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ゴッド・スレイヤー  作者: 山夜みい
第三章 飛躍
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第五話 地上の守護門

 


 湿り気のある洞窟は、意外なほど整えられていた。

 恐らく冥界の軍勢を迎え撃つためだろう。

 壁のあちこちには何かが仕込まれたような跡があって、ジークは内心でドキドキする。


「い、いきなり撃たれたりしないよね?」

『大丈夫でしょ。あくまで内側からやってくる敵用だと思うし」

「そ、そうかな。うん、そうだよね」


 心配しすぎても仕方ない。

 ジークは肩の力を抜いて、洞窟の奥へと進んでいった。


 それから五十メートルほど歩いてーー。


「ここ、かな?」


 巨大な金属扉の前に、ジークは居た。

 中心に線の入った巨大な、鉄塊のような扉だ。


「扉、だよね?」

『扉っていうか、シェルターだね、これ』

「しぇるたー?」

『お兄ちゃん、そんなことも知らないの? あたしより外の世界に居たのに』

「う、いいから説明してよ」


 責めどころを見つけたルージュに慌てて先を促すジーク。

 影の中の彼女は「ちぇ」と不満そうにしながら、


『シェルターは中のものを守ったり、閉じ込めたりするやつだよ。要するにこのシェルターの向こうに冥界の入り口があって、このシェルターで入り口を閉じてるんでしょ』

「あぁ、そういう……ルージュは良く知ってるね」

『まぁねー。たくさんお勉強させられたから』

「でも、どうやって開けるの?」

『そこはご心配なく。お兄ちゃんが寝ている間にあたしが聞いておきました』

「おぉ。さすがルージュ」

『ふふーん。でしょでしょ? もっと褒めていいんだよ?』


 得意げに胸を張るルージュが目に浮かぶようだ。

 彼女は続けて、


『シェルターの右端に台座があるの。そこにブレスレットをかざせば開くはずだよ』


 言われるまま右端に行くと、確かに台座があった。

 ブレスレットをかざすような液晶モニタがある。ジークは右手をモニタに当てた。

 ピピ、と音がして、


『冥界潜行証:No.432。登録者名ジーク・トニトルス。通信室へつなぎます』

『あ、あー。聞こえてるか? こちら冥界門管理室。そちらがジーク・トニトルスで間違いないか?』

「あ、はいそうです」


 スピーカーから聞こえてきた声に、ジークはコクコクと頷く。

 通信の向こうは苦り切った声で、


『ったく。普段は暇な部署だってのに……今日で二人目かよ。勘弁してくれよ』

「あの?」

『あぁなんでもない。テレサ殿からおどさ……ごほん。話は聞いている。いくつか注意事項があるから聞いてくれ』


 通信室曰くーー。


 一、冥界に潜った者が帰らなくても異端討滅機構は捜索しない。

 二、冥界から持ち帰った物は必ず異端討滅機構に報告し、物によっては接収する。


『要は身の安全は保障しないし冥界に潜っても魔晶石やらが手に入るわけでもない。ただ失うだけになっても文句は言うなってことだ』

「大丈夫です」

『……了解。では、武運を祈る』


 ガチャ、と音がした。


「え?」


 浮遊感。

 直後、ジークは足元に開いた穴に落ちていく。


「わぁぁあああああああああああああああああ!?」


 滑る、

 滑る、

 滑る、


 穴の下は滑り台のようになっていて、ジークはどこまでも深く滑っていく。

 そしてーー。


「わ!?」


 数秒後、ジークは地面にしりもちをついていた。


「いだだ……」

『お兄ちゃん、大丈夫?』

「大丈夫。そっちは?」

『あたしは平気。でもそろそろ影に潜むのもしんどくなってきたから、早めにしてほしいかな』

「分かった」


 ルージュは吸血鬼の悪魔だが、無限に影に潜んでいられるわけではない。

 影に潜むにも魔力を消耗するし、誤って影に聖水をかけられた時には大変な事になる。

 彼女の潜在魔力なら少し街を歩くくらい平気だが、急いだほうがいいだろう。


「っと、もしかして、あれが……?」


 ジークたちの正面、そこに裂け目はあった。

 窓ガラスがひび割れたようなものが、空間のまっただ中に浮いている。


「あれが冥界の入り口……?」


 振り返れば、既にジークたちの落ちてきた穴は見えなくなっていた。

 上には巨大なシェルターの壁が見えており、天井に取り付けられた砲門がある。


「見たところ誰もいないみたい。いっそのこと、もう出てきたら?」

「あ、ほんと? 助かる」


 ぬう、とルージュが影から出てきた。

 見るからに汗をかいているし、言わないだけでかなりキツかったのかもしれない。


「疲れたなら言ってくれればよかったのに」

「もう、これくらい平気だってば。それより早くーー」


 その時だった。


 ビィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!


