表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッド・スレイヤー  作者: 山夜みい
第二章 覚醒
49/231

第十三話 再会 × 決闘

 

「うわぁぁああああああああああ!?」


 ジークは落ちていた。


 落下するエレベーターと共に最下層まで真っ逆さまに落ちていた。

 凄まじい浮遊感、箱の上に乗ったジークは剣で体を支えながら高速で思考する。


(やばい、やばいやばいやばいやばい、このままじゃ死ぬ!?)


 捕まる前に咄嗟にケーブルを斬ったはいいものの──

 ジークは、そのあとのことを何も考えていなかった。


 理屈は分からないが、このままだと死ぬ。

 悪魔の牙が目の前に迫ってくるような、死の確信がそこにある。


 その瞬間、まるで走馬灯のように、リリアとのやり取りが脳裏に響いた。

 あれは、そう。ジークが加護で悩んでいる時だ。


(ジーク。あなたの加護は雷を放つだけじゃないと思うんです)


(どういうこと?)


(雷は電子の塊です。電子は全ての物質に構成されている素粒子……つまり見えない粒なんです。見えない粒がいたるところにあって、エーテル粒子が電位差を補い、放電現象を作っている。なら、最小単位である電子を操ることが出来れば、色んな事が出来ると思いませんか? 例えば、電流を作って磁界を発生させたり、負の電子同士を反発させて物を飛ばしたりとか……もっと凄いこともできるかも!)


(ごめん、リリア。何言ってるのか全然分かんないや)


 ──デンシとか、ソリュウシか、今も分かんないけど。


 今はそれにすがるしか生きる道はない。

 元より自分には考えることより、試して、失敗して、また試すほうが性に合っている。


 ──無理だと思うなら試せ、失敗したらもう一度!


 思考は一瞬、行動は刹那。


「う、りゃああ!」


 ジークは全身に雷を纏った。

 思いっきり箱を蹴りつけ、エレベーターの壁に手を伸ばす。


 ──勢いを、殺せ!


 理屈ではない、感覚だ。

 目に見えない小さな粒が、手のひらに集まる。

 その粒同士は仲が悪いのと仲が良いのが居て、二つの勢力が反発しあっている。


 二つは戦いを繰り広げながら、電流となって放出。

 その際に生じる見えない力場を感覚し、ジークは磁力で己を浮かせた。


「ぉ、ぉおおおお!」


 電流を一本一本の線に分け、別々の磁界を作る。

 それぞれの磁界の中に別の電流を流し込み、磁界の向きを固定。

 陽力により、反発を増幅させる。

 人間を浮かべるには足りなさすぎる、ほんのわずかな斥力場が発生する──!


 そして神の加護は、奇跡を起こした。


「うい、いたぁあああ!」


 ゼレオティールの加護が磁力を拡大増幅させ、ジークは宙に浮くことに成功。

 但しそれも一瞬だ。

 すぐに力場が霧散し、ジークは重力に従って地面に落ちていく。


 だがその一瞬こそ、ジークの命を救ったのだ。


「ふ、ぅ……!」


 ──が、しゃぁん!


