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侵略-4:氷の女 (前編)

「出かけてきますね。」

 サンディエの、アサルトの改良は今しばらく時間がかかるらしい。その間に私は、自分のアサルトに用いるものを探すため、外に出る準備をしていた。

 流石にいつもの服装では目立つので、この世界に合わせた服装をしている。

 私のシンボルカラーである青を基本色に、動きやすい服装に…したつもりだ。

「閣下ぁ…セクシーな格好をしてくれとは言いません。化粧をしてくれとも言わない。だけどせめて!せめて、アクセサリーの1つは付けて下さい。」

 私の格好を見て、非常に残念そうにフレイルが顔を顰めた。

 別に、女である事を強調する必要は無いと思うのだけれど…あまりしつこく食い下がられても困るので、私は自分の能力を示す「氷」のペンダントを首にかけた。

 …我々の名を見て、お気付きの方もいると思うが、我々の世界の住人は、生まれながらに何か1つ、特異な力を持っている。

 私は「氷」…「ブリザード」。だから名を「ブリザラ」と言う。同様に、「重力(グラヴィティ)」だから「グラヴィ」だし、「(フレイム)」の「フレイル」、「(サンダー)」の「サンディエ」に、「疾風(ウィンド)」の「ウィンダート」…この様に、自身の名が、持っている能力を示すのだ。

「あー…閣下、出られる前に、1つだけご注進。」

「何です、フレイル?」

「最近、ウィンが良からぬ事を企んでいる様ですので、お気をつけ下さい。女公爵(プリンセス)。」

 ウィンダートが…か。あの子が良からぬ事を考えているのは、いつもの事だ。

 それにしても、今…この男、私の事を「プリンセス」と呼ばなかった?

「『女公爵』は『デューケス』ですが?」

「この世界のある国では、異国の『女公爵』や『公爵夫人』の事を、『プリンセス』と呼ぶそうですよ。それに貴女は、この俺にとって、永遠に『お姫様』なんですから…って無視ですか、閣下!?」

 寝言を抜かす「伯爵(カウント)」を軽く無視し、私は以前フレイルが開けた「1人分の穴」を通ってバリアの外に出る。

 私が刺客を作るのに用いる細胞は、主に「植物」。菌類や藻類、コケ類も含む。手っ取り早く植物を選ぶには、花の種類が豊富にある場所へ向かえば早い。

 ……とは言え。

「ここは…何処で、一体何をどうする場所なの……?」

 何しろ始めての「外」。私の住んでいた世界とは勝手も違う。

 何処をどうやって歩いたのか、全く定かでは無いのだけれど、気が付けば私は、どこかの店らしき物の前に立っていた。

 窓ガラスの向こうにいる客は、何やら茶色っぽい物を重ねた、良く分からない物を頬張っている。

 看板には「バーガーショップ」と書かれているが、その「バーガー」と言うものが良く分からない。多分あの茶色いものなのだろうが…美味しいのだろうか?

 不審に思いながらも、その場に立ち尽くしそうになったその時。

 ふわりと、芳しい花の香りが、私の鼻腔をくすぐった。

 香りの元は、今、この店から出てきた金の髪の男から。

 年は…フレイルくらいと言ったところか。瞳の色は碧、僅かに垂れ目気味だが、それなりにもてそうな印象を抱かせる。

 雰囲気としては…王子とか、騎士とか、そう言った感じかもしれない。

 この男なら、花のありかぐらいはわかるだろう…

 心の中でほくそ笑みつつ、私は極力にこやかな笑顔を作って、その男に話しかける。まるで、道に迷っている子供のように。

 ……実際に道に迷ってはいるのだが。

「あの…この辺りにお住まいの方でしょうか?」

 唐突に話しかけられた事に驚いたのか、男は軽く目を瞬かせて私を凝視する。

 …何だろう、妙な格好でもしてしまったのだろうか。一応、この世界のファッション誌を見て、それなりに勉強したつもりだが。

 い…いたたまれない!とにかく声を出さねば、本当にいたたまれない空気になりつつある!

