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第四話「陶酔」

「テオ様から離れろぉおおおおおおお!!!」


オルガの手に握られた魔剣エスパーダが哭いた。その音からは、底知れない怒りが伝わってきた。遥か地の底から聞こえてくる、煮えたぎる烈火の炎の音である。


魔剣は、テオの首筋に取り憑いていたヒルダを払い除け、その場に数本の髪の毛が舞った。


「テオ様、大丈夫ですか!!?」


オルガは、テオに駆け寄りたい気持ちをグッと堪えて、目の前にいる舌鼓をいまだに打っている吸血鬼から目を離さなかった。


「だ、大丈夫だよ。オルガぁ。」


テオは、大人が腰砕けになってしまうほどの快楽を得ていた。


す、すごいや。こんなの王宮で習った房中術なんか目じゃないや。

いま、僕・・どんな顔しちゃってるんだろう。


オルガには見せられない。


「こっち見ちゃダメだよ!!オルガぁ。」


オルガは、テオの今までに聞いたことのない艶を含んだ声に、彼女自身も信じられないような嫉妬心が心を焼いた。その炎は、ヒルダに当然及び魔剣の鋒は鋭く、吸血鬼を襲った。


吸血鬼は、口の周りに垂れた残り血を愛おしく、狂おしく、味わいながら魔剣を避けていく。まるで、ダンスをしているかのようだった。


かたや、名門で磨き抜かれた剣術は鋭く、吸血鬼を捉えるが、まるで薄い紙が勢いよく向かってくる鉄の棒を、風でひらりと交わすように、魔剣は空を切った。


「貴様ぁあああ!!我が主君に何をしたぁあああ!!」


「はぁぁあああ〜なんたる美味!!なんと甘美!!!これが貴血!!最上の馳走!!」


二人は全く噛み合わなかった。



うぅ、なんとか二人を止めなくちゃ。でもどうやって?

こうやって、立ち上がるのもやっとなのに。

足に、足に力が入らない。

でも、止めなきゃオルガが死んでしまう。


テオは、直感していた。ヒルダとオルガの戦力差を。

このままではヒルダが、その気になれば簡単にオルガを殺してしまうことを。


彼は、快楽のせいで体の芯に力が入らない。かといって、実力で彼女たちは止められない。

なら僅かな可能性に賭けるしかなかった。


「ヒルダ!!!オルガを拘束して!!!」


その叫び声は、ヒルダの体内にあるテオの血を通して、稲妻が木に落ちて大地を走り抜けるように伝わった。

その瞬間、ヒルダは全身が霧散し、黒い霧がオルガの背後に現れて、実体化した。

あっという間に、オルガはヒルダによって地面に組み伏された。



「妾の主人の前で、粗相するでない雌犬・・。」


「っ・・何を、言っている・・テオ様は、我が主君ぞ」


ヒルダからは、先程までの狂ったような色艶感じられず。純粋に、命令をこなす兵士のような瞳を浮かべていた。

吸血鬼による人外の、万力によって地面に押し付けられているオルガは、それでも戦う意思を貫いてみせた。




「あぁ!あぁぁあああ!!!!ヒルダ様が・・・人の手に堕ちてしまわれた。」


悲痛な叫び声が、堕姫城に響き渡った。

その声の主は、ヒルダの執事マチルダである。


マチルダは、スカジが放った蒼き閃光によって、ボロボロになった体で狂乱しているヒルダにも、ねじ伏せられたせいで下半身は機能しておらず、地面に横たわっていた。


それでもなお、主人を気にかける忠誠心はありありと感じられた。


マチルダはヒルダが貴血を食すことを、命をかけて諌めようとしていた。

なぜなら、貴血の血は、吸血する鬼より高潔な存在だった場合。血を吸った鬼は、上位の人に隷属を強要されてしまうからだ。

これまでの吸血鬼狩りの多くが、この血の持ち主であった。その為、自分より低位の吸血鬼を従えていた吸血鬼狩りは、多く存在したのである。


テオは、血を吸われる前のマチルダの言葉に、オルガの命を賭けることにしたのだった。


その結果、吸血鬼界最上位に君臨する”真祖の吸血鬼(ロイヤル・ファミリー)”の姫、ヒルダ・ドラキュラが、ただのテオに陶酔するが如く仕えることになる。










 




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