表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッド・スレイヤー  作者: 山夜みい
第三章 飛躍
89/231

エピローグ

 


「何ですかこのかわいい生き物はっ! かわいいです~~~!」

「きゅ、きゅうう!?」


 神獣形態となったアルトノヴァを抱きしめながら、リリア。

 一同は冥界の火山地帯を越え、月の女神と戦った原野超え、オズと戦った林を歩いている。既に冥王との戦いから一昼夜が過ぎており、出口が近い事もあって、一同の足は速足気味だった。


「あ、あの、リリア。お手柔らかに、ね?」

「はいっ! はわわ、可愛いですふわふわです……」

「きゅー!」


 アルはまんざらでもなさそうにリリアに頬をずりしている。

 仲の良いペットと飼い主のような微笑ましい光景に、しかしルージュは不満顔だ。


「ちょっと、おかしくない? あたしの時と態度が全然違うんですけど」


 ルージュの言葉に反応したアルは鎌首をもたげ、「……フ」と鼻を鳴らした。


「あ、今こいつ馬鹿にした! 絶対馬鹿にしたよお兄ちゃん!?」

「まぁまぁ。アルも、喧嘩売らないの。分かった?」

「きゅっきゅー!」

「こいつ絶対分かってないよ。上辺だけだよ」


 ルージュがじと目でアルを睨み、

「いいもん、あたしにはお兄ちゃんが居るもん」とジークの腕に抱き着いてきた。


「ルージュ。歩きにくいんだけど……まだここ冥界なんだし、警戒しなきゃ」

「いいよそんなの」


 呟き、ルージュはパチンと指を鳴らす。

 その瞬間、木陰から飛び出そうとしていた魔狼(ガルム)は影の槍で串刺しになった。


「今ここに、あたしたちに敵うような奴なんて、冥界の神々くらいだよ」

「まぁ、その人たちが来ないように、早く抜けないといけないんだけどね」


 ジークがアルに捕まり、ルージュとオズを、そしてリリアが自前の翼で空を飛んだため、今回の冥界横断はかなり時間短縮されている。だが、月の女神エリージアがジークを襲ってきたように、何か一つボタンを掛け違えばいつ神々が現れてもおかしくはない。

 だからこそ、ジークはゼレオティールの加護を使っていないのだ。

 ともあれ、


「ねぇオズ。ほんとに僕たちと一緒に来るつもり?」

「んだよ、悪いかよ」

「悪くないけど……僕と一緒にいると色々苦労するかもよ?」

「いんだよ。むしろそれがいい。おれはお前の傍で、お前より強くなってやらァ」

(兄貴と離れられるわけねぇだろ! 嫌だつっても付いて行くぜ!)


