第八話 世界の鍵
「『協力者』の正体が、アイリスさん……?」
予想だにしなかった人物に、ジークはしばらく言葉が継げなかった。
いや、もしかしたら頭の片隅では理解していたのかもしれない。
一向に姿を見せなかった七聖将、まるで自分を避けるように任務に出かけていた彼女。何より、悪魔教団の件でシェンが何も言わなくなったことも、アイリスが関わっていたとなれば頷ける。念のため陽力を感知してみれば、アイリスと『協力者』のものは一致していた。リリアやルージュが敵意を見せなかったのは既に知っていたからか。
「……あなただったんですね」
「隠していて申し訳ありません」
「どうして隠していたんですか。大体、あなたが居ながら、オリヴィアさんは……!」
「ーー私は無事だ、ジーク」
がちゃりと扉を開き、寝室に現れたオリヴィアにジークは目を剥く。
「オリヴィアさん……!?」
「先ほどのアレはカオナシに扮した私の自作自演です。彼女には一切危害を加えていません」
「うむ。そういうことだ」
こうでもしなければあの戦いを止めることは出来なかったとアイリスは語る。
ジークの傷も彼女が持つ時の力で巻き戻してくれたらしく、傷跡が残っていないのはこのためだ。しかし、全て自分の為だったと言われて納得できるジークではない。
「なんで止めたんですか」
「あのまま戦っていれば、聖なる地は更地になっていたでしょう。例えこの戦いを凌げたとしても、シェルターに避難するカルナック三十万人が家を失う」
「……っ」
ジークは拳を握りしめた。
そう、そうだ。分かっていたことだ。
たった数十分の戦いで聖なる地の中心部は消し飛んでいた。
あのまま戦っていれば、街にどれだけの被害が出たか分かったものではない。
「ジーク」
そっと、震える拳に冷たい手が触れられて、顔を上げる。
リリアの心配そうに揺れる瞳に、ジークは肩の力を抜いてため息を吐いた。
「………………分かった。あなたを信用する」
絞り出すように頷くと、その場の空気が一気に弛緩した。
ほっと顔を見合わせるアイリスとオリヴィアに、ジークはじと目で言う。
「オリヴィアさんが獣王国について来た本当の目的は、僕の監視じゃなくて……アイリスさんに事の次第を報告しつつ、彼女に位置情報を伝えるためだったんですね」
「う、うむ……すまん。悪いとは思っている」
しゅんとするオリヴィアにルージュが追撃する。
「ほんと。どうりでこの人が現れても動揺しなかったはずだよ。オリヴィアお姉ちゃん、あんまり『協力者』のこと聞かなかったもんね。あのとき教えてくれてたら……うう、どうせ悪魔の妹には聞かせられないんだ……よよよ」
「ち、違う! そう言うわけではなくてだな。決してお前を蔑ろにしているわけでは」
「お姉さまは上司の命令には逆らえない性格ですから……ところでルージュのお姉さまに対する呼び方が変わっているんですがそこのところ詳しく」
嬉しそうに鼻息荒くするリリアである。
ルージュは完全に嘘泣きなんだけどオリヴィアさん、騙されててていいのかな……。
そんな事を思いつつ、ジークは苦笑し、
「あの……うちの仲間たちは」
「無事です。ホールに集まっていますよ。会いますか?」
「そうですね……事情の説明も、みんながいたほうがやりやすいですし」
無事だと言われてほっと一息つくジーク。
リリアやルージュ、ヤタロウが付いていたから大丈夫だとは思ったが、自分たちの戦いに巻き込まなくてよかった。
