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ゴッド・スレイヤー  作者: 山夜みい
第三章 飛躍
78/231

第十五話 怠惰の力

 

「死徒……まぁそうじゃないかと思ってたけど。お兄ちゃん、人気者だね」

「いや……全然笑えないんだけどね」


 ジークとルージュ合わせ技を一歩も動くことなく無効化したのだ。

 少なく見積もってエルダー、もしくは特級以上の悪魔と思っていたが。


(死徒、死徒か。オルガ・クウェンと同じ……)


 恐怖が形を伴い、名前がジークを怯ませた。

 第七死徒『傲慢』オルガ・クウェンとの戦いを思い出す。


 あの時は、リリアと二人だからなんとか戦えたもののーー。

 終盤、オリヴィアたちの力を借りねば負けていたのはジークだ。


 いくら魔剣の力があるとはいえ、能力には相性がある。

 そういう意味では、オルガ・クウェンはジークにとって御しやすい相手だった。

 しかし、キアーデの場合は話が違う。


 あらゆる攻撃を無に帰す圧倒的な防御力。

 全力の一撃をいともたやすく受け止められ、ジークは悟っていた。


(魔剣の力も効かない……こいつ、たぶん僕との相性は最悪……!)


 分かっていたが、魔剣の力とて決して無敵ではないのだ。

 ギリ、と剣を握ったジーク。

 その隣で、忌々しげに歯を鳴らしたオズワンが吠えた。


「死徒だぁ? なんだって死徒がコイツを狙うんだ!」

「決まってるっしょ。そいつのせいでクウェンっちが死んだからっすよ」

「……は?」


 ジークは目を丸くした。


「オルガ・クウェンが死んだ? そんなはずない。だってあいつはリリアをーー」

「死んだんすよ。あんたのせいで」

「……!」


 その声はゾッとするほど冷たかった。

 憎悪を煮詰めた暗く淀んだ瞳がジークを射抜いた。


「オルガっちはあーしの友達だった。獣人を差別しない平等な人だった。それなのに……!」


 こいつは、何を言っているんだろう。

 オルガとキアーデが友達だった。それは分かる。

 けれど、そんなに憎まれる理由はないし、怒りを向けられる謂れもない。


 例えようのない不快感が、胸の底から沸き起こってきた。

 自分でもどうかと思うほど冷たい声が出た。


「自分を殺そうとした奴を迎え撃って何が悪いの? 大体さ、あいつが何をしたと思ってんの?」


 ジークは聖人でも英雄でもない。

 嫌なことをされたら怒るし、石を投げた人の顔は忘れないし、憎みもする。大勢の人間を殺し、たくさんの『妹』を犠牲にしてきたオルガ・クウェンが死んだと聞かされ、湧き上がってきたのは、純粋な怒りだった。


「あいつはリリアを傷つけたんだ。本当なら、僕の手で殺したかった!」

「オイ、オイオイオイオイオイ、俺を無視するんじゃねぇよ、なぁッ!!」


 額に青筋を浮かべたアーロンが、両手を広げて吠えた。

 次の瞬間、彼の足元が蜘蛛の巣状にひび割れ、凄まじい衝撃波が巻き起こる。


「……ぐ!」

「なんなんだッ、アイツは! おれの蹴りお前らの攻撃も、何もかも効かなかったぞ!?」

「この魔力……」


 ルージュは目を細め、何かに気づいたようにハッと顔を上げた。


「やっぱり、そうだよ。あいつ、あたしたちの力を吸い取ってる!」

「え!?」

「あいつからあたしたちの力を感じる。きっと、相手の攻撃を魔力に変換する異能だよ!」

「その通ぉり。何だお前、イイ勘してんな。抱いてやろうか?」

「うわ、気持ちわ、る……!?」


 転瞬、アーロンが目の前にいた。

 ルージュは咄嗟に重力を展開し、相手の動きを阻害。

 すかさず反応したジークの突きが、アーロンの胸を真っ向から貫いた。


 が。


「効かねぇなぁ」


 心臓を一突きにされても、彼は微動だにしない。

 それどころか、突いた箇所を再生し、剣を絡め取ろうとしてきた。

 だがそこまでは、ジークの狙い通り。


「トニトルス流双剣術異型」


 アーロンが目を見開いた。


「しま」


 剣を刺した瞬間にゼレオティールの加護を駆動。


「『雷神招来』!」


 剣の纏う雷撃が、アーロンの全身を焼き尽くすーー!


「ギィイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 アーロンが絶叫を上げた。


 ーーエルダーの身体構造は、人間と殆ど変わらないと言われている。


 構成されているものこそ、細胞と魔力が置き換えられてはいるがーー。

 内臓の位置はもちろんのこと、遺伝子構造も殆ど生前のままだ。

 故に、人体の六十パーセントが水で出来ている事も変わらない。


 だからジークは、アーロンの身体に直接電磁波を送り込み、原子を振動させた。


『第五元素エーテルと電子力学』によれば。

 すべての物質は原子・分子が集まってできており、普通、その原子・分子は細かく振動している。第五元素のエーテルは普段、この原子と分子と結合しているが、原子が振動すると、エーテルの結合が僅かに解かれ、体外に放出。その運動エネルギーによって体温が上昇する。そして体温はこの原子・分子の振動が激しくなればなるほど上がっていくのだ。


(デンシレンジ、だっけ……それと、同じ要領でーー!)


 旧世界、広く一般家庭に浸透していたと言われる古の機械。

 現在でも魔導工学で再現が試みられている機械の理論を戦いに応用する。

 アーロンの身体の水分子を電磁波でエーテル振動させ、身体中の水分を蒸発させる!


「身体の外の攻撃は防げても、中からの攻撃は防げないでしょーーーー!」

「あぁ防げねぇな。それがどうした?」

「え」


 いつの間にかアーロンは絶叫を止めていた。


 雷が効いていない?


 いや違う。

 効いている。


 ただこいつは、攻撃を上回る速さで身体を再生させているだけだ。

 死徒と同様、何らかの方法で魔剣の力を無効化させて。

 そこへーー。


「ちょうどいいっすよ、下僕。そこでじっとしとけ~」


 瞬間、頭上をよぎる影。

 見れば、直径五メートルを超える巨大な岩が落ちてきた。


「ルージュッ!」

「『黒き滅儘(ニルヴァーナ)』……!」

「はい無理ー」

「え!?」


 軽快な声と共に、ルージュが纏っていた魔力が消え去った。

 重力を展開することを許さない、絶対防御の権能はーー。


「またあんたなの……この性悪女!」

「性悪で結構っすよ。それより上、気を付けたほうがいいんじゃないっすか?」

「く……!」

「お前の相手はこっちだ、クソ半魔野郎」


 アーロンが剣を刺したまま、一歩ジークに近づいてきた。

 めりめりめり、と肉が裂ける感触が剣から伝わってくる。

 それでもアーロンは歩みを止めない。暗黒にも似た怒りが瞳に宿っていた。


「テメェを、この手で殺す。そのために俺は、ここまで来たーー!」

「こ、の……!」


 頭上を覆う影はすぐそこに迫っている。

 アレに押しつぶされれば命はない。死の予感がそこにある。

 凄まじい風圧を浴びながら、ルージュが叫んだ。


「異能が無効化されるなら、吸血鬼の力で……!」


 地面に血を滴らせ、触手のような赤い鞭が巨岩を抑えようとする。

 だが、いくらで吸血鬼でも十トンはくだらない巨岩を一人で支えるのは無理だ。

 ぷるぷると膝を震わせ、ルージュの身体が張り裂けそうなその時、


「ぶっとべぁああああああああああああああああああ!」


 竜人が吠えた。

 ダンッ!と尻尾を地面にたたきつけて跳躍するオズワン。

 神の罰に抗う挑戦者のごとく、獣人の剛腕が炸裂するーー!


 ーー……どっごんッ!!


