エピローグ
「何ですかこのかわいい生き物はっ! かわいいです~~~!」
「きゅ、きゅうう!?」
神獣形態となったアルトノヴァを抱きしめながら、リリア。
一同は冥界の火山地帯を越え、月の女神と戦った原野超え、オズと戦った林を歩いている。既に冥王との戦いから一昼夜が過ぎており、出口が近い事もあって、一同の足は速足気味だった。
「あ、あの、リリア。お手柔らかに、ね?」
「はいっ! はわわ、可愛いですふわふわです……」
「きゅー!」
アルはまんざらでもなさそうにリリアに頬をずりしている。
仲の良いペットと飼い主のような微笑ましい光景に、しかしルージュは不満顔だ。
「ちょっと、おかしくない? あたしの時と態度が全然違うんですけど」
ルージュの言葉に反応したアルは鎌首をもたげ、「……フ」と鼻を鳴らした。
「あ、今こいつ馬鹿にした! 絶対馬鹿にしたよお兄ちゃん!?」
「まぁまぁ。アルも、喧嘩売らないの。分かった?」
「きゅっきゅー!」
「こいつ絶対分かってないよ。上辺だけだよ」
ルージュがじと目でアルを睨み、
「いいもん、あたしにはお兄ちゃんが居るもん」とジークの腕に抱き着いてきた。
「ルージュ。歩きにくいんだけど……まだここ冥界なんだし、警戒しなきゃ」
「いいよそんなの」
呟き、ルージュはパチンと指を鳴らす。
その瞬間、木陰から飛び出そうとしていた魔狼は影の槍で串刺しになった。
「今ここに、あたしたちに敵うような奴なんて、冥界の神々くらいだよ」
「まぁ、その人たちが来ないように、早く抜けないといけないんだけどね」
ジークがアルに捕まり、ルージュとオズを、そしてリリアが自前の翼で空を飛んだため、今回の冥界横断はかなり時間短縮されている。だが、月の女神エリージアがジークを襲ってきたように、何か一つボタンを掛け違えばいつ神々が現れてもおかしくはない。
だからこそ、ジークはゼレオティールの加護を使っていないのだ。
ともあれ、
「ねぇオズ。ほんとに僕たちと一緒に来るつもり?」
「んだよ、悪いかよ」
「悪くないけど……僕と一緒にいると色々苦労するかもよ?」
「いんだよ。むしろそれがいい。おれはお前の傍で、お前より強くなってやらァ」
(兄貴と離れられるわけねぇだろ! 嫌だつっても付いて行くぜ!)
フン、と鼻を鳴らすオズに、ルージュはにやりと笑った。
「お兄ちゃん、このゴリラ、マゾなんだよ。もっといじめてあげなきゃ可哀そうだよ」
「誰がマゾだこの吸血女!?」
「あはは。二人は本当に仲が良いねぇ」
『良くない!』
仲良いじゃん。と笑い、一行は目的地に到着する。
一目見れば見逃してしまいそうな、小さな木のうろだ。
うろの中の空間が歪んでいるの確認して、ジークは一同に振り向く。
「じゃあ、僕が先に行くから、三秒経ったら付いてきて」
「分かりました」
「お兄ちゃん、大丈夫なの? 確か入る時は……」
「大丈夫。僕を信じて」
「……ん。そういう事なら」
ルージュに頷き、ジークは空間の歪みに飛び込んだ。
その瞬間ーー
がこん、と音が響き、
天井に設置された五百を超える砲門が起動する。
冥界から侵入した悪魔に対する迎撃装置が動く音だ。
「やっぱり動いた」
そんな呑気な声と同時に、破壊の光線が殺到する。
以前は逃げるだけで精一杯だった無数の光線は、しかし。
「よっと」
ジークが手を掲げるだけで、傘に遮られたように霧散していく。
光のドームがジークを包んでいた。第二の加護『絶対防御領域』。
天井から放たれる陽力を解析し、ジークはその力だけを拒絶したのだ。
三秒遅れて、リリアが、オズが、ルージュが現れた。
全員、光が殺到している傘のてっぺんをぽかんと見上げている。
「ジーク、これ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。ちょっと力を使うだけ」
「……そうですか」
こともなげに頷いたリリアだが、何か思うところがあったようで。
「でも、ジークの体力がもったいないので、凍らせましょうね」
しゃらん、とリリアは錫杖を鳴らした。
次の瞬間、天井で白熱していた破壊の奔流が、全て凍り付いた。
「な、ぁ……!?」
あたり一面が銀世界だ。まるで氷の鍾乳洞に来たような光景である。
今度こそ呆気に取られているオズの隣で、リリアは満足げに頷く。
「うん。これでいいです」
(まじか、まじかよこの人……! え、詠唱もなしに全部凍らせやがった!?)