「…あの?」

「あ、ごめん。うん。確かに近所に住む者だけど?」

 良かった。近所に住んでいるのなら、花のある場所くらいは知っているだろう。

 ほっと胸を撫で下ろし、真っ直ぐに見つめながら、私は男に最上級の笑顔を向けて問いかける。

 …笑顔と言っても、勿論営業用の作り笑いだが。

「あの、私、花を探しているんです。どこかに沢山の種類の花がある場所…ご存知ありません?」

「あー……ウチは、どうかな?花屋なんだけど。」

「ああ、そうだったのですね。道理で…」

 花の香りがしたはずだ。花屋で働くのだから、毎日花と触れ合っているはず。ついでにこの男に、毒草や何やらの知識でも教わって、アサルトに流用できるなら御の字と言うものだ。

 誘ってくれるのだから、行かない手も無いだろうし。

 思いつつ、私は再び男に笑顔を向けようとして…固まった。

 笑顔になりきれなかった顔が、ヒクヒクと引きつるのが分かる。何しろその男の後ろには…

 緑色の皮膚に、ぎょろりとした目。どこかごつごつとした肌に、鋭い牙。吻は長いし、生えている尾も異様に太い。あれで殴られたら、相当なダメージだろう。と言うか並の人間なら確実に死ねる。

 あの刺客の元になった動物に関するデータならある。あれは確か、ワニとか言う動物だ。

 間違いない、あれは爬虫類、両生類大好きっ子のウィンダートが放った刺客!まだ完成形ではないが、間違いなくあれはアサルトだ。

「うぅぅぅををををっ!」

 獣のような咆哮を上げ、そのアサルトは、真っ直ぐに私を狙ってやってくる。決して友好的な感じでは無い。と言うか、襲いに来ている、間違いなく。

 …これは、非常に不味い。私1人なら対処のしようもあるだろうが、これだけの人間がいる以上、下手に攻撃をして「プラチナス」の人間である事がばれては厄介だ。

「こっちだ!」

「え…?」

 どうしようかと思っていたところで、男の声が耳に届く。同時に、腕を強く引っ張られる感覚。

 …まさか、この男…私を連れて、逃げようとしている…?

「青い髪の女…殺す、殺す、殺すぅぅぅっ!」

 まさか、あのアサルトは…私を狙っている!?成程、フレイルの言っていた「良からぬ事」とはこの事か。嫌がらせにしては手が込みすぎている。

 本気であの子…私を殺すつもりらしい。全く、内輪揉めをしている場合では無いと言うのに!

 狙ってきたウィンダートと、作ったであろうサンディエには悪いが、このアサルト…倒させてもらうしか無さそうだ。

 そのためには、この男の存在が邪魔なのだが…さて、どうしたものか。一緒に殺すという手もなくは無いが…まだ少し、人も多いし、そうなると見た者全てを殺さなきゃならなくなるし…と、なると方法は1つか。

「あの、私を放して逃げて下さい。」

「何言ってるんだ!?」

「あの怪人の狙いは、私です。別々の方向に逃げれば、あなたは助かります。」

 とにかく、この男をどこか遠くへやれば良いのだ。あのアサルトの狙いは私なのだから、私がこの男から離れれば、必然的にアサルトも私を追う。1人になれさえすれば、こちらも本気であのアサルトを叩きのめす事が出来る。

 だが、男は…驚いたような顔で私を見ると、どこか怒った様な声で言葉を返した。

「あのね、女の子を見捨てて逃げるなんて、出来る訳無いだろ?そんなことしたら、寝覚めが悪くて仕方が無い。」

 騎士道精神をこんな所で発揮されても困るんですが。

 むしろ、このままでは2人とも共倒れと言うか?

 そう思った瞬間。私達とアサルトの間に、黒い影が立ち塞がった。

「早く逃げろ、ここは食い止めてやる!」

「そ…セイバーダークネス!」

 そう…私達を守るかのように現れたのは、忌まわしき漆黒の騎士…セイバーダークネス。どうやら白い方、セイバーライトニングはいないようだが…

 ますます厄介な事に!こんな所で私達の最大の敵に出会うなど!救いは、相手は私がプラチナスの幹部である事に気付いていない事くらいか。

 ギリと奥歯を噛み締め、睨む私には気付かずに。漆黒の騎士は、ワニのアサルトを前に、ゆっくりとその剣を構えたのであった。

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