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Brain Guess  作者: ぱるせす
第1章 出会い、または再会
3/3

第3話 少女

思い出した。桜野(さくらの)。僕は小学三年生ごろに市内の他の地区へ転校したから、小さいときの彼女しか知らないが、明るく可愛らしく、いつも楽しそうに僕と遊んでいた。

「めーちゃんのかち。たいちゃんは、じゅうびょうかぞえて」

めーちゃんとは、桜野自身のことだろう。彼女は、かくれんぼをするつもりだ。しかし、この何もない世界でどこに隠れるというのだろう。


***


 長い夢を見ていた。今度ははっきりと内容を覚えていた。

 昨日の髪の毛は、シャーレに入れて保管していた。このシャーレには思い入れがある。


 僕は理科が好きだった。中学の頃は暇さえあれば理科室へ行き、実験の準備を手伝いながら、先生にいろいろな化学の話を教えてもらっていた。僕は成績が振るわなかった。大好きな理科はとりわけテストの点数が悪く、テスト返却の日は落ち込みながら理科室へ向かい、先生に慰めてもらっていた。

 中学二年生の期末テストの返却日、僕はいつも通り理科室へ行った。先生はいつものように優しい笑みを浮かべながら、乾かしていた試験管を試験管立てに並べていた。僕は黒板に書かれた「アンモニアの噴水実験」の文字を見て、使う道具が分かったため、押し黙って理科室に入り、棚から丸底フラスコを取り出して乱暴に教卓に置いた。

「一年生でやった実験ははっきり覚えています。なぜフェノールフタレインの水溶液が吸い上げられて噴水を起こすのかを、細かく説明できます」

「君に足りないものは何だと思う?」

先生は落ち着いた声で、諭すように問うた。

「分かりません」

僕は、自分に思考力が欠如している、という事実を言った。

「このシャーレで、何かをじっくり観察をしてみるという宿題を君に課す。私にも結果を見せてほしいが、きっとそのときにはもう私は生きていないだろう。期限はないよ。君なりの疑問を抱き、結果を導き出しなさい」

その後も僕の成績は落ちていくばかりだった。

 なんとか高校を卒業でき、大学生活も終わりが近い。でも、僕には卒業論文よりも後回しにしようとしていた宿題があった。それに今ようやく取りかかろうとしている。


 髪の毛からはシャーレの中で、生きているような艶を出していた。きっと気のせいだが、優しいシャンプーの香りもした。

 「BRAIN GUESSER」には親指ほどの大きさの穴が空いており、その穴の中にスキャン部がある。ここに「DNA情報が分かる何か」を入れると作動する仕組みになっている。興奮で震える手指を動かし、シャーレから髪の毛を取り出す。そして、新調したスマートフォンに接続したそれにそっと入れる。

 ピーッ、とブザー音が鳴った。この音が鳴った瞬間の脳の情報が、スキャナーに取り込まれたのだ。スマートフォンの画面に電話帳のようなものが表示された。ここにある電話ボタンを押すと、直接髪の毛の持ち主と会話できる。さっそく電話ボタンを押した。

 声は聞こえない。脳内だから、雑音すら聞こえない。だが、画面には「会話中」と表示されていて、確かに繋がっている。

「もしもし、あなたの名前は」

僕が問いかけると、その人は言った。

「桜野といいます」

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