リリアが凍らせたのは実体のある物体ではない。陽力だ。
本来手で触れることのできないそれを、詠唱によるイメージの固定なしでやってのけた。しかも、それだけのことを為しておきながら、彼女は息一つ乱れていない。
(これが、天使って奴なのか……!? カッコよすぎるぜ、オイ!?)
オズワンの中でリリアへの言葉遣いが『姐御』に変わった瞬間であった。
と、そんなオズワンの内心を知らず、
「リリア、さすがだね」
「ジークほどじゃないですよ」
「あたしだってこれくらいできるもん! 要は全部壊しちゃえばいいんでしょ」
「壊しちゃだめだってば」
ジークは苦笑し、
「オズ。悪いけどコレ、あそこの壁に掲げてくれない?」
「お、オォ。んだよ、自分でやりゃいいじゃねぇかよ」
「僕じゃダメなんだよ。たぶんこの中じゃオズしかできない」
オズは目を見開いた。
「お、おれにしか……!」
(うおおおおお、頼られてる、頼られてるぜ、よっしゃあああ!)
ぐっと拳を握るオズを見つつ、ジークは。
(僕たちがやっちゃうと、たぶんまた悪魔と勘違いされちゃうんだよねぇ)
しみじみとそう呟いていた。
一行は氷柱の林を通り抜け、一番奥にある壁に到達する。
オズワンはその一角、通信端末の一つに腕輪を掲げた。
「こ、これでいいのか?」
『ピピッ、認証。ジーク・トニトルス下二級葬送官。陽力紋を検査します。手を当ててください』
「はーい」
ジークは手を触れず、陽力を飛ばした。
『……認証。瘴気侵度レベル2。帰還後、神殿による浄化を推薦します』
「あ、イケた」
がこん、と岩壁に隠されていた扉が開き、
切羽詰まったような声が響いた。
『……ザザッ……おい、そっちはどうなってる!? こっちの冥界迎撃用システムが全部停止してるんだが!?』
「あ、警備員さん、こんにちは」
『こんにちはじゃねぇよ、今は夜明け前だ!』
「えーっと、じゃあこんばんは?」
『あぁこんばんは。ご苦労さんって……そうじゃなくてだな!?』
「大丈夫です。たぶんすぐに動きますから……リリア」
「はい」
全員が扉の内側に入ると、リリアは再び錫杖を鳴らした。
パリィン! と氷が全て砕け、光の粒が洞穴の中に降り注いでいく。
「警備員さん。テレサ師匠に連絡をお願いします。ていうか師匠は無事ですか?」
『ぁ、ぉ、おう。さっきまでーー』
がこん、と扉が閉まる。
(最後まで聞けなかった……けど、『さっきまで』って事は、待っててくれたのかな?)
