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ゴッド・スレイヤー  作者: 山夜みい
第二章 覚醒
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第五話 来訪者

 

「い、イリミアス様に剣を打ってもらえる事になったぁ!?」

「あ、うん。そんな感じになった」


 翌朝、朝食の席でジークが報告すると、リリアはお玉を取り落とした。

 彼女の驚きようは分かるが、ジークとしても不可避の事だったので許してほしい。


「まぁあの人も喜んでたからいいんじゃないかな」

「喜んでたって、そんな友達みたいにな」

「アステシア様は友達だよ? イリミアス様は、うーん……ストーカー?」

「…………ちなみにゼレオティール様は?」

「……お爺ちゃんかな?」

「……………………………………………………………………」


 リリアの目が据わっている気がする。

 なぜだろう。僕は何も悪いことしていないはずなのに。

 ジークが居心地悪く身じろぎすると、リリアは大きくため息を吐いた。


「ほんとに、よくよく神々に愛される人ですね……お師匠様が聞いたら飛び上がりますよ……しかも神々を友人扱い……今の、絶対よそに言っちゃだめですからね?」

「え? なんで?」

「わたしはジークの事をよく知っていますから、悪意や慢心がない事は分かっています。でも神々を崇拝する人たちからすれば、ジークが疎ましく映ってもおかしくありませんから」


 ジークは首を傾げた。


「……やきもち?」

「簡単に言えばそうです」


 なるほど、とジークは頷く。

 確かに、自分たちが崇める存在が半魔と仲良くしていたら嫌かもしれない。

 もちろんジークは神々に一応の敬意を抱いてはいるし感謝もしているのだが……


(あんな風に来られたら、どうしても崇めるなんて無理だよね)


 何かとジークに世話を焼こうとする神々を思い出してジークは苦笑。

 とりあえず外では言わないでおこう。

 そう自分を納得させると、リリアが朝食のスープを置いてくれた。


「わ、今日はビーフシチューだ!」

「はい。おかわりはありますから、遠慮なく食べてくださいね」

「いただきます!」


 とろみがついたシチューを頬張る。

 口の中いっぱいに旨味が広がり、野菜の甘みが幸せを喉の奥へ運んでくれる。


「美味しい。やっぱりリリアの料理が一番美味しいね!」

「そ、そうですか?」

「うん。毎日こんな料理が食べられるなんて、僕、ほんと幸せだ」


 叶うなら死ぬまで毎日食べていたい、と告げると、リリアは俯いた。

 よく見ると耳が真っ赤で、唇は何かを我慢するように引き絞られている。


「またジークは素でそんなことを…………反則です」

「そう? でもほんとのことだから、仕方ないよ」

「……っ、わ、わたしも……幸せ、ですよ?」


 ちら、と熱を孕んだ瞳がジークに向けられる。

 薄い膜が張った視線を受け止めて、ジークは「うん」と頷いた。


「また明日作ってね。あ、たまには僕も作ろうか?」

「それは絶対やめてください」


 リリアが真顔で言った。

 ジークはしょぼんと肩を落とす。


「鼠が嫌なら、バッタでもいいよ? ショーユを使ったら美味しいし」

「余計に駄目ですよ!?」

「そ、そっか。まぁリリアの料理の方が美味しいしね」

「わたしは楽しんでやっているので構いませんよ。気にしないでください」


 リリアはどことなくほっとした様子だ。

 確かにこんな料理に比べれば自分の料理なんてお粗末なものだろう。


(今度、料理の練習してみようかな)


 そんなジークの考えが伝わったのか、リリアが慌てたように話題を転換する。


「そ、それよりっ、聖杖機(アンク)、なんとかなりそうで良かったですね」

「あ、うん。まぁ異端討滅機構(ユニオン)には聖杖機がないって言ってるから、任務はさぼりになっちゃうけど」

「いいんですよ。たまには休みましょう。この前の大侵攻の報酬がまだ残ってますし、給金が減っても大丈夫です」

「そだねぇ」


 また新しく聖杖機が支給されるまで修業の時間にあてよう、とジークは思う。

 

(ゼレオティール様の加護は一刻も早く使いこなさなきゃ)


 また壊れるたら話にならないから、聖杖機なしでの修業しよう。

 もっと小さいものを、細かく壊せるように修業しなければ、

 そうジークが修業の算段を立てていた時だった。

 コンコン、とノックの音が響いた。


「……? 誰だろう」

「この家に配達物は来ませんし……誰でしょうね」


 ジークとリリアは顔を見合わせて立ち上がる。

 一瞬テレサかと思ったらが、彼女の場合ノックはしないはずだ。

 ジークは聖杖機を持ち、警戒しながら扉を開ける──。


「あれ、オリヴィアさん?」

「うむ。おはよう。ジーク、リリア」


 リリアの姉、オリヴィアがそこにいた。

 眩しい金髪を揺らした彼女に挨拶を返し、ジークは疑問に首をかしげる。


「どうしてここに?」

「いや、何。妹の様子を見ておこうと思ったのと」

「お姉さま、二人で暮らす件は……」


 リリアが何か言おうとすると、オリヴィアは苦笑して手を上げた。


「分かってる。お前の意見が曲がらないことは理解した。今日来たのはそれではないのだ」

「そ、そうですか。ならいいんですけど」

「?」


 どうやら二人の間で何かしら言い争いがあったらしい。

 もしかして街に出かけたときに言った「まだ早い」とかなんとかの件だろうか。


「今日来たのはな、お前たちを鍛えるためだ」

「鍛える?」

「うむ。テレサ殿から頼まれてな。特にジーク、貴様は私がみっちり扱きあげてやる」

「……それはありがたいんですけど、でも、正直剣術の方は師匠が間に合ってると言いますか」

「そこら辺の事情は聞いている。だから、私が教えるのは剣ではない」


 フ、と口の端に笑みを浮かべたオリヴィア。

 彼女は肩にかかった髪を払いのけると、どこか誇らしげに告げた。



「喜べジーク・トニトルス。貴様に葬送官(そうさかん)の到達点──権能武装を教えてやろう」



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