 けたたましい警報音が、鳴り響いた。


「「え!?」」


『警告。悪魔の存在を検知しました。周囲にいる葬送官は至急退避してください』


 無機質な声が耳朶を叩き、がこん、がこん、音が響いた。

 ジークとルージュは顔を見合わせ、立てつけの悪い扉のように頭を動かす。

 上へ。


「ぁ」


 天井の砲門ーーおよそ五百を優に超えるそれが、ジークたちを狙っていた。


『逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 二人は同時に走り出す。

 直後、直前まで二人が居た場所に光線が降り注いだ。


 ーーーーガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!


「なんでなんでなんで!? なんであれが作動してるの!? もしかして自動で動いてる!?」

「あたしの存在を感知したんだよ! そうとしか考えれないでしょ!?」

「じゃあもう一度影に潜って、いや、無駄だ」


 ジークは引きつった笑みを浮かべた。

 あの砲門が狙っているのは、ルージュだけではない。

 魔眼に映る未来は血に染まっていた。


「あ、やば

「『黒壁(グラヴィエイト)』!」


 視界が真っ白に染まった瞬間、ルージュが真っ黒な壁を生み出した。

 壁は光の向きを逸らし、ジークたちを光線から守ってくれる。


「お兄ちゃん!」

「うん! 捕まって!」


 ルージュの手を取り、ジークは加護を発動。


「『雷光』!」


 人の限界を超えた光速の移動。

 磁力を反発を利用し、ジークは流星と化して裂け目に突き進む!


「あわわわわ、お兄ちゃん、来てる、来てるよ!」

「撃ち落として!」

「さすがにこの速さで動きながらじゃ無理ーー!」


 光線がジークの頬をかすめた。

 こちらは加護をフル稼働させているのに、なんて精度と速さ。


(魔導工学、恐るべしって事かな……!)

「ていうかあの裂け目、遠すぎない!?」


 既にジークが走り始めて十秒以上経っている。

 加護を駆動させていれば、サンテレーゼの端から端まで走れる距離なのに。


「たぶんあの裂け目、空間が歪んでるんだよ! 冥界と地上じゃ次元が違うから!」

「どうすればいい!?」

「あたしに任せて! ちょっと後ろお願い! これは魔力を消耗するからやりたくなかったんだけど……!」


 ジークはルージュの背後に磁力のバリアを作った。

 度重なる光線に軋みを上げながら、雷の防御が削れていく。


(長くはもたない……!)

「ルージュ!」

「《昏き闇より現れし暗黒(オルス・モルグス)》、《其の名は破壊(アバドン)》、《立ちはだかる全てを(ディヴェイン)》《撃ち滅ぼすものなり(インフェルノ)》」


 ルージュは頬に汗を垂らしながら、神経を集中させる。


 狙うのは空中の一点。

 自分たちが通れる道。ただそれだけを脳裏に描く。

 身体中の魔力をかき集め、手のひらに黒いオーラが集めていく。


(お願い。ルージュ……あたしに力を貸して!)

「《顕現せよ(エクス・マキナ)》、『虚無の光(オーバーロード)』!」


 ーー……轟ッ!!


 黒い光が、世界を駆け抜けた。

 光は一直線に裂け目に突き進み、歪んでいた空間を貫いたーー!


「今だよ、お兄ちゃん!」

「……っ!」


 加速する。

 音速を突破した衝撃音(ソニックブーム)を巻き起こし、二人は瞬く間に次元の裂け目に到達。

 もはや手を伸ばせば触れる距離だ。これならーー!


「行くよ、ルージュ!」

「うん!」


 歪みに触れる。

 その瞬間、二人の姿は裂け目に呑みこまれた。


 誰も居なくなった地面に光線が突き刺さり、


『生体反応なし。排除完了ーー。』



 無情の音声だけが、その場に残されるのだった。



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