遊戯の神ナシャフに襲われたと思しきテレサだ。
彼女なら万が一の事はないと信じたいが、無事だと分かってジークはほっとする。
「本当に良かった……誰も喪わずに済んだ」
「まぁ、わたしは一度死んじゃってますけどね」
「あ、それを言ったらあたしも一回死んでるよ! ふふん!」
「なんで得意げなんだお前は……自慢になんねぇだろ」
オズワンの呆れ声に、一同はどっと笑う。
「お師匠様、びっくりするでしょうか」
「うーん。びっくりはするかもだけど、意外と『遅かったじゃないか』とか言いそう」
「あー……。めちゃくちゃ言いそうですね」
案外、酒を呑みながらけろりとしているかもしれない。
ルージュの事も受け入れてくれたテレサだ。間違っても拒絶はしないだろう。
そんな事を考えていると、すぐに階段を登り切った。
潮の匂いが鼻腔をくすぐり、揺れては返す波音が、耳を心地よく流れていく。
(やっと、帰ってきたーー)
そんな思いを、四人は共有する。
顔を見合わせ、誰からともなく走り出すと、出口の所に人影があった。
「ぁ!」
ジークが声をあげ、リリアやルージュも気付く。
「テレサさん!」「お師匠様!」
洞窟の入り口に現れたテレサは、傷だらけだった。
あちこちに包帯が巻かれ、蒼い傷口が見えている。
疲れ切った皺だらけの顔が、ジークたちに気付いて、
「ぁ」
短距離転移したテレサに、ジークたちは三人はまとめて抱きしめられた。
普段は強気なその肩は震えている。
ジークとリリアの間に顔を埋め、彼女は絞り出すように言った。
「みんなよく、よく帰ってきた……!」
「……はい。心配かけてごめんなさい」
「全くだよ。アタシが、どれだけ……」
嗚咽を堪える声に、ジークとリリアは顔を見合わせ、笑みを交わす。
自分たちが思う以上に、彼女は心配してくれていたのだ。
そのことがどうしようもなく嬉しくて、泣きたくなるほど暖かくて。
涙がこみ上げてきたジークの顔を見て、彼女は言った。
「よく、やったね。ジーク」
「……はい」
「よくぞ成し遂げた。さすが、アタシの弟子だ」
「……っ」
もう我慢の限界だった。
ジークはテレサの身体に腕を回し、その胸に顔を埋める。
「はい……っ、僕、僕、頑張りました……!」
「うん」
「もう無理かもって、ダメだって、何度も思って、それでも、諦められなくて……!」
「分かってる。あんたは強い子だよ。アタシの、自慢の弟子たちだ」
「……っ」
ジークも、リリアも、暖かなテレサの言葉に涙をこぼした。
時間にして一週間と少し。ほんのわずかな時間、離れ離れになっていたけど。
「おかえり、ジーク、リリア……それと、ルージュ」
最後の少し、照れくさそうに笑ったテレサを見て。
『ただいま!』
あぁ、帰ってきたのだと。
そう、ジークは思ったのだった。
◆
「つまり、リリアは天使になっちまったってのかい?」
「まぁ、はい。そういう事です」
「……そうか」
異端討滅機構エル=セレスタ支部。
テレサの短距離転移で場所を移したジークたちは会議室に来ていた。
天使となったリリアの姿を見られたらまずいという判断からだ。
もちろん無断で入るわけにはいかないので、最初はエル=セレスタ支部のロビーに転移し、ちょっとした騒ぎになったのだが……それはともあれ。
「それしかなかったなら、しょうがないね」
「はい。それにわたし、後悔してないんです」
リリアは自分の胸に手を当てて、
「人間のままだったら……ジークの隣に立てなかったから」
「リリア……」
そんな事はない、と言おうとしてジークは口を噤む。
きっと自分が何を言おうとも彼女の決意は変わらなかっただろう。
今はただ、彼女が共にあることを喜ばなければ。
「ありがとね」
「はいっ」
「……相変わらずの熱々っぷりだね。安心したよ」
「すーぐ二人の世界を作っちゃうんだから、もう」
「ふふ。ルージュもいつでも入っていいんですよ」
ふてくされたように頬を膨らませたルージュに、リリアはそっと手を伸ばした。
胸の中に招き入れ、翼で後ろから抱きしめるような形で、彼女は囁く。
「ルージュは、わたしの妹でもあるんですから。甘えてくださいね」
「……えへへ」
「……奇妙な光景だよ、全く」
テレサは息をつき、
「それで、あんた……えーっと」
「オズワン・バルボッサだ。覚えろクソババア」
「あ?」
「へぼびゃ!?」
テレサの鉄拳にオズワンは吹き飛ばされた。
どうやらジークたちへの態度を見てテレサが温厚な性格だと勘違いしたらしい。
「今度言ったら百回殺すぞ。クソガキ」
「ひゃい」
オズワンはすっかり委縮したようである。
自業自得なのでジークは何も言わず苦笑した。
「んで、あんたもジークに付いて来るって話だったね」
「あーいや……それなんだが。実は、もう一人」
「何だって?」
テレサが眉を上げた時だった。
「ごめんくださいませ。こちらにジーク・トニトルス様はいらっしゃいますでしょうか」
「あ、来た」
「何?」
「その声はオズワン……失礼いたしますね」
(お兄ちゃん、あたし隠れたほうがいい?)
