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侵略-1:侵略者

当作品は、公私共に仲良くさせて頂いている作家、秋月真氷様とのコラボ作品となっております。

辰巳は侵略者視点を担当し、秋月氏はヒーロー視点を担当しております。


それでは、「SAVER KNIGHTS ―SIDE Invaders―」……お付き合い頂けましたら幸いです。

 空中要塞シュラーフェス。

 それが我々……異世界から来た「侵略者」であるプラチナスの、この世界における拠点である。

 周囲に特殊なフィールドを形成しており、生半可な事ではこの世界の人間は入ってくる事が出来ないようになっている。

 我々がこの世界に来た目的はたった1つ。

 「この世界を我々の世界の植民地と化す事」。

 ……我々の住んでいた世界は、その人口の多さから、急激に疲弊した。それでも人口は増加し続け、最終的に飽和状態にまで陥ってしまった。

 世界を覆っていたはずの緑は減り、水は枯れ、食物はキューブ状の栄養食が、ほんの一握りの者の手にのみ入るという悲惨な状態。もはや、滅びを待つのみとなった我々の世界。

 だが、大人しく滅びを受け入れる事など誰が出来る。

 我々が生き残るために残された選択肢は2つだった。

 1つは所謂口減らし。

 増えすぎた人口を減らし、少しでも世界への負担を軽くする方法。だが、この方法で乗り切るには世界中の民を今の4分の1にまで減らさねばならない。

 その策をとれば、恐らく……いや、間違いなく市民は反乱を起こし、我々の世界は今以上の速さで崩壊の一途を辿るであろう。

 ならば、残ったもう1つ……「異世界を植民地化する」と言う方法を取るしか無い。

 例えそれが「侵略行為」と呼ばれようとも、我々の世界を……そして、民を救うには他に方法が無かった。

 無論、共存と言う考えが無かった訳ではない。しかし、共存をするには、この世界の民の数はあまりにも多すぎた。そして、この世界ほど、我々が生きていくのに適した世界もまた、無かったのだ。

 どちらにせよ、誰かを殺す事でしか成り立たぬのであれば……我々は、あえて「侵略者」になる道を選ぶ。

 そうして、この世界に宣戦布告したのが今から2週間前。

 最初の頃は、順調に「侵略」は進んでいた。1週間でこの世界の10分の1の人間を殲滅するに至った。

 だが……少し前から、我々の行く手を阻む存在が現れたのだ。

 「セイバーナイツ」と名乗る2人組。白と黒の騎士が、我々の放った刺客を倒していったのだ。


『我が忠実なる(しもべ)、数多の部下を束ねる『貴族』達よ』

 シュラーフェス、謁見の間。

 「(キング)」の証たる白銀色の装飾が施された御簾の向こうから、重厚で威厳ある声が響く。その前に並ぶのは、私をはじめとする5人の人間。

男爵(バロン)、ウィンダート。来ました!」

 緑の髪に、翡翠の瞳の愛らしい少年が、元気良く右手を上げてから立膝をついて頭を下げる。

子爵(ヴィスカウント)、サンディエ。お側に」

 金髪に金の瞳の青年が、崇めるように御簾の前に跪く。

伯爵(カウント)、フレイル。馳せ参じました」

 紅蓮の髪、紅玉のような眼を持つ青年は、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべながらその場に額づく。

侯爵(マークイット)、グラヴィ。御前に」

 紫の髪に菫色の瞳の中年男性が、恭しい態度で一礼した後その場で膝を折る。

公爵(デューク)、ブリザラ。ここに」

 最後に私が、腰まである青い髪をなびかせながら、同じ色の瞳を伏せその場で一礼する。

 ……私の名はブリザラ。プラチナスの幹部である「貴族」の1人であり、その中でも最高位に位置する「公爵(デューク)」の称号を「(キング)」から与えられた女である。本来なら、私の称号は「女公爵(デューケス)」なのだが、あえて性別を明かさぬ「公爵」を名乗っている。……因みに年齢は23歳。まだまだ恋愛や結婚に夢をみるお年頃であるが、それはこの際横に置こう。