 フン、と鼻を鳴らすオズに、ルージュはにやりと笑った。


「お兄ちゃん、このゴリラ、マゾなんだよ。もっといじめてあげなきゃ可哀そうだよ」

「誰がマゾだこの吸血女!?」

「あはは。二人は本当に仲が良いねぇ」

『良くない(ねぇ)!』


 仲良いじゃん。と笑い、一行は目的地に到着する。

 一目見れば見逃してしまいそうな、小さな木のうろだ。

 うろの中の空間が歪んでいるの確認して、ジークは一同に振り向く。


「じゃあ、僕が先に行くから、三秒経ったら付いてきて」

「分かりました」

「お兄ちゃん、大丈夫なの? 確か入る時は……」

「大丈夫。僕を信じて」

「……ん。そういう事なら」


 ルージュに頷き、ジークは空間の歪みに飛び込んだ。

 その瞬間ーー


 がこん、と音が響き、

 天井に設置された五百を超える砲門が起動する。

 冥界から侵入した悪魔に対する迎撃装置が動く音だ。


「やっぱり動いた」


 そんな呑気な声と同時に、破壊の光線が殺到する。

 以前は逃げるだけで精一杯だった無数の光線は、しかし。


「よっと」


 ジークが手を掲げるだけで、傘に遮られたように霧散していく。

 光のドームがジークを包んでいた。第二の加護『絶対防御領域』。

 天井から放たれる陽力を解析し、ジークはその力だけを拒絶したのだ。


 三秒遅れて、リリアが、オズが、ルージュが現れた。

 全員、光が殺到している傘のてっぺんをぽかんと見上げている。


「ジーク、これ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。ちょっと力を使うだけ」

「……そうですか」


 こともなげに頷いたリリアだが、何か思うところがあったようで。


「でも、ジークの体力がもったいないので、凍らせましょうね」


 しゃらん、とリリアは錫杖を鳴らした。

 次の瞬間、天井で白熱していた破壊の奔流が、全て凍り付いた。


「な、ぁ……!?」


 あたり一面が銀世界だ。まるで氷の鍾乳洞に来たような光景である。

 今度こそ呆気に取られているオズの隣で、リリアは満足げに頷く。


「うん。これでいいです」

(まじか、まじかよこの人……! え、詠唱もなしに全部凍らせやがった!?)


 リリアが凍らせたのは実体のある物体ではない。陽力だ。

 本来手で触れることのできないそれを、詠唱によるイメージの固定なしでやってのけた。しかも、それだけのことを為しておきながら、彼女は息一つ乱れていない。


(これが、天使って奴なのか……!? カッコよすぎるぜ、オイ!?)


 オズワンの中でリリアへの言葉遣いが『姐御』に変わった瞬間であった。

 と、そんなオズワンの内心を知らず、


「リリア、さすがだね」

「ジークほどじゃないですよ」

「あたしだってこれくらいできるもん! 要は全部壊しちゃえばいいんでしょ」

「壊しちゃだめだってば」


 ジークは苦笑し、


「オズ。悪いけどコレ、あそこの壁に掲げてくれない?」

「お、オォ。んだよ、自分でやりゃいいじゃねぇかよ」

「僕じゃダメなんだよ。たぶんこの中じゃオズしかできない」


 オズは目を見開いた。


「お、おれにしか……!」

(うおおおおお、頼られてる、頼られてるぜ、よっしゃあああ!)


 ぐっと拳を握るオズを見つつ、ジークは。


(僕たちがやっちゃうと、たぶんまた悪魔と勘違いされちゃうんだよねぇ)


 しみじみとそう呟いていた。

 一行は氷柱の林を通り抜け、一番奥にある壁に到達する。

 オズワンはその一角、通信端末の一つに腕輪を掲げた。


「こ、これでいいのか?」

『ピピッ、認証。ジーク・トニトルス下二級葬送官。陽力紋を検査します。手を当ててください』

「はーい」


 ジークは手を触れず、陽力を飛ばした。


『……認証。瘴気侵度レベル2。帰還後、神殿による浄化を推薦します』

「あ、イケた」


 がこん、と岩壁に隠されていた扉が開き、

 切羽詰まったような声が響いた。


『……ザザッ……おい、そっちはどうなってる!? こっちの冥界迎撃用システムが全部停止してるんだが!?』

「あ、警備員さん、こんにちは」

『こんにちはじゃねぇよ、今は夜明け前だ!』

「えーっと、じゃあこんばんは?」

『あぁこんばんは。ご苦労さんって……そうじゃなくてだな!?』

「大丈夫です。たぶんすぐに動きますから……リリア」

「はい」


 全員が扉の内側に入ると、リリアは再び錫杖を鳴らした。

 パリィン! と氷が全て砕け、光の粒が洞穴の中に降り注いでいく。


「警備員さん。テレサ師匠に連絡をお願いします。ていうか師匠は無事ですか?」

『ぁ、ぉ、おう。さっきまでーー』


 がこん、と扉が閉まる。


(最後まで聞けなかった……けど、『さっきまで』って事は、待っててくれたのかな?)


 遊戯の神ナシャフに襲われたと思しきテレサだ。

 彼女なら万が一の事はないと信じたいが、無事だと分かってジークはほっとする。


「本当に良かった……誰も喪わずに済んだ」

「まぁ、わたしは一度死んじゃってますけどね」

「あ、それを言ったらあたしも一回死んでるよ! ふふん!」

「なんで得意げなんだお前は……自慢になんねぇだろ」


 オズワンの呆れ声に、一同はどっと笑う。


「お師匠様、びっくりするでしょうか」

「うーん。びっくりはするかもだけど、意外と『遅かったじゃないか』とか言いそう」

「あー……。めちゃくちゃ言いそうですね」


 案外、酒を呑みながらけろりとしているかもしれない。

 ルージュの事も受け入れてくれたテレサだ。間違っても拒絶はしないだろう。


 そんな事を考えていると、すぐに階段を登り切った。

 潮の匂いが鼻腔をくすぐり、揺れては返す波音が、耳を心地よく流れていく。


(やっと、帰ってきたーー)


