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ゴッド・スレイヤー  作者: 山夜みい
第一章 神々の狂騒
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第十三話 戦いの余韻

 


 真っ白な光の中にジークはいた。

 ゆらり、ゆらり、と心地よい揺れが眠りの世界に訪れる。

 肌に感じる風は暖かくて、花の香り。両腕はすっぽりと何かに覆われていた。


 寝返りを打とうとしたジークは、しかし、身体が動かない事に気付く。

「え?」思わず目を開けると、視界は何かで塞がれていた。

 お腹の上には何かが乗っている。というか重い。両腕が動かない。


「ん……ジーク……えへへ。そんなとこ触っちゃらめですよ……」

「まだ十時じゃない……ティア……もうちょっと……」

(え、え!?)


 またたく間に意識が覚醒するジーク。

 よく見れば、自分の両脇は麗しい乙女たちに挟まれていた。

 無論、そんな事をするのは恋人であるリリアと、婚約者のアステシアだ。


(なんで二人が一緒に布団に!?)


 混乱に陥りかけたジークは慌てて思考を回す。


(お、落ち着け僕。まず深呼吸……すっすっはー……すっすっはー……)


 ラディンギルを倒したところまでは思い出せた。

 恐らくけがをした自分は治療されて、ベッドに寝かされているのだろう。


「きゅー……」


 腹の上に感じる重みは、猫のように丸くなっているアルトノヴァだ。

 あれほどの激戦を繰り広げた後だというのに、この相棒は呑気に寝息を立てている。

 少しは助けてくれてもいいのにと思わなくもないのだが、


(あ、ちょっとだけ目を開けてこっち見た! なんでまた閉じたし!?)


 そのまま寝てろ、と言いたげなアルトノヴァだ。

 魔剣の化身には困っている主を助けようという気概がないようである。

 最も、一人の男からすればこの状態は至福の時にほかならない。


(でも、だからこそ困るんだってば……!)


 隣に寝ているのは白雪のような少女である。

 ぎゅっとジークの腕を胸に抱く熾天使の寝顔は甘いデザート。

 一度食べたら病みつきになること間違いなし。ジークは彼女から離れる事を考えられない。


「んん、ティアぁ……おかわり……はむはむ……」


 逆側で寝ているのは夜を秘めた黒髪を持つ絶世の女神だ

 ジークの肩を甘噛みする可愛い生き物はリキュールの入った料理。

 食べ進めるごとに異なる味を見せて来る料理を食べれば、いつの間にか彼女の虜になっている。


 二人ともジークの大切な人でーー愛する女だ。

 そんな二人に挟まれて、男としての本能が揺さぶられないわけがなく……。


(ちょ、ちょっとくらいなら、いいよね……?)


 ごくり。と息を呑んで、ジークは腕ごと二人を抱き寄せる。

 起こさないようにそぉっとしつつも、愛する女に挟まれる至福は言葉に出来ない。


 好きな二人と一緒に居られる。

 自然と口元が緩んでしまうジークはこれこそが幸せであると確信した。

 ちょっとだけ腕を胸の方にずらして、英雄は男の幸せを噛みしめる……。


 がちゃり。


「ーー失礼します。アステシア様、リリア。気持ちは分かりますが、夕食の方を……」

「ぁ」


 目が合った。

 扉の入り口には目を見開いた女が立っている。

 アステシアの眷属であり、眷属としてはジークの先輩とも言える熾天使、ティアだ。


「えっと、これは」


 彼女の視線がさっと動き、リリアとアステシアを抱き寄せるジークを見る。

 全てを察した彼女は厳かに一礼し、そっと扉を閉めた。


「私としたことが……失礼しました。どうぞ続きを」

「違いますから!?」

「いえ。男と女が一つの寝所に入ればそうなる事は必定。

 それもあなたはまだ十数年しか生きていない男……起き抜けに発情するのも無理はありません。どうか私にお構いなく。アステシア様をよろしくお願いします。出来れば優しくしていだけると……」

「だから違うし! ていうか、なんで扉の内側(・・・・)に居るんですか!?」

「無論、我が主の乱れっぷりを記憶するためです」

「決め顔で何言ってんだこの人っ?」


 そんなやり取りを経て。

 至福の時が終わったジークは、急ぎアステシアとリリアを起こしにかかるのだった。




 ◆




「この、ばかっ!!」


 目が覚めて傷の具合を聞いてから、リリアはそう叫んだ。

 ポカポカとジークの胸を殴りつけ、涙目で彼女は言う。


「あのラディンギル様に単身で挑むなんて! 何を考えてるんですか!?