 ……所詮、血塗られたこの身。そんな女を娶ろうなどと言う奇特な存在はいないのだろうから。

『この世界の侵略、捗っておらぬ様だな』

「は。こちらで送り出した刺客達を、セイバーナイツなる騎士達によって葬られております故に」

「彼奴らを先に葬らねば、我等の侵略もままならぬかと」

 私の言葉を、フレイルが継ぐ。

 実際、今夜もウィンダートが放った刺客が、セイバーナイツに倒されたと言う連絡が入っている。

「裏を返せば、奴らさえいなければ事は上手く進むはず」

「だからね、王様。あいつらを本格的にやっつけるための許可が欲しいんです」

「我々の生み出す刺客。それらを、今の対不特定多数攻撃用の『殲滅型(ジェノサイド)』から特定集中攻撃用の『強襲型(アサルト)』にすべきだと上申致します」

 グラヴィ、ウィンダート、サンディエの順で言葉を紡いでいく。

 我々の刺客達は、基本的にこの世界の生物の細胞と、我々の世界の生物の細胞を掛け合わせ、それを「ピート」と呼ばれる、我々の血液から作り出した合成生物に移植して生み出している。

 ちなみに余談だが、通常のピートは一般兵士として我々に従事している。

『……良かろう。許可する』

 王の厳かな声が、御簾越しに聞こえる。

 ……私を含め、「貴族」は……いや、我々の世界の民は皆、近年「(キング)」の顔をお見かけしていない。数年前までは崩壊を止めようと心を砕き、市井に赴いては政策を練っておられたのだが、この数年は常に御簾の向こうで我々に命令を下すのみ。だがそれでも……我々を従える程のカリスマ性がある。

『だが……我等の世界の崩壊まで、あと1年しか猶予が無い。その事、努々(ゆめゆめ)忘れるな』

『御意』

 私達5人の声が重なり、同時に今まで場を支配していた威圧感が消え失せる。

「……『(キング)』は自室へ戻られたか……」

「そうみたいですねぇ」

 グラヴィの言葉に、フレイルがやれやれと言わんばかりの態度で返す。

 グラヴィは我々「貴族」の中でも最年長。その威厳は「(キング)」に勝るとも劣らず、時折私も圧倒される。何故彼が「公爵(デューク)」ではなく、次点の「侯爵」の地位に納まっているのか、不思議に思う部下達も多い。実際、私も不思議に思うくらいだ。

 一方のフレイルは、私より少しだけ年上。にもかかわらず、いつもどこかふざけたような物言いをする。「伯爵(カウント)」という立場でありながら、その生来の人当たりの良さに付いてくる部下も多い。

「しかし、セイバーナイツ。実に鬱陶しい存在ですね」

 ゆるくウェーブのかかった髪をいじりながら、サンディエも溜息混じりに呟く。

 彼は、「子爵(ヴィスカウント)」という立場であるが、それ以上に優秀な「科学者」でもある。次元転移装置を開発したのも、そして刺客を生み出す装置を作り上げたのも彼だ。

「全くだね。あいつら、本っ当にムカつくよ」

 苛立っているのか、愛らしい顔を怒りに歪めて吐き出すウィンダート。

 5人の中でも最年少の14歳。「貴族」たる実力を持ち合わせているが、幼いが故に傲慢で残忍。我等の世界の民でさえ、笑って殺す事が出来る。

「……刺客達が倒され続けるようであれば、いずれは我々が出向くしかないでしょうね」

「うわ、絶対無いね! 公爵閣下はあの連中を買いかぶりすぎだよ!」

 私の言葉を、即座に否定するウィンダート。

 彼は、私が「公爵(デューク)」である事が気に入らないらしく、事ある毎にこうして私に突っかかる。

 「貴族」も……プラチナスも、一枚岩では無いのである。そんな状態を突かれたら、恐らく我々はあっさりと崩壊するだろう。

 現に私達の世界の住人ですら、私達のやり方に反発し、抵抗する者達がいるのだから。

「ウィン。それは公に失礼と言う物だ。閣下は一日でも早く、俺達の世界を救いたいとお考えなのだから」

「伯の言う通りですよ、ウィンダート男爵。それに、それに油断は禁物という言葉もございます」

「万が一に備えての心構えとして……の事だ。閣下も本気で連中がそこまで出来るとは思ってはおられぬ」

 そうだな、と言わんばかりにこちらを見ながら言うグラヴィ。

 ……ややこしい事になりそうなので、私もそれ以上は口を開かないが、実際はかなり、セイバーナイツに対して危機感を持っている。

 何しろ、相手にとっては命のかかった戦いなのだから、死に物狂いで来る事だろう。そうなった時の人間の底力は、馬鹿に出来ない。

 もちろん、それはこちらも同じ事。

 この世界を手に入れなければ、我々が消滅する事になる。


 私にとって正しいと信じているのは、私達の世界の住人を消滅させない事。それが私にとっての正義。

 ……その為にも、私はこの世界を侵略する。例え同じ「人間」を犠牲にし、屍の山を築く選択なのだとしても。


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