 そんな思いを、四人は共有する。

 顔を見合わせ、誰からともなく走り出すと、出口の所に人影があった。


「ぁ!」


 ジークが声をあげ、リリアやルージュも気付く。


「テレサさん!」「お師匠様!」


 洞窟の入り口に現れたテレサは、傷だらけだった。

 あちこちに包帯が巻かれ、蒼い傷口が見えている。

 疲れ切った皺だらけの顔が、ジークたちに気付いて、


「ぁ」


 短距離転移したテレサに、ジークたちは三人はまとめて抱きしめられた。

 普段は強気なその肩は震えている。

 ジークとリリアの間に顔を埋め、彼女は絞り出すように言った。


「みんなよく、よく帰ってきた……!」

「……はい。心配かけてごめんなさい」

「全くだよ。アタシが、どれだけ……」


 嗚咽を堪える声に、ジークとリリアは顔を見合わせ、笑みを交わす。

 自分たちが思う以上に、彼女は心配してくれていたのだ。

 そのことがどうしようもなく嬉しくて、泣きたくなるほど暖かくて。


 涙がこみ上げてきたジークの顔を見て、彼女は言った。


「よく、やったね。ジーク」

「……はい」

「よくぞ成し遂げた。さすが、アタシの弟子だ」

「……っ」


 もう我慢の限界だった。

 ジークはテレサの身体に腕を回し、その胸に顔を埋める。


「はい……っ、僕、僕、頑張りました……!」

「うん」

「もう無理かもって、ダメだって、何度も思って、それでも、諦められなくて……!」

「分かってる。あんたは強い子だよ。アタシの、自慢の弟子たちだ」

「……っ」


 ジークも、リリアも、暖かなテレサの言葉に涙をこぼした。

 時間にして一週間と少し。ほんのわずかな時間、離れ離れになっていたけど。


「おかえり、ジーク、リリア……それと、ルージュ」


 最後の少し、照れくさそうに笑ったテレサを見て。


『ただいま!』


 あぁ、帰ってきたのだと。

 そう、ジークは思ったのだった。



 ◆



「つまり、リリアは天使になっちまったってのかい?」

「まぁ、はい。そういう事です」

「……そうか」


 異端討滅機構(ユニオン)エル=セレスタ支部。

 テレサの短距離転移で場所を移したジークたちは会議室に来ていた。

 天使となったリリアの姿を見られたらまずいという判断からだ。


 もちろん無断で入るわけにはいかないので、最初はエル=セレスタ支部のロビーに転移し、ちょっとした騒ぎになったのだが……それはともあれ。


「それしかなかったなら、しょうがないね」

「はい。それにわたし、後悔してないんです」


 リリアは自分の胸に手を当てて、


「人間のままだったら……ジークの隣に立てなかったから」

「リリア……」


 そんな事はない、と言おうとしてジークは口を噤む。

 きっと自分が何を言おうとも彼女の決意は変わらなかっただろう。

 今はただ、彼女が共にあることを喜ばなければ。


「ありがとね」

「はいっ」

「……相変わらずの熱々っぷりだね。安心したよ」

「すーぐ二人の世界を作っちゃうんだから、もう」

「ふふ。ルージュもいつでも入っていいんですよ」


 ふてくされたように頬を膨らませたルージュに、リリアはそっと手を伸ばした。

 胸の中に招き入れ、翼で後ろから抱きしめるような形で、彼女は囁く。


「ルージュは、わたしの妹でもあるんですから。甘えてくださいね」

「……えへへ」

「……奇妙な光景だよ、全く」


 テレサは息をつき、


「それで、あんた……えーっと」

「オズワン・バルボッサだ。覚えろクソババア」

「あ?」

「へぼびゃ!?」


 テレサの鉄拳にオズワンは吹き飛ばされた。

 どうやらジークたちへの態度を見てテレサが温厚な性格だと勘違いしたらしい。


「今度言ったら百回殺すぞ。クソガキ」

「ひゃい」


 オズワンはすっかり委縮したようである。

 自業自得なのでジークは何も言わず苦笑した。


「んで、あんたもジークに付いて来るって話だったね」

「あーいや……それなんだが。実は、もう一人」

「何だって?」


 テレサが眉を上げた時だった。


「ごめんくださいませ。こちらにジーク・トニトルス様はいらっしゃいますでしょうか」

「あ、来た」

「何?」

「その声はオズワン……失礼いたしますね」


(お兄ちゃん、あたし隠れたほうがいい?)