 あの方は終末戦争で名を馳せた神々の中の英雄ですよ!? 馬鹿じゃないですか!?」

「いや、あの、リリア。落ち着いて……?」

「出会った頃から無茶する人だとは思っていましたけどっ、自分の身を顧みないと思っていましたけど! それでも、最近はちょっとマシになったかと思ったのに……どうしてそう、無茶ばかりするんですかっ」


 ぽか、ぽか、と。

 だんだんと力が無くなっていく彼女の拳を、ジークは甘んじて受け入れた。

 やがて彼女は縋るように胸に顔を埋め、ぐりぐりと顔を押し付けて来る。


「心配……させないで」

「うん……本当にごめん」


 彼女がジークのことを思って怒ってくれているのは明らかだ。

 無茶している自覚も、馬鹿である自覚もあるから、ジークは何も言えない。

 ましてや、この戦いを仕組んだ一人であるアステシアは気まずい表情だ。


「あの……リリア? 私も、その……」


 リリアは顔を離し、アステシアをじと目で睨みつける。


「アステシア様、わたし、信じてたのに」

「うぐ」


 下手に糾弾されるより刺さる言葉に、アステシアは胸を抑えた。


「確かにアステシア様は好奇心の塊のような女ですけど……。

 未知に対しては節操なしの女ですけど、ジークを大切にする気持ちはわたしと同じだと思ったのに」

「う、ぐぅ……」


 アステシアは膝をついた。効果は抜群のようである。

 九割ほど彼女の自業自得なのだが、ジークは見かねてフォローする。


「リリア、その辺にしてあげて。結果的に生きていたんだからいいじゃん」

「結果的にぃ?」


 ぎろり、とリリアはジークを睨みつけた。

 やばい、地雷を踏んだ。そう思うが、もう遅い。


「ほんの少し、何かが掛け違っていたら結果的にあなたが死んでいたかもしれないんですよっ! 何が結果的にですか。それこそ最悪の考えです! ジークは自分を大切にすることを覚えなさい!」

「いや、でも、あの」

「『だって』も『でも』もありません!」

「リリア、落ち着いて。私は……」

「アステシア様は黙っててください! あぁもう、二人とも、そこに正座!」

『はひ』


 ジークとアステシアは並んでリリアのお説教を受ける事になった。

 仁王立ちで腕を組む彼女の恐ろしさといったら、ラディンギルに迫るほど。

 決してリリアを怒らせてはならない。ジークは改めて心に刻むことになった。


「はぁ…………それで、身体は本当に大丈夫なんですか?」


 お説教タイムを終え、リリアは心配そうに問いかけた。

 どうやら三日ほど眠っていたようで、彼女たちに大層心配をかけたようである。

 ジークはおのれの内側に意識を張り巡らせた。


「ん……カリギュオス様が治療してくれたおかげで、傷は問題ないよ」

「そうですか……よかった」


 リリアはホッとしたように息を漏らす。

 実のところ彼女はずっとジークの手を握っていて、片時も離そうとしない。

 アステシアはばつが悪いのか、そんなリリアを気遣って離れた位置に座っていた。


「アスティ。僕、気にしてないからね……いや、気にしてないって言ったら嘘になるけど」

「ジーク……」

「ラディンギル師匠は、もう?」

「えぇ。あなたが気を失って、すぐに」

「……そっか」


 ジークは天井を仰いだ。

 叡智の図書館の天井。その先に見えないナニカを求めるように、英雄は目を閉じる。


「……さようなら、ラディンギル師匠」


 呟き、ジークは視線を戻して、


「とりあえずご飯にしよっか。実は僕、お腹ペコペコなんだ」

「そういうと思って、用意しておきましたよ。こちらです」


 叡智の図書館でティアが用意してくれた食事は絶品だった。

 リリアはティアに料理を教わる約束をしていたが、アステシアは料理をしない構えだ。どうやらこの叡智の女神、なんでも知っている割には料理はからきしらしい。勝ち誇るリリアに悔しがっているアステシアを見るのは面白かった。


