表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/15

第三話「貴血」

突如として、スカジから放たれた蒼き閃光は、その空間を支配した。


うわっ!まぶし・・くない?

ヒルダさんの吸血発言の後、スカジが物凄い光を発したけどその中にあって、僕は眩しくなかった。

僕にとっては優しい光。

きっとスカジは、僕を守ってくれているんだね。


光の中心にあって、テオは周りの状況を冷静に観察していた。


この場にある、調度品や窓ガラスは粉々になっていく。

目の前のヒルダさんは、あっという間に黒い塵になっちゃった。

あれ?執事さんがいない・・避難したのかな?

それにしたって、これは・・


「スカジ!ストップ!!やり過ぎ!!やり過ぎだよ!!!」


スカジは、僕の声に反応してなのか、それとも力尽きたのかは分からないけど、蒼い閃光が絶え絶えとなって途切れた。


改めて、テオがあたりを見渡すと、一階も含めてひどい惨状である。


「あちゃ〜、これ弁償だよね?」


そんな呑気なことを考えていると、怒気を含んだ声が響いた。


「当たり前であろう!妾の城でこれほどの狼藉、如何とも許し難いわ!」


声がする方を注視すると、壊れた窓から大勢の蝙蝠が侵入してきた。


「うわぁ!!」


思わずしゃがみ込んじゃった!

でも・・僕に何かするわけじゃ・・ないんだ?


蝙蝠たちは、テオを襲う訳でもなく部屋中をぐるぐると激しく飛び回った。

最終的にテオの目の前で黒い塊を形成、みるみるうちに傷だらけのヒルダが姿を現した。


ヒルダの真っ白なシャツは切り刻まれ、豊かな胸から蒼い血が流れている。

黒いパンツも、所々破れて地肌が見えていた。

ヒルダの口から、一筋の血が流れ出る。


「すごい・・本当に吸血鬼何だ。かっこいい・・。」


「そのような世辞が何になる?死ぬか?貴様・・。」


そうだよね・・怒るのは当然だよ。

スカジは僕の子供、親である僕が責任を取らなければいけない。


テオは、しゃがんだままに床に己の額をごつんとこすりつけた。

胸に抱えた卵は、ピクリとも光らない。


「何の真似か?」


ヒルダの恐ろしく冷たい視線が、幼いテオに突き刺さる。


「僕が払える代償であれば、どのようなものでもお支払いします。ですから、どうかスカジだけは、お許しくださいっ!!」


床に強く擦り付けたテオの額から、赤い血が滲んだ。

その血の香りが、風に漂いヒルダの鼻をくすぐる。


その瞬間、空気が変わり、ヒルダの殺気が息を潜めた。


「すぅ・・・何と甘い香りなのか。これはまるで・・穢れ無い、無垢な赤子の匂い。これすなわち最上の馳走。」


口上が続けば続くほどに、ヒルダの目は見開かれ、熱気で彼女はのぼせていく。

青白い顔は不気味に赤く染まり、その吐息は荒くなった。

そして遂に、(あられ)もなく魅惑的な唇から、彼女のよだれが迸る。


「・・・っ。」


な、何だろう?!お、悪寒が止まらないよぉ〜〜!!?


其方(そち)の血・・それが此度の代償。妾に吸わせよ、貴血の子。」


「貴血の・・子?」


僕は思わず聞きなれない言葉を聞いて、顔をあげてしまった。


「そうじゃ、其方は貴血の持ち主。吸血鬼が獲物として最上とする人間。貴様を啜ること叶えば、妾は至上の快楽を得られよう。」


要するに・・僕の血がすごく美味しそうって事なのかな?

なら、血を吸わせてあげれば許してもらえる。

でも、問題がある。

吸血鬼に血を吸われた人間は・・


「僕は、アンデッドとして死ぬわけにはいかないんだ。」


「くくくっ、安心せい。貴血を一吸いで枯らしてしまうほど、妾は愚かではない。貴様の寿命が尽きるまで、妾が其方を人間として飼ってやろう。」


「・・・。」


アンデットになれば、オルガが必ず悲しむよね。

僕たち生者は、アンデッドを必ず闇に葬り去る。

なぜなら、彼らは意思を持たずに悪戯に生者を嫌う存在。


この世を彷徨う穢れとなってしまった僕を必ず、オルガはその手で地獄に帰すだろう。

それは、彼女にとって忠義であり正義だ。

でも彼女は、その騎士道によって心を壊されてしまう、彼女は優しいから。


そんな事をさせる主人は、オルガの主人失格だ。

けれど、アンデッドにしないと、目の前の吸血鬼が言うのならば、躊躇いはないよ。


「僕の血で事を収めてくれるのであれば、喜んでお吸い下さい。」


僕は、にっこりと笑った。


ヒルダの興奮が絶頂に達する気配を感じた。

肉を前にした、飢餓状態の野犬が解き離たれる、そんな様子。


僕は、目を閉じてその時を待った。


「なりませぬ!!ヒルダ様!!どうかご再考を!!!」


ヒルダを何者かが止めたようだった。

そーっと目を開くと、執事が全身全霊でヒルダを食い止めていた。


「離せっ!!離さんかっマチルダぁぁぁああああ!!妾の食事を邪魔だてするかぁ!!?」


執事の女性はマチルダさん、て言うのか。

マチルダさんとヒルダさんの押し相撲は、明らかにヒルダさんの優勢。

マチルダさんの足が地面にめり込みながら、こちらに押し出され始めていた。


ヒルダさんは、狂った獣のように顔を歪め、彼女をその鋭い爪で引き裂いていた。

マチルダさんの蒼い血が、床の大理石に容赦なくこぼれ落ちる。


「無礼は承知!!されど、貴血は一歩間違えば貴方様が、隷属されてしまうのですよ!!」


其方(そち)はっ!!そこの人の子が、妾より高貴な存在だとでも申すかっ!!?真祖の血を引く姫である妾の血がっ!!血がぁっ!!人の子より下賤であると申すかぁぁああ!!!」


僕には、この状況をどうする事もできない。

彼女たちのやり取りは、人外の境地。

僕はただ眺めていた。


そして、運命が動き出す。

マチルダさんの力が尽き、膝が折れた。


「うっ?!!うぅぅっ...」


ヒルダさんの牙は、僕の細く白い首筋に容赦無く突き立った。

最初から、膝をついていて良かった。

もし立ったまま、血を吸われていたらその場で膝を屈して、衝撃で動脈が傷つき死に至ったかもしれない。


ヒルダさんは、獣が久しぶりの獲物にありついた時のように、喉を鳴らしながら、僕の血を啜った。

不思議なことに、僕は快楽の中に居た。

ヒルダさんに血を吸われている感触は、女性に恋をしているときと同じだ。

死を感じながらも、僕の陰茎はそそり立った。


初めての体験だった。


「貴様ぁぁああ!!テオ様から離れろぉぉおおお!!!!」


戦姫一閃、オルガがヒルダさんを僕から切り離した。



ブックマーク登録、評価をよろしくお願いします!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