(……とりあえず、そのままで。普通の人間がどういう態度をとるのか見たいから)
(分かった)
優雅な所作で扉が開かれ、一人の女性が現れた。
頭から二つの角が生えた、獣人だ。
緑色の肩まで伸ばした女性はリリアやルージュを見てピタリと硬直する。
「て、天使、様……? それに、そちらは……悪魔?」
「ね……げふん。早ぇじゃねぇか。クソ姉貴」
しかし硬直は一瞬、オズのかけた言葉で、女性は動き出す。
「クソとは何です!」
「ふんばらっちゃ!?」
鉄拳が炸裂した。
瞬く間にオズワンを殴り飛ばした女性は、両手を腰に当て、
「言葉遣いがなっていません。それが実の姉に対する口の利き方ですか!?」
「いっでぇええ……だからって殴る事は」
「これは愛の鞭です。愚弟の為ならこの拳、いくらでも振るいましょうとも」
「ーーえーっと……ごめん」
ジークは遠慮がちに声をかける。
「あなたは、その……オズの、お姉さん?」
「はい。その通りです。もしや、あなたがジーク・トニトルス様でございますか?」
「あ、うん。そうですけど」
「……っ、これはお見苦しい所を。申し遅れました」
女性は地面に膝をつき、頭を下げる。
「わたくしの名はカレン・バルボッサ。不肖の弟の姉でございます」
「カレンさん……うん、よろしく。それで……何の用ですか?」
ピリ、と空気がひりつくのをカレンは感じた。
表面的には笑顔を浮かべているがーー。
友の身内であろうと見知らぬ他人には心を許さない、隔絶した壁がそこにある。
(何という、覇気……! これが、神を退けた英雄ですか……!)
テレサもまた、ジークの変化に気付いていた。
(冥界から戻ってから、陽力の質が格段に向上してる。どんな修羅場を潜ってきたんだい、この子……!)
そんな二人の様子に気付かず首を傾げたジーク。
すると、カレンは「お願いしたい儀があり参りました」と平伏する。
「お願いしたいこと……?」
「わたくしも、あなた様に同行させてはいただけないでしょうか?」
「カレンさんも……?」
「はい。不肖の弟ともども、あなた様に仕えたく存じます」
「つ、仕えるって……」
「そうだぜ姉貴よぉ! おれとこいつは対等なダチでーー」
「あなたはお黙りなさい」
「ひゃい」
オズワンはカレンの横に正座する。
「お互いに命を救われたのです。残りの一生をかけて仕えるのが筋というもの」
「僕、カレンさんの命なんて知らないけど……あ」
そこでジークは思い出す。
「もしかして、オズが言ってた病気の家族って……」
「はい。それがわたくしでございます」
カレンは頷き、
「わたくしは魔素拒絶症という病にかかっておりました」
「えーてるきょぜつしょー?」
「不治の病じゃないか!」
意味の分からないジークと違い、テレサは目を丸くしていた。
そんなに治る事が難しいのかと聞くと、カレンは頷く。
「はい。普通なら治るはずがない病です。ただ……冥界に存在する『冥月花』という花の蜜が、その病に効果的だと一族に伝わっておりました」
「……あんた、まさか」
テレサは何か思うところがあったようだが、結局首を横に振って、
「アタシらが口を出す問題じゃないね。あんたが決めな、ジーク」
「どうでしょう? 下働きでも何でも構いません。あなた様の好きにお使いいただければーー」
「ごめんなさい」
ジークは迷うことなく断っていた。
言葉を遮られたカレンは落ち着き払った様子で、
「何か、至らぬ点がありましたか……?」
「ううん。そうじゃなくて……僕、仕える人とか、要らないよ。そんなの普通じゃないし」
「普通、ですか……?」
「うん」