異端討滅機構に背いたことに加え、監獄島から抜け出した彼らはお尋ね者だ。
せめて自分が守らねばと思いつつ、ジークはアイリスと共に廊下に出た。
「……それで、どうして今になって正体を明かしたんですか? そもそも、なぜ正体を隠す必要が? 僕、ずっとアイリスさんに会いたかったんですよ」
「申し訳ありません。完全に私の事情です。出来るだけアレの眼から逃れなければならなかったので」
「アレ……?」
冥王のことだろうか、とジークは首をひねる。
全ての悪魔の眼を通して世界を覗き見る事が出来るメネスだ。
確かに、彼から逃れるためにはフードを被る必要があってもおかしくないが……。
「冥王ではありません。その件は後ほど話します。あまり時間もありませんので」
「……あの、僕、どれくらい寝てたんでしょうか」
「半日ほどです。かなり疲れていたようですね」
「そんなに……」
ジークの感覚ではさっき目覚めたばかりだから、一瞬のように思える。
彼女の言う通り、カルナックに来るまで戦い詰めで疲れていたのかもしれない。
アイリスに運ばれた場所は、時の神の神殿のようだった。
終末戦争で命を落とした神というだけあって、参拝客がおらずあまり手入れもされていない。大理石の床を踏む靴音が虚しく反響していた。
神殿の入り口、柱廊の中にトニトルス小隊の姿はあった。
床に武器を放り出し、傷を癒す彼らの元へ近づくと、ロレンツォがこちらに気付いた。立ち上がった彼につられて他の面々も気付き、「たいーー」と言いかけたお調子者の頭を掴んで彼らは身を乗り出す。
『大将!』
「みんな、無事?」
「それはこっちの台詞だぜ大将よぉ」
「七聖将五人とやり合うとか無茶しすぎだろ!」
ギルダーン、エマを始めとした仲間たちが苦言を呈する。
彼らもリリアやルージュに劣らず、自分を心配してくれていたようだ。
悪かったよ、と返すと「だー! いい加減頭を離せ馬鹿ども!」とロレンツォが騒ぎ出す。集団の中から、着流しの武人がやってきた。
「ジーク殿。ご無事で何よりです」
「ん。そっちもね。みんなを守ってくれてありがとう」
「拙者は何も……アイリス殿が導いてくれなければどうなっていた事か」
どうやらトニトルス小隊はジークが七聖将とぶつかって間もなく、カオナシたちの魔の手からアイリスに保護されたらしい。ヤタロウは神殿の中で負傷者の手当てをしていたのか、包帯の束を持っていた。今のところ新たな死人は出ていない。むしろ仲間たちがジークの応援に行かないように抑えるので手一杯だったという。
「ジーク殿、アイリス殿とはもう?」
「あぁ、うん。さっき正体を明かされたよ。本当にびっくりした」
「で、ござろうな……彼女は信用に値する人物です。話を聞く価値はあるかと」
「うん」
唯一協力者の正体を知っていたヤタロウに頷いて、ジークはアイリスに向き直る。
蒼い海の中から現れた妖精のような少女。
その凛とした眼差しは見た目にそぐわぬ聡明さを感じさせる。
「全部、話してくれるんですよね? 終末計画の事や、あなたの目的も」
「……えぇ。私が知る全てをお話します。こうなっては、隠しておく意味もありませんから」
「……どういう意味ですか?」
問いに、彼女は一拍の間を置いた。
その間にリリアやルージュ、オリヴィアがやってきて、彼女の話を聞く体勢になる。
関係者全員の前で、調停者を名乗る少女は可憐な唇を開いた。
「それは……」
爆音が彼女の声をかき消した。
『!?』
遅れてやってきた震動。
