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クジラノハネ  作者: 大苗 のなめ
3/9

III.I need you



・・・私・・・ずっと一緒だから・・・。




・・・大丈夫・・・泣かないで・・・。




・・・きっと・・・いつか、きっと・・・。




・・・キミは・・・帰れるから・・・。






「夢?んだよ、それ」

放課後の帰り道、智哉と二人で歩いていた。

授業中に見た、あの“クジラ”の夢について、智哉に話していた。

「そう。夢の中で“クジラ”を見たんだ。哀しそうだった」

「はぁ・・・もうお前ら、意味わかんねーよ。」

頭を掻きながら、嫌そうな顔をしていた。

最初から、理解してもらえるとは、思っていない。

今だって、俺もよくわかんないんだから。

「俺だってわかんないから」

「どうだか」

ふて腐れたように言ってきた智哉は、口を尖らせていた。

「どうした、何怒ってんだよ?」

「別に・・・」

訊いても答えない。

過ぎゆく登校中の生徒たちを尻目に、気まずい空気に苦痛を感じた。

どうして、そんな怖い顔をするのだろうか。

そう思ったその時だった。

「はぁ」と一回、ため息をつくと、嫌そうに話してくれた。

「心配なんだっつの。お前が」

「はぁっ!?」

突然、何を気持ち悪いことを・・・。

俺が軽く引いていると、両肩に手を乗せて、迫るように睨みつけてきた。

「変な意味はねーよっ!!・・・神谷、変わってんだろ?だから、お前が厄介事に巻き込まれんじゃねーかって、心配してんだっつの」

すっかり日は暮れた下校道で、こんな熱い展開はどうかと思うけど、不思議と嬉しかった。

「そっか・・・サンキュな」

「おう」






「ただいまー」

「あら、遅かったじゃない」

「ちょっとなー」

家に帰れば、母さんの声が出迎えてくれる。

父さんは、まだ帰ってきていない。

「晩ご飯、とっくにできてるわよ」

テレビを見ている母さんは、振り返りながらそう言った。

「わかった」

俺は荷物を部屋に置き、晩ご飯を食べ、部屋に戻った。

ベッドに倒れこめば、そっと睡魔が俺に囁く。

しかし、風呂に入るのを忘れていたことに気づき、体を起こし、風呂場へ向かった。

服を脱ぎ、シャワーで体を洗い、湯船に浸かれば、自然と嗚咽がこぼれる。

「・・・心配、か」

智哉の言葉を思い出せば、少し申し訳なくなってきた。

手ですくった湯で、顔を洗った。

そして、風呂からあがり、すぐ部屋へ戻る。

すっかりもう夜中だった。

長風呂だったのか、入るのが遅かったのか。

何にせよ、母さんはもうすでに寝ていた。

ふと、玄関の扉が開く音がした。

父さんが帰ってきた。

「おかえり」

頭を拭きながら声をかければ、「起きてたのか」と驚きながら笑顔で応えた。

「じゃあ、おやすみ。父さん」

「あぁ、おやすみ」

俺は部屋に戻って、ベッドにまた飛び込む。

何の気兼ねもなく、すぐに眠りについた。






・・・“クジラ”を助けて・・・。


「これは、神谷さんが見ているの?それとも、俺に見せてるの?」


・・・ごめんなさい・・・わからない・・・。


「・・・ここはどこ?」


・・・記憶の海・・・夢の奥深く・・・。


「“クジラ”って?」


・・・夢の始まり・・・最後の記憶・・・。


「俺に、何ができるっていうんだよ?」


・・・あなたにしか、できないこと・・・。


「・・・キミは、どうしてここに?」






・・・“クジラ”との約束・・・。






目の前に、立っていたはずの彼女は、もうすでにいなかった。

さらに、気づけば足は空を踏んでいて、見上げれば砂浜があった。

ちょうど真上に、二つの足跡が、寂しげに小さく沈んでいた。

そこから生えているように伸びる、黒い影を見れば、自分は今“そこ”にいるんだと気づく。

俺は真上に向かって、手を伸ばした。

“そこ”にいる、“俺”に向かって。

何か、掴んだ気がした。

その手を広げれば、白い羽根のネックレスが、静かに優しく佇んでいた。

見ているだけで、俺も、神谷さんも、“クジラ”も、救われるような気がした。

ネックレスを、首にかけた。

すると、俺は空に落ちていった。






薄暗い中を見回せば、俺の部屋だった。

時計に視線を送り、すぐその重い瞼をまたおろした。

「マジかよ・・・」

少しばかり、早く起きすぎてしまったようだった。

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