 と、恐ろしい破砕音が最下層から響き渡る。

 ジークは壁の凹凸にしがみつき、ほっと息を吐いた。


「あっぶなかったぁ~~……ぺしゃんこになるところだった」


 急場は凌いだ。

 後は壁を伝って下に降りるだけだ。


 ジークは壁から壁へ、ぴょん、ぴょん、と跳ねながら下に降りていく。


 そして最下層に到着。

 エレベーターの扉をこじ開ける。

 そこに広がっていたのは──。


「……っ」


 子供だ。たくさんの子供がいた。

 ポコり、ポコりと泡を立て、培養槽の中に浮かぶ、さまざまな子供たち。


 そのほとんどは女の子だった。

 何の衣服も身に着けていない。幼かったり、まだ生まれてまもない赤子もいる。


 赤、紫、緑、青、黄、黒、白、

 彼女たちはさまざまな髪色をしていた。


 ──その全員が、鋭い耳を持っていた。


「ぅ……っ」


 ジークは思わずこみあげてきた吐き気を押さえる。


「これ、みんな、半魔なの……?」


「そだよー。みーんな、あなたの妹だよ、お兄ちゃん♪」


 声が、聞こえた。

 培養槽の林を抜けた、開けた場所。

 ひときわ大きな培養槽の中に、リリアが吊るされている。


「──リリアッ!」


「ひっどーい。妹は目に入らないっていうの? お兄ちゃん、ハクジョーだよ」


 培養槽の前に立ちふさがる、黒髪の少女。

 再び相まみえた『妹』を前にジークは立ち止まる。


「……ルージュ」


「そう、ルージュ。あなたの妹だよ♪」


 えへ、と頬に指を当てて笑うルージュ。

 ジークは彼女の背後にいるリリアを見た。


 意識はない。身体中に殴られたような痕がある。

 胸の奥から、堪えきれない怒りが沸き起こった。


「お前たちは……リリアに何をした!?」


「別にー? その人が暴れたから、ちょーっと静かにしてもらっただけだよ。あ、でもそろそろ起きるかな?」


 言っているそばから、リリアのまつげが震えた。


「リリア!」


 ジークと目が合うと、リリアは悲しげに目を伏せた。


「……ジーク。来てしまったんですね」


「当たり前だよ。待ってて、今すぐ助けるから!」


「ダメだよ」


 駆けだそうとしたジークの眼前、不可視の重力場が放たれた。

 ぺしゃりと凹んだ地面を見て立ち止まるジークに、ルージュは言い放つ。


「今からお兄ちゃんとゲームをするんだから、この人は景品。勝手に持って行っちゃだめー」


「ゲーム、だって……?」


「そっ♪」


 パチン、とルージュが指を鳴らす。

 その瞬間、リリアの培養槽が動き出し、彼女の足元から水が湧き出した。


「な、なにを……何をしてるんだ!?」


「ふふ。見たらわかるでしょ? デスマッチ、だよ」


 ルージュはうっとりと微笑む。


「あたしとお兄ちゃんが戦って、勝った方が姫をものにする。時間がかかりすぎちゃうと姫、死んじゃうよ? あと、この培養槽を壊そうとしない方がいいかな。無理やり壊すと爆発して姫が死んじゃう仕組みになってるからさ」


「……っ」


「怖いよね、嫌だよね? でも安心して? あたしが勝ったら、ちゃぁんと姫を幸せにするから♪」


 ぴょん、とルージュは宙に浮かんだ。

 そして彼女はリリアの培養槽の中に上から入り、


「こんな風に、さ」


「……っ!?」


 ちゅぅうう、と、熱く口づける。

 艶めかしい舌がリリアの唇を蹂躙し、首筋にキスの雨を降らした。


「い、嫌……やめて、やめて……いやぁ……」


「リリア────!」


 ルージュはリリアを離し、再びジークの前に降り立つ。

 嗜虐的(サディスティック)に上気した頬を緩ませ、自分を抑えるように肩を抱いた。


「ん……♡、お兄ちゃんの嫌がる顔、最高だよ……♪ もっとあたしを見て、あたしを愛して、あたしに構って? お兄ちゃんが嫌がれば嫌がるほど、あたし、最高の気分になるの。痛いコトやひどいコトをして、滅茶苦茶にしつけたくなっちゃうの……こんなどうしようもない気持ちを、ぶつけたくてたまらないの」


「ルージュ……君は……!」


 怒りで頭がどうにかなりそうだった。

 リリアに乱暴した彼女も許せないが、それよりもっと巨大な悪がここにある。


「なんで、こんなことをするんだよ。君も半魔でしょ!? 勝手な都合で造られて、ひどい計画に加担させられて、おかしいって思わないの!?」


「思わないよ。だってそれがあたしの存在価値(レゾンデートル)なんだもの。お兄ちゃんに何が分かるの?」


 ルージュの顔から表情が消えた。


「生まれた時からあたしたちは実験体で、上手に育つことを強制されてきた。いずれ兵士になって戦うために。それがあたしの、あたしたちの存在意義なの。勝手に造られた? お兄ちゃんだって、親の都合で勝手に生まれたんじゃない。死んだら悪魔になっちゃうこの地獄に、望んで生まれてきた人なんているの? いないでしょ?」