 大岩が無数にひび割れ、粉々に砕け散った瓦礫が落ちていく。

 神秘的な魂の泉が穢されていく光景は、心にちくりと刺さった。


「やっぱこの能力、使い勝手がいまいちっすねー。力馬鹿には効かないんだもんなぁ」


 キアーデが舌打ちしながら呟く。

 彼女の視線が次に向かったのは、アーロンに抑えられたジークだった。


「うん。やっぱりアレ、いいっすね……」

「……っ、お兄ちゃん、逃げて!?」

「逃がすかよ」


 ギリ、とアーロンが魔剣を掴んでいる。

 ジークは逃げられない。死徒が目の前に、やば


「がッ!?」


 激痛。

 がしゅ、ざしゅ、と何かが食い込んでくる。


 見れば、キアーデがジークの腕に噛みついていた。


(いっだぁ……ッ)

「アルト、ノヴァ……!」


 あらん限りの魔剣に力を限りを注ぎ込み、ジークは加護を駆動する。

 本来なら外れる事はない。それほどキアーデの力は強い。


 だが。可能性が一つでもあるなら。

 ジークにはそれをつかみ取る方法があるーー!


 ドクン、と心臓が脈打った。

 陽力が収束する。身体が熱くなる。地面が蜘蛛の巣状にひび割れた。

 キアーデが、アーロンが異変を感知する。

 だが遅い。


「権能武装『超越者の魔眼インフィニティ・ジ・アーク』!」


 視界が暗転した。

 ジークを起点に光の道が浮かび上がり、道は四方八方に伸びていく。


 ジークはその中から、アーロンとキアーデから離れる未来を選び取る。

 他のあらゆる道は消滅し、選んだ未来が、現実世界に索引、反映する。

 地震が起こった。


「…………ッ!?」

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 地竜化したオズワンが地面を揺るがす。

 ぐらりと死徒たちの身体が揺れた瞬間を、ルージュは見逃さない。


「お兄ちゃん!」


 赤い流星が宙を走る。

 ルージュの放った血の刃が曲線を描き、ジークの腕を抉り落とした。


「……ぁ、づぁ……ッ!」


 強烈な痛みに顔を歪めるジークだが、この機は逃さない。

 アルトノヴァから手を離し、ルージュを抱えて死徒たちから距離を取る。

 すかさずオズワンが光線を吐くが、またしても死徒の手で無効化されてしまった。


「はぁ……! はぁ……!」

「お兄ちゃん、ごめんね。痛かったよね」

「大丈夫。ありがとう、ルージュ。むしろ助かった」


 本当は、大丈夫ではない。

 視界が明滅する。頭がくらくらして倒れてしまいそうだ。

 ジークは半魔であって悪魔ではない、腕を抉られて自然に治るのは最低三日はかかるだろう。


 ふらつきそうになる身体を支えながら、ジークは一瞬で思考を巡らせた。


(それでも、あのまま死ぬよりはマシだ。今はこの状況をなんとかしないと)


 勝手の分からない冥界で逃げ回るのは避けたいが、こちらの攻撃を完全に防ぎきる死徒にどう対処していいか分からない。ルージュもオズワンも消耗が激しいはずだ。今の自分たちではこいつらの相手をするのは難しい。一刻も早くリリアの安否を確かめたいから、どうにかこいつらをまいて地上に帰らないと。


 そこまで考えたジークは前を向く。

 アルトノヴァの片割れを戦利品のように掲げるアーロンがいた。


「おいおい、イイ剣じゃねぇか、あ? 貰っちゃうぜ、オイ」


 勝ち誇り、「ひひッ」と不気味な笑みを浮かべるアーロン。

 力を見せてつけて優越感にひたる彼を、ジークは鼻で笑う。


「使えるものなら、使ってみなよ」

「は?」


 ーー……斬ッ!


 血しぶきが舞う。肉が抉れ骨が欠ける。

 アルトノヴァの剣身を握っていたアーロンの腕が削げた。

 簒奪者の手から逃れた魔剣は宙に浮かび上がり、ジークの元に戻ってくる。


 アーロンはすぐに傷を再生させ、忌々しげに顔を歪めた。


「テメェ……!」

「アルトノヴァは、僕だけの剣だから。お前みたいな下種には使えないよ」

「言ってくれるじゃねぇか、糞雑魚が、ご自慢の加護も通じなかった分際で!」


(……あれ? そういえば)


 違和感が、鎌首をもたげた。


 何かがおかしい。

 なんだ。僕は一体なにに疑問を持った?