(……とりあえず、そのままで。普通の人間がどういう態度をとるのか見たいから)

(分かった)


 優雅な所作で扉が開かれ、一人の女性が現れた。

 頭から二つの角が生えた、獣人だ。

 緑色の肩まで伸ばした女性はリリアやルージュを見てピタリと硬直する。


「て、天使、様……? それに、そちらは……悪魔?」

「ね……げふん。早ぇじゃねぇか。クソ姉貴」


 しかし硬直は一瞬、オズのかけた言葉で、女性は動き出す。


「クソとは何です!」

「ふんばらっちゃ!?」


 鉄拳が炸裂した。

 瞬く間にオズワンを殴り飛ばした女性は、両手を腰に当て、


「言葉遣いがなっていません。それが実の姉に対する口の利き方ですか!?」

「いっでぇええ……だからって殴る事は」

「これは愛の鞭です。愚弟の為ならこの拳、いくらでも振るいましょうとも」

「ーーえーっと……ごめん」


 ジークは遠慮がちに声をかける。


「あなたは、その……オズの、お姉さん?」

「はい。その通りです。もしや、あなたがジーク・トニトルス様でございますか?」

「あ、うん。そうですけど」

「……っ、これはお見苦しい所を。申し遅れました」


 女性は地面に膝をつき、頭を下げる。


「わたくしの名はカレン・バルボッサ。不肖の弟の姉でございます」

「カレンさん……うん、よろしく。それで……何の用ですか?」


 ピリ、と空気がひりつくのをカレンは感じた。

 表面的には笑顔を浮かべているがーー。

 友の身内であろうと見知らぬ他人には心を許さない、隔絶した壁がそこにある。


(何という、覇気……! これが、神を退けた英雄ですか……!)


 テレサもまた、ジークの変化に気付いていた。


(冥界から戻ってから、陽力の質が格段に向上してる。どんな修羅場を潜ってきたんだい、この子……!)


 そんな二人の様子に気付かず首を傾げたジーク。

 すると、カレンは「お願いしたい儀があり参りました」と平伏する。


「お願いしたいこと……?」

「わたくしも、あなた様に同行させてはいただけないでしょうか?」

「カレンさんも……?」

「はい。不肖の弟ともども、あなた様に仕えたく存じます」

「つ、仕えるって……」

「そうだぜ姉貴よぉ! おれとこいつは対等なダチでーー」

「あなたはお黙りなさい」

「ひゃい」


 オズワンはカレンの横に正座する。


「お互いに命を救われたのです。残りの一生をかけて仕えるのが筋というもの」

「僕、カレンさんの命なんて知らないけど……あ」


 そこでジークは思い出す。


「もしかして、オズが言ってた病気の家族って……」

「はい。それがわたくしでございます」


 カレンは頷き、


「わたくしは魔素拒絶症という病にかかっておりました」

「えーてるきょぜつしょー?」

「不治の病じゃないか!」


 意味の分からないジークと違い、テレサは目を丸くしていた。

 そんなに治る事が難しいのかと聞くと、カレンは頷く。


「はい。普通なら治るはずがない病です。ただ……冥界に存在する『冥月花』という花の蜜が、その病に効果的だと一族に伝わっておりました」

「……あんた、まさか」


 テレサは何か思うところがあったようだが、結局首を横に振って、


「アタシらが口を出す問題じゃないね。あんたが決めな、ジーク」

「どうでしょう? 下働きでも何でも構いません。あなた様の好きにお使いいただければーー」

「ごめんなさい」


 ジークは迷うことなく断っていた。

 言葉を遮られたカレンは落ち着き払った様子で、


「何か、至らぬ点がありましたか……?」

「ううん。そうじゃなくて……僕、仕える人とか、要らないよ。そんなの普通じゃないし」

「普通、ですか……?」

「うん」


 既に『普通』とは逸脱した英雄であるはずだが、とカレンは首をひねる。

 彼の言う普通とは何なのか、思考を巡らせて考えるが、答えは出ない。

 答えが出ないままに、ジークの手が伸びてきた。


「だから……その、友達から始めませんか?」

「ーー」

「まぁ僕の周りには天使とか悪魔とか、いろんな人がいるけど。それでもよければ」


 カレンは目を瞬かせた。


(なるほど……『普通』とは、そういう意味でしたか)


