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侵略-3:重大な欠陥 (後編)

「第2戦ですよ、閣下。」

「いきなり何ですか。」

 カラス型アサルトがセイバーナイツから身を退いた翌日の昼。

 楽しそうに言って来たフレイルに、またしても最大限に冷たい眼差しを送りながら、私は言葉を返した。

「ですからただ今、我がアサルト、ロウクがセイバーナイツと第2戦を繰り広げているのです。」

「……今度は、大丈夫なのでしょうね?」

「鳥目に関する不安要素は無いですよ、何しろ今、お昼ですから。」

 まあ、昨日の戦闘から考えれば、2時間も3時間もかかるとは思えない。昨日の今日で、セイバーナイツが成長しているとも思えないし。

 もっとも、何か打開策があるとでも言うのであれば別でしょうけれど。

 思いながら、スクリーンのある中央広間に向かった時。そこからは、漆黒の騎士、セイバーダークネスの、不敵この上ない声が響いていた。

 見た感じでは、昨日同様、満身創痍。そうであるにも関わらず、彼は不遜この上ない態度で剣を構え、その柄に宝珠をはめ込む。

 あの仕草には覚えがある。確か、必殺技を放つ時の…

 しかし、あの傷だらけの状態で…しかも、カラス型アサルトの方は完全に無傷と言うこの状況で、彼は何をすると言うのだろうか。

「俺は、『妙なる闇を纏いし漆黒』と、言ったな?」

 …妙なる…「闇」……?

 まさか、このセイバーダークネスと言う騎士は…!

「俺はセイバーダークネス!その名の通り、闇を呼ぶ戦士だ!」

 私の不安は見事に的中。その言葉と同時に、映像はまるで、そこだけ夜になったかのような闇の中へと迷い込んだ。

「嘘ぉ、マジ!?」

 フレイルの焦った声が聞こえる。

 ああ、何故気付かなかったのだろう。戦士達の名は、見た目だけで付いているのでは無いと言う事に。

 漆黒の騎士が生んだ闇に捕らわれ、アサルトは完全にその視力を失う。相手に、こちらの弱点を見抜かれたとは…何と言う不覚!

 案外と、この戦士達は馬鹿では無いと言う事か。

 …いや、むしろこっちが間抜け?

