表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッド・スレイヤー  作者: 山夜みい
第二部 永遠の約束
90/231

プロローグ

 

 ーー暗黒大陸、某所。


「ぁぁああああああああああああああああああああああああッ!!」


 一人の男が絶叫を上げていた。

 空が割れるほどの魔力を放出し、大地が割れ、山を潰れ、砂塵が巻き上がる。

 その、嵐のような破壊の中心でーー。


「ハァ、ハァ、まただ、また(・・)、私は繰り返した……! あの子も、あいつと同じように……!」


 息を荒立てながら苛立ちを露わにする男の側に、突然影が現れた。

 影は膝をつき、平伏する。


「それ以上はおやめください。御身の身体に触ります」

「構うのものか! 我が身体など、とうに……!」

「いいえ。構っていただかなければなりません。御身は魔を統べる王なれば」


 怒れる暴君を諫めながら、影はただ己の忠義を尽くした。


「『目的』は未だ、御身の手中にございます。偉大なる我が君」


 月明かりが、影の正体を露わにした。

 暗黒の鎧に身を包んだ男であった。


「我ら死徒一同、御身の為に全てを捧げます。どうか、ご自愛を。冥王メネス様」

「……………………。あぁ」


 男ーー冥王メネスは肺の中の空気を吐き出す。

 頭にのぼった血が降りてきた。

 誰も居ない荒野を選んだとはいえ、辺りはめちゃくちゃだ。

 久しぶりに感情を出したせいで、ひどく心が疲れていた。


「……すまない、ニア。我を失っていたようだ」

「お気持ちはお察しいたします。無理もないかと」

「あぁ……まさか二度もしてやられるとは。忌まわしい神々共め」


 パチン、と冥王は指を鳴らす。

 その瞬間、黒い影がメネスとニアを包み込み、彼らは居城へ転移する。


 ーー暗黒大陸、『不死の都』。

 ーーイントゥクルス城、大広間。


【キヒヒヒッ! 帰って来たか。ちったぁ頭は冷えたのか? ン?】

「あぁ。ほんの少しだが、胸がすいた」

【だから言ったろうがよ。ムカついた時はソレ(暴力)しかねぇってな!】

「ふん。貴様の言葉にも豆粒ほどの信用を置いてもよさそうだな」

【キヒヒヒ! 言いやがる!】


 神霊ヴェヌリスは腹を抱えて笑う。

 全面的に冥王の八つ当たりを肯定する言葉に、しかし、他の神霊は渋い顔だ。


【私はおすすめしないわ。あんたの魔力だって無限じゃないのよ。有限なのよ?】

【ほぼ無限……とは、いえ。今、この時『奴』が攻めてきたら……分からない】

【ワタシは構わないけどね。必要な時に力に訴えるのも良い男の魅力だから】

【ダハハ! さすが分かっているな、オルクトヴィアス。惚れそうだ。抱いてもいいか?】

【死ね】

【ダーッハハハハ! 相変わらず手厳しい!】


 軽快に笑う神霊にオルクトヴィアスは氷よりも冷たい目を向ける。

 他の女神たちも白い目でその神霊を睨んでいた。


【あんたは相変わらずのクズね。ダルカナス。クズでしかないわ。ないわ?】

【……同意。早く殺されればいいのに】

【何という事だ。ここには敵しかいない】


 神霊ーー闇の神ダルカナスは女神たちの殺意をもともせず笑った。


【ますます抱きたくなるな。よい女だお前たちは】

「そこまでにしておけ。親交を深めるために貴様らを呼んだわけではない」

【キヒヒヒッ! なぁ、もう待ちきれねぇ。聞いてもいいかよ、なぁオイ】


 ヴェヌリスが冥王の前に進み出た。


アイツ(・・・)はどうだった?】


 アイツーーその言葉に、居合わせた者達の間に沈黙が降りた。

 今や五人となった死徒は表情を険しくし、神霊たちもまた冥王の言葉を待つ。


「アイツ……とは?」

【キヒッ! とぼけんじゃねぇよ、オイ。決まってんだろうが。ジーク・トニトルスだよ】

「……」


 ジークの名が出た瞬間、エリージアはピクリと眉を上げた。

 複雑な表情で言葉を待つ月の女神を一瞥してから、冥王はゆっくりと口を開く。


「……強くなっていたな。貴様と戦った時とは次元が違うほどに」

【……!】

「エリージア。貴様もあの子と戦ったのだろう。どう感じた?」

【危険な子】


 エリージアは即答した。


【あの子は、予言神メルヴィオが予言した運命の子……それは間違いない。今後……彼がどう転ぶのか……誰にも分からない。この長い戦争における、特異点。私と戦った時は、神の前にひれ伏す程度の小物だった…………でも、あなたと戦って、生き延びたという事は】

