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第二話「堕姫城」

予想以上に、ブックマークを頂けたのでぼちぼち書いていこうと思います。

僕たちが門をくぐると、不思議な事に雨が止んだ。

ここには天井もないのに、雨風がお城を避けているみたいだ。

その代わりに、どう見ても闇の獣が城のあちこちから僕らを観察している。


「不気味だね。」

「テオ様、決して私から離れないでください。」

「うん」


オルガは、腰に帯剣しているバルターク家の家宝魔剣エスパーダを抜き、一部の隙も無い構えで僕を先導してくれた。

彼女の魔剣は意志を持っていて、僕には聞こえないけどオルガは、声が聞こえるみたいでたまに独り言を呟いている。

僕らが、城の正門まで辿り着くとまたひとりでに扉が開いた。

その先は、真っ暗で闇の帷が落ちていた。

“ひた、ひた”と足音がして暗闇の向こうから、青白い肌をした女性がぬるっと現れた。

彼女は、真っ白な長髪で執事服を纏っていた。


「ようこそ、堕姫城へ。ヒルダ公爵が、謁見の間でお待ちです。」


感情のこもっていない声だ。

アンデット・・なのかな?


“ピカッ、ピカ”

と、短信号がスカジから発せられた。

なんだろう。


「龍王様がおとなしくされている限り、お客人を傷つけるなとのご命令を承っております。」


彼女はスカジの声が聞こえるんだ。僕も早く、スカジと話がしたいな。

そういうと、彼女はまた闇の中に消えていった。

僕は、なんとなく大丈夫な気がした。


「テオ様?!お待ちください!いくならば私がまず先に。」


先に行こうとしたら、オルガを驚かせちゃった。

でも、オルガでも怖がることあるんだ。吸い込まれるような暗闇を前に、少し怖がってるオルガ可愛い。

オルガは、覚悟を決めたようで一歩を踏み出した。オルガが暗闇に消える。


「て、テオ様どうやら大丈夫なようです。」


「はーい。」


その声に誘われて、暗闇の中に一歩を踏み出すとそこにオルガは居なかった。


雷が、目の前に落ちて周りの風景が一瞬白くとんだ。


「うわっ!」


思わず、お尻をついちゃった。


「龍王の親が、その様な無様を晒すでない。」


声の主は、椅子に座った女性だった。彼女の側には先程の執事もデキャンターを持ち、侍っている。


「あれ?」


思わず声が漏れた。オルガがいない。

あたりを見渡すと、海を一望できる円形の大きな窓が確認できて、両サイドに階段がある。

目の前の真っ赤な長髪の女性は、白い長シャツに真っ黒なパンツを履いていた。優雅に金色のグラスで何かを飲んでいる。

恐らくワインだ。でなければ、執事の持っているデキャンターの中身は真っ赤な何かだ。


「お主の騎士には少し退席してもらった。案ずるな、客室で丁重にもてなしている。」


「貴方は誰ですか?」


「名を聞きたければ、貴様から名乗るのが道理であろう?」


僕は、とりあえず立ち上がって彼女をしっかり見据えて自己紹介をした。


「言いたい事はあるけど、押しかけたのは僕だからね。僕はテオ。ただのテオ。」


「ただのテオ?」


「・・・。」


嘘じゃない。もう僕は王族でもなんでも無いんだから。


「まぁ良い。妾は、ヒルダと申す。ただの吸血鬼よ。」


「意趣返しですか?」


「不満か?」


「・・いえ、此度はお城へのお招き感謝申し上げます。」


ヒルダは、またグラスを煽り執事におかわりを要求した。


「グビッ・・ふぅ構わん。ちょうど妾も退屈しておったしの、都合よく陽も隠れただけの事。それに、龍王などと言った珍客もおる。のぅ?」


“ピカーッ、ピカッ、ピィカッ!”


「戯けた事を申すな。何故、妾が人の子に仕えねばならぬ?」


“ピカッ!ピカ、ピカ〜ピカッ!!”


「えっ?」

いつ間にかヒルダさんが、目の前に居てスカジの事を人差し指で突いていた


「その様な脅し、まずはそこから出て来てから言って欲しいものだ。今のお主など、恐るに足りんわ。ふふふっ。」


“ピカーーーッッツ!!”


「おぉ、怖や怖や。」


「あの〜スカジはなんて言っているんですか?」


僕の問いかけに、彼女はキョトンとした。


「・・ぷっ、あはっはっはっはっは!お主!声すら聞こえておらんのか??ククッ、龍王の親など聞いて呆れるわ。道理で・・親を見つけても尚、卵から孵ることも出来なんだ。」


「・・・。」

卵の声って聞こえないのが普通じゃ無いだろうか?目の前で、ヒルダさんは腹を抱えて大爆笑をしていた。僕は呆気に取られていた。


「僕が何だって言うんですか?!」


「まだ分からぬのか?親子揃って戯け者とは、恐れ入る。龍王の力は、親に比例するのが習わし。要は貴様が、力及ばぬからそこのトカゲは、卵から未だに孵れずにおるのよ。」


「そうだった・・の?スカジ・・。」


“・・・・。”


スカジは答えなかった。でもそれが答えだった。

やるせなくて情けない気持ち。こんな惨めな思いは2度目だった。

兄様に見捨てられた時、僕の大好きなスカジに何もしてやれないこの無力。


でも、もう嘆くのはやめたんだ。


僕は涙を浮かべながら、ヒルダに問うた。


「どうしたら、スカジを卵から孵せるんですか!?教えてくだい。お願いします。僕は、僕を愛してくれる人だけは裏切りたく無いんです。その為なら、命も惜しくない。」


スカジを抱き抱えながら、僕は懸命に頭を下げて誠意を示した。

それを彼女は、人間ではありえないような角度から下から覗き込んできた。

紅い髪は床に垂れ、首、背中、腰はあり得ないほど曲がっていた。


そのヒルダの目は、艶やかな金色に輝いていた。

気を抜けば、その輝きに吸い込まれて帰ってこれない気がして、思わず目を閉じてしまいそうになる。

一瞬、夢を見た。自分が兄を差し置いて、王様になって立派なドラゴンに成長したスカジに乗って空を飛んでいる。

甘くて、すごく心地よい夢。でも戻ってきた。そんなものは、僕が望んでいる事じゃない。

スカジ、オルガを守らなきゃ。それが、彼らの主人たる姿だから。


逃げちゃダメだ。命だって差し出す覚悟を持たなきゃ!

僕は力強く、ヒルダを睨み返した。すると、ヒルダが初めて僕に興味が湧いた様な顔を呈した。


「ほぅ、妾の瞳を見ても尚、堕落せぬか。まるっきりクズという訳でもない、か。・・テオと言ったな。貴様、妾に血を吸わせる気はないか?」


「えっ??」


“ピカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!”

スカジの放つ蒼白い閃光が、部屋を満たしあらゆる物を破壊した。


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