 ーーそうして食事を終えて。


 かちゃり、と。

 フォークとナイフを終えたジークは、アステシアに向き直る。


「アスティ……ううん、アステシア様。聞きたいことがあります」


 アステシアは目を見開き、観念したように頷く。


「分かってる。その内容も予想がついてる」

「じゃあ」

「でも、この場で私が何かを言う事は許されていない。

 実はあなたが目覚めたら、連れてくるように言われてるの。一緒に来てくれる?」


 誰に、と言われなくても分かった。

 ジークは頷いて、


「分かりました。行きましょう」


『叡智の図書館』を出ると、共存領域に住まう天使たちとすれ違った。

 アステシアやリリアを連れたジークの姿に、すれ違いざま、彼らは膝を折って敬礼する。天界に来たばかりとは打って変わった態度に、ジークは困惑を隠せず問いかけた。


「あの、なんか天使さんたち、おかしくないですか……?」

「狂神を止めてくれた英雄に感謝してるのよ」


 アステシアは答えた。


「狂神を放置すれば、天界を滅ぼす化け物になる可能性があるからね。結局、誰かが手を下さなければいけなかったのよ。あなたはラディンギルの神核(欲望)を満たし、同時に武神を討ち果たした。天使たちにとって、あなたは天界を救った英雄と同義なの」

「そんなものですかね……」

「もちろん、全員が全員じゃないわ」


 アステシアがちらりと東を見る。

 つられてみれば、武の神の神域近くにいる天使たちが、複雑な表情でこちらを見ていた。口には出せない不満があるが、心にとどめている……そんな顔だ。


(まぁ、狂ったからといって、はいそうですかって殺すのを容認するわけないよね)


 むしろ天使たちにも人間味があって安心するとジークは思う。

 と、そこでとんでもない事に気付いた。

 心臓がきゅっと音を立て、だらだらと冷や汗が流れ始める。


「あの……ラディンギル様が死んだら武神の座はどうなるんですか?

 これから人類は、その、武神の加護を受けられなくなるんじゃ……」


 もしかして自分はとんでもない事をしたのではないか。

 そんな予感がよぎり、ジークは居ても立っても居られない。

 アステシアはゆっくりと首を横に振って、


「いいえ。問題ないわ。ラディンギルの眷属が彼の名を継いだから」

「え?」


 どういう、ことだろう。

 ジークは思わず立ち止まり、婚約者の背中を凝視する。

 何かおぞましい話をされているような、言い知れない悪寒がジークを襲う。

 彼の手を繋ぐリリアは何も言わない、まるでその事実をずいぶん前から知っていたかのように。


「神の死に方には三種類あるの」


 アステシアは振り返り、淡々と話を続けた。


「まずは一つ目。あなたがラディンギルを殺したように……普通の死ね。

 この場合、神々の名は現世に残り、眷属が神々の宿す概念を受け継ぐことになる。

 むしろそのために神々は眷属を作り、熾天使とするのよ。自分が死んだときの予備としてね。だから二つ目の死に方……眷属を作らなかった神々の座は空白となる。破壊神や雷霆神がそうよ」

「待って、待ってアステシア様」

「最後の一つが、オルクトヴィアスの権能を使った死よ」


 まくしたてるように、彼女は言った。


「あの女の権能はこの世から完全に対象を殺す。人と同じように、神は名前、神核()、肉体で構成されているから、名を殺された神々の座は永遠に空白となるの。終末戦争で死んだ時の神や予言神メルヴィオがそうよ。だから大丈夫。人類はこれまで通り、武神の加護を得る事が出来るわ」


