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Brain Guess  作者: ぱるせす
第1章 出会い、または再会
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第1話 脳保存情報スキャナー

 文明は進み続けている。数十年前には夢でしかなかったものが、今では当たり前のように使われている。いつの時代もそうだ。そして、どこか使いづらく、完成形とは言いがたい状態で使われている道具も多い。


 僕は今、家電量販店の機種変更カウンターにいる。バックヤードで店員が僕の携帯電話の機種変更の作業をしていた。暖房によって温められた店内の淀んだ空気にあくびが出た。

 カウンターの端に、「話題の脳スキャナー!今なら端末代半額!」と書かれたPOPが置かれていた。

 ウィキペディアで「脳保存情報スキャナー」とされているこの機械は、ある人物の遺伝子情報が分かるなにか、例えば指紋情報や体の一部をスキャンすると、その人物の脳と会話することができるというものだ。しかしながら、この機械はスキャンした時点の脳情報のコピーを得られるだけであって、相手の記憶に影響をもたらすものではない。

 僕は三年ほど前にとある国立大学がこの機械の試作品を完成させたことを報じるニュースを見た。そのときから喉から手が出るほど欲しい商品で、二年前に商品化されると知ったときはインターネットでさまざまな脳保存情報スキャナーのことを調べた。だが、とにかく現実は厳しかった。指紋情報スキャン機能のみの一番安いモデルでも約九万円。遊び放題の大学生に買える金額ではなかった。必死にアルバイトに励み、どうにかして買おうと試みたが、麻雀とゲームの誘惑に負けた。それどころか、アルバイトで稼いだ弾みで金を使い果たして、さらに遊びに興じてしまった。今スマートフォンの機種変更をしているのも、八年間使い続けたガラケーがついに壊れてしまったからである。

 もう僕の人生はすでにこの機械に狂わされているのだが、「端末代半額」によってこの異彩を放つ機械からの誘惑をさらに目の前にちらつかされることになっているのだ。最初の発売から二年。最高級モデルでも定価が十一万円と、一般人に届かないこともない現実的な価格設定になってきている。まるで「早く買え、これが最後のひと押しだ!」と言っているようだ。

 僕はその誘惑への抵抗を諦めた。ガラケーからスマートフォンへの機種変更とあって、だいぶ時間がかかっていたが、ちょうど今作業が終わったようで、店員が新しいスマートフォンを持ってこちらに歩いてきた。これは僕に考える猶予を与えてくれていたのだ。僕はそう思って、戻ってきた店員に、脳保存情報スキャナーが欲しいことを伝えた。

 一瞬訝しげな顔をしたのが気に掛かったが、すぐに営業スマイルを取り戻した。

「はい、脳スキャナーでございましたら、何種類かございます。今からご説明させていただきますね」


 脳保存情報スキャナーは手のひらに載るサイズで、スマートフォンに接続して専用のアプリケーションを立ち上げることで使えるそうだ。携帯電話の周辺機器ということで、大手携帯キャリアがしのぎを削って製品を開発・プロデュースし、機能を宣伝している。僕はいくつかの機種から悩んだ末、「BRAIN GUESSER」という、なんだか名前が格好いい高級機種を買うことにした。やはり金は使うべきところで躊躇わず使うのが良い。そう思って胸を張って家路に就いた。

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