「そうだ。奴は強い(・・・・)。現状、人類の中で最も警戒すべき存在だ。私も傷を負った」

『!?』


 ありとあらゆる魔獣を従え、魔を統べる絶対の王。

 そこらの上級悪魔とは存在の格が違う冥王に傷を負わせたーー。

 その事実は、彼ら死徒に大きな衝撃を与えた。


「冥王様が傷を負うとは……」

「ちょっと、メネスちゃん。冗談を言ってる場合じゃないのよ?」

「嘘ではない。現に、奴は第六死徒キアーデ・ベルクを完封して倒している」

「…………」


 再び、嫌な静寂が大広間によこたわる。

 殲滅力こそ欠けるが、第六死徒は対人戦だけで言えば死徒の中で一、二を争う強さだ。

 彼女が負けたとすれば、相性の悪さによっては次は自分の番となる。

 そう、死徒たちが理解したのを見計らって、冥王は言葉をつづけた。


「舐めて抱えれば痛い目を見るぞ。神霊単体で敵うとは思わないことだな」

【……あぁそうかよ、キヒッ! そうか。もうここまで(・・・・・)来たか。あいつが! あの小僧が!】


 ヴェヌリスは腹を抱えて肩を揺らし、くるりと背を向ける。


【ちょっと戦闘バカ。どこに行くの? まだ話は終わってないわ? ないわ?】

【オレの中では終わったんだよ。お前たちも分かってんのか?】


 ニィ、と嗤いながらヴェヌリスは後ろ目で闇の神々を流し見る。


【アイツがメネスと出会ったって事はだ。そろそろ来るぜ(・・・)。混沌の時代が。五百年ぶりの大喧嘩(・・・・・・・・・)がッ!】

【……】

【楽しみだなァ。キヒ、キヒヒヒヒヒッ、キーヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!】


 大広間に余韻を残し、バタン、と扉が閉まる音が嫌に響いた。

 残響がなくなったころを見計らい、神霊たちはため息をつく。


【アレはもう何を言っても駄目ね。完全にイッちゃってるわ】

【アレの頭が狂ってるのは……元から。今回は……スイッチが入った、だけ】

【いつも通りの平常運転だ。問題はないな】

「ちょっとー、呼び戻さなくていいの? どこ行ったのよ、あの人」

【黒竜山脈で修業でもしているのだろう。気にしなくていい。我も地上の拠点で休暇といきたいものだ……それより第三死徒。抱いていいか?】

「くたばれクソ神」

「ーーそこまでです。今は冥王様がお話している最中。私語は慎むよう」


 ぴしゃり、と場を諫めた第一死徒ニア。

 水を打ったように静まり返った室内で、彼は己の主を仰ぎ見る。


「それで、いかがされるおつもりですか、我が君」

「無論、攻め滅ぼすまで」


 端的に、メネスは告げた。


「恐らく、ジークの成長をこれ以上止める事は出来ない。奴を仕留めようと思えばアレに目をかけている神々まで出向いてくる……そうなれば、こちらの被害も甚大となるだろう。各個撃破されるのが最悪のパターンだ。で、あれば。奴がこれ以上成長する前に、守るべきものを壊し尽くし、戦う意味を無くしてしまえばいい……人類の殲滅を以て、ジークの疑似的な無力化を果たす」

「……では、再び仕掛けるのですね」

「あぁ」


 メネスは立ち上がった。


「出陣だ。死徒は全員、神霊は六人出す。テーベの港に五百万の兵を集めろ」

『応ッ!』


 ダン、と軍靴の音を響かせた死徒だが、冥王の前に進み出る者が一人。


「……恐れながら我が君。御身の護衛として、私を残していただければ」

「……ニアか」


 第一死徒、ニア・アーキボルク。

 死徒の中でも強い発言権を持つ男の言葉に、神霊も同調する。


【そうね。そうよ。奴らが裏をかいて暗殺に来ないとも限らないでしょ。オルクトヴィアスの力はそうそう使うわけにはいかないんだし、護衛一人くらい残しておけば?】

「……よかろう。ならばニア。お前は残れ」

「ありがたきお言葉」

「他に異論のある者は?……ないな。ならば決まりだ」


 メネスは彼方を睨みながら、号令をかけた。


「冥王メネスが命ずる。今度こそ異端討滅機構(ユニオン)を滅ぼし、人類を殲滅せよ!」

『応!』

「長きに渡る平穏をぶち壊し、奴らに思い出せるのだ。人の身の儚さを!」

『応ッ!』

「守るべき者をはき違えた葬送官共に、貴様らの力を思い知らせてやれ!」

『応ッ!』


 

 冥王の号令一下、不死の都は慌ただしく動き出す。

 あっという間に誰も居なくなった広間に、二人の男だけが残された。





 ◆



「満足か?」

「何のことだよ」

「とぼけるな、ルプス。私の元に奴を誘いだしたのは貴様だろう?」

「……」


 口の端を緩めたまま答えないルプスに、メネスはため息を吐いた。


「沈黙は是なりという言葉を知っているか?」

「カカッ! いいじゃねぇか。お陰で甥っ子に会えただろ?」

「……契約は忘れていないだろうな」

「愚問だろ、メネス。俺たちの目的は一つだ」


 ルプスはメネスに背を向けた。


「……行くのか?」

「あぁ」

「フ。殺されないように気を付けろ。奴は強いぞ」

「それこそ愚問って奴だぜ。忘れたのか?」


 獰猛な笑みを浮かべ、ルプスは言った。


「俺様は世界最強だ。今も昔も、な」


 終末戦争以来、三度目の全面戦争。

 ジークが投じた一石により、世界は大きくうねり始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ニアを除いた死徒みんなでユニオンにせめて、いくらジークとその愉快な仲間たちが強くても勝てるのかな?w [一言] 更新お疲れ様です 今回もめっちゃ面白かったです! 次回も楽しみにしてます…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