ぐらぐらと神殿の柱が揺れ、ぱらぱらと土の欠片が落ちて来る。
カルナック全体に伝わる衝撃音に、顔色を変えたアイリスが外に出た。
ジークたちもつられて神殿の外に出る。そしてーー
「異端討滅機構の本部が……!」
聖なる地の中枢、城のような異端討滅機構本部の頂上から煙が上がっていた。
ジークは素早く陽力を感知。七聖将やルナマリアの魔力を感じる。
それに混じって強烈に伝わるのは、世界の頂きが放つ禍々しい圧力ーー
『冥王メネス……!』
「「「「は!?」」」」
ジークとアイリスの言葉に、トニトルス小隊が驚愕に揺れた。
動揺を抑えきれない彼らを尻目に、アイリスは歯噛みする。
「もはや一刻の猶予もありません……! ジーク!」
「分かっています。飛ぶよ、アル!」
「キュォオオオオオオ!」
魔剣が変化。神獣アルトノヴァが咆哮し、ジークの眼前に背中を向ける。
その背に乗り込み、ジークはアイリスの手を引いた。
「ジーク、わたしたちも……!」
「大将!」
リリアやルージュ、ヤタロウ、ギルダーンがこちらに乗り込もうとする。
ジークは一瞬迷い、ヤタロウとギルダーンはその場に残した。
「お前たちは小隊を守れ。正直、おじさんの前では力不足だ」
「ぐ……しかし、拙者は」
「おい大将、俺だって盾になることくらい……」
「俺は行かねぇぞ」
カチカチと歯の根を震わせながら、ロレンツォはおのれの肩を抱いた。
この場に居る一番の臆病者は冥王メネスの脅威を正確に感じ取ってしまっている。
「分からねぇのかギル、ヤタロウ……! あそこは俺たちが入り込める領域じゃねぇッ、盾になる事も出来ず、行った瞬間、ゴミみたいに殺されるぞ。俺はそんなのいやだ!」
「お前……」
「ロレンツォの言う通りだ。お前たちが来たところで出来る事は何もない。ここまで充分よくやってくれた。あとはーー僕に任せろ、みんなを頼む、二人とも」
ヤタロウとギルダーンは口惜しそうに項垂れた。
「……承知、いたしました」
「分かったよ……おい大将、絶対、絶対勝って来いよ!?」
「うん。オリヴィアさんも、彼らのこと頼めますか」
「うむ……任された」
「ありがとうございます。じゃあ行ってくる。アル」
アルトノヴァが低い唸り声をあげ、雷を纏う。
転瞬、空を飛び立つ白き竜は一瞬で最高速度に達し、またたく間に異端討滅機構本部の頂上へ。
異端討滅機構本部、元老院議事堂。
等間隔に並べられた柱の上には豪奢な椅子があった。
装飾の凝らされた壁に描かれているのは人と神々の営みを現した神聖な絵画だ。
ーーそれらは全て、たった一人の男にぶち壊されている。
爆風から飛び出したジークたちはその場の状況に目を剥いた。
『姫様!』
バラバラに解体された柱は瓦礫と化し、その上には黒衣の男が立っている。
不吉な白い髪は腰まで伸び、鍛え上げられた褐色の腕がルナマリアの襟首をつかんでいた。世界の頂点に立つ人類種の宿敵、冥王メネスはちらりとこちらを見やる。
「ーー遅かったな、ジーク。既に仲間は倒れたというのに」
「……! シェン先輩……トリスさん、みんなっ」
アルトノヴァを床に降ろしたジークは七聖将の面々に駆け寄った。
恐らく全員で挑んだのだろうがーー彼らは無残にも地面に倒れ伏している。
あふれだした血が池を作っており、その負傷の深刻度合いがうかがえた。
「こう、はい……」
「シェン先輩、しっかりッ!」
シェンを抱き起すと、彼はジークの胸を掴んで、
「気を付けろ……アレは、バケモノどころじゃねぇ……!
