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クジラノハネ  作者: 大苗 のなめ
8/9

VIII.thank you ...

「んっ・・・」

気がつくと、俺は教室にいた。

目の前には、心配そうな海咲の姿があった。

涙が、こぼれそうになった。

「う、うみ・・・っ」

顔をあげ、俺がそう言うと、海咲は首を横に小さく振った。

「・・・ううん・・・今は“うみ”じゃないよ・・・」

この時、海咲が初めて笑顔見せた。

それは、温もりと優しさに満ちていて、とても温かなモノだった。

それなのに、どこか切なく感じたのは、少し前の名残のせいだろうか。

俺はこの笑顔を見た瞬間、声を詰まらせた。

しかし、海咲は言葉を続けた。

「・・・“クジラ”は・・・いえ、“うみ”は・・・あなたとの約束を守りたかっただけ・・・」

「だ、だから、俺はっ・・・!!」

咄嗟に口を開いたが、言葉が続かない。

何て言えばいいのか、全く考えつかなかった。

唇を噛み締めるように、口を閉ざすと、それを確認してから、また海咲が口を開く。

「・・・“うみ”はただ・・・あなたに会いたかったんだよ・・・」

「俺、に?」

「・・・そう・・・。・・・そして・・・あなたに見送ってほしかったんだよ、“うみ”は・・・」

そう言って、差し出した手には、俺の首にかけている羽根と同じモノがあった。

俺も自分の羽根を手に取った。

二つの羽根は、静かに、小さな光を放っていた。

「・・・温かい、ね・・・」

俺は目を瞑った。

確かに、温かかった。

この温もりに触れていると、今まで見えなかった答えが、見えてきた気がした。

今まで“クジラ”の願いを叶えるために、固く拳を握りしめ続けてきたのに、開いたその手の中に答えがあった。

目の前に、答えがあった。

海咲は、それを教えてくれた。

「なぁ、海咲?」

俺が名前を呼ぶと、海咲は小さく「くすっ」と、声を漏らした。

「な、なんだよ?」

「・・・初めて、名前で呼んでくれたね・・・?」

そう言われ、途端に恥ずかしくなった。

顔が少し、熱くなった。

「え、えっと〜・・・まぁ、その・・・やっぱ“うみ”のほうがいい?」

「・・・ううんっ・・・海咲って呼んでほしい・・・」

この時、声色が少し明るくなった気がした。

海咲は、思いっきりの笑顔で、俺に微笑んだ。

「それでさ、海咲。俺、わかったよ。ありがとう」

「・・・うん・・・」

「だから俺・・・また会ってくる」

「・・・うん・・・」

「・・・またな」

「・・・っく・・・う、うんっ・・・」

俺はそっと、海咲を抱きしめた。

涙を流し続ける海咲の肩が、とても小さくて、愛おしく感じた。

海咲は俺の胸に顔を押し当て、Yシャツを濡らし続けていた。

消えていく意識は、温もりに包まれ、どこかへ移動していく。

あぁ・・・“うみ”は、この一瞬の幸福に触れたいんだ。

とても温かかった。











“うみ”と約束を交わした日。

家に帰れば、すぐさま母さんに引っ越しのことを訊いた。

それは事実といえば、紛れもない事実だった。

しかし、それは小学校を卒業した後の話だった。

俺はこの時、次の日が待ち遠しくて、仕方がなかった。

はやく、“うみ”にこのことを伝えたい。

きっと喜ぶだろうな。

もしかしたら、泣いちゃうかな?

ちょっと自惚れすぎかな?

はやく、まだ引っ越さないよ、って言いたいな。

でも、引っ越したら、同じ中学校にはいけないんだろうな。

だとすると、少し悲しいかな、やっぱり。

いろいろと考えが巡る中、ベッドに入っていた俺は、はやく明日が来るように、目を瞑った。






次の日、ランドセルを背負って、家を出る。

登校中の“うみ”に、ばったり会えないか。

そんな淡い期待さえ持ってしまうほど、俺は“うみ”に会うのが楽しみだった。

そして、なんと目の前には、見覚えのある後姿が見えた。

「うみっ!!」

俺は大声で叫んだ。

振り返って、“うみ”は俺を視界に捉えると、満面の笑みで手を振った。

俺も振り返した。

そして・・・。






頭が真っ白になった。

だって、おかしいんだ。

確かに俺は、“うみ”に向かって手を振っていたんだ。

手を振ってくれた“うみ”に、振り返していたはずなんだ。

なのに、そこに“うみ”がいない。

俺の隣を軽トラックが通り過ぎる。

その後を、白バイが追っていた。

しかし、俺の目には、そんな光景ではなく、醜い形をした少女が映っていた。

気がつくと、さっきまで胸で膨れていた想いが、酷く残酷なモノに変わり果て、口から吐き出されていた。

そのまま、俺は気を失った。











「うみっ!!」

目の前の少女に向け、声をまっすぐと放った。

あの時と変わらない姿、真っ白なワンピース、肩に少しかかるくらいの栗色の髪。

そこには、確かに“うみ”がいた。


・・・しんくん・・・。


心が震えた。

彼女は、笑顔で口を開いていた。

その声は、今にも消え入りそうだった。

「お前は・・・うみは、約束を守ったんだな。叶わないとしても、諦めずに・・・。それなのに、俺は・・・っ!!」


・・・。


俺は悔しくて、唇を噛み締め、拳を握りしめた。

あの時、俺が“うみ”に後ろから声をかけず、追いついてから話していたら、“うみ”も軽トラックに気づいて、少しでも避けれたのに・・・。

俺のせいで、約束は守れなかった。

手に血が滲む。

すると、そんな俺の手を、“うみ”はそっと包んでくれた。


・・・きずになっちゃうよ・・・?


固く握られた手は、気がつくと静かに震えていた。

力が抜け、“うみ”の手に触れていた。

彼女の優しさに、涙が止まらなかった。


・・・それに、しんくんはちゃんとまもってくれたよ・・・やくそく・・・。


「えっ?」

俺は、よくわからなくて、顔をあげた。


・・・だって・・・ここにいるよ・・・?


「うん・・・うんっ・・・!!」

小さな肩が、愛おしかった。

優しい声が、嬉しかった。

純粋な笑顔が、眩しかった。

いつまでも、キミに触れていたかった。

俺は、強く、そっと、小さくて優しい純粋なキミを、抱きしめた。






・・・ホントに、ありがと・・・。






「さよなら。“海咲”」

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