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クジラノハネ  作者: 大苗 のなめ
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V.you are my friend

慎が転校してきて、何日か経った今日。

そして、今は昼休み。

慎のやつ、神谷に体育館裏に呼び出された日から、少し様子がおかしい。

ちなみに、俺は慎の友人A【久瀬 智哉】。

ぐーたらな、やや不良。

慎がこの高校に来るまで、授業はサボっていた。

まぁ、それはさておき、慎がどういう具合におかしいかというと・・・。

授業が終わると、慎は姿をくらます。

昼休みも、こうして気づくといなくなる。

だから、俺はいつも焼きそばパンを片手に、校舎を歩き回っている。

「ったく、今日もいねーしよ・・・」

とか、何とかボヤキながら、結局は退屈するはめになる。

裏庭を通りかかると、いつも神谷は並木のそばで、空を見上げている。

慎のことを尋ねても、シカトされるのは、今さらだった。

何で慎とは話すんだっつの。

俺をシカトすんじゃねーっ!!・・・ってな感じ。

しかし、わかっていながら、チャレンジ精神は捨てられない。

「おい・・・慎、知らね?」

「・・・」

・・・チッ。

もう舌打ちが癖になりそうだっつの。

ため息をついてから、他の場所も適当にぶらついた。

それでも、慎は昼休み、俺と会うことはなかった。






授業中、慎はほとんど寝てやがる。

起きていても、どこか上の空で、目が虚ろというか・・・とにかくボーッとしてる。

何か、厄介事に巻き込まれているのかもしれない、その予想が当たらなければ、いいけどな。

俺は紙切れに、『平気か、お前?』と書いて、慎に回してもらった。

しばらくして、その紙が返ってきた。

そこには、意外なことが書かれていた。

『俺は平気だから、ほっといてくれ』

・・・はぁ?

これは不良として、親友として、立ち上がらずにはいられなかった。

椅子が床に擦れる音が、教室に響いた。

周りの視線が、俺に集中する。

日本史の先生が、眼鏡を光らせ、俺のとこにきた。

「と、突然どうしたんだね?」

俺は先生を素通りし、慎の席に向かっていった。

慎は驚いた様子で、俺を見上げていた。

その表情が、俺を更に苛立たせた。

黙って襟元を掴み、立ちあがらせ、そのまま教室を出た。






「ちょっと・・・智哉っ、何だよっ?」

「それはこっちのセリフだっ!!バカヤローっ!!」

慎はビクッと体を震わせ、俺は手をはなした。

その途端、慎はへたりと廊下の床に座り込んだ。

拳を握りしめられずには、いられなかった。

「んだよ、お前・・・意味わかんねーよ・・・マジざけんなよ・・・」

「ど、どうしたんだよ・・・」

「慎っ、歯ァ喰いしばれェっ!!」

堅く握ったこの拳に、気持ちの全てを込めて打ち込んだ。

慎は、勢いよく吹っ飛び、倒れた。

力を抜くと、拳がジンジンと痛む。

「何するんだよっ!!」

「・・・お前が心配だっつったじゃねーかよっ!!

すると、慎は声を押し殺した。

俺まで黙ると、授業中の廊下は、静けさを取り戻した。

一息ついてから、口を開いた。

「何かあったんなら、俺に話せっつの。俺ら、親友だろ?」

慎は俯いた。






「・・・ぷっ」

「おまっ、笑うなよっ!!」

とは言いつつ、慎の笑顔は久しぶりだった。

あんなにボーッとしていたのに、今はこんなにも楽しそうに見えた。

ただ、殴った場所が笑うと響くのか、時折「痛っ」と苦笑い。

「智哉にそんな台詞、似合わないって」

「そうかよっ」

「第一、いつ親友になったんだよ?」

「なっ・・・。じゃあ、今っ!!殴ったこの時から、お前は俺の親友で、俺はお前の親友っ!!わかったなっ?」

「・・・ぷっ・・・あっはっはっはっ!!やっぱ似合わないな。でも、悪くないよ、そのキャラ」

俺を茶化す慎の言葉が、可笑しくてしょうがなかった。

「ぶぁっはっはっはぁーっ、ひっひひ・・・は、腹いてーよ。ちょーウケる、慎。普通、んなことこのタイミングで言わねーっつの」

「お前こそ、爆笑モノだって」

「悪かったなっ!!・・・ぶっくっくっくっ・・・あぁ〜、笑った」

やべーよ、ったく。

こんなに笑ったの、小学校以来だっつの。

懐かしすぎるんだよ、この感覚。






「なぁー・・・あん時、何があった?」

授業をサボり、俺らは屋上で寝っ転がっていた。

やべー、何か俺、青春してるし。

「・・・強いて言うなら、神谷さんにキスされた」

「はぁっ!?」

あまりに衝撃的すぎて、勢いよく体を起こした。

俺の大声が、屋上で響き、空へと消えていった。

「おまっ、マジかよ?」

「マジ」

「んで、その後は?」

「“クジラ”と会ってた」

ガクリと肩を落とし、そのまま体を倒した。

「話の脈略あってねーし。意味わかんね―っつの」

「そんなこと言われても、本当のことだし」

俺はハァーっとため息をついた。

「じゃあ、付き合っちまえよ」

「・・・」

思いついたことを、そのまま慎のために言ってやったのに・・・。

どうしてお前は、首を縦にも横にも振らないんだよ。

「・・・んだよ?」

「別に」

慎は体を起こし、立ちあがった。

そして、目の前に広がる青空に向かって、手を伸ばした。

慎は、何してんだ?

俺の疑問は、答えに辿り着くことなく、空を漂う。

「じゃあ、そろそろ教室戻ろう?多分、もうHR始まってるだろうし」

「・・・だな」

立ちあがって、また空を仰ぐ。

やはり、俺にはまだわからないまま、空が広がっていた。

廊下を歩いてるとき、通学路を歩いてるとき、お互いに何も言わなかった。

しかし、それでも俺は、心の奥で何かが通じ合っていると、思っていた。

だから、何も言わなかったってのに・・・。






次の日、慎は学校に来なかった。

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