俺たち全員、使徒化して……触れる事すら出来なかった……!」
「……っ」
それだけ告げて、がくり。とシェンの身体から力が抜けた。
だんだんと温度を失っていく身体を抱きしめ、ジークは恋人の名を呼ぶ。
「リリア!」
「間に合うか分かりませんが……ルージュ、皆さんを一ヶ所に」
「……りょーかい。お兄ちゃん、気を付けて」
七聖将の治療に動き出す彼女らを背に、ジークは冥王に向かい立つ。
瓦礫の中央に立つメネスは、皮肉げにこちらを見つめている。
「っふ。直接会うのは約一年ぶりか? 成長したな、我が甥よ」
「おじさん。どうやってここに……!」
「我らとて貴様のいいようにやられてきたわけではないという事だ」
あぁ、と。メネスは思い出したように片眉を上げた。
「貴様に手土産があるぞ、ジーク。元老院を滅ぼしに来たのだろう?」
「……」
メネスの視線の先にはゴミのように転がっている死体が六つあった。
いずれも五十代を超えているであろう老人たち。あれが元老院か。
複雑な思いで彼らを見つめるジークに、メネスは言った。
「喜べ、その願いは私が果たしてやった。それと……ニア」
「はっ」
どこからともなく現れた黒鎧の男。
第一死徒ニアは一人の女の身体をジークの足元へ投げつけた。
ごろり、と転がった女にはまだ息がある。そしてその顔には見覚えがあった。
「殺すがいい、ジーク。そいつはセレスの仇だ」
ドクンッ、と心臓が脈を打つ。
脳裏に過る、母が死んだときの記憶。
嘲笑する女、迫りくる葬送官、口の中いっぱいに広がる苦い血の味……。
「おま、え……!」
母を殺した葬送官がーー目の前に居た。
噴火のような怒りが沸き起こり、ジークは魔剣を抜き放つ。
「ふ、ふふ、ははは! あの時の子供が、よもやこのような脅威になろうとは。
やはり、半魔……世界中くまなく探して、ハァ……殺して、おく、べきだった」
「黙れッ! お前のせいで、お前が、母さんを……!」
「もはや、全てが、無意味だ。ルナマリアという人質が機能しなくなった以上、世界は、滅ぶ……」
そんな言葉を残し、母の仇はこと切れた。
この手で殺したかった復讐相手のあっけない死に、ジークは歯噛みする。
悪魔化した復讐相手を殺そうと、魔剣を振り上げーー
「……っ!?」
ピタリ、と硬直する。
ーー悪魔化しない!? どういうことだ!?
「そやつらは悪魔とはならぬぞ、ジーク。魂を縛られているからな」
「どういう……何を知っているんだ、おじさん!」
「そこの女に聞いていないのか?」
メネスはちらりとアイリスを流し見る。
殺戮の現場にあって冷静さを保つ七聖将第一席は、慎重に口を開いた。
「冥王。あなたの目的は姫様のはず。なぜ、今になって……」
「分かっているだろう。人類種の守り手。時の神が遺した時読みの一族よ。私が貴様の暗躍に気付かぬとでも思ったか? アレの降臨を防ぐためにずいぶん奔走していたようではないか」
「……っ、世界を滅ぼす気ですか!?」
「世界など滅べばいい。滅ぼし、やり直すのだ、全てを!」
その瞬間、七つつの柱が立ちのぼった。
赤、橙、黄、緑、蒼、紫、藍色。
虹色を形成する光の源は、倒れ伏した元老院たちである。
その中央に位置するメネス、そしてルナマリアの身体からも。
その瞬間、違和感が鎌首をもたげた。
ーーなんで、おじさんは姫様を掴んでるんだ?
襟首をつかむ手に漲っているのはオルクトヴィアスの魔力だ。
あれではまるで、今にも殺そうとしているみたいじゃないか。
あの人は姫様の心を手に入れるために、世界すら変えて見せたというのに……。
「この戦争の真実は知っているか、ジーク?」
光の柱の中、メネスは言う。
苦しげに呻くルナマリアを見つめる彼の言葉に、ジークは頷いた。
「……神々が信仰を得るためにあなたを蘇らせ……この戦争を始めた事なら」
「あぁ、だがそれは真実に過ぎん。聞いたことはないか? この戦争には裏がある」
「ぅ、ぁ……や、めろ。メネス……!」
「黙っていろ、ルナ。七つの鍵は揃ったのだ。もはや誰にも止められぬ」
光の柱の中に、鬼火のような塊が浮かび上がる。
それはゆっくりと変形し、鍵の形へと変わる。
「話を続けよう。そもそも、おかしいとは思わなかったか?