 そんなジークの疑問は、続いて声を上げた死徒の声で霧散する。


「恋人が人質にとられている分際で、やってくれやがるっすね。ほんとにどうなってもいいすか?」

「お前たちの言葉は信じない」

「へぇ……じゃあ、悪魔たちの群れに放り込んで凌辱させてもいいんすね?」

「…………」


 ジークは無言。

 絶対に信じまいとする言葉が、毒のように耳に入り込んでくる。


「裸にひん剥いてから『不死の都』に置いて、肉便器として運用するのもいいっすね。一生肉奴隷として飼ってあげるんす。あはは! そのうちまともに頭で考えられなくなって、自分から犯してほしいって懇願するようになるっすよ! その様子を録画してお前に毎日届けてあげるっすね。あ、それか目の前で見せたほうがいいっすか? 自分の女が他の悪魔に犯されて汚い言葉叫びながら悦ぶ様を、指をくわえて見守るんす! どうっすか? 嬉しいっしょ? 最高っしょ!?」


「お前……ッ!」


 どす黒い殺意が心を支配した。

 生まれてこの方、感じたことのない衝動にアルトノヴァが応える。

 ぎぃん、ぎぃん、と魔剣の刀身が黒く染まり、禍々しく尖っていく。


「お兄ちゃん、ダメ、挑発に乗らないで!」

「あいつは、あいつはリリアを侮辱したんだ。絶対に許さない!」


 本当か嘘か、そんなことは関係ない。

 あの悪魔はジークの恋人を穢した。言葉で以て存在を犯したのだ。


 例え、それが嘘のリリアでも、

 例え、アイツがリリアを捕まえていなかったとしても。


「僕を、認めてくれた、あの人を……!」


 ダン、と足を踏み込み、


「馬鹿に、するなぁあああああああああああああああッ!」


 轟雷一閃。

 ソニックブームを置き去りに、雷速を超えた神速の斬撃が迸った。


「トニトルス流双剣術迅雷の型四番『覇刃』ッ!!」


 打突の連打。

 右の刀身が纏う(いかずち)が一突きするごとに独走し、三つの雷撃を与える。

 続けて放たれた左の刀身が同じ突きを放ち、一撃が八連撃につながる雷速の突きが放たれた。



「ひひっ」



 だが、眼前に迫った突きを見ても、死徒は嗤った。

 愉しそうに、嬉しそうに。


「お返しっす」


 ーー……バリィィィイイイイイイイイイイイイイイイイ!


「え」


 全身が痙攣する。雷撃を押し返され、ジークは動揺した。

 いや、違う。

 押し返されたのではない。


 これは。


「うそ」


 ジリ、と紫電が迸る。

 今までジークを守っていた雷をーー死徒が纏っていた。


「僕の力を、写し取った……!?」

「苦労して苦労して苦労して、ようやく掴めそうだった結果をかすめ取られたことはあるっすか?

