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クジラノハネ  作者: 大苗 のなめ
6/9

VI.the sea of memories


「なぁ、ここはどこ?」



・・・私のいる場所・・・あなたの記憶・・・。



確かに言われてみれば、見たことのある場所だった。

しかし、少しばかりそことは違った。

隣に見える校舎、ベンチが佇む並木。

そして、神谷さん・・・いや、海咲がいた場所。

学校の裏庭だった。

しかし、下を見れば、辺り一面を水が覆っていた。

奥深くまで透き通っている水面の上に、俺は立っていた。

“クジラ”の居場所・・・記憶の海。



・・・見つけて、くれたんだ・・・。



俺は深く、しっかりと頷いた。

そして、自然と手が、ネックレスの羽根を握りしめていた。

光が、胸を満たしていった。



「ごめん、遅れて・・・。迎えにきた」



ネックレスを首から外し、手のひらに羽根を乗せ、“クジラ”に向けて差し出した。

“クジラ”は、俺の前に佇んでいた。

ゆっくりと・・・ゆっくりと・・・俺の手のひらに手を乗せた。

“クジラ”は、気づけば少女の姿をしていた。



・・・私のために・・・ありがとう・・・。



「気にするなよ。さぁ、帰ろう」



・・・うん・・・。



目の前の少女は、静かに微笑んだ。

すると、少女の体は光を放ち、世界を包み込んだ。



・・・ありがと・・・慎くん・・・。











これは、俺が小学生低学年の時に、ある女の子と出逢った頃のこと。

俺は、この子のことが大好きだった。

だから、いつも二人で遊んでいた。

「うーみー、はやくー」

「しんくん、まってー」

公園に駆けていく俺と、少し遅れてせかせかと走る“うみ”という少女。

「きゃっ!」

後ろから、小さな悲鳴が聞こえて、俺は振り返る。

すると、豪快に前から、土に向かってダイブしていた。

顔だけあげると、土で汚れてしまい、うるうると涙を目尻にためていた。

俺は慌てて駆け寄った。

「うみっ、だいじょーぶかっ!?」

「・・・うぅ・・・いたいよぅ・・・」

“うみ”の手をとり、ゆっくりと起こしてやった。

見ると、膝が擦り剥けて、血が出ていた。

「・・・ち、ちが・・・」

「こんなのだいじょーぶだ!!みてろ?」

俺はこの時、ただ笑わせてやりたかった。

その一心で、公園を走り、思いっきり地面に向かって、顔から飛び込んだ。

「あっ」

“うみ”から小さな声が漏れたのが、聞こえてきた。

それはそうだ。

俺も同じように、わざと転んだのだから。

「いってて」

気づくと、“うみ”は俺のとこまで来ていて、心配しにきてくれていた。

「だいじょーぶ?」

俺を覗き込む“うみ”の目には、まだ涙が浮かんでいた。

それを追っ払いたくて、俺は満面の笑みを浮かべた。

「いたいけど、おれはへーきだ。おれがへーきなんだから、うみもへーきだっ!!」

「で、でも・・・」

“うみ”は、なかなか笑ってくれなかった。

しかし、俺はこのとき、いい方法を思いついた。

「あ、そーだ。おれって、うみがわらってると、いたくないんだ。あぁー、うみが、ないてるからいてーなー」

「ごめん・・・」

「だから、わらってよ」

「・・・う、うんっ」

少し肩を小さくして、恥ずかしそうに優しく笑った。

俺はこのとき、笑わせたくて言った嘘が、本当になったような気がした。

もう痛くなかった。

「おっ、やっぱりいたくないや。さすが、うみだな」

「そ、そうかな?」

やっぱり、恥ずかしそうにしている“うみ”が、可愛らしかった。

気づけば、“うみ”の膝の血が少し止まっていた。

このあと、俺たちは俺の家に行き、お母さんに膝を水で洗われ、消毒液をつけられ、とても痛い思いをした気がする。

“うみ”を見れば、痛みを我慢して、無理に笑顔を浮かべていた。

俺は“うみ”の笑顔に、笑い返そうとしたけど、やっぱり苦笑い。

“うみ”が笑ってても、“うみ”が痛ければ、やっぱり痛かった。






「ねぇ、しんくん」

「なに、うみ?」

また別の日、もうあと1か月で進級するくらいのとき、“うみ”は俺に深刻そうな顔で尋ねてきた。

「しんくん、ひっこしちゃうってほんと?」

「えっ・・・?」

俺はこのとき、尋常じゃないくらい驚いた。

だって、そんなこと俺すら知らなかったから。

嫌な感じが、俺の胸の中を渦巻いていた。

「どうしてそんなこと?」

「しんくんのおかあさんが、はなしてるのをきいて・・・」

俺はショックだった。

知らない間に、“うみ”とお別れする用意が整っていたことになるんだから。

「ごめん、おれもしらないや」

「そっか・・・おわかれは、しないといいね?」

「うん。そうだな」

俺はそっと、視線を落とした。

すると、“うみ”は俺に小指を差し出した。

「やくそく、しよ?・・・ずっとずっと、一緒にいようねって、やくそく」

「うん、わかった。やくそく」

「あ、待って。もしおわかれしても、またぜったいにあおうねって、やくそくもしよ」

「う、うん・・・。でも、きっとおわかれはしないよ」

「そだね・・・あっ、あと、そのためにまたかえってきてねって、やくそくも」

「よ、よくばりだな・・・うみ」

俺がそう苦笑いを浮かべると、えへへと少し申し訳なさそうに笑った。

そして、また俺を見つめ直した。

その真っすぐな瞳は、とても大人びているように見えて、このときの“うみ”は、すごく綺麗だった。

「だから・・・ずっとそばにいてね?・・・おわかれでも、きっとかえってきてね?」

「うん」

そして次の日、俺は“うみ”に別れを告げた。

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