既に『普通』とは逸脱した英雄であるはずだが、とカレンは首をひねる。
彼の言う普通とは何なのか、思考を巡らせて考えるが、答えは出ない。
答えが出ないままに、ジークの手が伸びてきた。
「だから……その、友達から始めませんか?」
「ーー」
「まぁ僕の周りには天使とか悪魔とか、いろんな人がいるけど。それでもよければ」
カレンは目を瞬かせた。
(なるほど……『普通』とは、そういう意味でしたか)
じっとこちらを見るその瞳に、
天使でも悪魔でも、例え獣人であろうと分け隔てなく手を差し伸べるその想いに。
カレンは内心で腑に落ちる思いだった。
(オズワンが惚れこむわけですね……なるほど)
そのオズワンは隣で得意げにしている。
いや、姉である自分だけは分かるが、これは憧れの目だ。
(うおおおおお、惚れ直したぜ兄貴ィイイ!……とでも思ってそうな目ですね)
くすりと微笑み、カレンは顔を上げる。
「光栄でございます。わたくしでよろしければ……」
「うん。よろしくね。まぁ、色々大変だと思うけど」
「……大変、とは?」
ジークは顔を上げ、明後日の方向を見る。
「んー…………あ、来たみたい。テレサ師匠」
「……早いね」
テレサが苦い顔をしたその時だった。
静かなノックが響いた。
(ルージュ、今度は隠れて)
(うん)
ルージュが影に沈む。
返事をする間もなく、その男は現れた。
「ジーク・トニトルス下二級葬送官だな」
「はい」
仮面をつけた不気味な男だ。
異端討滅機構の暗部『カオナシ』と呼ばれる部隊に属する男である。
彼は一瞬だけリリアに目を向けたが、すぐにジークに目を戻して、
「異端討滅機構の元老院より、貴様の捕縛命令が届いている」
「「「……!」」」
室内に緊張が走った。
「小細工を仕掛けて秘密裏に冥界に潜った件、本部で事情を聴かせてもらうとの事だ」
「……なるほど、大変、とはそういう意味ですか」
そう、これは事前に分かっていたことだ。
冥界に潜るにあたって、ジークたちは無断でサンテレーゼを離れている。
テレサや姫の口利きで素知らぬふりを出来たが、本来冥界潜りは異端討滅機構の許可なく出来ない。
それを破って冥界に行ったのだから、しっぺ返しが来るのは当然である。
ジークは頷いて、
「友達も連れて行っていいですか?」
「……逃亡を手助けしないのであれば、構わん。テレサ・シンケライザ殿。あなたも同行願う」
「はいよ」
表で待つ、とカオナシは告げて去って行った。
ジークが知覚したところによれば、既に葬送官支部全体が包囲されているようだった。
逃げようと思えば逃げられるが、遅いか早いかの違いだ。
来客が去ったことを知覚したのか、ルージュが出てきた。
「お兄ちゃん」
「うん」
ジークは現状を受け入れ、顔を上げる。
「……じゃあ。そういう事だけど」
リリア、ルージュ、カレン、オズワン。
皆の顔を見回して、ジークは問いかける。
「みんな、一緒に来てくれる?」
「「「「もちろん」」」」
四人全員、迷うことなく頷いた。
「この命、楽園の彼方まであなたと共に」
「あたしがお兄ちゃんと離れるなんてありえないもん」
「ハッ! お前はおれが居なきゃ何にも出来ねぇからへぼ!?」
「愚弟を躾けなおすためにも、わたくしの同行は必要かと」
種族も年齢も容姿も違えど、四人の気持ちは同じだった。
心強い言葉に胸が暖かくなって、ジークは微笑む。
「ありがとう、じゃあ行こうか」
向かうは、大陸西端、異端討滅機構本部。
闇の勢力との戦う最前線にして総本山『聖なる地』カルナック。
英雄となった半魔の少年は、今、再び旅立つ。
第三章 飛躍 了
第一部 完
第二部 永遠の約束 始