 正直に言おう。実は結構あの2人を見くびっていた。だが…いつか私も思っていたでは無いか。死に物狂いの人間ほど、恐ろしい物は無い、と。

「1つ、聞きたい、ロウク」

「くっ…何だ?」

「何故、人を殺した?あんな無惨な方法で」

「理由?そうだな………自分のため、とだけ言っておこうか」

 セイバーライトニングの、殺気のこもった問いに、アサルトは言葉を濁しながらその様に答える。

 そう…「我が世界を救う」という、自己満足の為に、私達はこの世界の住人を殺している。私達と何ら変わらぬ「人間」を、「この世界の先住民だから」と言う理由だけで。

 それを理解しろとは言わないし、理解してくれるとも思わない。だから最初から、私達は「侵略者」の汚名を被る事にしたのだ。

 だが…そんな言葉の裏まで、セイバーライトニングは読めなかったらしい。

「お前達は…遊びで人を殺してるのかぁぁぁぁっ!」

「遊びだと?こちらとて、真面目に殺している!」

「それが尚更、性質が悪いって言うんだよ!」

 怒気と、殺気の入り混じった声で。セイバーライトニングはそう叫ぶと、まるで修羅のようにアサルトを切り刻み始めた。

 剣筋も何も会ったものでは無い。ただひたすら、その手の中の刃物を振るっているだけ。

 あれで…騎士、ですって?冗談じゃない。あんなのはただの、復讐鬼だ。

「ぐ…おおおっ!」

 斬られながら、それでも最後の力を振り絞り、アサルトは昨日見せた、必殺の突撃攻撃を繰り出す。だが、闇に目隠しされた状態で、まともに狙いが付くはずも無い。

 的は大きく反れ、大地に穴を穿っただけ。それ以降は、まるで力尽きたように動かなくなる。

「やはり…そうでしたか。」

 その様子を見て、サンディエが低く呟く。「やはり」という言い方をしていたと言う事は、恐らく最初のアサルトを送った時から、何か気になる事があったのだろう。

 激情に身を任せたセイバーライトニングに断ち斬られたアサルトなど、もはや視界に入っていないのか、彼はぶつぶつと何かを呟いている。

 既に闇の中にいたはずのアサルトは、フレイルの配下である証の赤い塵となって消え去り、画面はぶつりと音を立てて消えてしまった。

「やられちゃったね。次こそ僕の……」

「ウィンダート男爵。少々お待ちを。」

「……もう!いつまで待てって言うのさ、サンディエ様!早く次の刺客を放とうよ!」

「その前に…アサルトには、重大な欠陥があります。」

「…何ですって?」

 サンディエの意外な言葉に、私は…そして他の面々さえも、僅かにその目を見開き、驚いた風な表情になる。

「ある程度は予想しておりましたが…やはり、と言った所でしょうか。」

「欠陥とは、何なのだ?」

「簡単な事です。今のアサルトは、セイバーナイツ抹殺のため、一撃必殺をコンセプトに作られております。」

 グラヴィの質問に、サンディエは特に不快に思った様子も無く淡々と答える。

 流石にこの状況では、いがみ合っている場合では無いと分かっているのか。

「しかし、その必殺の攻撃は、アサルトから全てのエネルギーを奪うのです。」

 …そうか。今までの、殲滅型(ジェノサイド)の感覚で作っていたから解らなかったけれど、アサルトは一点集中型。1度の攻撃に、今まで以上のエネルギー…体力と呼んでも過言では無い力…が必要になる。

 殲滅型(ジェノサイド)は、「いかに多くを殺すか」を目的に作られている以上、持久力は必要だが、瞬発力はそれ程必要ない。しかしアサルトは「いかに一撃で倒すか」を主目的においている…つまり、体力の殆どを瞬発力に用いてしまう為に、持久力がなくなってしまうのだ。

 使用目的が違うのに、同じ製法で作っている…それは確かに、重大な欠陥と言えるだろう。

「そして、エネルギーを失ったアサルトは、当然ですが暫くの間機能停止に陥ります。そこを、セイバーナイツは攻撃してきている。」

 成程。アサルトの動きが止まったのは、攻撃をかわされて呆然としていたのではなく、単純にエネルギー切れだったと言う訳か。

 だが…裏を返せば、その点を解決できたアサルトを作れば、更にセイバーナイツを追い詰められると言う事。

「サンディエ、その欠陥…いつまでにならば、改善できますか?」

「1週間程、お時間を頂ければ。」

 恭しい態度で宣言するサンディエに、私は鷹揚に頷き…

「そうですか。では、その欠陥の改善に全力を尽くしなさい。」

「承知致しました、公爵閣下。」

「そして、グラヴィ。私は今後、しばしばシュラーフェスを離れる時があるでしょう。留守の間の全権指揮は、貴方に任せます。」

「…公?」

 グラヴィは一瞬、私の言葉の意味を汲みきれなかったらしい。珍しく不思議そうに首を傾げたが…すぐに、私が何を言っているのかわかったのだろう。はっとしたようにその菫色の瞳を私に向け、僅かばかり驚いたような表情を見せた。

「まさか、公…」

「ええ。私も動きましょう。アサルトに向いた物を探します。」

 そう。今までの私の考えは甘かった。安全なシュラーフェスの中で、ただ部下達の報告を聞くだけの毎日。

 だが、それではいけないのだ。私はプラチナスの幹部であって、王では無い。

 幹部たる「貴族」である以上、自らも動き、この世界の征服を推し進めなければならない立場なのだ。必要とあらば、自らの手を汚す事も厭わない。それくらいの覚悟で望まなければならなかったのだ。

 時間が無い。手段など、選んでいられない。いつもそう言っている私が、自身の部下を…そして私自身を使わなくてどうする。

 この世界を侵略すと決めた瞬間から、私の歩む道は血塗られた物だと、決まっていたでは無いか。

「卑怯と言われようと、残虐者と言われようと、この世界は頂きます。我々の世界の民のために。」

次回予告


「貴女は、この俺にとって、永遠にお姫様なんですから。」

「青い髪の女…殺す!」

「こっちだ!」

蒼野(あおの)氷女です。『氷の女』と書いて、氷女(ひめ)。」

「分かってるなら、死んでくれれば良いのに。」


次回、侵略-4:氷の女

私達の「正義」とお前達の「正義」…賭けてみるか?



えー…特に賛否も無かったので、今後、この後書きには、次回予告なるものを入れようと思います。

「作者の愚痴」は、多分なくなりますのでご安心を。

それでは、また次回。

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