 それか、長年研究していた成果を理不尽な理由で横取りされたことは?」


 死徒は嗤う。

 陰惨に、冷徹に。


 それは簒奪者の笑みだった。


「これが怠惰の大罪異能『完全模倣(パーフェクト・コピー)』。色々条件はあるっすけどねー。あたしはクウェンっちみたいに出し惜しみはしないっすよ」

「たいざい、いのう」

「やっぱり思った通り、便利な力っすねー。コレ。気に入ったっす」


 じゃ、と死徒は笑った。


「自分の力で死ね?」

「アルトノヴァ!」


 視界を覆う雷撃を、真っ向から迎え撃つジーク。

 因果を断ち、魔力を吸い取る魔剣の斬撃は、しかし、届かない。


「……ぐ、押され、なんで……!」

「お前の剣がどんなのか知らないっすけどねー。力と力が真正面からぶつかったら、強い方が勝つに決まってるっしょ」

「……!」

「こんな風に」


 声が後ろから聞こえた。

 ハッと振り向いたジークは、無数の光線に貫かれた。


「ぁ、あぁああああ!?」

「お兄ちゃん!?」


 膝、肩、足、腕、肘、手、内蔵、肋骨、

 磔にされる死刑囚のように、身体に穴をあけられたジークは、ルージュによって引き戻される。


「あーあ、逃しちゃった。まぁいいか、すぐに捕まえられるし」

「ひひッ、良い顔になってきたじゃねぇか、ジークよぉ」

「はぁ……! ぜぇ……!」


 傷は深い。腕が重くて剣を落としそうだ。

 だがそれよりも問題なのはーー。


「あんなの、一体どうやって勝つの……!?」


 ルージュの悲鳴に、ジークは心から同意する。


 相手の魔力を吸い取り、自分のものにしてしまうアーロンと。

 相手の能力をコピーし、どんな力も跳ね返す絶対防御のキアーデ。


 攻守に優れた死徒と特級悪魔の組み合わせは最悪だ。

 積み上げてきた剣術も、やっと使いこなせてきた加護も無意味。

 さらに権能武装を使ったことで、ジークの体力は極限まで消耗していた。


「く、そ……!」


「ひひ、ひひひ! いいぜ、いいな、もっと絶望しろ、もっと恐怖しろ! テメェが俺に与えた怒りは、まだまだこんなもんじゃねぇぜ!? お前を捕まえて、お前の前で恋人の身体をめちゃくちゃにしてやんよ、なぁいいだろ。お前は俺の奴隷だもんなぁ、ジークッ!」

「はいはい。盛るのはいいっすけど、そこらへんにしとけ、下僕? いい加減にしないと怒るっすよ」


 アーロンを引き下がらせ、「最も」と死徒が笑う。


「こいつの言ってる通りになりそうっすね。今死ぬか後で死ぬか、どっちがいいっすか?」


 どうする、

 どうする、

 どうする……!


 万事休すなんて言葉が陳腐に思える絶体絶命。

 冥界の奥深く、次元から隔絶された《魂の泉》に神々の助けは望めない。

 今のジークたちでは死徒に勝てず、このままでは負ける。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 地竜化したオズワンが無謀にも突っ込んだ。

 ちらりとこちらを見る目、顎をしゃくる。まるで自分が食い止めると言いたげな。


「ダメだ、オズ!」


 くそ、考えろ、考えろ、考えろよ僕!

 何かあるだろ。何か、何か試してない方法があるはずだ!

 いや、なくてもいい、なくてもひねり出せ。考えて考えて考えまくれ!


 ジークは思考する。

 答えは出ない。問いばかりが空回りして動けない。

 もうこうなったら、がむしゃらに突撃して、活路を開くしかーー!


 オズワンが吹き飛ばされた。アーロンが一歩足を踏み出す。

 死徒は笑い、雷を纏ってジークに放とうと









『そこまでよ』












 声が、聞こえた。


「え」


 聞き覚えのある声。

 年ごろの女の子の、へその曲がったような厳しい声。


 次の瞬間、《魂の泉》が光を放った。


「!?」


 眩しさに、その場の全員が目を細めた。

 神聖な光がその場に満ち満ちて、どこまでも広がっていく。


 光が晴れると、そこには。


「君、は」

『久しぶりね。ずいぶん苦戦しているようじゃない?』


 ふわりと、赤い髪が揺れる。

 生意気そうな、強い目。その瞳には硬い意志が宿っている。

 涙があふれてきた。


『泣き虫は治ってないのね。全く、それでもあたしが認めた男なの?』

「だって、だって……」


 ジークと同じ年ごろをした女の子は、ふ、と微笑んだ。


「誰だ、お前」


 アーロンが誰何の声を上げる。


『誰ですって? 誰でもないわ。しいて名乗るなら、そうね』


 肩にかかった赤い髪をかきあげ、透き通った身体をした女は言い放つ。


『『戦姫』オリヴィアの弟子にして、元上級葬送官アンナ・ハークレイ』


 その言いようは、記憶にある彼女そのもので。


『あたしの友達によくも手を出したわね、悪魔ども』



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