「それは……」


「人が人を造るんだよ、お兄ちゃん。生まれた場所が違うだけ。それがおかしいっていうならさ。人間って何なの?」


「…………」


 ジークは反論できなかった。

 ルージュの言うことが、正しいと思ってしまったからだ。


 彼女たちも、自分たちも、

 培養槽の中で生まれたのか、子宮の中で生まれたのか、


 あるのはその違いだけで、生まれた者に罪はない。



 ──それでも。



「君たちは、間違ってる」


「……」


「君の気持ちは分からない。でも、命を使い捨てにするような、こんなやり方は間違ってる」


「じゃあお兄ちゃんは、あたしたちに死ねっていうの? 要らない半魔は死ねって?」


「逆だよ」


「え」


「生きろって、言うよ」


「……っ」


 ルージュは間の抜けた声を出した。

 嗜虐的な性格を引っ込めたその表情は、年相応の女の子だ。


(そう、君たちに罪はないんだ。生きてていいんだよ)


 人造悪魔創造計画──その概要を聞いた時、彼女らを他人とは思えなかった。

 一歩間違えれば自分が彼女になっていてもおかしくなかったのだ。

 巡り合わせが運命を変えた。自分は本当に恵まれているとジークは思う。


 だから、見捨てたくなかった。

 リリアを助けるだけじゃなく、彼女たちも助けてあげたかった。


「生まれ方は違うけど、たぶん、君たちは僕の妹なんだと思う。だから僕は、君たちに世界を知ってほしい。こんなひどい場所じゃなくて、君たちが生きる場所はもっと別にあるんだ。生きる方法もきっと見つかる。いや、僕が見つけて見せる。だから、こっちに来い、ルージュ!」


 ジークは手を差し出した。


「君の世界を、僕が変える。当たり前の幸せを、一緒に掴んでやる!」


「……無理だよ」


 ルージュはゆっくりと首を横に振った。

 懐からナイフを取り出し、構える。


「あたしたちは兵士──戦うことでしか生きられない運命なの。どうしようもないんだよ」


「それなら」


 ジークは剣を構えた。


「──そんな運命、僕がぶっ壊してやる」


「……」


「君たちが泣く世界なんて──誰かを踏みつけないと生きていけない世界なんて、僕がぶっ壊してやる!」


 ルージュが一瞬、涙目になったように見えた。

 けれどそれは本当に一瞬で。

 俯いて、顔を上げた時、彼女は嗜虐的(サディスティック)に笑った。



「出来るものならやってみなよ、お兄ちゃん。あなたの絶望、味あわせて……♪」



 そして二人は名乗りを上げる。


「人造悪魔創造計画被検体No.六九二、個体名ルージュ」


「──異端討滅機構序列一〇五〇二位、下二級葬送官ジーク・トニトルス」


 静寂は一瞬。


 二人は同時に動き出した。


「──行くよ」


「来て、お兄ちゃん。めちゃくちゃにしてあげるよ──!」




 ◆




 同時刻、天界・原初の深淵にて。



「──よろしいのですか?」


「……何がだ」


「あなた様は知っていたのでしょう? 彼らの存在を」


 アステシアの咎めるような言葉に、ゼレオティールは目を眇めた。

 地上の様子を映す液晶体を見ながら、叡智の女神は言う。


「人を人とは思わない、生命に対する蛮行を、捨ておくのですか?」


「アステシアよ。では『人』とはなんだ?」


「…………」


 ゼレオティールの問いに、アステシアは黙り込んだ。

 髭をたくわえた創造神は眷属の戦いを見ながら言った。


「あれも『人』だ」


「ですが」


「信じよ。あの子を」


 その一言で、アステシアは諦めたようにため息を吐いた。


「とっくに信じています。私は心配しているだけです」


「心配せずとも良い。あれは儂等が選んだ男じゃぞ?」



 ゼレオティールは笑みを浮かべた。



「人の悪意など、容易く斬り伏せてくれるとも。そうじゃろ? ジーク」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