 カッ、と頭に火がついた。


「大丈夫なんかじゃ、ないっ!!」


 人目もはばからず、ジークは叫んだ。

 淡々と、感情を殺すように言ったアステシアに詰め寄って、


「死んでも代わりが居るなんて、そんなの……そんなの、あんまりじゃないか。

 神々は、アスティはここに居るのにッ! 君が生きた証が、消えてなくなるみたいじゃないかっ!!」


 言葉に言えない色んなものが溢れて、頭がおかしくなってしまいそうだった。

 それは淡々と語るアステシアの態度に対してもそうだし、神を取り巻く状況もそうだ。まるで彼らが神核という運命に翻弄される、儚い存在のように思えて……。


「何が、神々だよ……名を継いだ眷属が新しい神になるなんて……そんなのっ」

「神核が見る夢。いつ消えるか分からない幻……あるいは、神の名を騙る偽物?」


 ジークはきゅっと唇を結んだ。

 反論は、出来なかった。

「ジーク」とリリアは手を握り、彼の背中をさする。

 恋人の言葉を受け、頭にのぼった血がすーっと引いていくのを感じた。


「……ごめんなさい。アスティにこんな事言っても、仕方ないのに」


 これはきっと、自分が武神を殺したことに対する負い目だ。

 狂っていたとしても、誰かの大切な人を殺してしまったことに対する見当違いの怒り。そしてそれすら無意味だと言われて、どうしても我慢できなかったのだ。


「私のために怒ってくれてありがとう、ジーク」


 けれど、アステシアはジークの頭を優しく撫でていく。


「あなたの言葉は正しい」


 愛おしいものに触れるように、そぉっと。

 アステシアの愛が、ジークを包み込んでいく。


私達(神々)はあなたたち人間が思うような絶対の存在じゃない。むしろその逆。信仰の多寡で力を左右され、神核が突き動かす欲望に揺れ動く……とても不安定な存在なの。所詮は、ゼレオティール様に神核を与えられて生まれる存在だから、仕方がないのだけど」

「で、でもッ、神同士で結婚するとか、あるじゃないですか。

 ラディンギル師匠の息子の、フラヴィアドラ様とか……ッ」

「神々同士で婚姻を結び、互いの神核を混ぜ合わせて子供が生まれる事は確かにある。でもそれは人のように母親の体内から生まれるわけじゃない。儀式によって生まれるのよ。この世で真の意味で『神』と呼べるのはゼレオティール様だけ。だからあの方は『一なる神』と呼ばれているの」

