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侵略-4:氷の女 (後編)

「何をしている、早く行け!」

「あ…うん!」

 セイバーダークネスに怒鳴られ、男はこくりと頷くと、私を連れて物陰にその身を潜める。

 野次馬根性なのか、それとも単に走れなくなっただけなのか。こんな距離で「逃げる」とは言わないのでは…?

 と、不思議に思う間もなく。

「悪いが、さっさと終わらせてもらうぞ。」

 セイバーダークネスの、怒気を含んだ声が響く。同時に、彼が構えた剣からゆらりと「闇」が立ち上り…

「ダークネススラッシュ!」

 普段なら白い方…ライトニングと2人で同時に放つ技の内の1つである事は知っている。だが、ライトニングがいなくても、それなりの威力があるらしい。ワニ型アサルトは、その身を上下2つに断ち割られ、ゆっくりとその身を崩していった。

 「男爵」に作られた証である、緑色の粉になって。

 …私…「女公爵(デューケス)」に攻撃を仕掛けてきたとは言え、やはり刺客をセイバーナイツに倒されるのは色々と頭に来る。

 戦い方は素人だが、セイバーナイツは磨けば「貴族」達を凌ぐ実力を持つだろう。自分の部下にいるのであれば喜ばしい事だが、残念な事に相手は敵。危険な芽は、早めに摘んでおくべきか。

「良かった…何とか助かったみたいだ。」

 ほっとしたように胸を撫で下ろす男の声に、私ははっと我に返る。

 この男は、花屋だと言った。この辺りの事に疎い私が、植物を確実に手に入れるには、今の所、この男の手助けが必要になる。今ここでセイバーダークネスを倒せば、必然的にこの男にも私の正体がばれる事になって…って事は、アサルト用の植物が手に入らないって事で……

 ダメだ。今回は見送ろう。仮に今、ダークネスを倒しても、ライトニングが残る。倒すなら、2人まとめて倒した方が、効率が良い。

 考え直し、私は極力にこやかな営業スマイルを浮かべ、男に向かって軽く会釈する。

 心のうちにある算段を、読まれぬ様に。

「助けて下さって、ありがとうございました。」

「いや…僕は何もしていないよ。実際にあの化物を倒したのは、セイバーダークネスだし。」

 セイバーダークネス。

 我ら「プラチナス」の敵の1人であり、この世界の救世主…か。

 皮肉なものだ、敵に助けられてしまうなど。

 そして…やはり、刺客の事は化物と呼ぶか。それも仕方ない事とは言え、やはり切ない。

「あ…えーっと、君の名前は?」

「……は?」

「あ、いや、その…今度、君が来た時のために良い花をリザーブしておこうかと思って。あ、俺は光矢(こうや)南風(はえ)光矢。」

 まさか名前を聞かれるとは思っていなかったんので、間の抜けた声が口から漏れた。

 花をリザーブしてくれると言うのだから、ありがたくその好意は頂戴するが…名前?まさかブリザラと名乗る訳にも行かないし、かと言ってこのまま黙っていれば光矢と名乗った彼に非常に失礼だし……

「えっと…ヒメ。」

 口をついて出てしまったのは、ついさっきフレイルに呼ばれた呼び名。

 とは言え、流石に「姫」というのもどうか。何より私はそんな良いものでは無い。ただの侵略者だ。

 どうするブリザラ。何か、何か適当な…適当な名前は……半ばパニックになりながら思った時、自分の髪が視界に入った。青、藍、蒼…そうだ。

「蒼野氷女です。『氷の女』と書いて、氷女(ひめ)。」

 …うん。付け焼刃にしては上出来な名前だろう。実際私は氷の能力を使うのだし。

「…今日はもう、帰りますね。…ちょっと、気分が優れなくて。」

「そりゃ、あんなのに襲われたらね。…送ろうか?」

「いえ、結構です。そんな……お気遣い無く。」

 シュラーフェスまで送らせるなど、自分の正体を明かすようなものだ。折角適当な名前まででっち上げたというのに。

 やんわりとお断りをいれ、少しだけ歩く。

 流石に、今のはまずかっただろうか。彼は曲がりなりにも私を心配してくれたのだから。

 考え直し…私は営業用では無い笑顔を浮かべると、光矢とやらに一言。

「守って下さって、ありがとうございます、光矢さん。また、お会いしましょうね。」



「お帰りなさい、公爵閣下。ごめんねぇ、僕のアサルトが襲いかかったみたいで。」

「こちらこそ、ごめんなさいね。あなたの思惑通り、殺されてあげる事が出来なくて。」

 帰って来るなり、互いに寒々しさすら覚える笑顔で迎えてくるウィンダートに、同じく寒々しい笑顔を向け、それ以上に寒い言葉を放つ。

 ウィンダートの事は嫌いでは無いが、自身に襲い掛かってくるつもりならば容赦をしてやるつもりもない。

 その意思が伝わったのか、彼は笑みを消し、忌々しそうに小さく舌打ちをすると…もはや殺意を隠す気などないらしい。敵を見た時と同じ視線を私に向け、吐き捨てるように言葉を紡いでいく。

「分かってるなら、死んでくれれば良いのに。それとも、僕の手にかかって死にたい、とか?」

「ウィンダート。私を誰だと思っている?」

 …馬鹿にしてくれる。

 私も寒々しい笑みを消し、口の端に皮肉気な笑みを浮べて言葉を返す。同時に、周囲の気温が一気に下がり始め…ぴしりと、小さく音を立てて、私とウィンダート以外の全てが凍りついた。

 ウィンダートの方も私の放った冷気をかわしきれなかったのか、右足が床と共に凍りついている。

「曲りなりにも『女公爵(デューケス)』。『男爵(バロン)』である貴様如きに遅れをとる私では無い。」

「くっ…」

「今回の件は、悪戯だと思って大目に見ます。ですが…」

 部屋の冷気と氷を消し去り、私は唇を彼の耳元に寄せる。そして…敵に相対した時の、「冷徹」と評される声で、一言。

「次は、無い。覚えておきなさい。」

 それだけ言うと、へなへなとその場に座り込むウィンダートを無視して…私は自分の部屋に戻って行った。

 …途中で拾った「これ」は、アサルトに使えるだろうかと考えながら…。


次回予告


「これ、食べられます?」

「では…閣下。完成型アサルトを出撃させましょう。」

「…ねえ、ブリザラ様、これ…何?すっごい変な形だけど。」

「私とて、たった今物凄く後悔しているんですから言わないで下さい、ウィンダート…」

「なかなかに面白い。さすがは公の選んだ物だ!」


次回、侵略-5:植物(?)の脅威

私達の「正義」とお前達の「正義」…賭けてみるか?

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