いや、突っ込むのは止めよう。今はとにかくアサルトを用いてこの世界を侵略する方が先決だ。

「ま…まあ、良いでしょう。そのアサルト、出撃を許可します。」

「では…閣下。完成型アサルトを出撃させましょう。」

 サンディエが恭しく私に一礼すると同時に、例のキノコを元に作ったと言うアサルトが姿を現す。

 が。何と言うか…完全に、「巨大キノコに手足を生やしました」と言う感じのフォルムである。凄く…それはもう物凄く気だるそうな中年男性の顔が張り付いており、目は死んだように虚ろである。

「…ねえ、ブリザラ様、これ…何?すっごい変な形だけど。」

「私とて、たった今物凄く後悔しているんですから言わないで下さい、ウィンダート…」

 笑いたいのか怖いのかよく分からない表情で、ウィンダートは私にしがみ付きながらそのアサルト…フライアーガと命名…を指差しながら、プルプル震えて問いかける。

 かく言う私も、何と言うか、その…我がアサルトながら、お腹を抱えて笑いたい衝動と、悲鳴を上げて逃げ出したい衝動の両方に駆られている。

 ダメだ、この格好、怖い上に面白い。

「あー……やる気出ないなぁ…」

 フライアーガが、心底疲れきったように呟くが…いやいや、やる気は出してもらわないと困る。

「良いから、早くこの世界の侵略に貢献してきなさい。出来ないなら処分します。」

「クックック…なかなかに面白い。さすがは公の選んだ物だ!」

 いや、こいつの性格付けをしたのはサンディエであって、断じて私のせいじゃありません、グラヴィ。

 本当にこんなアサルトで大丈夫なのかと不安になりつつ…私は壮絶にやる気の無いそのアサルトを、追い出したのであった。

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