 じっとこちらを見るその瞳に、

 天使でも悪魔でも、例え獣人であろうと分け隔てなく手を差し伸べるその想いに。

 カレンは内心で腑に落ちる思いだった。


(オズワンが惚れこむわけですね……なるほど)


 そのオズワンは隣で得意げにしている。

 いや、姉である自分だけは分かるが、これは憧れの目だ。


(うおおおおお、惚れ直したぜ兄貴ィイイ!……とでも思ってそうな目ですね)


 くすりと微笑み、カレンは顔を上げる。


「光栄でございます。わたくしでよろしければ……」

「うん。よろしくね。まぁ、色々大変だと思うけど」

「……大変、とは?」


 ジークは顔を上げ、明後日の方向を見る。


「んー…………あ、来たみたい。テレサ師匠」

「……早いね」



 テレサが苦い顔をしたその時だった。

 静かなノックが響いた。


(ルージュ、今度は隠れて)

(うん)


 ルージュが影に沈む。

 返事をする間もなく、その男は現れた。


「ジーク・トニトルス下二級葬送官だな」

「はい」


 仮面をつけた不気味な男だ。

 異端討滅機構(ユニオン)の暗部『カオナシ』と呼ばれる部隊に属する男である。

 彼は一瞬だけリリアに目を向けたが、すぐにジークに目を戻して、


異端討滅機構(ユニオン)の元老院より、貴様の捕縛命令が届いている」

「「「……!」」」


 室内に緊張が走った。


「小細工を仕掛けて秘密裏に冥界に潜った件、本部で事情を聴かせてもらうとの事だ」

「……なるほど、大変、とはそういう意味ですか」


 そう、これは事前に分かっていたことだ。

 冥界に潜るにあたって、ジークたちは無断でサンテレーゼを離れている。

 テレサや姫の口利きで素知らぬふりを出来たが、本来冥界潜りは異端討滅機構の許可なく出来ない。


 それを破って冥界に行ったのだから、しっぺ返しが来るのは当然である。

 ジークは頷いて、


「友達も連れて行っていいですか?」

「……逃亡を手助けしないのであれば、構わん。テレサ・シンケライザ殿。あなたも同行願う」

「はいよ」


 表で待つ、とカオナシは告げて去って行った。

 ジークが知覚したところによれば、既に葬送官支部全体が包囲されているようだった。

 逃げようと思えば逃げられるが、遅いか早いかの違いだ。

 来客が去ったことを知覚したのか、ルージュが出てきた。


「お兄ちゃん」

「うん」


 ジークは現状を受け入れ、顔を上げる。


「……じゃあ。そういう事だけど」


 リリア、ルージュ、カレン、オズワン。

 皆の顔を見回して、ジークは問いかける。


「みんな、一緒に来てくれる?」

「「「「もちろん」」」」


 四人全員、迷うことなく頷いた。


「この命、楽園(アアル)の彼方まであなたと共に」

「あたしがお兄ちゃんと離れるなんてありえないもん」

「ハッ! お前はおれが居なきゃ何にも出来ねぇからへぼ!?」

「愚弟を躾けなおすためにも、わたくしの同行は必要かと」


 種族も年齢も容姿も違えど、四人の気持ちは同じだった。

 心強い言葉に胸が暖かくなって、ジークは微笑む。


「ありがとう、じゃあ行こうか」


 向かうは、大陸西端、異端討滅機構本部。

 闇の勢力との戦う最前線にして総本山『聖なる地』カルナック。


 英雄となった半魔の少年は、今、再び旅立つ。















 第三章 飛躍 了


 第一部 完



 第二部 永遠の約束 始



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] テレサ師匠が生きていて良かったです!3人が再開した時めっちゃ感動しました!笑 ちゃんとルージュも読んでたのも良かったです! オズワンがテレサ師匠を舐めて殴られたとこ面白かったです [一言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