「それって、どういう……」


 問いは「ジーク、着きました」というリリアの言葉で遮られた。

 見れば、いつの間にかジークたちは天界の中心……ゼレオティールの神殿の前に居た。


 見上げるほど高い、荘厳な白亜の御所。

 他の神殿と違い、天使たちの出入りはない。

 只人が近づくことを拒む、絶対神の威容が建物にまでにじみ出ている。


「わたしはここまでです」


 ここに来るまでずっと手を握ってくれていた彼女は、寂しげに離れて、


「ジーク。何を聞いても、何があっても……自分を見失わないでください。

 あなたがこれまで歩んできた道のりが、きっとあなたを支えてくれるはずだから」

「リリア……」


 ーー正直に言えば、今、離れたくなかった。


 聞きたいことも話したいこともたくさんあった。

 ずっと触れていた手の温もりが冷めていくのが寂しくて、怖かった。


 けれど彼女の瞳はこちらを信じ切っている。

 自分なら何を聞いても立ち直れると、信じてくれているのだ。

 で、あるなら、恋人である自分がその信頼に応えなくては、恰好がつかないだろう。


「……分かった。行ってくる」

「はい。ジークが大好きなハンバーグを作って待ってます」


 いってらっしゃい。

 リリアの声に背中を押されて、ジークは神殿の中へ入っていく。

 振り返ると、彼女は自分の姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。

 手を振り返しながら歩いて行くと、完全にその姿が見えなくなる。


「……なんだか胸がざわつくわ」

「アスティ?」


 アステシアが頬を膨らませて、


「二人がお互いにとって特別なんだって伝わってきて……妬けるわ。これが嫉妬という感情なのね」

「僕にとっては、アスティも大事な人だよ。リリアと同じくらい」


 ジークはそっと婚約者と腕を組む。

 アステシアは目を見開き、嬉しそうに口元を緩ませた。

 神殿のロビーには両側に川が流れていて、穏やかなせせらぎが耳を楽しませる。


 そうして歩いて行くと、扉の前に二人の影が立っていた。


「やぁ、ジーク」

「……傷はもう良いようだな」


 太陽神ソルレシアと海神デオウルスである。

 警備兵のように陣取る彼らにぺこりと頭を下げ、ジークは扉を見る。


「この先に、あの人が待ってるんですか?」

「あぁ、そうだよ」

「魔剣を預からせてもらおうか」

「……」


 デオウルスが差し出してきた手に、ジークは咄嗟に反応できなかった。

 アルトノヴァを手放した悪魔教団の時を思い出す。

 あの時と状況が違うとはいえ、アルと離れ離れになっていいものなのか。


「僕、信用されてないんですか……?」

「いや、むしろ逆だよ。君の事は神々の誰もが信用してる。

 けれど、君個人の信用と、その秘めた力の強大さは話が別だ」

「ゼレオティール様の元に来るときは誰もがそうだ。大人しく従え」

「ジーク、大丈夫」


 アステシアにそう言われては何も言えないジークである。

 ゼレオティールと戦うわけでもないし、敵地でもない。今回は大丈夫だろう……。


 魔剣を渡すと、二人が道を明けた。

 ぎぃい、と扉が開いていき、広い玉座の間。その最奥に彼はいた。


「ようこそ、ジーク。我らの友よ」

「ゼレオティール様」


 顎髭をさする彼はにこりと微笑んだ。

 彼の横には、虹色の髪を持つレフィーネが佇んでいる。


「身体は大丈夫そうですね。心配しましたよ」

「お気遣いありがとうございます」

「アステシアの花婿じゃ。あのまま死なれては儂が殺されておったわ」


 ふぉっふぉっふぉ。と好々爺のように笑うゼレオティールである。

 その場の空気を和ませるような言葉にジークは頬を緩め、


「聞きたいことがあります」


 その気遣いを無下にする、鋭い問いを投げかけた。

 ゼレオティールの顔から笑みが消え、絶対神と英雄は向かい合う。


「あぁ、そうじゃろうな。全て話すために呼んだのじゃ。何から聞きたい」


 聞きたいことなんて山ほどあった。

 その中でもジーク(英雄)が聞き逃せない問いは一つだけだ。


「神々が人類の味方じゃないって……どういうことですか」

「……」


 あの時、狂い果てた武神ラディンギルが饒舌に語った言葉。

 あの言葉の真実味はその場にいたジークが誰よりも分かっている。


 ーーそう、思えば、アステシアだって一言も言っていない。


 神々は加護を与えた者の味方であるとしても、

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 言い逃れを許すまいと、英雄は問いを重ねた。


「あなたたちは五百年間、人類を守ってきたわけじゃないんですか?

 なんで人類に加護を与えてるんですか? なんで冥王と敵対しているんですか。

 なんで闇の神々はあちらについているんですか? なんで、天界でのうのうと暮らしているんですか!? 僕たちの戦いを止める結界を張るぐらいだーー終末戦争の傷なんて、とっくに癒えているんでしょう!」


 せき止められた問いは壊れたダムのように溢れて止まらなかった。

 無表情のゼレオティールも、レフィーネも、何も言わないアステシアも。

 その言葉が、ラディンギルの言葉を肯定しているように思えてーー。


「答えてください……創造神ゼレオティールっ!!」

「…………ふぅ」


 玉座に背を預けた彼は天を仰ぐ。


「アステシア」

「はい」

「ジークに話してやれ。お主の口から言ったほうが信憑性があるじゃろう」

「……分かりました」


 暗に今の自分に信用はないと分かっている口ぶりだ。

 ゼレオティールには悪いが、確かに今のジークが信じられる神はアステシアだけである。ジークは話を促すように、愛する婚約者へ目を向けた。


 アステシアは柳眉を下げ、瞼を閉じる。


「全て話しましょう。神々がひた隠しにしてきた、この戦争の真実を」


 そして目を開き、彼女は女神の顔になった。


「心して聞きなさい、ジーク・トニトルス。これは運命に翻弄された男の物語。

 ありふれた家族愛を持ち、女を愛しーー全てを喪った男の悲恋の物語よ」


 ごくり、と息を呑むジークに頷いて、彼女は続ける。


「全ての始まりはおよそ六〇〇○年前、二人の男女が出会ったことで始まった」



今、『彼ら』の物語が語られる……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最終選考残念でしたね。結構受かると思っていたんですが···。意外でした。最終回ブーストに期待しますっ。 最初のシーンでジークが二人を抱きしめるシーンがジークが欲を出している感じがしてよかっ…
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