創造神ゼレオティールは信仰を集めるために死の概念を覆すことを許した。
おのれの力を高めるためという話だがーー絶対の力を持つ『一なる神』が、信仰など必要とするのか? 世界を作った神だぞ? 奴に不可能はないはずだ。ならばなぜか?」
七つの鍵はやがてメネスの手のひらで一つになる。
鳥が翼を広げているような鍔に、雪の結晶のような刀身を持つ鍵だ。
「答えは簡単だ。あの絶対神が力を集めなければいけない事情があったのだ。
そしてそれは元老院がルナマリアを従わせていたことと無関係ではない」
ドクン、と。メネスの持つ鍵が脈動する。
まるでこの場所が世界の心臓になったかのように、規則正しい空気の拍動が送り出されていく。メネスがルナマリアを持ち上げると、彼女の身体に鍵穴が生まれた。
「させません……!」
瞬間移動と見まがう速さでアイリスがレイピアで切りかかる。
しかし、メネスとルナマリアを包む光の柱はあらゆるものを拒絶する結界だ。
甲高い音を立ててレイピアが真っ二つになり、アイリスは歯噛みした。
(時の神クロスディアの加護を持つ者同士……!加速や遅滞も聞きませんか……!)
そもそも冥王メネスはアイリスよりも遥かに格上の存在だ。
世界の時を戻せるほどの魔力の前では、自分の力は蝋燭の火よりか細い。
アイリスがおのれの無力を噛みしめている間にも、メネスの話は続いていてーー
「始まりの七人……ルナマリア率いる七人の戦士は神々と共に我らに抵抗した。その抵抗は一定の効力を示し、途中で一人が寝返ったことを除けば、我らの戦いは拮抗していた」
ソレが、現れるまでは。
「終末戦争の最中に現れたソレは全てを滅茶苦茶にしたーー否、ソレの存在があったから終末戦争が起こったのだ。奴らは記憶を封じられているが、神々が信仰を欲した真の原因はおのれが生きる為だけではない」
その存在が現れた瞬間、世界は終わりを迎えるはずだった。しかし、
「ソレに神々が敗れた時、ルナマリアは大神たちの力を借り、新たな使徒を補充し、始まりの七人を生贄にすることでソレの存在を世界の深淵に封じ込めた。七人の使徒はおのれの死に納得していたが、一つだけルナマリアに契約させた。彼らの子孫を末代まで見守ってほしい。力を貸してほしいーーとな」
それこそ元老院が絶大な権力を持っていた原因。
彼らの先祖を犠牲にした負い目と契約があるから、ルナマリアは彼らに従わざるおえなかった。
「今、その封印を解き放つ。今度こそ我らが力を以て、それを滅ぼし尽くす!そうする事こそが、数百年の長きにわたり魂を縛られた、我が妻の救済となるーー!」
メネスが鍵を構え、ルナマリアの鍵穴に差し入れる。
「今こそ顕れるがいい……!」
がちゃん、と音を立てーー
世界の扉が今、開かれた。
「-----!」
雲が裂け、天が割れる。
下界に舞い降りたるは、世界を作りたもう絶対神だ。
ジークも見慣れた白髭の老爺が天から差し込む光の中に佇んでいる。
「ゼレオティール様……?」
その傍らには主神に寄り添う虹色の天使、レフィーネが居た。
優しげな笑みを浮かべる彼らだがーージークの本能は警鐘を鳴らしている。
そして、
「ーー長い、時が過ぎました」
レフィーネが歌うように口ずさむ。
「遥か古の時代、この世界を見つけ、我が主が侵略を試みて幾星霜。
創造神の抵抗もあり、かなりの時間がかかりましたが……ようやく、我が主が降り立つ」
恍惚と頬を染め、レフィーネは両手を広げる。
「さぁ、称えなさい! 崇めなさい! 我らが主を! 外なる神を!
世界の扉を開き、今、我が主がこの世界を作り変えるのです!!」
その瞬間、ゼレオティールの身体に一本の縦筋が入った。
その身体が扉を開くように真っ二つに割れ、体内から終末が現れる。
「なに、あれ」
白と黒の四対の翼が背中に揺れ、それの顔には目がなく、口だけがある。
人型のように見えるがその腕は四本もあり、腰から下は蛇の尾になっている。
それは終末をもたらす世界外からの侵略者。
全てを喰らう絶対者にして混沌なりし王である。
『外なる神』アゼルクスが、降臨した。
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